286 余った小麦の利用法がクイズになる
修正しました。
昼行灯なタイプなのか? → 昼行灯を装っているのか?
芝居でこれをやっている昼行灯なら → 芝居なら
ジョイス総長の回答は基本的には間違っていない。
「概ね正解だな」
王族コンビが「「おおっ」」と感嘆の声を上げた。
目から鱗が落ちるような考えだったようだ。
総長の推察が正解したことで他のゲールウエザー組も感服した様子を見せている。
「概ねですか?」
ただ1人、総長だけが冷静に聞き返してきた。
口調や声音は穏やかなもので悔しさなどは滲んでいない。
他の面々は些細なことだと思っているようだな。
「完全に正解という訳でもないからな」
「あら、残念」
驚きつつもニコニコしてるよ、この婆さん。
笑みを浮かべながら、そんなことを言われてもなぁ。
全然、残念がっているようには見えないんだが。
間違えたことを悔しがりもせずに喜ぶとか変わった人だ。
多分これが素なんだろうけど。
もしかして昼行灯を装っているのか?
天然キャラということも考えられるが……
どちらか判断がつかんな。
もしも芝居なら相当なものだ。
もっとも敵に回したくない相手と言えるだろう。
できれば後者であることを願う。
いや、どちらでもないのが一番だけどね。
「点数をつけるなら100点満点中の90点というところか」
「あらー、結構惜しかったのですね」
どうやら本人はもっと低い点数になると思っていたようだ。
概ね正解なんだから80点を切るような点数にはならんだろうに。
妙な所でトンチンカンなことを言い出すよな。
的確な推理をしたのは何だったんだろうかとツッコミを入れたくなった。
言うだけ無駄か。
どうやら天然みたいだし。
「まあな」
天然だと妙な方向に話が進みかねない。
故にツッコミは自重した。
「何処を間違えたのかしら」
可愛らしい仕草で首を傾げている。
これが某掲示板だとBBA無理すんなとか言われるんだろうけど。
案外、様になってるんだよな。
孫に好かれるタイプの可愛いおばあちゃんって感じでさ。
他人でも親近感を抱かれやすいかな。
俺は自分の祖母と重ね合わせて見たりはしなかったがね。
うちの祖母は凜とした感じの人だったので丸っきりタイプが違うんだよな。
いいとこのお嬢様が齢を重ねると、こうなるんじゃないか。
総長が優しいおばあちゃんだとすると、祖母は上品な老婦人って感じかな。
いずれにせよ、総長は交友関係が広そうだ。
コミュ障とは対極に位置するリア充タイプと言った方が分かり易いか。
「間違えているとすれば古い小麦の利用法でしょうか」
さっそく間違った箇所の分析かい。
本当に考えるのを楽しんでいるんだな。
まるでクイズ番組に参加しているみたいに見える。
「市場に流すのではなく別の使い方をするとか」
この婆さん、スゲえわ。
思わず笑ってしまいそうになったさ。
【ポーカーフェイス】スキルで回避したけどね。
「ですが、用途が思いつきませんね」
少し考え込んでいたが、やがて苦笑しながら小さく頭を振った。
「申し訳ありません、ヒガ陛下。
よろしければ私に正解をお教え願えませんでしょうか」
ノーヒントでそこまで分かったんなら上出来じゃないだろうか。
サッパリした笑顔で言われると勿体ないとも思うけどさ。
「そこまで答えを導き出せたんだ。
ヒントを出すから残りの10点分も考えてみたらどうだ」
ちょっとしたクイズのようなものだ。
「あらあら、それは楽しそうですねえ」
総長もそれに乗ってきた。
その割にグイグイ乗ってくるような雰囲気はない。
単に乗るだけでなくナターシャや下っ端たちの方を見ているからか。
皆で考えようと促している訳だな。
上司からのプレッシャーを受けては参加せざるを得ない。
まあ、嫌な感じのプレッシャーではないんだけど。
当人たちにしてみれば自分たちに分かるだろうかという不安の方が重圧になるようだ。
顔に出てるよ。
それでも魔導師団の面々は真剣に考え始めた。
まだヒントは出してないんだけど。
真面目だねぇ。
なんにせよ本当にクイズっぽくなってきた気がする。
問題文はこんな感じかな。
[備蓄の小麦を少量ずつ新しくします。
結果として古いものから順に再利用することになりました。
では、その古い小麦をどのように再利用するのでしょうか?]
