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28 そして彼等は国民となった

改訂版です。


 妖精たちは俺の数奇な運命の話に耳を傾けていた。

 普通なら奇想天外な与太話ってことで信じてもらえなかっただろう。

 称号に[女神の息子]や[亜神の友]があることも話したからな。

 妖精たちが神の存在に敏感に反応するおかげか疑う者がいなかったのは幸いだ。

 ツバキでさえ俺の話を疑っているようには見えなかった。


 いつの間にか土下座状態は解除。

 というより食い気味に聞いている。

 魔神や眷属の魔王、魔神のペットである魂喰いなんて単語がポンポン出ていたからか。

 我が事のようにハラハラしていた。

 ルディア様やラソル様のことも話したけど驚いたり納得したりと忙しい。


 そんな流れのままに畳み掛けさせてもらおう。

 ここから先はジェットコースターより急展開だぞ。


「という訳で、こちらがこの世界の管理神にして俺の母でもあるベリルベル様だ」


 俺がそう紹介すると同時にベリルママが転送魔法で御登場。

 妖精たちに話を聞かせている間に脳内スマホで連絡を入れて来てもらったのだ。


「は~い、ベリルベルでーす。

 息子がお世話になってまーす」


 ノリが良いを通り越して明らかにテンションが変だ。

 俺のお願いが相当嬉しかったみたいだな。


 これで神々しさが失われていないのだから、さすが神様と言うべきか。

 宗教関係者なんかは頭を抱えそうだけど。


「そして諸君の後ろにいるのが筆頭眷属の亜神ルディアネーナ様」


 これなら土下座できまい。

 一つの体で前後同時に土下座できるなら話は別だが。

 妖精たちはあたふたとしながら前に後ろに首を巡らせている。


『こんなことで神様を呼び出す俺も大概だな』


 そうは思うが、さっきの繰り返しは御免こうむるのでね。

 頭の中が真っ白になっているであろう間に次の手だ。


「すまぬ。我が兄が迷惑をかけた」


「お騒がせしちゃってごめんなさいね」


 亜神と管理神の同時謝罪攻撃である。

 妖精たちを混乱させている間にさっさと話を進めてしまおうってわけ。

 些かショック療法的だとは思ったけれどね。


 上手くいくかは賭の側面もあった。

 パニックで予測不能な行動を始める懸念もなくはなかったし。

 ここはツバキの言葉を信じることにした。

 妖精たちは適応力が高いというね。


 可哀相だとは思うけれど今後も降臨はあるはず。

 だから慣れてくれと内心で願った。

 下手に口にすることができないんだよなぁ。

 ベリルママが特訓という建前で毎日顔を覗かせることになりかねないから。

 ちゃんと管理神の仕事をしてくださいなんて言いたくはない。

 泣かれる恐れだってあるし。


 さて、妖精たちはというと土下座をするわけにもいかず大混乱。

 ルディア様に尻を向けていることに気づいたツバキが慌てて横を向く。

 皆も同様に倣うものの、どちらを見て良いのやらと首だけを右往左往させていた。

 口を開いたまま、アウアウとまともな言葉を発することもできない。

 まさに絵に描いたような狼狽えぶり。


 そんな状態に心苦しくはあったが幸いなことに長続きはしなかった。

 ルディア様がベリルママの脇に移動したからだ。


「土下座するなら再びお前たちの後ろに回り込むが、いかにする」


 そう言われては平伏できないよな。

 何とか片膝をついて畏まるところで落ち着きを見せた。

 内心ではそれどころじゃないだろうけど。


「そういうことだからツバキも根に持たないでくれると助かる」


「あ、いや……、根に持っている訳では……」


 言い淀むところを見ると多少は根に持っていた訳だ。

 もはや燃えつきる前のロウソクのような状態ではあるが。


『もう一押しかな』


 今度は妖精たちに声をかけた。


「俺も改めて詫びよう。

 迷惑をかけた、すまない」


 妖精たちが滅相もないとばかりにブルブルと首を振る。


「そうか、助かる」


 俺の言葉に彼等はホッと安堵していた。


「で、お前たちはツバキに言うべきことがあるんじゃないか。

 ああ、今回の件に関して口止めされてたりするんだろうけど……」


 ちらりとルディア様を見ると重々しく頷きが返される。


「同じ筆頭眷属として私が口を閉ざす必要はないと断言しよう」


「ええ、私が上司としてラソルトーイの指示をすべて無効とします」


 ベリルママの笑顔が怖い、超怖い。

 目が笑っていない。

 ラソル様のことをラーくんと呼ばないし。

 完璧に女神様のお仕事モードだよね、コレ。


 妖精たちはそこに気付く余裕はなかった。

 俺に指摘されたことが気になってしょうがなかったのだ。

 素直な彼等だから全員ですぐに謝る。


「「「「「事前に相談もなくごめんなさい」」」」」


「もう良い。

 だが、次は勘弁してくれよ」


 ツバキも謝罪を受け入れたとなれば、残る問題はあとひとつ。


「で、返事は聞かせてもらえるのかい」


 何が、とまで言わずとも理解している様子のツバキ。

 さほど考え込むこともなくツバキが口を開いた。


「私だけ仲間はずれは勘弁してほしいものだ」


 その瞬間、わあっと歓声が上がる。

 ようやく賑やかな妖精たちらしい反応が返ってきた。

 嬉しいときは素直に喜ぶべきだよな。

 そう思っていたら──


「皆の衆、肝心なことを忘れておらぬか」


 などとツバキに指摘されてしまった。


「国民が王の名を知らぬなど聞いたこともない」


 淡々と喋っていたが言っていることは結構辛辣だ。

 そういや妖精忍者たちには言ってなかったな。

 ツバキには彼女が名乗ったときに名乗り返したけどさ。


 先に出会ったはずの彼等の名前も知らないとか間抜けすぎるだろ。

 自分の間抜けさ加減に呆れるより早く妖精忍者たちが反応した。

 またしても、シュバッですよ。シュバッ!

