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282 ようやくランチタイム

 王城に到着するとゲールウエザー組が待ち構えていましたよ。

 クラウド王と宰相のダニエルが艶々した笑顔なのが微妙である。

 なんというか、帰りたくなるような気持ち?

 護衛の騎士たちは緊張した面持ちだったけどね。

 留守居の面々は不安そうなのと、やつれた感じのが大半だったな。

 前者は王や宰相の代役とその補佐につく面子だろう。

 後者はギリギリまで仕事で振り回されていたと思われる。

 俺らが出発した後で少しは休めると良いが、どうなるやら。

 向こうの予定については首を突っ込むつもりはない。

 あまりに憐れに見えたので固形ポーションを渡しておいた。

 もちろん梅干し味の疲労回復型である。

 ちなみに護衛の面子はダイアンやリンダたちの部隊が主体となるようだ。

 ジョイス総長とナターシャ・ホルストも姿を見せていた。

 他に魔導師団員と見られる者たちが8名ほど。


「総長自ら行くつもりかい?」


 王や宰相と魔法使いに穴を掘らせる話はしたからな。

 ちゃんと集めたようだが、トップを連れて来るとは思わなかった。


「この機会を逃すのは勿体ないと言わざるを得ません」


 ニコニコと実にいい笑顔だ。

 生憎と熟女以上は対象外なので惚れたりはしないが。

 期待感の表れか。

 実に分かり易い人である。

 動けるようになった途端にこれだからなぁ。

 これが地なんだろうけど。

 そのせいかホルストが密かに溜め息をついている。


「アンタも行くのかい?」


 声を掛けると真顔を崩さず頷いた。


「宰相閣下の御命令ですので」


 その口振りからは「行きたくない」が、ありありと見て取れる。

 魔導師団の立て直しの最中だからな。

 いきなり出張を命ぜられるとは思わなかったのだろう。

 他の魔導師たちは若干の緊張が見て取れた。

 特に俺とは目を合わせようとしない。

 禿げ脳筋とのアレを見ていたのかもな。

 別に敵対して攻撃してこなけりゃボコったりしないけど。


「まあ、国民を救うための事業の重要な役割を果たしてもらうからな。

 仕事が地味すぎて不満も出てくるかとは思うが、頑張ってくれ」


 そう言い残してダニエルの方へ向かう。


「昼食がまだだそうですが」


 開口一番がそれかい、ダニエルさんよ。

 俺はどれだけ腹ぺこキャラ認定されているんだか。


「ああ、こっちの都合だから気にする必要はない。

 悪いけど移動中に食べさせてもらうわ」


「それではすぐに積み込みを始めるということで、よろしいですかな」


「ああ」


 輸送機を出せるだけのスペースは確保されているな。

 2度も着陸させたのだ。

 大きさを把握していても不思議ではない。

 それでも俺が召喚魔法風に引っ張り出すと、どよめきは起きるのだが。

 このサイズを平然と呼び出す魔法の方に驚いていると見るべきか。

 輸送機そのものの大きさには慣れたっぽいもんな。


「それと……」


「ん?」


 馬車や馬など積み込みが始まってからもダニエルは何かあるらしい。

 はて、問題になるようなことはなかったと思うのだが。


「本当に馬車などは我々の分だけでよろしいのですか?」


 ああ、そういうことね。


「心配は無用だ。

 馬車の代わりになる魔道具もあるからな」


 絶句されてしまった。

 そんなに驚くようなことか?

 空を飛ぶ方が地面の上を走るより凄いと思うんだけど。

 それに馬車や馬が不要といった時点で想像がつきそうなものだろう。


「まさか馬まで魔道具にされるとは……」


「は?」


 ようやく喋ったと思ったら、なんだそれ。

 思わず「は?」だよ。

 誤解も甚だしい。

 あ、いや馬の自動人形も作ったことはあるけどさ。


「馬など必要ないよ」


「何ですと!?」


「自動車と言って魔力で車輪を回して走る乗り物がある」


「なんと……」


 馬車に慣れ親しんだ者からすれば想像もつかないようだな。

 呆然とするのは勝手だけど、騎士服を着たダイアンが近づいてきたよ。

 間抜け面のままでいいのかい?


