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260 シャレにならない事実

 死んだ人間の魂に肉体を与え国民にするというのは突拍子もない発想だったか。

 死者の霊魂をどうこうするというのはスケールがデカいような気がする。

 こういうのは神様のシステムで管理してそうだしな。

 それを考えると亜神がどうこうしていい範囲は超えているんじゃなかろうか。

 一部の例外があるとしても権限が与えられるとは思えない。

 管理神ならそういうことをしても違和感を感じないがね。

 あ、もしかして管理神になった時の練習か?

 練習もなくいきなり本番は怖いもんな。

 例えるなら自動車教習所みたいな感じ?

 仮免許を持たせて路上教習をすると考えれば……

 うわー、ありそうで嫌だ。

 絶対にないと言い切れないのが嫌すぎる。

 ふと思ったんだが、死んだ当人が異世界転生を熱望する場合は例外で許可されるとかないよね?

 亜神が管理神に昇格するための修行の一環として許可されるなんて話があったらと考えてしまったのだ。

 実に笑えない話である。

 それこそ自動車教習所の路上教習みたいなものじゃないか。

 その修行の機会を増やすために巷に異世界ものの作品が出ていたりしないだろうな。

 作品のいくつかは実話だけど、それを伏せて作品になってるとか。

 作者は実習で頑張っている亜神でしたとか。

 そういやラソル様と初対面の時に俺のコレクションをすぐに発見されたし。

 もしかしたらラソル様も作者の一人じゃないだろうな。


「……………」


 今となっては無いと言い切れないのが怖いところだ。

 そうやって考えると異世界転生や転移の描写があっさりした作品ばかりなのが気になってくる。

 もし、あれが計算だとしたら。

 異世界に行くことに恐怖を抱かれないようにという配慮がされていたのであるなら。

 考えすぎなんだろうけど、納得できそうな気もしてくるんだよな。

 事実、俺自身が異世界に来ることになったし。

 俺の場合は特殊事例だけど。

 神様も実際にいたし。

 ていうか親子になってしまったし。

 いや、それはどうでもいい。

 問題は俺みたいに異世界に来る者がいるかどうかだ。

 こっちの世界の魂に肉体を与えるより一部の日本人なら説明が楽だろうし。

 逆に疑り深く条件を確認する人が大半だろうけどな。

 進化した種族で異世界ライフ?

 俺が最強なら考えてもいいけど。

 可愛い女の子もたくさん?

 俺がリア充になれる保証があってのことだよな。

 魔法も使える?

 修行が超大変とか言わないよね。

 こんな具合になりそうである。

 そう考えると、魂からスカウトするのはなさそうだ。

 凄く嫌な予感は継続しているんだけど。

 他の使い道となると強い魔物を進化させて経験値の肥やしにするとか。

 そんな風に考えている俺に対してルディア様の答えは衝撃的だった。


「兄者はあの魔力をジェダイト王国でも使ったのだ」


 あっさりと俺の予想は覆された訳だ。

 それも斜め上を飛び越えるような形で。


「なんですとぉ────────っ!?」


 思わず絶叫。

 ルディア様以外の全員がビクッとなった。

 全員に俺とルディア様の会話が届く状態だからな。

 話の内容が理解できない者も多いだろうけど、すべて聞かせることにしている。

 オンオフを繰り返してちゃ不信感を持たれかねないからね。

 故に自制は必要なんだよ。

 特に千人組はビクビク状態が酷かったし。

 それでも叫ばずにはいられなかった。

 この事実はそうするに値しないか?

 他の誰もが否と言おうと俺にとっては値する。

 ジェダイト王国であの魔力が使われたのは、それほど衝撃的だった。

 マジでシャレにならんっつーの。

 千人どころの話じゃないだろうがっ!

