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280 髭爺は御機嫌ななめ

 あっさり引き下がったかと思った髭爺だが急に据わった目になる。

 ちょっとだけ若くなったように思えるのは気のせいか。

 なんというか板についている?

 これが素だと言われると納得してしまいそうだ。

 飄々とした髭爺のイメージにはそぐわないが。

 まあ、俺が勝手に第一印象でそう思っているだけなんだけど。

 なんにせよ、それなりに迫力はあるな。

 殺気は欠片もないがね。

 前にガンフォールが使っていたやつに近い。

 迫力を薄めたらこんな感じになるか。

 使える奴がここにもいるんだな。

 ガンフォールと比べるとまだまだって感じではあるけれど。

 それでも外野の何人かは「ヤベえ」って顔になった。

 中堅どころの連中だろうか。

 ベテラン勢が落ち着いているところを見ると、まだ本気でない可能性もあるかもね。

 俺としては物足りない。

 それで脅しているつもりなら本気になってくれと言いたい。

 あまり期待はしていないがな。

 髭爺の雰囲気からすると割と本気っぽいし。

 仮にガンフォールクラスであっても根本的に威厳が不足している。

 コロコロと表情の変わる変な爺さんという印象しかないせいだろう。

 あとは互いの認識に差があるせいかな。

 向こうの主観では、俺をどう見ているかが今の態度に表れているのだろう。

 今のところは中堅クラス相当で見られている気がする。

 見た目が成人したての若造だからな。

 態度は不遜そのものだけど。

 一応は王様として舐められないように、という理由がある。

 そんなものは建前だけどな。

 これで通すのが楽というのが本音だ。

 トラブルの元とも言えるけどさ。

 でも、これを改めるつもりはない。

 どうしようもない相手を選別する役には立っていると思うし。

 仮に改めたとしても、見た目だけで対応してくる相手には軽んじられるだろうからな。

 髭爺は半々というところか。

 どうも『若いから経験が足りない=強がっている若造』の図式が成り立っているくさい。

 中堅連中くらいは大人しくさせる程度に凄んで俺に本気を出させようって腹積もりか。

 なんにせよ、いよいよ魔法で俺の底を見せろと言うつもりのようだ。

 さっさと帰りたいので俺としては歓迎だ。

 底は見せてやれんが、それなりのことをすれば納得するだろう。

 さあ、どんと来い。


「それより髭爺とは何じゃい」


「は?」


 想定外の言葉に思わず聞き返してしまう。


「髭爺とはなんなんじゃー!?」


 ガク……

 なんだよ、そっちに食いつくのか。

 デカい声で吠えてるし。

 つまらないことで反応するなよー。


「髭の爺さんだから髭爺だ」


「そういうことじゃないわいっ」


 さらに吠える髭爺。

 あー、興奮すると唾を飛ばしてくるな。

 どこかの冒険者ギルド長みたいだ。

 ……髭爺も冒険者ギルド長だったな。


「ジジイよりは穏当な呼び方だと思うが?」


 俺がそう言うと外野がゲラゲラ笑い出した。

 なんだ?

 俺としては問題が少なそうな呼称を選択したつもりなんだが。

 笑われるということは何かあるのだろうか。

 腹を抱えているような奴までいるし。


「ひ、髭爺だってよ」


「傑作だぞー」


「ブハハッ、可愛いじゃねえか」


「ダメだ、腹痛え……」


「暴風のブラドが髭爺かぁ、いいねえ」


 笑っているのはベテラン組だな。

 他の面子は顔色が悪いし、口をつぐんでいる。

 ギルド長を怒らせたらどうなるかを考えているんだろう。

 暴風のブラドなんて二つ名があるくらいだ。

 キレると風魔法で暴れ倒すのかもしれん。

 もし、そうだとすると周辺被害は大きくなりそうだ。

 火魔法よりはマシだけど、それだけに歯止めが利かなくなるのかもな。

 中にはよく分かっていない感じの奴もいたようだが、それはよそ者か新入りだろう。


「貴様ら、煩いぞ!」


 ベテラン組に向かって両拳を突き上げるようにしつつ地団駄を踏む髭爺。

 子供かよ……

 それに反応してベテラン勢が更に爆笑する。


「よっ、髭爺ちゃーん」


「髭爺なんて嫌じゃあ!」


 すげえ嫌がりようだな。

 そこまでとは思いもよらなかった。


「ワシはまだまだピチピチなんじゃぞ!」


 いや、シワシワだけど。


「イケてるシチィボーイなワシがジジイなわけないじゃろがー!」


 髭爺が吠えると皆が大爆笑!

 俺としては何処からツッコミ入れて良いのやらで笑えないんだが。

 イケてると言う時点で終わってると思わないのだろうか。

 あと、シチィボーイって……

 シティボーイと言いたいようだが、これも終わってないか。

 死語という認識がない?