「そっちの護衛騎士隊長殿が来たぞ」


「むっ」


 慌てて取り繕うように表情を引き締め振り返るダニエル。

 背中を向けていなかったら完全に見られていたのは言うまでもない。

 運のいいジジイだ。


「報告します。

 馬車および馬の積み込み完了しました」


「ご苦労、持ち場に戻れ」


「はっ」


 ダイアンが積み込まれた馬車の方へ向かう。

 今回の移動に合わせて格納庫内部も改造した。

 改造というか内部で変形する機能を追加したと言うべきだな。

 馬車の固定についてツッコミを入れられないようにするのが目的だ。

 車輪に合わせて、その部分の床が少し沈んだりとか。

 ロープで固定できるようにフックが出たりという程度だけどね。

 別にそんなものなくても保持できる術式は組み込んであるけどさ。

 見た目の安心感に繋がるからね。

 積み込む荷物に応じて変形させられるので馬留めとなる柵も出てくるのは言うまでもない。

 これなら文句も言われないだろう。

 更に護衛騎士たちが座る場所なども用意してある。

 全員、上に来ればと言ったんだけどね。

 格納庫なんて何にもないんだからさ。

 そしたら馬車や馬を管理する必要があると言われてしまった。

 任務の一環と言われれば引き下がるしかない。

 一応、隊長のダイアンと副隊長のリンダで2班に分かれて交代するそうだ。

 交代するほど時間かからないよ?

 まあ、帰りの時に交代すればいいのか。


「それじゃあ、我々も乗り込みますかね」


「う、うむ。そうですな」


 何故か緊張の面持ちのダニエル。

 あ、もしかして高所恐怖症なのか。

 この時はそう思ったのだが違ったようだ。

 飛び立ってからじきに落ち着きを見せていたのでね。

 後で聞いた話では魔道具に乗り込むことに緊張していただけだそうだ。

 生まれて初めてなんだから、しょうがないと言えばそうだよな。

 俺も初めてジェット機に乗った時は緊張した覚えがあるから気持ちは分からなくはない。

 北海道旅行で利用したんだけど快適だったね。

 最初は車で自由に回ろうとか考えてたんだけど。

 色々と情報収集するうちに諦めた。

 一番のネックが青函フェリーだったさ。

 自動車を積み込むのに2ヶ月前から予約が必要なんだもんな。

 料金が高いのは仕方がない。

 積み込むスペースが限られているからな。

 それ以前に青函フェリーに乗り込むまでに消耗するだろうし。

 更に渡ってからずっと自分で運転?

 デスクワークで鈍りきった体力では自滅するだけでしょうが。

 まあ、自転車で北海道を巡る強者もいるけどさ。

 距離があるときは今回のように空を飛んで移動時間を短縮すれば疲れずに済むのだよ。

 当然だな。

 他人任せなんだから。

 ちなみに現地でレンタカーを借りたりはしなかったよ。

 国内の感覚で走ると酷い目にあうらしい。

 ホントかウソかは確かめようがないけどヤバいという情報があったのでね。

 君子危うきに近寄らずだ。

 お陰で無駄に体力を消耗せずに済んで初夏の道南を満喫できた。

 雪祭りとかも行きたかったけど、それを実現させる前にこっちに来たからなぁ。

 まあ、心残りと言うほどでもない。

 似たような祭りを催せばいいだけのことだ。

 国民も増えたことだし次の機会にでもやってみるかね。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 色々と通過儀礼があって、ようやく昼が食べられるようになった。

