273 こういう経緯です
修正しました。
受けるる → 受ける
時は俺がチンピラ冒険者どもと対峙した前日の夕方頃まで遡る。
ヤクモから転送魔法で帰ってきた俺に捕虜受け入れ準備完了の連絡が入った。
タイミングが良すぎてついつい誰かのことがチラチラと脳裏をかすめる。
が、気にし始めると碌なことにならないので強引にスルーした。
未だ捕まっていないどこかの亜神が裏で糸を引いてるなんて考えたくもないからな。
さっそく上空で待機させていた輸送機の光学迷彩を部分的に解除して着陸させた。
立ち会った宰相が能面のような表情になったのはなぜだろう。
これが初見じゃないだろうに。
でも、まあクズ共の引き渡しはスムーズに行ったので問題はない。
ここで精鋭部隊の一人としてレオーネも降ろした。
面倒だが見せるものを制限する以上は手順が必要になるからな。
合流が完了して、その日は終了である。
ちなみに親子丼は食べ損ねた。
倉庫の中で保管中だから半年後でも問題なく食べられるけどさ。
俺は早く食べたいのだよ。
……食い意地の張った話はここまでにしよう。
とにかく、そんな感じで1日が終わる。
バーグラーの連中を引き渡した以降は大きな動きはなかった。
今後の予定や計画などについて色々と打ち合わせしたりとかはしたけどね。
結果として今後しばらくは夜中に動き回ることになるのは仕方のないところだ。
他人の目を気にしながら行動しないといけないからな。
昨晩は「という訳でさっそく」とはいかなかったが。
まあ、前日が派手に動き回って睡眠時間を削ったので早々に就寝した。
俺も気疲れしたから休養させてもらったよ。
で、今日の朝食後になってから行動開始。
飢饉対策のために出発するのは昼からだし。
宰相に許可をもらって城を出た。
面子は俺とシヅカとレオーネ、リーゼ&ミュラー、それからフェア3姉妹だ。
この面子で何をするか。
冒険者登録である。
ローズが着ぐるみで登録していることを知ったシヅカが発端だ。
自分も登録したいと言い出したら未登録者から物欲しそうな目で見られてしまった。
エリスなどは苦笑していたがね。
シヅカとレオーネ以外は鍛えないと依頼は受けさせられないと説明したんだよ。
無茶すりゃ簡単に死ぬからね。
それでも熱意は衰えなかったので根負けしてしまったんだけど。
登録だけして依頼を受けるのは特訓を受けてからという条件をつけたのは言うまでもない。
それをあっさり了承して喜べるというのは凄いと思ったね。
幼稚園児が遠足を楽しみにしているかのような浮かれっぷりだったもんな。
朝食の時からその話題一色だったし。
その様子にエリスが苦笑していた。
気持ちが理解できるというか共感できる部分が多いようだ。
そんな訳で俺たちは王都の冒険者ギルドへ向かったのである。
俺は付き添いとして、エリスは案内役でだけど。
「はー、これが王都の冒険者ギルドかー」
到着した時はそれなりに感心したよ。
ブリーズの街のそれと比べても何倍あるんだよってくらいデカかったのでね。
石材独特の重厚感と合わせると迫力まで感じられる。
さすがは国一番の都市である王都に建てられただけのことはある。
デザイン的にはこんなものかとも思ったけどね。
ゲールウエザー城と比べるまでもなく壮麗な感じは欠片もなかったから。
まあ、無骨な方が冒険者のイメージには近いか。
これはこれで威圧感があってビギナーには厳しいかと思うんだが。
憧れだけで冒険者になろうとする無謀な奴を門前払いにする効果はあるかもな。
もっとも、うちの面子で動揺している者は1人としていなかった。
元ゲールウエザー組からすれば城を見慣れているからだと思う。
あ、元ABコンビは国民になるってさ。
朝食後に決意の表情で迫るように申告してきた時には何事かと思ったけど。
もっとじっくり考えろと言ったら「実家と縁が切りたい」だそうだ。
政略結婚の相手が酷かったのかと冗談半分で聞いたら深刻な表情で頷かれた。
2人そろって同じ相手なんだが、愛人が3桁に達しているエロジジイなんだと。