 いかん、キレそうだ。


「…………………………」


 まずは落ち着け、俺。

 頭に血が上ったままじゃ殺気を振りまきかねない。

 これ以上、皆をビビらせるわけにはいかん。


「……………」


 殺気を封じるのに苦労しない程度まで怒りを少しずつ流していく。

 完全に怒りを静めるところまでは求めない。

 とてもじゃないが時間がかかりすぎる。

 今夜はカリカリしてばかりだったからな。


「……」


 これくらいか。

 イライラは残っているが、普通の判断はできそうだ。

 それにしても無茶をしてくれたものだ。

 確かに予想を上回ってくれたよ。

 ジェダイト王国は小国とはいえ数千人以上はいたはずだぞ。

 なに考えてんだ、あのダメ亜神は。

 俺がこの世界でドワーフを真っ先にスカウトしようとしたのを見て、やらかしたのか。

 にしたって規模が違いすぎるだろう。

 そんなことを考えていたら、更に斜め上の行動計画があったみたいで。


「リーフバルト大森林にも手出しするつもりだったようだぞ」


 などというルディア様のお言葉ですよ。

 神の欠片にまでちょっかいかけようとしたのか?


「それは確証があるのでしょうか」


 想像の範囲での話ならルディア様の話であっても、それについて考えるのは保留する。

 すでに許容限度が近づいているからな。

 これ以上、無駄な心配をして気疲れさせられるのはゴメンである。

 ラソル様としちゃ、それを見て楽しみたいのだろうけど。


「投降しろとメールしたら、ほぼ終わったと思われるタイミングでレスがあってな」


「レスの中にそれを匂わせる文面があったということですね」


「うむ。魔力が少し余ったから使ってみたが弾かれたと」


 失敗したとはいえ実行済みかよ。


「……あそこは近寄るなとエリーゼ様に言われてるんですが」


 ベリルママの上司である管理神に禁止されている所に近づくとか無茶をする。

 何がしたいんだ、一体。


「ダメと言われれば余計に行きたくなる。

 それが兄者だというのはハルトも知っておるだろう」


「完全に子供の行動原理ですよね」


 いい年した大人のはずなのに。

 ルディア様がいるので、そこまでは言わなかったが。

 双子だから迂闊に指摘するわけにはいかないのだ。

 女性に対して年齢の問題はデリケートだもんな。

 それでも俺の中では大人の姿をした子供というのは確定事項だ。

 小学生どころか幼稚園児だろ……


「それは今更の評価だな」


 ルディア様が溜め息を漏らしながら呆れていた。

 知り尽くしているだけに怒る気力も湧かないのかもね。


「とにかく、大森林で失敗したのが納得できなかったようでな」


 嫌な予感が急速に増大していく。

 弾かれたってことは魔力が残っているってことだもんな。

 何処か別の所で使おうとしても不思議はない訳で。


「海エルフの集落にも手を出そうとしておった」


「ああああの野郎ぉ──────────っ!」


 再びの絶叫。

 またしても皆ビクッと反応した。

 今度の方が過敏かな。

 ギリギリ殺気は抑え込めたけど。

 申し訳ないとは思うのだが、不可抗力だ。

 面識のない相手にまで手を出すつもりだったのかと思うと、ついね。

 プチッと来ない方がおかしい。

 俺の都合どころか相手の都合まで完全無視か。

 他の種族と交流を持ちたがらない海エルフをうちの国民にしようって時点で冗談キツい。

 レオーネは例外中の例外である。

 スカウトしても素っ気なく断られるのがオチだ。

 強制的に連れて行こうとしたら間違いなく揉める。

 レオーネがいるから仲介役にしてとか適当なことを考えたんじゃないだろうな。

 俺にはその交渉が決裂する場面しか想像できないんだが。


「落ち着け、安心しろ。

 そこは先回りして阻止した」


 ルディア様もなかなかやる。

 お陰で怒りを静めるのには労せずに済んだ。


「よく分かりましたね」


「ほとんど勘だ」


 ちょっと意外。

 そういうのに頼るタイプに見えないもんね。


「希に兄者のしそうなことがなんとなく分かることがある。

 何の根拠もなく思い浮かぶので自分でも不思議なのだがな」


「それって双子だからじゃないですか」


「私もそう思ったことはある。

 だが、頻度が少なすぎてな」