 俺は遅い時間帯に食べるのは慣れているんだけどね。

 交代で昼休憩を取る必要のある部署にもいたことがあるから。

 まあ、大抵の窓口業務はそんな感じだ。

 エリスも冒険者ギルド勤務なだけあって慣れているね。

 シヅカはずっと眠ってきたからそういう経験はないけど気にしている様子がない。

 親子丼に至福を感じているようなので、わざわざ確認するのは気が引ける。

 そっとしておこう。

 レオーネは普通に食べられる喜びを噛みしめているから時間のズレなど気にならないようだ。

 他の外出組も気にしている様子がないのは意外だったけど。

 仕事の都合でそうなることも珍しくなかったようだ。

 まあ、気にしていないのなら構わないんだけど。

 ゲールウエザー組が色々と驚きの反応を見せるたびに遅れることになって内心で冷や冷やしてたんだけど。

 説明するのも楽じゃない。

 さすがにツバキを先に行かせて昼食の用意をしているようには見せかけたさ。

 完成品を倉庫から引っ張り出す瞬間に転送魔法で厨房スペースに送るだけだったけど。

 なんにせよ、そんなに驚くことがあったとは俺も予想外だったよ。

 ハッチが自動で閉じるのすら驚いてたもんな。

 昨日、バーグラーの連中を運んだ時に見てるはずだよね。

 それとも内側から見ると、何か違うように感じるのだろうか。

 後はエレベーターで驚かれた。

 これは仕方がないのか。

 見ていたものが短時間でガラッと変わるのは転送魔法と同じ驚きをもたらすのだろう。

 離陸しては驚かれ。

 外から着陸するのを見ていた者もいるはずなんだけど。

 内側から見るのは違うってことか。

 巨大なものが浮かぶのも信じがたいのかもね。

 で、エレベーター並みに驚かれたのが外の様子を壁面に映し出した瞬間である。

 クラウド王とジョイス総長はともに子供のようにはしゃいでいたけどね。

 ダニエルは我慢していたけれど、それが丸わかりだった。

 もちろん生暖かい視線で見守るだけにとどめたさ。

 心の中で『ジジイ、無理すんな』と言っておいた。


「それじゃ、悪いけど戴くわ」


「ああ、おかまいなく」


 クラウドたちの了承を得て俺たち外出組が食べ始める。

 一応、彼らにはお茶と茶菓子を出しているけど居心地は良くない。

 興味深そうに見られながらだもんよ。

 小腹が空いているなら量を少なくしたものを出すがと聞いてみたんだがな。

 必要ないと断られてしまった。

 二度断られたなら充分だろうってことで今の状態なんだが……


「そんなに気になるか?」


 食べながら聞いてみる。


「いや、失敬」


 クラウドが苦笑する。


「色々と物珍しくてな」


「色々と?」


 親子丼が珍しいと感じるのはしょうがない。

 西方じゃ米を使った料理は一般的じゃないからな。

 だけど、それ以外に珍しいと言われてもピンと来ないんだが。


「その器は面白いな。

 形が変わっている上に蓋まである」


「なんだ、丼のことか」


 言われて初めて気が付いた。

 これって西方にはない食器の形状だったと。

 さらっとしたスープで用いる器に近い形状のものはあるけど飽くまでスープ用である。

 もちろん蓋はない。


「ほう、ドンブリと言うのか」


「米を使った料理を食べるのに向いているかな」


「そうだ、その料理も珍しいのだよ」


 クラウドはオッサンだけど中身は少年だよな。

 好奇心旺盛というか。


「米はうちの国じゃありふれているからな。

 珍しいと言われても、よく分からん」


「ふむ、国が変われば食事も変わるか」


「うちは米が主食の国だからな」


「ほう、主食とはな」


「この親子丼のような丼物に限らず色々な調理方法がある。

 寿司、チャーハン、おにぎり、カレーライス、炊き込み御飯……

 シンプルに炊いただけで食べるのも旨いがね」


「ほうほう、面白いな。

 聞いたことのない料理の名前を聞くだけで食欲が湧いてきそうだ」


 なんか食いつきがいいね。

 米に興味を持ったようだな。

 まあ、俺らが旨そうに食ってればそうなるか。


読んでくれてありがとう。

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