しかも実家の助けになる相手かと言われると微妙らしい。
それ、政略結婚じゃなくて厄介払いだろ。
そう言ったら更に落ち込んで頷かれた。
どうも彼女らは実家ではオマケの厄介者として見られていたらしい。
兄弟の中で下の方なのに上の兄や姉たちより色々とできることが多くて疎ましがられていたようだ。
それで確実に就職できる魔導師団を選んだのか。
冒険者は実家の手駒として強引に戻される恐れがあるもんな。
試験を受けて役人になる方は実家との縁が残る可能性があったそうだし。
詳しくは知らんが、知りたいとも思わん。
とにかく実家と完全に縁が切れるならミズホ国民になるのが一番だと言い切っていたし。
そういう事情があるなら時間を与えると彼女らの立場が悪くなりそうだってことで了承した。
……脱線してしまったな。
話を戻そう。
王都の冒険者ギルドがとても大きいという話だったな。
でも、元ゲールウエザー組からすれば城を間近で毎日のように見ていることで驚くに値しなかったと。
規模は圧倒的に城の方が大きいしな。
無骨な感じは練兵場周辺の建物がそれに近いものがあるからね。
見慣れていれば、この程度は「ふーん」で終わるようだな。
では、シヅカとレオーネはどうかというと眼中にない感じだった。
登録のことしか頭にない様子で建物は気にならないみたい。
シヅカなんて大人しくはしていたけど、はしゃぎたくて仕方ないってのがありありと分かる状態だったし。
もし、シヅカが犬だったなら尻尾をブンブンとアクセル全開な感じで振っていただろう。
まあ、龍なので本来の姿に戻れば尻尾もあるんだけど。
犬のそれではないから激しく左右に振るとかはしないかもしれんがな。
……振りそうな気がするな。
寝ている間にその尻尾のせいで封印されていたことを思い出してしまった。
いまは笑顔一杯なので過去を気にするのはやめておこう。
あと、レオーネは気合いが入ってる感じだった。
一気にレベルアップした影響がまだ残っているようだ。
ブルースたちの代表という意識が強いせいか。
責任感が強い姐御である。
そんな訳で、冒険者ギルドの建物が並外れて大きいのは確かなのだが誰も気にしていなかった。
この大きさになったのは、それなりに理由があるというのにね。
そちらは気にならないのだろうか。
単に王都にあるから、この大きさという訳ではないのだ。
王都のすぐ側に広大なダンジョンがあるためである。
それを目当てにした冒険者たちを受け入れる必然性から大きくなったのだ。
聞いたところによると、ここが王都になったのも国で一番のダンジョンがあるからだという。
冒険者が集まるということは、それを目当てにした商売をする者たちが集まる訳で。
武器防具、消耗品、飲食や宿などなど。
エリスの話によれば自然と王都になっていたと伝わっているそうだ。
人が集まる場所は都合が良かったということだろうな。
ここに来る者は一攫千金を夢見てダンジョンに潜る。
ある者は適度に稼ぐラインを見極め。
ある者は実力をつけて頭角を現し。
また、ある者は夢破れて冒険者を引退する。
そういった者も少なくはないが、それは運のいい方だろう。
一か八かの勝負に出て帰らぬ人となることも珍しくないと聞くからな。
希に賭に勝って富と名声を得る者もいる。
大きなダンジョンはリスクも高いが得られる見返りも大きい訳だ。
そして懐も深い。
人が大挙して押し寄せようとも攻略しきれぬほどに。
狩り場が広いが故に誰かと揉めることも少ない。
その揉め事にしても常識を弁えた行動をしていれば発生しない類いのものだ。
己の実力に見合った場所より深くには踏み込まないようにすれば確実に稼げるのだから。
並みの広さではないのである。
そして深い。
それ故に死者行方不明者は多いのだが。
比率で見ても他所のダンジョンを抱えるギルドよりも高いものになるだろう。
人が多いことで競争心を煽られるのか。
それとも確実に稼げることに慣れてしまい油断するのか。
色々な理由はあるだろう。
だが、それでも人が減ることはない。
稼げるダンジョンを目指して命知らずな連中が多く集まってくるからだ。
