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267 宰相は混乱している

 宰相の考えがよく分からん。

 魔導女子ABことリーゼとミュラーの扱いがぞんざいすぎる。

 総長の話によれば元は大人しかったというし。

 少なくとも懲罰を受ける対象ではないはずなのだが。

 対応させるために魔導師団第2班に放り込むとか懲罰以外の何物でもないだろう。

 第2班の連中が調子に乗って目に余るからって他に方法はなかったのか。

 この世から消えてもらうのはやり過ぎとしてもだ。

 過酷な環境に放り込むのはありだと思わないか?


「そういうのは修道院送りにすれば済むだろ」


 見せしめというのは効果的に使うべきだよな。

 今まで調子に乗ったバカが何人も僻地の修道院に送られたらしいし。

 そこで心が折れた者は一気に老け込んで大人しくなるのだとか。

 もっとも、大半がそれを良しとせず脱走するという。

 脱走者が生きて街や村に辿り着けたという前例はない。

 サバイバルに関しての能力も経験も皆無だからな。

 事実上の死刑宣告だと言えるが、そこは自己責任だ。

 状況を受け入れさえすれば生きていけるのだから。


「そこまでしてしまうと第2班に入る者がいなくなってしまいます」


 効果がありすぎてヘタレが逃げ出すのか。

 ままならないものである。

 だから引き込んだ上で黙らせる手段をとっているのか。

 理解はできる。

 納得はできそうにないがな。


「あの2人は訓練や試合でバカ共を黙らせる人材として放り込まれた訳か」


 短絡的な考えだな。

 機械じゃないんだし、そう長く続けられる手じゃないぞ。


「はい、一時的な措置だとは聞いていましたが」


 そういう自覚は宰相のダニエルにもあったのか。

 それにしちゃあ放置が過ぎるんじゃないか?


「一時的って……

 今でどのくらいになる?」


 総長の話によると、あの2人が魔導師団に入ったのは成人直後だという。

 あいつら入りたてのほやほやって感じじゃなかったぞ。

 総長の話しぶりからしても最低1年はこの状態ということになる。

 だが、彼女らの外見などからすると3年以上と言われても驚きはしない。

 それを確かめるために総長に聞いてみた訳だ。

 鑑定はしない。

 いや、できなかった。

 ワンクッションなしに確認したりしたらキレてしまいそうな気がしたからだ。

 嫌な予感には従うのが吉である。


「……その、5年目になります」


 申し訳なさそうに答える総長。


「…………………………」


 プチッと来そうになるのを堪えましたよ。

 かなりムカついたけど殺気は漏れ出さないようにした。

 総長は矛先を向ける相手じゃないからな。

 表情の方は【ポーカーフェイス】スキルの出番ですよ。

 まったく、何処が一時的なんだか。

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。

 丸4年以上も碌でもない環境に入れられたままとか誰だってキレるぞ。

 いや、鬱を発症するか。

 バカ共を抑え込むために傲慢な態度を取るようになっても不思議じゃない。

 当人たちのフォローくらいしてやれ。

 そう文句をつけそうになった。

 が、総長とて命令に従っていただけだからな。

 手出し無用みたいなことを言われていたはずだ。

 短期間ならそうするのも仕方のないところはあるのかもしれない。

 この国の事情を俺は知らんからな。

 けど、長期化したときに相応の対応をしないのは問題だろう。

 そのままの方針で上手くいく訳がない。

 リーゼとミュラーの両名がグレたのは必然だったんじゃないかよ。

 あの2人には同情を禁じ得ない。

 最初の無礼な態度も水に流せるな。

 ガンフォールの方を見た。

 俺の意図を読み取ってくれたらしく頷いている。

 よし、決めた!

