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274 原因は俺?

PV2000000到達しました。

ありがとうございます。

 練習試合の名を借りた喧嘩でオッサンが審判に名乗りを上げた。

 物好きというか世話焼きというか。

 程々でやめさせるためであろうことは容易に想像がつく。

 つまり、お節介ってことだな。

 苦労性なオッサンである。

 同情はしない。

 身内じゃないからね。

 それどころか知り合いですらない。

 どんだけ世話焼きなんだろうか。


「俺の指示に従えよ、いいな!」


「「「「「うーす」」」」」


 渋々だった先程の返事と違って実に嬉しそうなチンピラどもである。


「異存はない」


 俺の返事に苦虫を噛み潰したような目を向けてくるオッサン。

 どこ吹く風と受け流すまでよ。

 俺にスルーされたことを悟ったオッサンはチンピラどもの方を見た。


「お前ら、試合が始まるまで喋るなよ」


 5人組は口々に文句を言ったが、オッサンは無言で圧力を掛けた。


「「「「「うっす」」」」」


 顔色を変えた連中が即座に返事をして黙り込む。

 殺気で黙らせるとは、なかなかやる。

 コイツらじゃ借りてきた猫にならざるを得ないのも納得である。

 その調子で最初から大人しくしててくれよと思ったが。

 そうすりゃ、すんなり終わってたんだよ。

 うちの面子に冒険者登録させに来ただけなんだから。

 どうしてこうなった。

 え? この練習試合は俺が原因だって?

 手厳しいなぁ。

 チンピラどもが俺を孤立させようと囲んでこなけりゃ俺も挑発しなかったんだが。

 なんにせよ早々に潰して終わらせるだけだ。

 そんな訳で、俺はいま奴らと対峙している。

 イマイチやる気になれないけど、しょうがない。

 自分で挑発したとはいえ昨晩のクズ共より実力的に劣るからなぁ。

 最初からテンションがだだ下がりである。

 向こうとは正反対だ。

 そろそろ始まるかなと思った頃合いで──


「はじめっ!」


 オッサンが腕を振り下ろして合図した。

 直後にチンピラ冒険者どもが突っ込んでくる。


「うおりゃあっ!」


「ヒャッハー!」


「ヒヒヒヒヒヒッ!」


「うひゃひゃひゃはー!」


「死ねやあっ!」


 なんだかなぁ。

 一気に覚めてしまうんだが?

