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281 帰り道で考えたこと

 帰りの道すがら新規登録組に問いかけてみた。


「そっちは問題なかったか?」


 本音を言えば愚痴りたいんだがな。

 あんなアホな連中の相手をさせられた上に足止めまでされた。

 お陰でみんなの試験を見ることができなかったのだ。

 まあ、愚痴るのはやめて正解だと思う。

 身内に聞かせたい話じゃないからな。

 一応はあーしてこーしてと説明はしたけれど。

 シヅカにぜひ聞きたいとせがまれたからなんだが。

 皆も興味津々ではあったな。

 故に客観的になるよう説明したつもりだ。

 俺の心情的な部分は全カット。

 本当に何をしたかだけを淡々と語った。

 皆のストレスにはならないように気を遣ったつもりである。

 それでもチンピラどもが【隠蔽】スキルを使ったあたりの説明で皆が怒っていたがな。

 ちなみに帰り道では風魔法の結界を張っている。

 部外者に会話の内容を聞かれないようにね。

 外からの音や声は遮断していないので割と高度な制御が要求されるんだけど。

 【多重思考】と【魔導の神髄】スキルのお陰で意識して使っている訳ではない。

 実にありがたい。

 できれば、うちの子たちにも【並列思考】ぐらいは身につけさせたいね。

 魔法と違って特級スキルを取得させるのは困難ではあるけれど。

 とにかく部外者に聞かれないようにした。

 これ以上の面倒事は御免被る。

 ハイエナと呼ばれていたチンピラ冒険者を始末する話もなかなか不穏だったのでね。

 これくらいは配慮しておかないといけないだろう。

 見知らぬ相手に誤解されて「衛兵さん、こっちです」とかされたくないからな。

 そりゃそうだ。

 俺から挑発して喧嘩をふっかけたようなものだし。

 模擬試合とはいえ一方的にボコボコにしたのも誤解される元だ。

 1人目から普通じゃなかったもんな。

 ジャンピング背負い投げで始まるなど誰が予測するだろう。

 跳躍時にダメージ入れた時点で肋骨をやっちゃってるし。

 投げ落とす時にも蹴りで追撃して叩き付けたし。

 加減してなきゃ死んでます。

 ABコンビ以外は平然と俺の話を聞いていたのは色々と見てきているからだな。

 あ、シヅカは喜んでいたから平然というのとは違うのか。

 最初から技の細かい解説を求められてしまった。

 特に気に入っていたのは最後のチンピラ5を投げ飛ばした技だな。

 幻影魔法で説明する羽目になってしまった。

 もちろん、これも部外者には見えないようにしたのは言うまでもない。

 そんな話の後に登録組の様子を確認してみた訳だ。

 俺は何があったか全然見ていないし。

 つくづく見られなかったのが悔やまれて仕方がない。

 本当なら見学していたはずなのに。

 気になってしょうがないっての。

 許すまじ、ハイエナども。

 そう言いたいところだが奴らも充分トラウマになっただろう。

 こっちだって、もう関わりたくないしな。

 そんなことより身内のことだ。

 今度は見逃さないようにビデオカメラとか作ってみるか。

 けど、手に持って撮影するとなると目立つよなぁ。

 魔道具を持っていると知られた日には……

 そうなるとケータイとかスマホで撮影というのも人目のある場所では難しいな。

 眼鏡型にして目立たなくするとか。

 ……ダメだな。

 こっちに来てから眼鏡をした人間を見たことがない。

 いっそのことヘッドギア型にして防具のように見せかけるとか。

 使える場所が限定されてしまうのがオチだな。

 それなら鎧の正面に内蔵させる方がまだマシだろう。

 普通に考えてブレスレットかネックレスが無難だと思う。

 あるいは魔力を余計に消費するけど使用中は光学迷彩がかかるようにしておくとか。

 それなら眼鏡型でもいいかもしれない。

 むしろ、その方が使い勝手が良さそうだ。

 時間のある時に試作してみるか。

 方針は決まった。

 皆の話もちゃんと聞かないとな。

 【多重思考】があるから問題なく聞き取っている。


「何も問題はなかったぞ、主よ」


 俺の問いかけにシヅカが真っ先に返事をした。

 なんというか構ってくれと全身でアピールしている。

 まるでワンコのようである。

 聖天龍だけどな。


「自分も特にはありませんでした」


 まだまだ緊張気味なレオーネがそれに続く。

 その言葉、信じたいんだけどねぇ……

 シヅカのこの世界での常識は俺の記憶のお下がりだからな。

 どうにも西方人とのギャップがあることを考えると微妙と言わざるを得ない。

 レオーネは急激なレベルアップをしているから感覚に差があるだろうし。

 念のために詳しく話を聞いてみた。

 彼女らの偽装ステータスと食い違うようなら修正が必要になるのでね。

 オリジナルがこれで──


[シヅカ/竜種・聖天龍/守護者/女/不明/レベル312]