ギルドの建物が彼らを受け入れるためにその大きさになったのは必然である。
故にトラブルも多いのだが。
色んな奴らがいる。
それを失念していた俺が悪いと言われてしまえばそれまでだろう。
そう、ギルドに入るなりお約束の展開が待っていたのだ。
テンプレ過ぎるだろ。
大勢の注目を浴びるのは、まあ仕方がない。
で、美女を何人も引き連れた野郎が1人とくれば嫉妬やらなんやらの視線が集まる訳だ。
比較的常識的な連中ならその程度なんだが。
ヤジくらいは可愛いものである。
「よう、色男。
綺麗なお姉ちゃんたちを侍らせてるじゃんか」
こんな感じで絡んでくるアホに比べればな。
これがパンクなファッションのお兄ちゃんたちだった。
で、こういう連中は「俺たちにも分けてくれよ」とか「俺に寄越せ」とか言い出すんだ。
予想通りのことを言い出したので不謹慎にも思わず笑ってしまうところだった。
女の子は物じゃないっての、バカどもが。
結局、誰も相手にはしなかったけどな。
なに言ってんだコイツともならなかった。
昼までに帰らなきゃならない俺たちはバカに構っているほど暇じゃない。
完全に空気扱いした訳だ。
それが気に障ったのだろう。
「テメエ、無視すんじゃねえぞ!」
俺だけ5人組に囲まれてしまった。
コイツらにしてみれば、こうすれば孤立した俺が心細くなって降参するとでも思ったんだろう。
アホすぎて話にならない。
相手の力量を推し量るぐらいのことはしろよと言いたくなった。
まさに、どうしてこうなった状態である。
空気扱いの段階で引き下がっているなら潰す気はなかったんだが。
向こうがその気ならば仕方あるまい。
逆恨みする気も起きないほど叩きのめすまでよ。
「もしかして脅しているつもりなのか。
だとしたら頭の出来を疑うレベルだな。
これだから脳筋は嫌なんだよ」
方針が決まったら誘導するのみ。
「なんだとテメエ!」
軽い挑発にさっそく剣を抜くチンピラ冒険者たち。
やりやすい連中で助かると思っていたら──
「やめんか、お前ら」
ベテラン冒険者のオッサンが割って入ってきた。
俺のことは半ば無視する形でバカどもを止めている。
「毎度毎度くだらんことで問題起こしやがって」
「「「「「うーす」」」」」
バカ共はベテラン冒険者の言うことは素直に聞くらしい。
一旦は引き下がった。
俺からすると小さな親切よけいなお世話というやつだ。
奴らが囲んできた時点で潰すと決めた。
その方針を変えることはない。
「お前ら、それだけ元気が有り余ってるなら少しだけ遊んでやるよ」
奴らが「酒場で飲み直そうぜ」とか言いながら解散ムードになったところで爆弾を放り込んだ。
「訓練場で練習試合なんてどうだ?」
この提案という名の挑発にチンピラ冒険者どもは反応した。
酒を飲むより暴れる方がいいらしい。
明らかに目の色が変わったからな。
どいつも嬉しそうに笑っている。
合法的にカモをいたぶれると思っているんだろう。
分かり易すぎて笑ってしまいそうだ。
「ああ、そっちは5人だからまとめて相手してやるよ」
そして火に油を注ぐ、と。
「んだとぉ!?」
延焼拡大。
ここまで来ると誰にも止められないだろう。
「舐めてんのか、テメエ!」
こんな具合に俺の挑発に乗ってきた5人組。
俺としては狙い通り。
ベテラン冒険者のオッサンは頭を抱えていたが。
せっかく揉め事を抑え込んだと思ったのに引っ繰り返されたからな。
しかも名目上は練習試合。
互いにやる気である以上は誰にも止められない。
チンピラたちからすれば喧嘩も同然の気合いが入っている。
あわよくば殺してやろうと考えているだろうな。
素人でもわかるくらい殺気がダダ漏れだし。
こうなるとオッサンでも抑えきれない。
「ええい! 俺が審判をする」
しょうがないのでオッサンが審判を引き受けてくれたようだ。
近所に住んでいるおばちゃんレベルのお節介焼きである。
人によっては鬱陶しがられるだろう。
俺はどうとも思わないが。
損な役回りばかり引き受けてそうだなと感じはしたがね。
読んでくれてありがとう。