 いや、元々覚めてたんだけどさ。

 一部を除いて世紀末でバイオレンスな世界観の漫画に出てくる雑魚より酷い。

 キモい感じなのが2人もいるんだよ。

 もう少しでエクスタシーに達しますと言わんばかりのがね。

 死ねとストレートに言ってる奴の方がマシに見えてしまうのが色々と終わっている。

 快楽殺人の気があるようにしか見えないからな。


「……………」


 拡張現実の表示からすると人殺しではないようだが。

 まあ、でもイエローカードではあるか。

 暴行は普通にあるし。

 こういう連中なら暴力的な恐喝くらい普通にしてそうなんだが、それがない。

 確認してみたら強引に掛け試合に持ち込んでいることが判明した。

 それも自分たちより強い相手には絶対に勝負を挑まないときている。

 違法行為すれすれで、かつあげしているようなもんだな。

 自身の暴力的衝動を満たしつつ金儲けができる、か。

 質が悪いったらありゃしない。

 嫌われる訳だよ。

 今回は俺から勝負を吹っ掛けたから向こうにしてみれば渡りに船を得たってところだな。

 何も賭けていないから暴力で快楽を得ることが目的か。

 5対1で絶対に勝てると踏んだようだし。

 この調子で何人も犠牲者を出しているってのが度し難い。

 反吐が出るな。

 これでよく人殺しになっていないものだ。

 殺さぬよう嬲るのはお手の物とか言い出しそうだ。

 本当にそんな返答がなされるとプチッといってしまいそうなのでスルーした。

 コイツらの目は確実に殺しを楽しむ輩の目だ。

 生者でありながら生者でない。

 踏み外した奴の腐った目。

 おそらく人間以外を殺すことで殺戮を快楽に変えているのだろう。

 ああ、何となく分かった。

 こいつらが冒険者になった理由。

 人を殺せば重罪人だが魔物を殺せば褒められる。

 盗賊になることを恐れた結果と推測できるな。

 冒険者を選んだのは必然だ。

 自由があるからな。

 例えば任務として魔物を殺す機会もあるような兵士を職業に選んだとしても規則に縛られる。

 思いのままに行動しているようにしか見えないこの連中なら窮屈すぎて逃げ出すだろう。

 典型的な不良冒険者だ。

 いや、不良などという言葉では生易しいか。

 バーグラーのクズ連中とさして変わらん。

 いつか人間相手にやらかしかねないな。

 汚物は消毒するに限るだろう。

 殺す訳にはいかないんだが。

 まあ、やりようはあるさ。


「まずは1人目」


 突出してきたバカからだ。

 数の上で有利であることを利用する気がないようだ。

 正真正銘のバカなのか、調子に乗っているだけか。

 どちらであるのか微妙なところである。

 いずれであっても困りはしないがね。

 突っ込んでくるなら、さっさと片付けるまでだ。


「うおおおおぉぉぉぉっ!」


 気合いを込めて木剣を振り下ろしてくる。

 モーション大きすぎ。

 そして遅い。

 アクビが出そうになる。

 血走った目が近づいてくるのは、そこそこ迫力があるんだけどな。

 冒険者ビギナーならビビって体が硬直するか。

 つまり、俺はその手の初心者と見られているって訳だな。

 1人で突っ込んできたのも勢いで脅すためなのかもしれない。

 俺からするとキモいだけなんだが。

 血走った目の野郎が俺目掛けて駆け寄ってくるんだぜ。

 それなりに鍛えたアニキな感じの奴が迫ってくる所を想像すればわかる。

 こんな場面で喜ぶのは特殊な性癖を持った連中だけだ。

 俺にはそういう趣味はない。

 キモいだけである。

 ……さっさと片付けよう。


「あらよっと」


 振り下ろされる木剣を躱しながらチンピラ1の腕を取る。

 懐に入り込んで背負い投げの体勢に入った。

 そこで上に跳躍すると──


「ぐべっ」


 内臓を圧迫されたチンピラ1が奇妙な悲鳴を上げる。

 数メートルは浮いてしまったからなぁ。

 跳躍せずに地面に叩き付けられるよりダメージはデカい。

 俺が背負ってる間にリバースするなよ。

 そんな訳で理力魔法で保険をかけておく。

 その状態を維持したまま跳躍の最高到達点で奴を投げ下ろした。

 俺自身は腕を放して空中でクルッと前転してからトドメとばかりにバカを蹴り落とす。

 この高さから投げ落とされるだけでも相当のダメージになるが、ここでダメ押しだ。

 チンピラ1は投げと蹴りの勢いを合わせた形で地面に叩き付けられる。

 ドスンと鈍い音を立てて落下した後は立ち上がってこなかった。

 白目をむいているから当然だな。

 仮に意識があっても無理だと思う。

 内臓を痛めている時点でまともに動けるはずがないのだ。

 投げられて固い地面に叩き付けられるとシャレにならんのだよ。

 身に沁みて分かっている。

 サバゲ同好会の合宿でOBの自衛隊員から指導を受けたときに味わったからな。

 体育の授業でやる柔道とかとは比べ物にならん。

 あれは畳の上で受け身を取ることが前提になっているからな。

 転がすように投げるのと叩き付けるのでは全然違う。

 相手を倒すための投げってのはマジでヤバい。

 軽く手加減された状態でも、しばらく動けなかったからな。

 チンピラ1にはそこまで加減はしてないよ。

 死ななきゃオッケーだからな。

 その上で肋骨もバキバキに骨折している。

 呼吸にも支障があるだろうな。

 おっと、右肩の関節も外れてるか。

 脆すぎだろ。

 死なないよう加減したけど本当に冒険者か?