[レオーネ・ソレイユ/人間種・シャドウエルフ/-/女/25才/レベル108]


 偽装がこうなる。


[シヅカ/人間種・ヒューマン/魔法戦士/女/23才/レベル88]


[レオーネ・ソレイユ/人間種・海エルフ/魔法戦士/女/25才/レベル61]


 シヅカの偽装はドルフィンを基準にしている。

 レベル的にタメなんでね。

 決して双方共に長生きしているからとかではない。

 ジョブが用心棒でないのは参考にした他の皆がジョブチェンジしているからだ。

 レベルも西方基準ではやたらと高いけど、これは保険みたいなものだ。

 他の高レベルの連中と遭遇しない訳じゃないだろうからな。

 レベルが高いはずの相手が弱すぎるなんて事態になったらシャレにならん。

 滅多なことではそういう状況に陥らんだろうがね。

 とはいえ油断していると足をすくわれるから保険をかけたって訳だ。

 あと、変な連中が絡んでこなくなることも期待している。

 馬鹿はどこにでもいるから絡まれることが皆無になるなんてことは期待できないが。

 両名の話を聞いた結果は妥当なものだった。

 彼女らのレベルを伏せたまま1対多で戦う試験になったそうだけど。

 どちらも軽くあしらって終わりだったそうだ。

 魔法専門職でないから魔法の試験は省略されたらしい。

 接近戦で余裕を持って戦えるなら魔法は必要ないのだとか。

 野営で重宝される程度に火や水の魔法が使えれば充分なんだってさ。

 ……なんだかなぁ。

 試験時間が短縮されたのは良かったけど。

 ただ、問題がなかった訳じゃない。

 彼女らの相手は強制依頼で決められたという話は聞きたくなかった。

 既に起きてしまったことは変えられないし消せもしないが……

 そういう気分になったんだ。

 察してくれよ。

 だってさ、強制依頼ってことは青ランク以上の冒険者ってことだぜ。

 騒ぎになるに決まってるじゃないか。

 俺がハイエナの連中とやり合っている時に向こうも騒ぎになっていたとか……

 結果としてシヅカとレオーネのランクが黒と茶になったのは言うまでもない。

 しばらくは王都の冒険者ギルドに来ない方が良さそうだ。

 広いと評判のダンジョンに興味があったんだけどな。


「私もありません」


「クリスに同じく」


 フェア姉妹は楽しそうに返事をした。

 姉妹になれたのが本当に嬉しいようだ。

 そして自然に馴染んでいる。

 ぎこちなさなど欠片もない。

 マリアが元の身分差から遠慮したりとかするのかと思ったけどね。

 最初からそういうこともなかったし。

 どうやら人目のないところで姉妹ごっこをしていたから慣れていたらしい。

 男じゃ考えられない遊びをするよな。

 うん、いちゃいちゃした兄弟ごっこは絵にならない。

 下手をすれば腐女子が喜ぶような状況になりかねないし。

 これは女子限定の遊びだろう。


「私もです」


「私もなかったです」


 ABコンビもレオーネのような緊張した様子がうかがえる。

 が、その一方で彼女らの表情から以前のような険は無くなっていた。

 良い傾向だと思う。

 徐々に慣れていけばいいさ。

 あ、でもレベルは早急に上げてもらうがな。

 現状で新規登録組のうち4人がレベル不足からステータスに不安があるし。


[クリス・フェア/人間種・ヒューマン/剣士/女/15才/レベル21]

[マリア・フェア/人間種・ヒューマン/剣士/女/22才/レベル35]

[アンネ・プラム/人間種・ヒューマン/魔導師/女/19才/レベル45]

[ベリー・プラム/人間種・ヒューマン/魔導師/女/19才/レベル45]


