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284 説明するのも楽じゃない

修正しました。

本当かで間か → 本当かどうかまで


 煎餅食いながら動画を見て泡を食う王様。

 実に締まりのない絵面だと思う。

 そして宰相であるダニエルも似たような状態である。

 大国のトップ2がそれってどうなんだ?

 救いがあるとすれば、ゲールウエザー組のほとんどが呆気に取られていることか。

 メイドや護衛の騎士たちもあの様子じゃクラウドの醜態はやむなしと判断されそうだ。

 唯一、マシな状態と思われるジョイス総長が最初に復帰して口を開いた。


「今なんて逆に動いた後に止まっていますよ」


 総長の言葉にクラウドが静止状態の画像を見て目を見開く。

 次の瞬間には凄い勢いで振り返って見開ききった目で俺を見た。

 驚いているのか怒っているのか、よく分からんな。

 雰囲気から怒っている風ではないのは伝わってくるけど。

 大いに興奮しているのだけは間違いなさそうだ。

 言葉はないながらも「説明しろ」と全身で語っている。

 なんだかなぁ……

 ゆっくり飯を食うために楽をしようと思ったら酷いことになった。

 泣きたい。

 俺は落ち着いて飯を食うことも許されないのか。

 このままだと俺の親子丼が冷めて旨さが激減してしまう。

 それだけは阻止しなければっ!!

 吸い物が温くなるのは許せるが親子丼が冷めるのは嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!