 今度は土下座だったけど。


「そういうのはいいから」


 ホント疲れるわ。


「俺も──」


 君らの名前を知らないと言いかけて緊急停止。

 ローズがセーフのジェスチャーをしている。

 どこで覚えたんだ、そんなの。


 なんにせよ「俺も君らの名前を知らない」などというアホな発言は回避できた。

 こんなの言ったら余計に畏縮してしまうだろう。

 名乗りもせずに要求を口にしていたことを気づかせてしまうのだから。


「俺の名はハルト・ヒガだ。

 1年前にミズホ国を建国し君主となった。

 国民は現状でこれだけだが国づくりはこれからだ。

 皆には存分に働いて貰おうと思っているから、ヨロシクな」


「くー!」


「うむ、よろしく頼む」


「「「「「よろしくお願いいたします」」」」」


 ローズやツバキの返事からは気負いなど感じなかった。

 ミズホの民になろうとも変わらないブレない自分を持っている。

 神様相手だと流石に畏縮していたけれどね。

 その息子である俺相手だと今更みたい。


 それ以前に俺の気配って人間と変わらないのかもね。

 神の眷属に近い存在になってもレベルが飛び抜けていても、まだまだってことか。

 貫禄とか威厳とかいうものが著しく欠如しているのは確実だ。

 国家君主としてどうかと思うけど、柄じゃないしなぁ。


 それに俺もまだまだやりたいことがある。

 王様だからって踏ん反りかえっているつもりはない。

 冒険者登録だってしたいしな。

 だって夢だろ、ロマンだろ。

 せっかく異世界の住人になったんだし暴れてみたい。


 ……いや、暴れるのは程々にだな。

 周囲をひれ伏させる新人冒険者なんてドン引きものだ。

 状況次第じゃそうなるかもだけど。

 ギルドで新規登録する際に不良冒険者が絡んでくることもないとは言えないから。

 シチュエーションとしては定番中の定番だもんな。

 ちょっとした憧れのようなものはある。

 助けてくれた人とパーティを組むことになったり。

 自力で解決して一目置かれるようになったり。

 妄想が膨らみそうになる。


『む、いかんな。

 本当に妄想を膨らませてしまった』


 幸いにして妄想タイムはごくわずかな時間だった。

 妖精たちが訝しむということにはなっていない。

 興奮冷めやらぬという感じではあるな。


 皆、瞳をキラキラさせて希望に満ちた雰囲気がある。

 ツバキを静とすれば動って感じかな。

 空回りしそうなのが大勢いるみたいだけど、そう心配する必要もないだろう。


「それじゃあ、自己紹介から頼むわ」


 この一言で再び妖精たちを恐縮させてしまったけど、避けては通れない道だ。

 いずれはこの程度でカチカチにならないよう慣れてもらわないとな。


 トップバッターはカラカル顔のカーラ。

 全体のまとめ役をしていると言った。


 続いてハスキーのキース。

 カーラの補佐をしているとのこと。


 後は並んでいる順だったがレベルや能力的に強い順でもあった。

 それくらいは拡張現実で表示させてるから一目瞭然だ。

