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277 倒した後は一休み?

「シャレになんねえ奴だな、あの銀髪」


「何者だ?」


「知る訳ねえだろ」


 すかさずツッコミが入る。


「俺も見たことねえぞ」「俺もだ」「ワシも」


 口々に同意しているのは皆ベテランと思しき連中だ。

 少なくともコイツらは茶以上のランクだろう。

 そういう連中が俺のことを強いと認識してくれれば有り難いんだがな。

 まあ、いつまでも耳を傾けている訳にはいかない。

 チンピラ5も寝ぼけたような面を引きつらせながら我に返ったようだしな。

 屁っ放り腰で木剣を前に突き出してきた。

 本能的な防御行動なんだろう。

 急に俺が近づいてきたから押し返す感じで。

 こちらとしては願ったりな感じで右腕を突き出す形になっている。

 期待通り過ぎて笑いがこみ上げそうだよ。

 こういう形になるんじゃないかと期待して踏み込んだんだけどさ。

 笑うのは封印して仕上げにかかる。

 後ろ回し蹴りで木剣を持つ右手の甲を踵で打つ。


「速いっ」


 かろうじて外野の誰かが反応できる程度なので目の前のコイツには何もできない。

 威力は右手を弾き飛ばさないように絞っている。

 狙い通りに直撃し「ゴキャッ」という骨が幾つも砕ける音が聞こえてきた。

 蹴り脚は振り切らず直下に落とす。

 右腕をそのままにしておきたいのでね。


「あぎゃあっ!」


 手は弾かれることはなかったが確実に潰れた。

 当たった瞬間に手応えがあったからな。

 木剣など持っていられまい。

 だが、俺は奴が木剣を取り落とすのを待ったりはしない。

 踏み込みつつ左の掌で剣の腹を打ち据えてはたき落とした。

 今の動作で体に捻りが加わったが、その勢いを殺さずそのまま跳び上がる。

 チンピラ5が反射的に腕を引っ込めようとしていたが俺はそれを許さない。

 くるりとロールしながら跳び上がった俺は滑らせるように脚を出す。

 奴の右腕に脚を巻き付けて絡め取った。

 このまま捻りの勢いを殺さず腕をへし折りながら全身のバネを使って投げる。

 仲間の所まで投げ飛ばしてやるよ。


「これで終わりだ!」


 チンピラ5の腕に脚を絡ませ飛びついた時の捻りの勢いを殺さず更に捻る。


「ぎゃあぁっ!!」


 腕は折れ、肩関節も抜けたようである。

 そこで終わらせはしない。

 体を大きく仰け反らせて伸身の後方宙返りだ。

 捻り1回転のおまけ付き。

 そこそこ飛んだな。

 いや、端っから先に片付けたチンピラどもの側に叩き付けるつもりだったし。

 狙い通りと言うべきだろう。


「うわあ……」


「飛んでる」


「ふぁっ!?」


 滞空時間がそれなりにあるせいで外野の言葉も聞こえてくるな。

 そして釣り竿のようにしなっていた状態からチンピラ5が地面に叩き付けられた。

 その寸前に俺は離脱。

 勢いを殺しておくのも忘れない。

 最初の勢いのままに叩き付けたら間違いなく死んでしまうからな。

 レベル30弱程度のステータスじゃ即死級のダメージになってしまう。

 故に途中はそれなりに派手に見えた技だったが叩き付けた時の音は控えめだった。

 それでも腰骨が折れていたりはするのだが。

 言うまでもなく内臓にもダメージが入っている。


「げふっ……」


 もちろん意識を保っていられるはずもなく白目をむくこととなった。

 俺は審判を引き受けたベテラン冒険者のオッサンの方を見た。

 呆然としていたオッサンだったが、俺の視線を受けて「はっ」と我に返る。


「しょっ、勝負あり!」


 信じられないものを見ているような目を俺に向けながらも、ハッキリと宣言。

 とたんに外野が沸き返った。


「最後のあれは何だ!?」


 興奮したように周囲の仲間に問いかけるオッサンがいた。