 総長の暗殺未遂事件を片付けるついでに此奴らも何とかしてやろうじゃないか。


「宰相は一時的と言っていたそうだが」


「2年目以降に何度か書面で確認を取ろうとしたのですが」


「一向に返事がないと」


「はい」


「ちなみに俺の感覚では丸4年を一時的とは言わないんだが、どう思う?」


「……私も言えません」


 おそらく総長としても、この件には責任を感じていたのだろう。

 書面で申し立てをしたようだしな。

 碌に確認もせずに申請が処分されている可能性もあるが……

 でなきゃ無反応というのは少しおかしい。

 いずれにせよ総長の返答は、この場にいない当人たちに詫びているかのように見えた。

 気のせいではあるまい。

 上からの命令なら、あの2人に状況を教えるわけにもいかなかったのだろう。

 仮に教えたとしても結果は変わらなかったとは思うが。

 何のフォローもないんじゃ状況が好転するはずもないんだし。

 むしろ余計に悪化させることも考えられる。

 宰相はアイツらが自暴自棄になって無茶苦茶なことをするとは思わなかったんだろうか。

 事件を起こされてからでは遅いということに気が付いていなかったとは言わせねえぞ。

 もし、あの2人がジェダイト王国に来た時にやらかしていたら。

 あのときの態度が可愛いと思えるくらいなことを派手にやっていたなら。

 宰相はどう責任を取るつもりだったのか。

 あの2人のために総長が無理をして俺に謝りに来たのも分かる気がするね。

 申し訳なさと何もできないもどかしさ。

 察するに余りある。

 宰相さんよ、しっかりしてくれ。

 いくら仕事に追われているといっても部下のフォローが杜撰だと後で泣きを見るぞ。

 まあ、俺が心配することじゃないか。

 他所の国のことだし。

 ただ、リーゼとミュラーの両名については俺が何とかすることにした。

 これ決定!

