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259 予想を上回るイタズラ

 俺が適当なことを言ったせいで失神する者が多数出た。

 ルディア様が降臨してきただけなんだけど。

 やっぱりプレッシャーは念話の時とは比べ物にならないらしい。

 俺が最初から平気だったのは神の欠片の影響を受けていたからなんだろう。

 元は神様だったんだし、そのせいで慣れてしまった訳だ。

 最初から慣れた状態とはズルいなんてもんじゃない。

 お陰で失神者がでることを想定できなかった。

 多分これくらいなら失神するという情報は得られたから次の機会があればかなりの精度で予測できる自信はある。

 ただ、彼らの状態を本当の意味で理解できる日は来ないだろう。

 どういう心理状態になるとかは自分でも気付かぬうちに慣れてしまった人間に分かるはずもない。

 すでに慣れた以上はゲームのように初期化なんてできないし。

 いずれにせよ神の欠片がない状態で初対面を迎えていたら俺も土下座コースだったんだろうなぁ。

 レベル低かったし。

 そう考えると、千人組に親近感のようなものが湧き上がってくる。

 まだまともに話もしていないっていうのにね。

 奴隷じゃないから確かめろって言ったきりだよ。

 不思議なものだ。

 なんにせよ魔法で気付けをしてバフをかけた。

 バフなしでも今の経験があれば耐性がつくかとは思ったんだけどね。

 話を続けるにあたって畏縮したままでは困るので今回はバフった。

 それでも土下座は続行中。

 エリスやクリスの姉妹もだから相当だな。

 ガンフォールはかろうじて面を上げることができたけど。

 シヅカの真の姿を見た経験があるからかな。

 いずれにしても己の見積もりの甘さがこの事態を招いたのは明らか。

 実に情けない。


「すいません。

 念話で状況を説明して慣れさせた方が良かったですね」


 結果として見れば、俺が言ったような同じ状態とは言い難い。

 念話だけの状態と直に出てくるのが同じだと読み違えた俺の責任は大きいよな。


「いや、ああなることを読み切れなかった私に問題がある」


 なんだかお互いに非があると主張する展開になりそうな気配。

 このままだと話が停滞するのは目に見えている。


「それについては次回以降の反省点ということにしておきましょう」


「……そうだな」


 ルディア様もそこに気付かれたようだ。


「では本題に入りましょうか」


「うむ」


「まずはラソル様ですが、どうでしたか」


 捕まったか聞かないのは俺なりの配慮である。

 まだ捕まっていない気がしたんだよね。


「それについてだが、ハルトに詫びねばならぬ」


 捕まってないんだなと思ったのだが、それにしては妙な雰囲気だ。

 ルディア様がなんとも気まずそうにして俺に頭を下げた。


「すまぬ」


 ピシッとした感じで武人の謝罪って感じだ。

 ルディア様らしいと思うよ。

 でも、気になるのはそこじゃない。

 なぜ謝られるかだ。


「いえ、謝っていただく理由に心当たりがないのですが」


 何か他にも良くない話があるようだということだけは分かる。


「どういうことでしょうか?」


 まずは何故にルディア様が謝罪することになったのかを確認しないとな。


「兄者は我々の予想を上回ることをしてくれた」


 なんかシャレにならなさそうなことを耳にしてしまった気がするんですが。

 何やらかしたんだ、あのダメ亜神。

 予想以上の何かをしでかしたらしいとしか判明していないが。

 かすめ取っていった魔力で何かやらかしたと考えるのが順当なんだろう。

 その使い方が予想以上なのか。

 それとも他のことで何かとんでもないことをやらかしたのか。

 俺の予想は前者なんだが。

 ただ、うちの国で使われて妖精組が上位種になる展開しか読んでいなかった。

 これでは普通すぎて予想以上とは言えない。

 何したんだ、一体?


「例の魔力だがな」


 そこで一呼吸置かれた。

 すんごく思わせぶりなんですが?