 が、まともな返事はない。


「分かる訳ねえだろ」「知らねえよ」「俺らに聞くな」


 俺にも聞くなよ。

 聞いても答えんからな。


「武器なしで本当に勝っちまいやがった」


 大した相手じゃなかったのでね。

 連係攻撃もしてこなかったし。

 いや、礫を使ったアレも連係ではあるか。

 外野的には奴らのスキルのせいで、そうは見えなかっただろうがな。


「ハイエナの連中が思ったほど強くなかったように見えたんだが」


 チンピラ冒険者どもはマジでハイエナと呼ばれているのか。

 まさか自称じゃないよな。


「だよな。アイツら、あそこまで弱かったか?」


 さすがに気付く奴もいるようだ。


「俺、知ってる。

 アイツら弓士だから剣は素人だぞ」


 知ってる奴がいたのか。


「マジか!?」


「じゃあ、なんで試合とかで負けたことがないんだ?」


「強い奴とは絶対に勝負しねえからだろ」


 ベテランには見抜かれてるんだな。


「セコッ! なんだ、それ」


 知らなかった奴もいるようだけど。


「後は奇襲戦法がメインだからな」


「ああー、あの見た目でやられると迫力あるかもな」


「あんまり経験のない連中だと気押されて動けなくなるか」


「そういうこと」


 見抜かれて当然だよなー。

 そのうち誰かに潰されてただろうな。

 たまたま俺がそれをすることになっただけか。


「けど、同程度のレベルの剣士とかにも勝ってるぞ」


「あれは何故だか運良くって感じだな」


「そうそう、不思議と対戦相手が調子を崩すんだよな」


 上級スキル【隠蔽】を使ったズルの方はさすがに見抜けないようだ。

 それはさておき、だ。

 オッサンがチンピラどもの様子を確認している。


「若いの、やってくれたな」


「そうかい?」


「ここまでするこたぁ、ねえんじゃねえか」


「説教なら聞かんぞ」


「言うじゃねえか。

 だがな──」


 何か言葉を続けようとするオッサンだが、俺はそれを聞くつもりはない。


「聞かんと言ったはずだ」


 特級スキル【気力制御】で範囲を極小にして殺気を一瞬だけ叩き込む。

 なるたけ出力が絞られるようにイメージして。

 難易度の高いものに挑戦すると熟練度が上がる感触がある。

 まだまだ制御し切れていないがね。

 それでも範囲だけは絞られた。

 オッサンと失神してるチンピラどもだけに俺の殺気が伝わる。


「──────っ!?」


 驚愕の表情で固まるオッサン。

 殺気はもう放ってないんだがな。


「まさか、アレで俺が少し手加減した程度だとか思ってないだろうな」


 返事が返ってこないので、そのまま続ける。


「俺が本気なら、コイツらは開始直後に消し炭にしているさ」


 オッサンが更に目を見開く。


「ま、まさか、魔法使いなのか……」


 俺の発言からそういう発想になるのはしょうがない面はある。

 防具も身につけていない上に丸腰だし。

 でも冒険者カードの記載は魔法使いでも魔法剣士でもない。


「通りすがりの賢者だ、覚えておけ」


 ドヤ顔で返すと、オッサンの顔が間の抜けた感じになった。


「賢者だって?」


 オッサンは俺の予想外な返答に呆気に取られながらも聞き返している。

 それに返事をしたのは俺ではなかった。


「そうですよ」


 試合後に歩み寄ってきていたエリスである。

 他の面子がいない。

 エリスにしても最初からこの訓練場にいた訳ではないからなぁ。

 俺がチンピラ4を蹴り飛ばしたあたりで姿を見せたくらいだ。

 他の面子はいない。

 俺が絡まれている間にさっさと受付に向かっていたからな。

 シヅカに念話で時間がないから先に手続きしておけと指示を出したからなんだが。

 誰1人として心配していなかったというのが信頼されている証だ。

 ……だよね?

