262 紙とペンが王族を倒す?
修正しました。
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「「は?」」
オッサンとジジイがハモるってのは美しくない絵面だよな。
それも間抜け顔をさらしながらだと余計にそう感じる。
しかも、この場にいるのは男4人だけだから更に美しくないと思ってしまう。
4人の面子の内訳だが間抜け面組2名にガンフォールと俺である。
何をしているかというと会食だ。
朝食ついでにゲールウエザー王と宰相から話をしようと持ちかけられてね。
面子がむさ苦しいのは大事な話をするからということで人払いをした結果である。
お陰で給仕をするメイドも退出させられている。
俺としては「朝からオッサンに囲まれて飯を食うとか拷問だろ」と思う次第。
他の面子は別室で食べてますよ。
【天眼・遠見】を使って確認すると、それはもう和気藹々と。
こちらのお通夜に近い黙々とした雰囲気とは大違いである。
色々と内密の話をしながらということなので仕方ないんだけどね。
飢饉が予想されている現地へ向かう面子と日程についてとかも話したしな。
王と宰相が来るんだと。
即座にアンタら仕事はどうするんだよというツッコミを入れたさ。
輸送機使っても地域の町や村をすべて回るなんて1日で終わるわけないんだ。
その間の政務をほったらかしにするのかって話だな。
そしたら王太子に留守を任せるんだと。
補佐は宰相の息子だそうで。
将来のため若手に仕事を体験させて鍛えるとか言ってた。
インターンシップみたいなものかよと思ったが俺は気付いていた。
コイツら輸送機に乗りたいだけだとな。
帰ってきた時に仕事が山積していないといいねとしか言えないな。
いや、実際にはそんなこと言わんけど。
俺には関係のない話だし。
とにかく、その話がまとまったところで俺から提案をした。
提案というか押し付けだ。
その結果として王と宰相が間の抜けた顔になったのである。
で、俺が何を言ったかというと「バーグラー王国な、潰したんであげるよ」だ。
絵に描いたようなポカーン顔ですよ。
たっぷり数十秒はそのままだった。
頭の中が真っ白になったのか。
それともあれこれと考えていたのか。
その辺は俺には分からない。
ただ、呆気にとられた後は混乱していたみたいだ。
なに言ってんだコイツ状態にすらなれなかったからな。
「いやいやいやいやいや、おかしいだろう!」
早口で捲し立ててきたのは国王であるクラウドだった。
アンタは大国の王だろうが。
少しは落ち着けよ。
「一晩で国を滅ぼすとかあり得ん」
ああ、そういうことか。
「なんで一晩なんだよ。
そんな訳ないだろ」
実際はそんな訳あるのだが、真実を話しても上手くいかないことがあるからな。
刺激は少ない方がいい。
相手に過剰反応されても困る。
「色々仕込みはしてあったのさ。
仕掛けてからは一気に終わらせたがな」
故に事前に打ち合わせておいた設定を披露した。
前々から入念に準備しており、少数精鋭で内部から崩壊させる手はずだったとね。
「そんなことが……」
宰相が溜め息をついた。
「あの国は防衛を巨人兵に頼り過ぎだったんだよ。
監視の目もユルユルになっていたし潜入させるのは楽だったぞ」
宰相が天井を仰ぎ見た。
盲点を突かれたと言わんばかりだ。
もうちょっと態度とか表情を隠せよ。
そう思ったんだが、ガンフォールがいるから腹を割って話している可能性があるな。
少しでも信用を失うわけにはいかないと。
過去にガンフォールを怒らせた商人のせいで過敏に反応している気はするが。
そもそも自分の国の商人じゃないだろう。
そういう誠実な姿勢はガンフォールも認めているから必要以上にビクビクすることもないと思うぞ。
俺も嫌いじゃない。
「我々は思い込みのせいで見えるものが見えなくなっていたようだな」
「まったく、そのような手があるとは思いつかなかった」
実際にそれをやって成功するかは責任持てないがね。
俺が話しているのは、あくまで設定だから。
「外から見る以上に国力が低い国だったな。
内側から要所を潰せば簡単に崩壊したから」
一応これは事実だ。
他の国も上手くやれば短期間でバーグラー王国を沈めることはできただろう。
うちみたいに一晩でとはいかないだろうけど。
「「……………」」
両名ともに言葉もないようで。
「ああ、報告によると王城だけは派手に潰したようだ」
「なんと!?」
なんか、この国の王はリアクションがいいよな。
芸人レベルとは言わないけどさ。
もうちょっと腰を落ち着けようぜ?