 聞く前から勘弁してほしいと思ってしまう。

 例の魔力ってベリルママと俺のを混ぜた奴のことだもんな。

 俺の予想以上の使い方をしたとなると碌な使われ方していないぞ。

 神の欠片の影響を少しでも減らすために使ったというのなら評価できるんだが。

 誰かさんが、そんな真面目に仕事をするとは思えない。

 さぼって全力投球でイタズラするのが生きがいなんだぜ。

 危機的状況とかなら話は別なんだろうけど。

 でなきゃ筆頭亜神の看板は返上させられているだろう。

 少なくとも魔神討伐の時みたいな状況ではない。

 あれは亜神や仙人が総出で戦うことになったみたいだし、間違いなく危機的状況だろう。

 人間じゃ手に負えない激戦で異世界に超ヤバい魔物が逃げ出すくらいだもんな。

 俺がこの世界に来る前の話だからダイジェスト的に説明を受けただけなんで詳細は知らないが。

 説明を聞いただけでもヤバいと思ったし。

 後で貰った討伐の戦利品も凄かった。

 まあ、ああいうのは例外だ。

 とにかくラソル様は仕事をサボって遊ぶのが好きなんだよな。

 その情報だけで考えると営業で動き回っている途中にサボるサラリーマンって感じか。

 亜神の位置づけは正社員とは違うみたいだけど。

 いずれにせよ実際のラソル様のイメージはもっと幼い。

 見た目は若手イケメン俳優って感じだけどな。

 例えとして適切かは分からないが、俺には夏休みに遊び倒す小学生のように思えてならない。

 もちろん宿題は放置だ。

 夏休み最後の日にヒーヒー言いながら宿題に追われる姿まで想像できてしまう。

 問題は宿題に相当する仕事が個別に割り当てられたものではないということ。

 ラソル様がサボれば、他の亜神や仙人にしわ寄せが行く。

 その分、後でお仕置きされることは織り込み済みというのが呆れるよな。

 埋め合わせもするみたいだし。

 でなきゃ単なる嫌われ者で終わってる。

 俺なんかは帳尻合わせで奔走するとか何考えてんだと首を捻ってしまうんだが。

 そんなことするくらいなら、サボらず仕事しろと言いたい。

 話を聞く限りでは帳尻合わせの方が仕事量が多いみたいだし。

 それを要領よく片付ける能力があるのに真面目にやらないのだ。

 本当にふざけた性格をしている。

 果たして今回は何をしでかしたのやら。


「一部はミズホ国で使われた」


 ……一部ね。

 まあ、うちで使われたのは予想の範疇なんだけど。

 全部じゃないってのが問題だ。


「うちの子たちですよね。

 それは覚悟してましたから大丈夫です。

 そこで全部使い切って欲しかったとは思いますが」


 残りは何処でどう使ったのやら。


「すまぬ、止められなかった。

 気付いた時には使い切った後だったのだ」


「いえ」


 ルディア様が詫びることじゃない。


「よもや、あちこちで使うとは思わなんだ」


 言葉がない。

 あちこちって何だ。

 とてつもなく嫌な予感しかしないぞ。


「ハルトが連れて来た千人からの元奴隷たちに使われておる」


 あちこちって、そういうことか!?