 もっと鍛えろ。

 そして俺は蹴った反動を利用してバク宙から地面に軽いタッチで着地した。


「ん?」


 周囲が静まりかえっている。

 呆気にとられている外野たち。

 オッサンも呆然とした表情で俺を見ていた。

 おいおい、審判の仕事してくれよ。

 残りのチンピラ冒険者共の動きも止まっているからいいけどさ。


「じゃあ次だな」


 そう言いながら一歩前に出るとオッサンが我に返った。


「少し待て!」


 両手で俺たちの間に割って入るオッサン。

 ボクシングのレフェリーのようだな。

 まあ、ダウンを取ってもここにはニュートラルコーナーなんてないんだけど。

 試合を止めて何をするつもりなんだろうな。

 そう思いながら見ていたら、オッサンはチンピラ1に駆け寄ろうとしていた。

 ああ、状態を確かめるつもりなのか。

 ますますレフェリーっぽい。


「心配しなくても殺さないように加減したぞ。

 放置してもすぐには死なないから安心しろ」


 まあ、俺の言葉を真に受けて万が一があると困るのはオッサンだ。

 審判にはそれだけの責任があるみたいだからな。

 故に確認するのを止めたりはしない。

 俺もそれは理解していたさ。

 あえて言ったのには理由がある。

 担架を用意させて運び出したりということがないように予防線を張ったのだ。

 さっさと治療させては意味がないのでね。


「あー、こりゃ酷えもんだ。

 確かに死にはしないだろうが……」


 一通り確認したオッサンが俺の方を見て「マジかよ」という顔をしている。

 予想外だったようなだ。

 俺の方としては、そちらが何を考えていようが関係ない。

 このバカどもを潰すだけだ。


「続けていいのか」


「再開だ」


 俺の問いかけに両腕を一瞬だけ交差させて宣言するオッサン。

 なんか審判するのに慣れているよな。

 こういうのに巻き込まれることが度々あるのかもしれん。

 自分から首を突っ込んでいるのかもだが。

 世話好きというか物好きなオッサンである。

 オカンって感じだよな。

 見た目は某ロボットアニメに出てくるオッサンに似ているが。

 主人公に性能で勝ったのだから自惚れるなと忠告する敵側の人間だ。

 背丈はこっちのオッサンの方が高いけどな。


「お?」


 残ったチンピラどもに最初の勢いはない。

 だが、戦意は喪失していないようだ。

 少なくとも仲間が1人やられても動揺はしていない。

 無言で俺を取り囲んでくる。

 一息で飛び掛かるつもりがないのか間合いが遠い。

 ほう、戦力が減っても焦らずフォーメーションが組めるのか。

 この様子だとオッサンが中断させた時に軽く打ち合わせしていたようだな。

 なんか呟き合っていたのはそういうことか。

 あえて無視していたから細かいことまでは知らないが手慣れた感じはするな。

 ジリジリと時計回りで様子を覗ってくる。

 一応はボリュームゾーンの上位に食い込むだけのことはあるのか。

 ダンジョンじゃ仲間1人が戦闘不能になっても勝てば助けられるからな。

 チンタラしてると出血多量とかで死んでしまうことはあるだろうけど。

 その辺はオッサンが大丈夫と判断したのを信用しているんだろう。

 迂闊に飛び込むと同じ目にあうと警戒するのは分かるんだが。


「じゃあ2人目だな」


 生憎と俺には時間がないのでね。

 さっさとこの訓練場の場所を空けないといけない。

 レオーネたちが登録のための試験を受ける時間が無くなってしまうからな。


読んでくれてありがとう。

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