 それともこの世界では死語のカテゴリーに入らないとか。

 こんなのいちいち調べてられるか。

 俺的に死語である、以上。

 それにしても、ぬけぬけとジジイ否定発言か。

 鏡とか見たことないのかもな。

 水鏡じゃハッキリ見えないし。

 ちなみに客観的な目で見た場合、外見は誰が見てもジジイである。

 シワシワと白髭が目立つから間違いようがない。

 中身だけは子供だがな。


「笑うなー!」


 笑われて顔を真っ赤にして怒っているし。

 些細なことで癇癪を起こすところなんかは完璧に子供だろ。

 さすがにキレて魔法を使うほど見境がなくなってはいないが。

 誰もツッコミを入れないが、分かっているんだろうなぁ。

 ベテラン勢なんかは笑い続けているし。


「何処がおかしいんじゃー!」


 体はジジイ、心は子供なところを笑ってるんだと思うよ。

 逆ならどこぞの少年名探偵のようには……ならんか。

 どちらであっても可愛くない。

 アンタの孫なら子供らしくて可愛いかもしれんが。

 会ったことないから知らんけど。

 そもそも孫がいるかも知らんし。

 独身っぽい感じはするがね。

 ちょっと鎌をかけてみる。


「孫の受けは良さそうだがな」


「なぬ!?」


 真顔でクルッと振り向く髭爺。

 それまで顔を真っ赤にして怒っていたのに、変わり身の素早いことだ。

 ズズイと身を乗り出してくる。

 ジジイの面がドアップで迫ってきた。

 これで2回目だぞ。

 ええい、キモい!

 目を血走らせて顔を近づけるなっての。


「それは真かっ!?」


 だから唾を飛ばすな。

 しかもさっきより増量されてるぞ。

 興奮しすぎだっての。


「んなこたあ自分の孫に聞け」


 俺に聞かれても知らん。

 とにかく離れろ。

 そういうのは美女と美少女だけで頼むわ。


「おお、それもそうじゃな」


 俺の言葉に髭爺はあっさり引き下がった。

 やれやれ……

 極端すぎるだろ。

 まったく、色々と問題のありそうな爺さんがギルド長をしているな。

 ちらりとエリスの方を見ると苦笑していた。

 しょうがないなーって空気を感じる。

 いや、俺もこんなカオスなことになるとは思っていなかったのだ。

 王都の冒険者ギルド長が孫バカであると初めて会った日に知るとは思わなかったさ。

 以後、暴風のブラドことブラドルクス・フォーゲルは髭爺と呼ばれることになる。

 このときの俺は知る由もなかったんだがね。

 孫に呼ばせてみたら定着したからという理由で自ら広めることになるのだ。

 なんだかなぁ……

 それはさておき、だ。


「盛大に話が逸れたが、穴は埋めりゃいいんだろ」


「なぬ?」


「この穴を埋めると言ってるんだ。

 それなら金もかからんだろう?」


「お、おう」


 俺が威圧している訳でもないのに髭爺はしどろもどろだ。

 おいおい、ベテランのオッサンみたく腰とか抜かさないでくれよ。

 ここはシャキッとしてもらうために目の覚めるようなことを言ってみるか。


「それとも穴は俺が魔法を使った証拠としてしばらく残すか?」


 全力で首振りをする髭爺。

 予算が絡む話となると弱いらしい。

 あまり苛めるのも良くないよな。


「なら、こうだ」


 フィンガースナップひとつで地魔法を発動。

 ボコッという音の後にモコモコと穴から土が盛り上がっていく。

 それまで緩い空気に包まれていた外野が再びどよめくことになった。


「地魔法だと!?」


 そんなに珍しい魔法じゃないだろ。

 地味すぎて不人気ではあるのかもしれないが。


「3属性を使いこなすだって!?」


 それが皆が驚いている原因か。


「しかも全部、無詠唱だ……」


「マジで何者なんだよ」


 髭爺も呆気に取られているな。


「お主、いったい何者なんじゃ?」


 オッサンといい髭爺といい面倒くさいったらありゃしない。

 ここで「賢者だ」と言っても、それで終わらないのは目に見えている。

 あーだこーだと質問が矢のように降り注ぐだろう。

 付き合ってられるかよ。

 こっちは時間がないんだ。

 そもそも俺が質問に答えても自己申告みたいなものじゃないか。

 どう考えても客観的視点が欠けている。

 そういうことは身内じゃない人間に聞いてくれ。

 俺のことをある程度は知っていないと意味はないがな。

 アンタらの身内にもいるぞ。

 それなりに離れた場所にいるから連絡を入れても、すぐに話が聞ける訳ではないがな。


「俺のことを知りたきゃブリーズの街の冒険者ギルド長に聞くといい」


 筋肉髭ダルマのゴードン・バフ。

 あの男なら髭爺に近い価値観で俺のことを説明してくれるだろう。

 たぶんだが。


「なんじゃと?」


「賢者を名乗る若造は何者なのかってな」


「むう……」


 髭爺が唸っているが話が進まないのは勘弁してほしい。

 髭爺が登場した時点でツバキに念話で連絡を入れたけど。

 少し遅れそうなので昼食はいらないってさ。

 連絡を入れておいて良かったよ。

 万が一を見越してのつもりだったのが現実になるんだから。

 本当に飯を食う余裕がなくなるとか、勘弁してくれ。


「悪いが俺も暇じゃないんだ」


 地面が元に戻ったことを確認してから次のフィンガースナップをスタンバイ。


「待て待て!」


 俺が更に魔法を使おうとしていると思ったのだろう。


「もう魔法はええわい」


 髭爺が制止してきた。

 止めなくてもポーズだけのつもりだったけどな。


「あれだけやって疲れた様子も見せぬとは呆れたものじゃ」


「そりゃどうも。

 それで行ってもいいのか?」


「ああ、そうじゃな」


 髭爺が長く伸ばした白髭を弄びながら頷いた。

 ようやく俺たちは解放されることとなった。

 走って帰らなきゃならないほどではないけど昼食はお預けである。

 輸送機へ乗り込んで出発してからかな。

 馬車と馬を積み込むことになるから場合によっては時間を食うだろう。

 人が乗り込んで出発するまで、どれだけ時間がかかることやら。

 こうなったのは自業自得だとは思うが断固として反省はしないぞ。


読んでくれてありがとう。

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