 突っぱねるなら宰相はタコ殴りにする。

 ……ちとマズいか。

 殴った後に治癒魔法を使ったんじゃ、あまり意味はないし。

 治癒を途中で止めると見た目が問題になるだろうからな。

 あの男一人のために国際問題にして良いものでもないだろう。

 ならば永久脱毛の刑にしてくれる。

 カッパ頭になるがよい。

 うむ、あくまで俺の要求を突っぱねるならだがな。

 残るは第2班の連中か。

 正直なところ、あの2名に迷惑をかけ続けているような奴らは潰したいね。

 俺が勝手にやって良いって訳じゃなかろうが。

 ただ、総長暗殺未遂に少しでも関わっているなら話は別だ。

 それをこれから確かめる。

 あ、でも他の犯罪行為に手を染めていても引っ掛かるか。

 その辺はどうでもいいな。

 悪党に未来など必要ないのだ。

 今の状況だと全員が犯罪行為に関わっていると言われても驚きはしない。

 単に怠け者気質が伝染しているだけの可能性もあるが。

 果たして何人引っ掛かるかな。


「なんにせよ第2班の扱いは分かった」


 試験に受かって公職を得られる連中と違って悲惨な境遇だよな。

 自業自得ではあるのだけれど。

 平民扱いはされないようだが授爵はないし。

 身分的には貴族より下で平民より上という中途半端なことになるのだとか。

 給料も高くないから贅沢はできない。

 ただ、生活にかかるものはすべて支給されるそうだ。

 要するに給料はすべて自由に使うことができる。

 第2班に所属している者にとっては全然足りないだろうがな。

 行動も制限されるので使う場所もほとんどないそうだが。

 第2班に限っては基本的に出世もないというので給料のアップもない。

 そしてもっとも窮屈なのが団の規則。

 これを守れないなら追放されるという。

 一応は追放処分があるのな。

 修道院コースではなく無一文で放り出されることになるようだけど。

 そう言われれば渋々でも従うしかない。

 逃げ道をふさいで飼い慣らしている訳だ。

 檻の中に肉食獣を閉じ込めているようなものだ。

 うまく考えられているな。

 こういう連中を野に放てば揉め事が増えるのは誰にでも想像がつくし。

 そうなれば治安や統治にも影響するだろう。

 宮廷魔導師団の第2班はよく考えられたシステムのようだ。

 ただの檻じゃないね、これは。


「飼い殺しにして問題行動を起こすのを待つんだろ?」


 実際にそうなった場合は間接的な処刑執行として修道院行きが決定すると。

 団の規則を破るよりも厳しい措置がとられる訳だ。

 場合によっては急に姿を消して病死扱いになるそうだが。

 おお、怖い怖い。


「私からはなんとも言えません」


 総長は答えなかったが、その口振りでは肯定したも同然だ。

 深く追及するのも可哀相なのでスルーすることにした。

 ちょうど全員が集合したようだし予定通りに事を進めるとしよう。

 介助していた魔導師ナターシャ・ホルストにすべて任せているんだけどね。

 故に俺らは見学するだけだ。


「まあ、俺の勝手な想像だよ。

 俺なら間怠っこしい真似はしないがね。

 それと子供の教育を放棄した親は罰されるべきだな」


 俺の言葉に総長は苦笑した。

 そのタイミングでドアがノックされる。

 来たのは分かっていたが、ここには総長もいるし余計なことは口にしない。


「どうぞ」


 総長が声を掛けるとドアを開き「失礼します」とメイドがまず入ってきた。


「宰相が来たんだろ。

 間怠っこしいのはいいから通してくれ」


 メイドが報告する前に先を促す俺を見て総長が苦笑している。

 俺としては気にしていられないだけだ。

 さっさと終わらせたいのでな。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 宰相のダニエルは呆れた目を俺に向けていた。


「好き放題、勝手にやらせてもらってる。

 少々ムカついたのでな。

 主権侵害の抗議をするつもりなら俺にも考えがあるとだけ言っておく」


 悪びれずに言うと、ダニエルがゆっくりと頭を振った。


「そちらについては何も。

 こういう流れになるような予感はしておりましたので」


 やっぱり俺に犯人をどうにかさせるつもりだったようだ。

 色々と捜査して証拠を掴もうとしていたが上手くいかなかった匂いがプンプンする。

 実際のところはどうか知らんがね。

 俺に押し付けた時点で丸投げする気満々だったのは間違いないだろうけど。


「そのようなことは些細なことです」


 他所の国の人間に丸投げしておいて些細なことかよ。

 図々しいを通り越して開き直ってないか、これ?


「そんなことよりも……」


 なにやら勿体振った口振りだな。


「魔導師団総長が若返っておりますが」


 引きつった苦笑という微妙に器用な真似をしているダニエル。


「ああ、それね」


 誰の目にも若返りにしか見えないのか。


「総長の見た目は毒にやられてたからなんだが?」


「むう……」


「解毒して再生魔法を掛ければ御覧の通りだぞ」


「なんと!?」


 険しい表情を見せたり驚愕したりと忙しい奴だ。


「そんな驚くことじゃないけどな」


 そう言いながら月影の面々の方を見た。

 釣られてダニエルもそちらに目を向ける。


「普通」


 ノエルが無表情でボソッと一言。

 それに合わせてメンバー全員がコクコクと頷いている。

 ダニエルは唖然とした表情で固まってしまっていた。

 本当に宰相か?

 そう思ったのだが総長の婆さんが苦笑している。

 ということは大袈裟な反応でもないということか。

 ダニエルが眉間を押さえるようにして首を振っているが芝居という訳でもないようだ。


「まったく何から驚いて良いのやら……」


 溜め息を漏らしながらそんなことを言った。


「総長の外見以外にも何かあるか?」


 ガンフォールに話を振ってみたが「さてな」と返された。

 それを見たダニエルは驚いている。

 マジか!?

 何があるって言うんだ、このジジイ。

 あ、総長まで唖然としてる。

 一体なにがあるっていうんだか。

 頼むから変なこと言い出さないでくれよ。


読んでくれてありがとう。

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