ただ、このクイズはノーヒントでは解けないだろう。
凄い推理力を発揮した総長が分からなかったのだから。
「それじゃあ、最初のヒントだ」
俺がそう言うと魔導師団員の視線が一斉に集まった。
やる気満々だな。
不安そうな表情は残したままなのに。
正解して総長に認められたいなんて心理が働いているのかもな。
孫が自分のおばあちゃんに格好いい所を見せようとしているような感じ?
「総長の推理通り古い小麦は市場に回さず別の場所で利用する」
「やはりその部分を間違えていたのですね」
総長はうんうんと頷いている。
もちろん笑顔のままで。
「別の場所での利用というのが面白そうです」
面白そうというか、既に楽しそうなんですが。
その笑顔に釣られるように騎士やメイドも真剣に考え始める。
今まではクイズへの参加は遠慮します的な空気だったんだがな。
まあ、彼女らの立場を考慮すれば無理からぬことだ。
それを笑顔で覆すんだからな。
当人たちにしてみれば知らぬ間に引き込まれたってところなんだろうけど。
おそらく気が付いたら「いつの間に?」と驚くことになるんじゃないか。
人を動かすのが上手い婆さんだ。
こういうのは見習いたいところだよね。
俺には決定的に経験が不足しているけど。
なにはともあれ皆が考え始めた。
もちろんクラウドやダニエルもだ。
「場所か」
クラウドが腕組みをして「うーむ」と唸った。
真剣な表情で考えている。
そこまでマジになるなよと言いたいが無理だろうな。
政に関わることだ。
王として本気で考えるだろう。
考えながら煎餅をかじるのは締まらないけれど。
晩飯で米粉のパンとか麺料理を食べたくないのか?
それとも腹ぺこキャラで、どれだけ食べてもご飯時にはちゃんと食べられるとか?
とてもそんな風には見えないんだがな。
まあ、日本にいた頃にテレビで見たフードファイターも外見じゃどれだけ食えるかとか分からんかったし。
人は見かけだけでは判断できないか。
たとえ食べられなくても俺の知ったことではないのだが。
「小麦を使う場所など限られておるはずだが……」
ダニエルは具体的にピックアップしていく考えのようだな。
こちらも本気であることがうかがえる。
宰相としては当然のことなんだろう。
この国の人間は幸せなんだと思うよ。
トップが本気で国のことを考えているからな。
これがバーグラーの連中レベルとは言わないまでも並み以下の王族であったなら……
間違いなく無茶苦茶な状態になっていただろうね。
まあ、頑張って考えてくれたまえ。
そんなに難しくはないと思うけどさ。
それでも頭の体操にはなるはずだ。
さて、それじゃあ他の面子にも目を向けてみるか。
まずはメイドたちが目立っている。
さっきまでは遠慮しますな状態だったのに、堂々と相談しているよ。
真面目に考えてはいるんだけど体勢は雑談モードだよ。
仕事中なんだから私語厳禁とならないのかね。
自分たちの王様のくつろぎきっている様子に流されたんだとは思うけど。
普通なら叱責されるかと思うんだが。
そんな気配すらうかがえない。
この国の王も緩いからねー。
宰相も厳格なようでいて何処か抜けているしな。
似たもの親族と言ってしまえばそれまでだけれど。
まあ、俺は目くじら立ててとやかく言うつもりはない。
堅苦しいのは嫌だし。
さすがに護衛の騎士たちは各々で考えているね。
任務は忘れてません、か?
輸送機は揺れもしないし安全なんだけど。
ただ、ブツブツと呟くのは止めた方がいいぞ。
いくら美人ぞろいとはいえ、変な人に思われかねない。
王族を警護する立場の人間が周囲から怪しい人物のように見られるってどうよ?