 違うとか言われたらショックなんですが。

 考えるのは予想……じゃなくて、よそう。

 ダメだ。落ち着け、俺。

 相変わらず、こういう部分での己の豆腐メンタルっぷりに情けなくなる。

 レベルアップしてステータスとか上がってても関係ないのか。

 地道に鍛えるしかないな。

 俺の精神が先に摩耗してしまわないことを切に願う。


「他の皆はどうした?」


「ここではない訓練場で実技試験中です」


「あれ? 他にもこういう場所があったのか」


 言われて納得。


「ブリーズのギルドとは比べ物にならないくらい広いですからね」


 ここの広さは半端じゃないもんな。

 訓練施設が複数あっても不思議じゃない。


「……なるほどな」


 ならば慌てる必要もなかったか。

 とはいえ、このチンピラどもを長々と相手をするつもりは毛頭なかったけど。


「実技試験が始まったから俺の様子を見に来たと」


「この程度の相手ですから終わっていると思ってお迎えに上がったのですが」


「あー、なんかスマン。

 色々と遊んじまった」


「でしょうね」


 エリスに苦笑されてしまった。

 横で「なっ!?」とか呻いているオッサンがいるが無視だ。


「そっちはスムーズに行ったんだな」


 シヅカやレオーネは偽装しているが、それでも並みじゃないからな。

 いつぞやのように簡易の測定魔道具では表示不能になるはずだ。


「ここはブリーズの冒険者ギルドと違って高レベルの冒険者も来ることが多いですから」


 エリスの返事は俺の懸念を払拭するものだった。


「つまり驚かれはしても、すぐに上位版で登録できた訳か」


「そうなります」


 人が多く集まるところは違うってことだね。

 そういうところは異世界とか関係ないか。


「ギルド職員より周りの冒険者の反応の方が楽しかったですよ」


「どういうことだ?」


 まさか、絡んできたのを返り討ちにしたとかじゃないだろうな。


「結界が張り巡らされたかのように離れていきましたからね」


「あの2人のレベルに恐れをなしたのか」


「のようです」


 俺が苦笑し、エリスが笑う。

 オッサンは絶句していた。

 俺たちの会話の内容から状況が想像できたのだろう。

 化け物は俺だけでないということを知ったオッサンの内心はいかに。

 別に知りたくはないのでスルーしよう。


「あ、でも」


「ん?」


「アンネとバーバラもそんな感じでしたね」


「あの2人には及ばぬとはいえ高レベルの魔法使いだからな」


 うちの基準では全然なんだが、部外者に会話を聞かれる状況でそんなことは言えない。


「そういや、魔法使いの試験ってどうなるんだ?」


「得意な攻撃魔法を的に放つ形になります」


 まあ、そりゃそうか。

 模擬戦で魔法の使えない人間相手にぶっ放す訳にはいかんだろうし。

 そのとき爆発音が訓練場に響き渡った。


「お? 噂をすればってやつか」


「そうですね」


 さほど間を置かずにもう1発。

 1発目から外野組が口々に騒いでいたが2発目で偵察を送り出すことになったようだ。

 ジャンケンを始めている。


「2人とも爆炎球を使ったか」


「わかりますか?」


「俺、賢者」


 わざわざ【天眼】とか使わなくても音と振動で見当がつく。

 まだ何も教えてないから、あの2人が使える魔法の幅は狭いし。

 エリスは俺の返事に苦笑しつつも納得したようだ。

 オッサンは……燃え尽きそうな感じだな。

 おいおい、まだチンピラ冒険者どもを治療したりしないといけないだろ。

 あの様子では気に掛けている余裕はないな。

 じゃあ、俺がどうにかすればいい?

 冗談きついなぁ。

 もうしばらく放置プレイで痛みを味わってもらわないとね。

 わざと無視してエリスと話をしてるんだから。


読んでくれてありがとう。

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