 ということは俺が彼らを回収する前に進化させていたってことになる。

 かすめ取ってすぐに使ったのか。

 真っ先に妖精組に対して使うのかと思ったら……

 やることが予想外すぎる。


「マジっすか」


 即座に拡張現実に反映させて確かめていきましたよ。


「うわ、マジだ……」


 ヒューマンはヒューマン+になっていた。

 他にもラミーナ+やドワーフ+がいる。

 彼らは皆、行く場所がないというのが不幸中の幸いだ。

 それと俺が都合が良すぎる考えとして望んだことなのでショックも少ない。

 お陰であまりラソル様を責められないのが癪ではあるが。


「しかも進化のための術式を遅発式にしておった。

 密かにその術式を仕込んで倉の中で進化するようにしていたようだ」


 しかも巧妙ときている。

 俺が彼らを倉に回収する時に鑑定しても気付かないように細工してたわけだ。

 深く見ていれば術式に気付いたかも知れないが。

 そこまではしないという確信があったのだろうな。

 事実、急いでいたから確認したのは危険な状態かどうかだけだった。

 進化のための術式は危害が加えられる類いのものとは正反対だから引っ掛からんよなぁ。

 完全にしてやられた。

 回収前と倉から出した時の千人組の見た目の差も気にしてなかったし。

 ルディア様に言われるまで彼らが進化していることに気付かなかったくらいだもんな。

 外に出した時点で気付いていたら俺の中にある苛立ちが半分くらいで収まっていたかもしれない。

 仕組んだ張本人からすれば、これ以上ない成功だもんな。

 途中で発見して部分的失敗に持ち込めていたなら俺も少しは……

 いや、いずれにしても状況の予測が甘かったのだから完敗だ。


「他の元奴隷はどうでしたか」


 気になるのは、やはりそこである。

 各地に分散しているから進化していると厄介だ。

 バラバラに散った相手を瞬時に確認するなんてできないし。

 各々を追跡調査とかしている時間はもうないぞ。


「安心するがいい。

 さすがにそこまではしていない」


 少し安堵したけど喜べない。

 どれだけ自分の能力をイタズラに使っているのだろうと呆れたからな。


「だが、その懸念はよく分かる。

 それで終わるような兄者ではないからな」


「ですよねー」


 などと返事をしつつも「マジかよ、勘弁してくれ」というのが俺の心の中にある本音であった。

 ラソル様らしいと言えばらしいんだけどね。

 だからこそ何をしでかしたのかと不安になるんだけど。


「むしろ、その次が本番だったのだ」


 その言葉を聞いた瞬間に頭を抱えたくなった。

 いや、耳を塞ぎたくなった。

 聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくないぞ!

 でも聞かねば……

 俺が対処しないといけないんだろうし。

 少しだけ安心できる判断材料があった。

 千人組は進化したが帰る場所のあった他の元奴隷は進化していない。

 これは他所の国民は進化させるつもりがないということにならないだろうか。

 都合のいい考え方だが、そこまですると影響が大きすぎる。

 うちの国民でない誰かが進化したことでトラブルに巻き込まれるとかしても迷惑だ。

 俺は面倒見切れないし見るつもりもない。

 ラソル様は全力でイタズラをするが、そこは見極めているはず。

 考えなしに適当なことをしている訳ではないからな。

 逆に考えに考え抜いているはずだ。

 迷惑を掛ける範囲とか規模を超過しないよう配慮しているんだよ。

 妖精組の時もそうだった。

 今回は本当に許容範囲ギリギリの綱渡り状態だけど。

 千人組を俺が引き取ると確定していない状態で進化させたのはやり過ぎだとは思うがね。

 ただ、このフライング進化はメッセージのように思えてならないんだよな。

 逃げずに必ず面倒を見ろっていうプレッシャーを感じるのだよ。

 俺が相手の自由意志を尊重するとか言い出すことまで計算に入れてるだろって話だ。

 そんなこと言ったら何人かはミズホ国には来ない結果になっていたと思う。

 だからこそ千人組を進化させて俺の妨害をしてきているんだ。

 そこまですれば俺が全員を連れて行くと読んでいるのである。

 これは間違いなく向こうが想定したシナリオ内の話だ。

 被害妄想が過ぎると言われそうだが、俺の推測はおそらく正しい。

 それくらいのつもりでないと向こうの想定を予測することは困難だ。

 間違っていたとしても何かに影響するわけではない。

 気にすべきはルディア様が言う本番が何であるかだろう。

 国外の人間に使って進化させるのは非常識すぎる。

 それはないと考えて問題ないだろう。

 ならば死んだ人間の魂を拾ってきて国民にするとかはどうだ?

 幽霊じゃ国民にできないから、あの魔力を使って肉体を強制的に与えるとか。

 さすがに無茶すぎるか。

 死んだ人間が次に何処へ行くことになるのかなんて俺は知らない。

 俺は一度死にかけたけど死んだ訳じゃない。

 生まれ変わりはしたけどな。


読んでくれてありがとう。

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