「もうひとつヒントと行こうか」
一斉にガバッと振り返ってくる。
おいおい……
どんだけ必死なんだって勢いだな。
「市場を通さず飲食店に直接卸すことを考えている者がいるなら不正解だ」
何人かはそれを考えていたらしく「あー」という残念そうな顔をしていた。
その様子を見ていた総長がニコニコしたまま聞いてくる。
「もしかして、何処にも売らずに利用するのではありませんか」
どうやら答えに辿り着いたようだな。
具体的なことは何も言っていないけれど、かなり自信がありそうだ。
あれは確信しているんじゃないかな。
ぼかして言っているのは皆に考えさせるためなんだろう。
一方で他のゲールウエザー組はどよめくとまでは行かないまでも皆一様に困惑していた。
備蓄していた小麦を売らずに利用するとはどういうことかと。
そんなバカなという空気が支配的になるが──
「その通りだ。
なかなか鋭いな」
「「「「「ええ────────っ!」」」」」
総長を除くゲールウエザー組が騒然となった。
ダニエルなどは「なんと!?」と言ったきり驚愕の表情で固まってしまっている。
発言者である総長はニッコリ微笑んだまま部下たちの様子を眺めていた。
自分で答えるつもりはなさそうだ。
ヒントになる発言で終わらせたのが何よりの証拠だろう。
皆に頭を使わせようって腹か。
考えるのに頭を捻った分だけ経験になるし柔軟な発想も受け入れやすくなる。
これしかないと思い込んでいる奴に限って思考停止しているからな。
人を育てるのが上手そうだ。
そういう思惑があるのか総長は明らかに発言を控えている。
直接的な回答をしなかったしな。
確実に様子見しているぞ。
まあ、あの発言はヒントと言うよりは新たな謎になったと言うべきかもだが。
売らずに再利用と言われて「どういうこと!?」な空気になってしまったからな。
ただ、それが良い刺激になったらしい。
ゲールウエザー組が全体で議論を始めるようになった。
護衛の騎士もクラウドに促されて参加している。
王様に意見を出せと言われて拒否できる騎士はいないよな。
とにかく意見を募ろうというのだろう。
なかなか答えに辿り着くようには見受けられないけれど。
議論することで色んな意見が出る訳だから悪いことじゃない。
「……………」
それにしても俺は何をしているんだろうか。
なんで他所の国の人間をトレーニングすることになってるんだろう?
総長に乗せられた気がしなくもない。
いや、クイズにしたのは俺なんだけどさ。
これってヤバかったよな。
最初は無意識に【教導】スキル使ってたし。
気付いてからは効果を発揮しないようカットしたけどさ。
こんなので俺が他所の国民を囲い込みとかすることになったら問題ありすぎだろ。
国のトップが2人もいるし。
重要な役職に就いている人間だっている。
こんなときに、どこかのすちゃらか亜神に目をつけられたらと考えただけで寒気がするぜ。
シャレにならん。
今度は進化じゃなくて眷属化とか言ってくるかもしれん。
いずれにせよ油断も隙もねえからな。
え? 逃亡中だから大丈夫?
相手はイタズラにかけては百戦錬磨だぞ。
こんなのをイタズラと言われちゃ俺も甚だ迷惑なんだがな。
ともかく、逃げている時に無茶するはずがないなんて思い込みは危険すぎる。
そのせいで国ごと俺の下につくことになったりしたら悪夢でしかないぞ。
どう考えても国の乗っ取りじゃねえか。
そんなつもりは、これっぽっちも持ち合わせちゃいないのに。
もし、そんなことになったらバーグラーも結局は支配下に置くことになってしまう。
まるでブーメランだな。
他人に押し付けたつもりがUターンして自分の所に戻ってくるんだから。
いや、ブーメランより質が悪いか。
バーグラーだけでなくゲールウエザー王国と2国分の領土を手に入れることになるんだもんな。
まだ、そうと決まった訳じゃないが可能性がゼロでは無くなった気がする。
俺は程々でいいんだから勘弁してくれよ。
読んでくれてありがとう。