「いや、どうやって報告を受けられたのか?」
もっともな疑問を抱く宰相ダニエル。
「そう言えばそうだ」
おいおい、クラウドさんよ。
そんなこと宰相でなくたって気付く話だぞ。
「通信用の魔道具があるのさ。
言葉だけだがリアルタイムで報告が受けられる」
「おおっ」
「そのようなものが……」
王は素直に感心し、宰相のダニエルは感心しつつも考え込む素振りを見せた。
食いつき方が違うけど興味津々なのは同じだ。
が、今この2人にケータイは渡さない。
現地視察をした後で判断しようと考えているからな。
状況次第で引き上げる可能性もあるし。
「それより、あの泥棒王国の王族と貴族は引き渡すから処分とか任せるわ」
「その者たちの身柄は必要ないと?」
ダニエルはこちらの真意を探るような目を向けてきている。
「うちの国民に手を出そうとしたアホは始末したからな。
残りのクズは迷惑を被っている周辺国に引き渡すつもりだったし」
「なぜ我が国に?」
そんなことを聞いてくるということは何か要求してくると考えているのかもな。
そりゃそうか。
飢饉の支援もすると言っているし。
俺が損することはあっても得はない状態にしか見えないだろうからな。
「被害国でかつガンフォールの伝があるからだ」
返事も質問もない。
先を促されているということか。
「俺の所はルボンダとかいう腐れ野郎を始末できれば後は無関係だからな」
バカ王子は間接的に関係があったが、奴は向こうの国民に任せるつもりだし。
「他の連中はオマケでしかないんだよ。
あの野郎が国の中枢まで入り込んでなければ結果は違ったろうな。
正直なとこ、潰したはいいが国を管理運営するつもりはないし」
「それは面倒だから我が国で処分しろと言っているように聞こえるのだが」
さすがは宰相をしているだけはあるね、ダニエル爺さん。
「まさにその通りだな」
ゲールウエザー組が苦笑している。
俺が即答で肯定してくるとは思わなかったんだろうな。
「クズと思われる奴は全部始末したから手間はかからんと思う」
「全部って……」
「光魔法を使えば悪党は判別できるからな」
「そうだとしても無茶苦茶だ。
信じろという方がどうかしている」
「うちの精鋭ならそれくらいは普通なんだが」
疑わしげな視線が約2名分。
「試しに巨人兵とも戦わせたぞ」
「「なっ!?」」
「残骸も囚人共と一緒に運ばせてるから見てみるか」
「ざ、残骸?」
言葉の意味がよく分からないといった感じでクラウドが聞いてくる。
「破壊したからな」
「「っ!!」」
これでもかってくらい目を開ききっている両名。
雑魚だとか言っても信じないだろうな。
「残骸、見るよな」
俺の問いかけに王も宰相も凄い勢いでコクコク頷いている。
「まあ、残骸見ても信じないって言うならそれは勝手だが」
「……魔道具に精通した者に確認させよう」
「それなら丸々1体分を渡そう」
「なんと!?」
「それは誠に?」
席から腰を浮かせてますよ、お二人さん。
そこまで驚くようなことだろうか?
「別に破壊したのは1体だけじゃないし。
あの国を管理する手間を考えれば対価と言うには安いくらいだろ」
「いやいやいやいやいや、その考えはおかしい」
王の発言を宰相が頷いて肯定する。
「そうか?」
どうやら魔道具に対する価値観に大きな隔たりがあるようだ。
「巨人兵は修復不可能という報告を受けているんだが?」
こう言えば少しは落ち着くかと思ったのだが、結果は逆だった。
何か声もなく驚いてるんだよね。
「……魔道具職人を同行させていたのですかな」
何とか落ち着いたダニエルが聞いてくる。
「うちの精鋭ならそれくらい普通にできるが?」
返答は唖然呆然とした空気で返された。
「組み上げてみたけど動かないんだとよ。
どうも命令を受け付ける部分が弱点だったみたいでな。
その部分が欠片も残さず破壊されているせいで石像にしかならんらしい」
もちろん設定上の話である。
実際には俺が細工した結果なんだが。
「周辺国との政治的なあれこれに対する報酬としちゃ安すぎるだろ」
返事はなかった。
肯定されたというよりは、呆れて何も言えないといった感じである。
「まあ、面倒事を丸投げする分は飢饉対策の方でチャラだと思ってくれ」
ゲールウエザー王国の負担を考えると、それでも釣り合うかどうか怪しいところだが。
「ついでと言っちゃ何だがオマケもつけよう」
召喚魔法風に見せて倉庫から輸出用の紙とペンを引っ張り出す。
「そいつはサンプルだ」
紙はザラ紙と普通紙を用意。
ミズホ紙は見合わせた。
ドワーフたちが管理しにくいと言っていたのでね。
「この棒は?」
クラウドがガラスペンを手に取って首を捻っている。
「綺麗な色をしているが魔法の杖でもなさそうだ」
「そいつはガラスペン。
羽根ペンのような使い方をする。
衝撃には弱いが摩耗しないのが特長だ」
インクも出して字を書いてみろと促してみた。
「ほう、これは……」
クラウドが一心不乱に書き味を楽しんでいる。
大国の王が子供のような笑顔になっているのはどうかと思うよ。
そして、それを羨ましそうに見ている宰相ダニエル。
いい年した爺が「待て!」を命令された犬のように見えてしまうんだが。
ポンプの時といい、コイツら本当に王族かよと思ってしまう。
「そっちのサインペンはインクが封入されている」
「なんと……」
「キャップを外せばすぐに書けるが、使い捨てになる」
ダニエルがサインペンを手に取って紙の上を滑らせ始めた。
「おおっ、本当だ。
インクをつけずに字が書ける。
しかも滑らかで引っ掛からん」
その紙はザラ紙だから、サインペンだと言うほど滑らかでもないと思うんだが。
ああ、でもこの国で使われている高級紙よりはマシなのか。
ちょっと大袈裟じゃないかと思ったが、そうでもなかったんだな。
「その紙はコスト重視の低品質紙だ。
うちではザラ紙と呼んでいる安物だぞ」
オッサンコンビが顔を上げて怪訝な表情を向けてきた。
まさに「なに言ってんだコイツ」状態。
それ故、販売価格を言ったら2人して倒れた。
比喩ではなく椅子ごと倒れていたよ。
今度こそ大袈裟だと俺は思ったさ。
「なあ、そんなに驚くことか?」
ガンフォールに話を振ってみた。
前に紙とペンを披露した時の反応が目の前の2人よりは大人しかったからな。
同意が得られるものと思っていたんだが。
「ワシの時はハルトの非常識さを身に沁みて知った後じゃったからな」
非常識って……
たかが紙とペンで酷い言われようだ。
状況的には否定しようがないのだけれど。
ペンは剣よりも強しなんて言うが、こんな形もあるとは思わなかったよ。
読んでくれてありがとう。




