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265 魔導師団の内情

 俺の説明を信じるだろうか。

 そういう不安はあったが、やってみないことには結果など分かるはずがない。

 意を決して俺は話し始めた。


「俺が使ったのは若返りの魔法じゃないぞ」


 総長も弟子も固まっている。

 俺の言ったことが信じられないようだ。

 しょうがない。

 彼女らは放出型の魔法しか使えないのだ。

 内包型の魔法を見てどういったものか把握し理解することは不可能である。

 もし、それができるなら自力で内包型の魔法に辿り着くだろう。


「使ったのは解毒と再生だ。

 内臓は重症レベルで痛めつけられていたからな」


 いや、重症なんて言葉は生易しい。

 よくもあれで生きていられたなってくらいボロボロだった。

 解毒だけで終わらせていたら近いうちに葬式が必要になっていただろう。

 そこまでは言わない。

 本人なら納得するとは思うが、弟子の方がどうなるか読めないからな。

 キーキー騒がれて時間を無駄にするのは鬱陶しいし。

 それ以前にデリカシーに欠けるという話もある。


「正直、解毒だけじゃ意味がないレベルだったからな」


 表現を多少ゆるくしたつもりだったのだが、あまり意味がなかったようだ。

 デリカシー云々と考えていたのが恥ずかしくなるくらいの結果を招き寄せている。

 意味がないとは何を差すのかという答えに至った弟子が顔を真っ赤にしていたのだ。

 毒を盛った相手に怒りを禁じ得ない様子である。

 総長の婆さんは割と平気そうだったけど。

 まあ、自分の状態はよく分かっていたはずだからな。

 覚悟もしていただろうし。


「そんなわけで再生の魔法を使った。

 総長の見た目が若返ったように見えるのは再生魔法の効果だ。

 内臓だけ再生させるのって面倒だし毒の影響は体全体に出ていたからな」


 弟子の方が目を見張っている。

 彼女にしてみれば今回の再生も大魔法なんだろう。

 指の先を切り落としてしまったので再生しますというレベルの話ではないしな。

 結果が結果だけに仕方ないのかもしれないが。

 総長は驚きつつも考え込んでいるという感じか。

 自分が同じ魔法を使った時の詠唱時間や消費魔力を見積もっているのかもな。

 他というと俺の力量の見極めぐらいか?


「ついでみたいなもんだから体全体に再生の魔法かけといた。

 髪の毛の色とか肌の張りや艶はそっちの影響だろうな」


 弟子の視線がおかしい。

 焦点が定まっていないのがありありとわかる。

 別に変な薬とかやってないはずだが。

 呆然とか絶句のレベルを通り越してしまったようだ。

 ついでで再生魔法の範囲を広げたことが彼女の理解を超えていたのだろう。

 放っておけば、そのうち現実に戻ってくるとは思う。

 一方で総長は少しマシなようだ。


「再生の魔法を体全体で……」


 呆然としながらブツブツと呟いているがな。


「しかも若返るレベルの強力な……」


 あれ?

 もしかして、これ止まらんパターンか?


「それを無詠唱で瞬時に……」


 ちょっと待て。

 全然マシじゃねえぞ。


「この領域で、ついでと仰るとは……」


 おーい、帰ってこーい!

 目の前で手を振ってみるが、反応がない。

 これじゃあ弟子と大差ないっての。

 どっちでもいいから復帰してくれ。

 話は終わってないんだぞ。

 今のままだと、また婆さんが狙われるんだが?