 せっかく温々でウマーと幸福感に浸っていたというのに。

 しかも親子丼は久々なんだぞ。

 冷めても旨いとはいえ暖かいままが良いに決まっている。

 最高に旨い状態で食いたいじゃないか。

 とはいえ相手は敵ではない。

 むしろ逆である。

 これから友好関係を築き上げていこうとする相手を蔑ろにもできない。

 ジレンマを感じなくもないが、ここは説明せねばならん状況だな。

 しょうがないので魔法で保温するとしよう。

 暖めた空気で親子丼の熱が逃げないようにする。

 空気の層を何重にも分けて器近辺の熱い空気が周囲に伝わらないようにする。

 真空断熱の魔法瓶を何重にもしたようなイメージかな。

 温めているし電気ポットの方が近いか。

 いずれにせよ空気だけでそれをなしているので目立たない。

 浮いている以外はね。

 下から熱を逃す訳にもいかんからな。

 そこはスルー推奨、見ないでくれと言うしかあるまい。

 問題があるとすれば、冷めにくくはできるが長時間続くと痛んでくることだろう。

 腹は壊したくない。

 毒物に対する耐性は常人の領域を超えているので大丈夫な気もするが……

 それにしたって傷んだ食べ物は味もおかしくなるからな。

 旨く食べられるうちに説明を終わらせよう。


「あれは過去に記録した映像だ」


 この一言で終わらせるつもりはないが少し間を置く。

 新しい単語が後からもどんどん出てくるからな。

 情報を整理する余裕は持たせないとね。

 現にクラウドたちは「映像……」と呟いている。


「映像ってのは、いま幻影魔法で見せているものだ」


 急がば回れ、ここは堪え忍ぶ時間である。

 決して一口食べる時間を確保しただけではない。

 うん、旨い。


「記録……この場合は録画と言うんだが、録画した映像を切ったり繋げたりできる」


 ゲールウエザー組全員からどよめきが起きた。

 とりあえず無視だ。

 どういう原理だとかなんとか説明してたら終わらなくなる。

 できるからできる、以上なのだ。


「この作業を編集という。

 編集することで効率よく見せたいものを見せることができる」


 再びどよめくゲールウエザー組一同。

 ただし、つい先程の驚きを含んだ感じとは違う。

 どちらかというと感心している様子が見受けられるな。

 動揺も見られるけれど。

 それでも理解不能といった感じではなさそうだ。

 ここで、その状態だと厳しいものがあるのでホッと一安心である。

 適応能力が高そうで助かった。

 と思ったんだが……


「録画された映像は巻き戻し再生や一時停止させることもできる」


 この説明の反応が薄かった。

 ポカーン状態なんだよな。

 半分くらい「なに言ってんだコイツ」な空気も感じなくはない。

 すでに見せているのにダメなのかと、途方に暮れそうになったさ。

 動画で既に再生し終わった部分を巻き戻しながら何度か実演してようやく受け入れてくれた。


「これが録画した映像の強みだ」


「あの中に封じ込められたのかと思ったが違うようだな」


 クラウドが溜め息をつき、ダニエルが頷いた。


「封印された上に自在に操られるのかと危惧しましたぞ……」


「んな訳ねえだろ。

 俺はそんな嗜虐趣味を持ち合わせてないぞ」


 コイツら斜め上のことを考えていたんだな。

 そんな風に思ったが、向こうの世界で聞いた話を思い出して必ずしもそうとは言えないと思った。

 テレビの出始めの頃は人が中に入っていると思い込む人間もいたという話だ。

 それが本当かどうかまでは俺には分からない。

 だが、そんな話が出るということは信じる人間も少なからずいたのだろう。

 こっちの世界じゃ初めて見た時に俺らがぶっ飛んでると思うようなことを考えても仕方あるまい。

 西方じゃ映像や動画なんて概念がないんだしな。

 おそらく幻影魔法だと分かっていなかったら、もっと騒がれていたんだと思う。

 慣れていないと、こんなものなんだなぁ……

 なかなか気疲れする話である。

 その調子で動画と静止画や字幕についても説明した。

 根気の必要な作業であったとだけ言っておこう。

 レイナに惑星レーヌが丸いことを教えた時ぐらい疲れたよ。

 その説明が終わってからうちのダニエラに言われた言葉がショックだった。


「魔法だからのひとことで良かったんじゃないですか~」


 それは俺の精神をえぐる言葉だった。


「な・ん・だと……」


 単純明快にして的確すぎる言葉を受けた俺はそう返すのがやっとだった。


「いけませんか~?」


 ホニャホニャした笑顔でウサ耳をピコピコ動かしながら聞いてくる。

 アレは何も考えていない。

 そう、何も考えていないんだ。

 にもかかわらず的確すぎてぐうの音も出ない。

 どうせ俺は理屈っぽいですよ。

 そして追撃が入る。

 ダニエラからではなくゲールウエザー組からだ。

 言われてみれば、みたいな顔をして1人また1人と納得していく。

 王や宰相、総長なんかは早い段階であったのはさすがと言うべきなんだろう。

 徐々に納得していくにつれ俺の精神はガリガリと削られていく。

 全員が納得する頃には四つん這いで項垂れたくなったさ。

 がっくり、である。

 とりあえず稲作の動画再生を一から再開させて誤魔化しておいた。

 こういうときは旨い飯を食って癒やされるに限る。


「残りを見ておいてくれるか」


 なるたけ素っ気なく言ってみる。

 拗ねてるのがバレるなんてみっともないったらありゃしないからな。


「それで稲作の概要は分かると思うからさ」


 そう言ってから親子丼と吸い物に目を向け食事を再開した。

 食ってる間は話し掛けるなオーラを展開しておこう。

 これ以上の精神攻撃はゴメンだぜ。

 俺が黙々と食べ始めると、動画の方へと視線が戻っていく。

 ああ、面倒くさかった……

 説明の間に編集は終わっているのだけが救いである。

 別に負担になるって訳じゃないけど気が楽だ。

 御飯を食べることだけに集中できるからな。

 それにしても、動画を見始めると食い入るように見てしまうもんなんだな。

 今回のことは勉強になった。

 録画という概念がないと、こんな風になるとは思いもよらなかったよ。

 いや、それ以前に幻影魔法で見せる映像が一般的じゃなかったんだっけ。

 正直に言うと、ここまでとは思わなかったんだよな。

 伝説の魔法というのも決して大袈裟じゃなかった訳だ。

 うちの面子は新参組も含めて割と普通に受け入れてたからなぁ。

 あれ? もしかして俺が勝手にそう思ってただけとかないよな?