 4人は種族以外は素のままである。

 クリスやマリアは元の立場から離れた時点で剣士となった。

 そういう訓練は受けていたから当然だろう。

 クリスの方はレベルの割に剣技が拙いとは聞いたが。

 回避と防御に特化しているらしい。

 マリアもその傾向があるとか。

 さすがにボリュームゾーンを越えている人間が素人剣術レベルな訳はないが。

 なんにせよ魔法関連は魔導師団まかせだったようだ。

 生活魔法は使えると聞いたので素養の関係でないのは明らかである。

 さすがに生活魔法が使える程度で魔法剣士になったりはしない。

 もしなったとしてもカッコ悪いだろ。

 本人たちは魔法も習得したかったようだが王から本格的な訓練を禁止されていたそうだ。

 どうやら魔法の暴発を心配されたらしい。

 クリス専属のメイドであったマリアも禁止されるほど徹底されていたのには驚かされた。

 無茶しなきゃ、そうそう死にゃしないって。

 守る立場であったマリアが無茶する訳ないだろうに

 クリスだってそういう能なしなことをするバカじゃない。

 クラウド王だってそれくらいは理解しているはずだ。

 必要以上に心配していたのは間違いなさそうだな。

 どんだけ過保護なんだよ。

 その割にジェダイト王国へは少人数の護衛だけで移動させていたけどな。

 訳わからん。

 まあ、今更の話だ。

 とにかく彼女らとしては魔法を会得することに忌避感はないそうなので一安心である。

 ということで魔法戦士を目指してもらう。

 魔法剣士ではない。

 剣士だと武器の選択肢が狭まるからね。

 近いうちに内包式の魔法を覚えてもらうつもりだから実現はそう遠くない未来だ。

 そう告げると本人たちは気合いを入れていた。

 さて、ABコンビであるが……

 彼女らは改名した。

 うちの国民になるにあたり家名を捨てると宣言したのでね。

 お陰で俺が新しい家名を考えることになった。

 是非ともとお願いされたからなんだけど。

 俺にその手のセンスを期待しないでくれよ。

 しかも冒険者ギルドへ行く直前だぞ。

 時間もないって無茶振りだよな。

 しょうがないから何かに因むことにした。

 お手軽でセンスを問われなくて済みそうだと思ったのでね。

 女の子なんだし花に因んだ名前なんかどうだと提案したら喜ばれた。

 俺も採用されて安堵したよ。

 この方法なら本人たちに気に入った花を選ばせるという手を使えるからな。

 決して横着じゃないぞ。

 で、花の画像を次々と見せていった結果、彼女らが選んだのが梅だったんだよね。

 ウメはないよなぁと思ったけど……

 ABコンビが選んだのだから却下する訳にもいかない。

 故に英語名で因むことにした。

 梅って正式にはジャパニーズアプリコットと言うそうだけどね。

 プラムを採用したのは正式名を使うと長ったらしいし人名っぽくないからだ。

 微妙かなと恐る恐る周りの反応を確認してみたが悪くなかった。

 どうやら俺にしては当たりのネーミングだったようである。

 他の候補も考えるかと念のために聞いたら2人に「「是非これで!」」と断言された。

 よほど気に入ったみたいで俺としては内心安堵するばかりであったのは内緒だ。

 残るはファーストネーム。

 そっちは子供の頃からの愛称をそのまま使うことにしたようだ。

 バーバラがどうやったらベリーになるのかは謎だけど。

 あと、俺が「ABコンビのままかよ」と思わずツッコミを入れたら妙に受けてしまった。

 本人たちも含めての話なので、このまま定着すると思う。

 俺も会話の中で普通に使ってるしな。

 ちなみに、この2人も姉妹設定である。

 どちらが姉かは特に決めないそうだ。

 これについては俺がとやかく言うことじゃないな。

 何かしら不都合が出た時に決めればいいだろう。

 たぶん暫定的なものになると思うけど。

 それにしても意外だったのはレベルである。

 エリスと同じ45だもんな。

 練習試合でも経験値が得られることは間違いないようだ。

 第2班で大いに活躍していた証と言えるだろう。

 まあ、まずは3桁レベルを目指してもらうことになるけどね。

 そうそう、エリスと言えば冒険者ギルド職員は辞めるって。


[エリス・フェア/人間種・ヒューマン/魔法剣士/女/27才/レベル45]


 となると、現状ではこんな感じになるのか。

 そんなに強い魔法は使えないそうだけど魔法剣士なんだな。


読んでくれてありがとう。

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