 しっかりしてくれー。


 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □


 宮廷魔導師たちが広めの部屋に集められていた。

 そこは城内で彼らに割り当てられた区画の食堂に相当する場所だという。

 全体での会議などでも使われるようではあるが。

 そして今は後者の目的で宮廷魔導師全員に招集がかけられている。

 魔導女子ABの姿もあった。

 居ないのは総長だけだ。

 俺たちは総長の側にいる。

 総長には魔導師団の招集をさせた。

 名目は緊急の報告会ということにしてある。

 先程、謝罪を受けた部屋で俺と共に幻影魔法で向こうの様子を確認している。

 魔導師団は第1班から第8班まであるそうだ。

 さすがは世界で2番目の大国だね。

 2桁を軽く超える規模で魔導師を抱え込んでいる。

 俺も最初は班分けが必要なほどいるとは思っていなかったから驚いたよ。

 質についてはノーコメントだけど。

 そして問題があった。

 誰が何班か判別不能だったのだ。

 着ているローブを色分けしたりデザインを変えたりなどはしていなかったからだ。

 メンバーを入れ替えたりすることが度々あるそうなので仕方がないようだ。

 バッジやリボンなどで判別できるようにすればと提案したら目を丸くされた。

 目から鱗だったようだ。

 なんだかなぁ。

 誰も気付かなかったのかよ。

 ちなみにガンフォールは俺の提案に「じゃな」と普通に首肯していた。

 思いがけないアイデアではなかったということだな。


「本当にこれで良かったのでしょうか」


 不安げな面持ちを見せる総長。


「まあ、見てな」


 俺はニヤリと笑いかけた。


「総長の呼び出しをどれだけ重く受け止めているかがよく分かる」


 それを確認するのも大事な目的だ。

 集められる側は、まさか監視されているとは思っていないだろうからな。

 理由もなく遅い奴に警告すれば次からは緊張感を持つようになるはず。

 それでもダメな奴は処分の対象にすればいい。

 とはいえ、そこまでのことは俺が決めることじゃないな。

 ここはゲールウエザー王国なんだし。

 お手並み拝見といったところか。


「確かにまだ来ていない者はおりますが。

 副総長などは私の代理で仕事も山積しておりますし」


 それでも総長をどう見ているかは分かるだろう。

 うんと遅れるなら子供でも虚仮にされていると思うはず。

 真面目に仕事をしていたことを言い訳にする可能性はあるがな。

 俺は副総長とやらの人となりを知らんからフラットな目線で見ることができるぞ。


「他に来ていないのは誰だ?」


「師長級の者が何人か。

 彼らも副総長から仕事を振り分けられていますし」


 もしかすると副総長の派閥とかあるかもな。

 なんだかドロドロしたものが見えてきそうだ。

 ドラマとかであるよな。

 大学の学長選挙とか病院内での権力闘争みたいなやつ。


「後はそうですね……

 第2班はほとんどが遅れているようです」


 食堂兼用の大会議室は収容人数に余裕があるのだそうだ。

 そのせいで空席が多くなっているため、俺では確認のしようがない。


「ちなみに第2班は何人くらいいるんだ?」


「魔導師団で最大の38名となっております」


 おいおい、3分の1以上かよ。


「来ているのはミュラーとリーゼだけですね」


 2人だけかよ。

 残りの36人はどうした。

 それと名前を出されても分からんが?


「誰だ、そいつらは?」


「アンネローゼ・ミュラーとバーバラ・リーゼの両名を御存じありませんか」


 フルネームで言われても結果は変わらんぞ。

 リーゼとかミュラーと聞くと高級折りたたみ自転車のブランドを思い出してしまうがな。

 一度だけ試乗したことがある。

 サスペンションで快適性を高めつつ軽くて速い。

 かなり物欲を刺激されたが価格がネックとなって購入には至らなかったのを覚えている。

 ……いかん、脱線してしまった。

 別に現実逃避がしたかったわけではないのだが。


「ジェダイト王国へ向かったのは彼女たちだと報告を受けているのですが」


 なんだ、魔導女子ABだったのかよ。

 そう言ってくれれば良かったのに、とは言えないな。

 俺が勝手にネーミングした上に誰にも教えてないからな。

 総長が知ってたら「エスパーか!?」となってしまう。

 ただ、ちょっとした偶然だが2人のファーストネームが面白い。

 頭文字がそれぞれAとBってだけだがな。

 偶然とは凄いものだ。

 些か驚かされてしまった。

 もちろん表情には出さなかったがね。


「ああ、あの2人か。

 スマンが名前までは確認していなかった」


 内心の驚きは胸に秘め、しれっと会話を続ける。


「左様でしたか。

 こちらこそ失礼しました」


 あいつらも性根を叩き直されてなければ遅れて来たのだろうか。

 もしそうなら第2班の連中も矯正可能かもしれないな。


「で、第2班の連中はどんな仕事をしてるんだ?」


「彼らは特には何も」


 予想外の返事であった。

 どういうこと?

 何もしないのが仕事な訳ないよな。

 ということは実戦部隊か何かか。

 日頃から訓練に励んで他の仕事は免除されているみたいな。

 企業の野球部とか陸上部みたいなのを極端にした感じか。

 だとしたら期待が持てるかな。

 飢饉対策では井戸掘りなどで宮廷魔導師を引っ張り出す予定だし。

 プライドが高すぎて井戸掘りを拒否する可能性もあるけど。

 魔導女子ABのことがあるからなぁ。

 どう転ぶかは読めない。

 まあ、あの2人なら真面目にやりそうだけど他の連中は不明だ。

 とりあえず視線だけで総長に先を促す。


「第2班は貴族の子弟だけで構成されています。

 また、彼らは班替えの対象外となっております」


「それで?」


 なにか想像していたのと違うような気配が……


「実力的には大半が魔法士か魔術士級です」


 ああ、ダメだ。

 絶対に想像していたのとは違うことが分かってしまった。

 第2班とやらは言っちゃ何だが掃き溜め的な部署だ。


「魔導師級の者はほとんどおりません」


 一応はいるのか。

 とすると、第2班に振り分けられる条件がよく分からないな。


「……………」


 ふとした思いつきが俺の頭の片隅に湧き上がった。

 それが嫌な予感とともに這い上がってくる。

 完全にトラブルの匂いしかしない。


「この国の貴族って割とまともだと聞いていたんだがな」


「申し訳ありません」


 総長は俺が何を言いたいのか悟ったのだろう。

 真っ先に謝ってきた。

 別に謝る必要はないと思うがな。


「彼らは継承権の順位が低い者たちばかりなのです。

 そのため実家での教育がなおざりにされていた者が多く……」


 総長が言い淀む。

 形だけ礼儀作法を教えて終わりってことなのだろう。

 貴族としての矜持なんかは期待できないな。

 そのあたりを履き違えた権力的思考の集団と考えてほぼ間違いなさそうだ。


「貴族の家に生まれたということで甘やかされて育った者も多い、か?」


 多いというかほとんどだろう。


「はい」


「なんで、そんな連中を抱え込むんだ?」


 そこが疑問なんだよな。

 短絡的に考えるなら、さっさと放り出せばいいものをと思ってしまうところだ。

 が、それなりに理由があるから役に立たなさそうな連中を抱え込んでいるはずである。


「救済措置が半分でしょうか」


 その言葉だけで何となく読めてしまった。

 が、正解とは限らないので大人しく続きを聞くとしよう。

 大方の想像はついてしまうけど。

 たぶん大きくは外していないだろう。

 さて、どんな話が聞けるやら。


読んでくれてありがとう。

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