 確信するに至らないのか。

 そう言われると俺の説など確証がないから絶対などとは言えないし。

 ただ、なんとなく思ったことがあるんだよ。

 本当にヤバい時だけ勘が働くんじゃないかってな。

 ラソル様も本能的に不安を感じるような時だけ伝わっているとか。

 もしかすると瞬間的に念話のような状態になっているのかも。

 無意識でだから本人に自覚はない訳で。

 受ける側のルディア様も勘だと錯覚しているのだとしたら。

 もちろん、これは俺の妄想じみた推測だから正解である保証はない。

 ないのだけれど、もしそうであるなら怖いことがある。

 計算ずくで動いているラソル様が読み切らずに動くことがあるということだ。

 ノリで行動を決定しているのだとしたらヤバいよな。

 ルディア様に阻止される形になっているようだから助かってはいるけれども。


「できれば毎回そういう勘が働いてほしいものだ」


 俺の推測通りなら無理だ。

 そして勘が働かない方が平和で安心できる。


「贅沢な望みであるというのは分かってはいるのだがな」


 どうやらルディア様は、そこまでは考えたことがないようだ。

 もしくは俺を不安がらせないよう、あえて考えさせないように振る舞っているか。


「それと先回りできたにもかかわらず捕まえることができなかった」


「状況が分かりませんのでコメントのしようがありません」


 先回りのタイミングがギリギリだったとか。

 向こうに警戒されていたとか。

 色々と捕縛が困難な状況だったのかもしれないし。


「阻止で目一杯だった、すまぬ」


「いえ、最悪のケースを免れたと思えば贅沢も言えないでしょう」


 二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。


「……やはり面倒なことになっていたと思うか」


「どうでしょうか?

 そういう恐れがあったとは感じましたが」


「うむ」


 ルディア様がなにやら考え込むような感じで頷いていた。

 それについては触れない方が良さそうだ。

 やぶ蛇になっても嫌だし、話題を変えて逃げるとしよう。

 というか進化させてしまったドワーフたちのことを心配しないのはダメだろう。


「ジェダイト王国で魔力が使われた件ですが」


「そうだな、それが一番の問題だ」


「まさか全員ということはないですよね」


 この質問にあまり意味はない。

 確かに一部にとどまるなら人数は絞り込まれるさ。

 が、そうなると進化させる相手は俺と面識のある者ってことになる。

 それってあの国の主要な面子じゃないかよ。

 宴会の時にいた王族とその側近が大半だ。

 後はガブロー王子に紹介してもらった工房の親方や職人たちか。

 そういう面々に抜けられたら政治と仕事が骨抜きだ。

 どう考えても国がガタガタになるだろう。

 俺が進化した者だけ誘っても来るわけがない。

 てことは進化していない民衆も全員俺が面倒見なきゃならんってことになる。

 一部だろうが全部だろうが全国民を連れて行く必要がある訳だ。

 故に結果だけを見れば質問したことに意味がなくなってしまう。

 だが、俺の心理的負担は違ってくるんだよね。

 上位種しかいない国とか他所に知られたらと思うと胃が痛くなりそうだ。

 ドワーフの友好国ならともかく他はな。

 ゲールウエザー王国も例外ではない。

 気軽に西方へ来られなくなる可能性だってあるのだ。

 鬱陶しい輩に張り付かれたりしたんじゃ堪らんからな。

 相手の対応次第で撃退はするけどさ。

 攻撃的な相手はまだいい。

 ぶっ飛ばすだけだから。

 粘着されるのがね、鬱陶しいでは済まなくなりそうで嫌なんだ。

 噂から金の匂いを嗅ぎつけるような輩も出てくるだろうしな。

 そしてルディア様の返事はそれを心配しなければならないものであった。


「そのまさかだ」


 ルディア様も渋い顔をして肯定してくる。

 俺が懸念していることと同じようなことを考えているからだろう。

 嫌な予感ほど当たるものだからな。

 今回ばかりは外れてくれと願わずにはいられない。

 いや、それよりもまずはガンフォールに謝らないとダメだ。


読んでくれてありがとう。

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