 そう考えたら、なんか変な汗が噴き出してきそうだ。


「……………」


 考えるのはよそう。

 ただでさえ予期せぬ精神攻撃を受けた状態でボロボロなんだ。

 これ以上の精神的重圧は勘弁してくれ。

 俺の魔法が普通じゃないってことでスルーされていたとか考えてはいけない。

 目から塩辛い汁が出そうになる。

 一度でも受け入れてしまうと後は普通になるんだから、いいじゃんか。

 より正確に言えば慣れることで普通になっていくと言うべきなんだろうけど。

 結論、うちの子たちは優しい。

 そしてゲールウエザー組よ、空気を読んで察してくれ。

 もっと俺に優しくプリーズ。

 カルチャーギャップに目を回しそうになる気持ちは分からんでもないけれど。

 こういうのをカルチャーギャップと言って良いのか疑問ではあるが。

 なんか違う気もするけど些細なことを気にしてはいけない。

 とにかく認識に齟齬があると疲れることになるのは思い知った。

 それ故、今後は注意したいところである。

 たぶん難しいと思うけど……

 色々と手順を踏む必要があるのはわかるが面倒くさいし。

 今でも充分に気を遣っているつもりなんだ。

 誰だ? どこが気を遣ってるんだなんてツッコミ入れようとしている奴は。

 俺は俺なりに気を遣っているつもりなんだよ、これでも。

 不充分なのも分かってるけどな。

 ある程度以上は気にせずスルーしているだけだ。

 理由? 面倒だからに決まっている。

 それはさておき、動画は収穫直前までを再生した。

 刈り取りとか脱穀とかは問題があるんだよな。

 魔法で一気にやるからさ。

 そのうち魔道具でも作ろうかとは思ってるけど。

 いずれにせよ、それで目を回されるのもまた面倒だ。

 あと、再生にもそれなりに時間がかかっている。

 字幕の説明付きだからな。

 俺もゆっくり御飯が食べられて満足だ。

 ごちそうさま。

 食べ終わると片付けになるんだが、俺が動こうとすると止められた。

 月影の面々に。

 彼女らが片付けを率先して行ってくれたのである。

 最初に動き始めたのはレイナとアニスだった。

 それを見た途端に皆が競うように片付け始めたんだよね。

 何十人分もの食器じゃないんだから、寄って集ってというのも変な話だ。

 やる気があるのは歓迎するけど。

 別に御褒美とか用意した訳じゃないんですが……

 凄い張り切ってて変なの。

 奥で洗い物をするのに気合いを入れて本気でジャンケンするとか必死すぎだろ。

 食器を持って行く時だって護衛の騎士たちが呆然とするようなスピードだったし。

 完全に妖精組の忍者モードと同等だったぞ。

 ちょっとは自重してくれよぉ。

 君らも今や妖精組とタメを張るまでになってるんだからさぁ。

 現に向こうの騎士たちがピリピリしかけてたんだぞ。

 洗い物するために大人げなく必死になってるのを見て苦笑で終わったけど。

 冷や冷やさせないでくれ。

 こんなことなら俺が自分で片付ければ良かった。

 ゲールウエザー組がいる以上、あまり見慣れない魔法を使う訳にもいかないけど。

 食洗機みたいなことができる魔法なんて魔導師団の面々が目を回しそうだし。

 総長は喜びそうな気はするがな。

 なんにせよ俺ならチャチャッと終わらせて客人の追及はスルーだ。

 ん、あれ? もしかして客人がいるから張り切っているのか?

 違うような気がするんだけど、まあいいか。

 気にしても始まらない。

 考えるのが面倒くさいという話もある。

 少なくとも俺が気にすべきはクラウドたちが動画を見て理解したかどうかだろう。


「それで、稲作ってのはどういうものか理解してもらえたかな」


 コクコクと一斉に頷く。

 それこそゲールウエザー組の一同がそろって頷いているから、なかなか面白い。


「水が必要な量も半端じゃないだろ」


 元々はこれの説明のために始まったことだが、長い道のりだった。

 理解はされたようだが返ってくるのは頷きでの返事。

 向こうサイドも、それなりに消耗しているようだ。

 俺に振り回されたようなもんだしな。

 しょうがない。

 思い返せば苦節1時間あまり。


「……………」


 考えてみると大したことはないな。

 精神をガリガリ削られまくった割に短いというのが、なんだかね。

 振り返るのはよそう。

 自爆しそうで嫌だ。


読んでくれてありがとう。

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