 流石に名前は自己紹介するまで表示しないように設定したけどさ。


 そんな中で印象深かったのはボーダーコリーや黒猫の三兄弟。

 リーダーたちに次ぐレベルだからむしろ当然か。

 最後になった子供たちは逆の意味で目立っていた。

 保護欲をそそるというか何というか。


 ケットシーがロシアンブルーに三毛で、パピシーがシェルティーとパピヨンとチワワだ。

 思わず「卑怯な」と言ってしまいそうになる。

 なにが卑怯なんだか俺にもうまく説明できないが、とにかく可愛い。

 モフリストでない俺がモフりたくなるくらいに。


『ここに奴がいたら……』


 恐ろしい。

 どこかの三代目怪盗のごとくダイブを敢行したとしても不思議じゃない。

 服は脱がないけどな。

 その後はモフモフを堪能するまで犠牲者は解放されない。


 そうなっていたら妖精たちにとっては修羅場だったかもね。

 もしかすると天国かもしれんが。

 抱っこを嫌がる犬猫さえ奴にかかれば数分とかからず腹を見せるからな。


『カオスが見えるようだ』


 ひとりで異世界に来たことを初めて良かったと思えた瞬間である。


 まあ、あり得ない出来事を想像したところで意味はない。

 それよりも全員が名乗り終えたのだから次だ。

 どうするべきかと考えたところで、声を掛けられた。


「ハルトくーん、私たちそろそろ帰るわね」


「あっ、はい。呼び出してごめんなさい」


「あらやだ。息子がそんなことを気にしちゃいけないのよ。

 お母さんはいつだってハルトくんのために飛んで来るんだから」


 気持ちは嬉しいけどプレッシャーでもある。

 どんなに忙しくても仕事をすっぽかして来るって予告しているようなものだからな。

 ルディア様が溜め息をついた後のような何とも言えない微妙な表情をしていた。


 だからといって「用もないのに来ちゃダメ」とは言えない。

 泣かれるのが俺にとっては一番の精神攻撃だからな。


「ありがとうございます」


 引きつり気味の笑顔で礼だけ言っておいた。

 幸いにして見咎められることはなかったけど心臓に悪い。


「ハルトよ、色々と迷惑を掛けたな」


 ルディア様が詫びてくるが、本来頭を下げるべきはラソル様だと思う。

 妹が兄の不始末を詫びるということなんだろうけど。

 妖精たちを怖がらせてしまったこともあるのか。


「いえ、ルディア様は何も悪くないです。

 それよりも追加のお仕置きよろしくお願いします」


「心得た。

 しかと目に物見せてくれようぞ」


 ルディア様が拳を握りしめて悪い笑みを浮かべている。


『怖いね。

 折檻フルコースとやらが3倍か……』


 標的となる御仁には同情できないけど。

 自分に矛先が向いてなくて良かったと心底思う。


「じゃあ、またね」

「またな」

「はい」


 そしてベリルママとルディア様は消えるように去って行った。


読んでくれてありがとう。


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