254 スカウトと謝罪と
修正しました。
納得の → 納得させられる
俺が王と知ったことで驚愕しているレオーネとブルース。
その割に大声を出さなかったのは状況的に助かったと思う。
もうちょっと向こうの騒ぎが落ち着いてくれないと、ね。
とはいえ俺にも都合ってものがある。
待ってられないので強引に話を進めることにした。
「あ、皆に俺が国王だって話もしといてね。
堅苦しいのは無しって説明するのも忘れずにな。
そのあたり話したら全員の意思を確認しておいてくれ」
「えっ、あの……」
「それは……」
困惑している両名が何か言おうとしているが完全スルーだ。
「お前たちに選択する権利がある。
何処で生きていくかも好きに選べばいい。
それが奴隷から解放されたってことなんだぞ」
奴隷ではないのだということを再認識させるために念押しして言っておく。
返事は待たない。
考える時間を与えると変な方向に考えかねないからな。
「あ、うちに来るなら何がしたいのか考えるように言ってくれよ。
今すぐ決めなくてもいいけど、生きていくには目標が必要だからな。
何をするかはとりあえず適当に決めて構わないぞ」
ここまで言い終わると2人とも唖然としていた。
適当という単語にショックを受けたみたい。
今まで命令されるのが当たり前だったからだろうな。
「「はあ……」」
両者共にそう返事するのが精一杯だった。
「もちろん後で変えるのもありだ。
これからは自由に生きていけるのだからな」
「「───っ!?」」
さっきから驚いてばっかだな。
大丈夫かよ、この2人。
「ほら、行った行った。
あんまり悠長にもしてられないんだぞ」
特に理由も告げずに時間がないことを強調して2人を仲間の方へと向かわせた。
吃驚しすぎてボンヤリした感じになってしまったけど、それはしょうがない。
仲間も同じ状態になるだろうけど、それを見て2人だけでも復帰してくれればラッキーだと思っている。
あの両名が引っ張ってくれるだろう。
全員フリーズ状態なら辛抱強く時間を掛けるしかないけどね。
明日の朝までに戻らないといけない面子じゃないから、どうとでもなる。
当面の食料を置いて行けば彼ら自身で将来のことを考えるだろう。
とりあえず彼らはそれでいいとして、だ。
まだ終わりじゃないんだな。
「次はハマーとボルトだ。
話があるから前に来てくれ」
「……………」
おい、なんでお前らまで顔を見合わせて困惑してるんだよ。
呼んだだけじゃないか。
一応は指示に従う意志があるみたいで戸惑いつつも目の前に来てくれるんだけど。
何をさせられるか予測がつかなくてといった所かね。
碌でもないことさせられるとか思っているんだろうなぁ。
いままで散々振り回してきたから無理ないんだけど。
警戒されている時に回りくどくすると面倒なことになりかねない。
故に単刀直入に聞く。
「お前ら、俺の国に来る気ある?」
「「は?」」
あ、固まった。
なに言ってんだコイツの目で見られるくらいは覚悟してたんだがな。
なんか俺の想定していた以上の反応だった。
どうやら刺激が強すぎたようだ。
頭の中が真っ白になったかのようにピクリとも動かない。
そんなに予想外だったかな?
ガンフォールをスカウトしたのは知ってるだろうに。
「スカウトしてるんだよ。
うちの国民になる気はあるか、とな」
繰り返し言われていつまでも惚けているほど、この2人は無能ではない。
すぐに真顔に戻った。
「即決しなくていいから考えておいてくれ」
そう言って次の相手に話を向けようとしたら呼び止められる。
「ハルト、ワシは行くぞ」
勢い込んでハマーが宣言していた。
おや、意外だね。
ハマーは俺のスカウトを断るものだと思ってたんだが。
予想が完全に外れてしまった。
外れたどころか前のめりでミズホ国に来る気満々である。
どういう風の吹き回しなんだろうね。
ハマーからすれば俺なんて無茶苦茶やってるようにしか見えないだろうに。
まあ、俺としては助かるんだけど。
説得する手間は省けたし。
それでもダメな時には進化した事実を隠蔽しなきゃならなかったし。
助かるけど「えっ!?」と声に出そうになったのは内緒である。
さすがに【ポーカーフェイス】スキルの助けを借りるほどではなかったけどね。
それでも危うく困惑させられるところだったのは事実。
ハマーにしては大胆な決断だったからな。
けど、次の言葉で何となく納得した。
「我らの王が行く所がワシの行く所だ」
鼻息荒く宣言するように語るハマー。
こいつは俺が思っていた以上に忠誠心の塊だったようだな。
次の瞬間「ゴスッ!」と音がしてハマーがうずくまっていた。
両手で頭を抱え込んでいる。
「お前には主体性がないのか、馬鹿者が」
ガンフォールが背後から拳骨を落としたわけだ。
周囲の状況を考えて怒鳴りつけることこそしなかったがな。
実に痛そうである。
ドワーフ+に進化してステータスも上がってるからなぁ。
防御側のハマーも同様に上がってるとはいえ、手加減なしだし。
背後からじゃ完全に不意打ちだし。
もっと気を張っていればガンフォールの怒気を感じられたかもしれないけれど。
猪突状態で話に夢中になってたから無理だよな。
「そもそもハルトの国ではハルトが王じゃ。
それを蔑ろにすることを平然と口にする神経が知れぬ。
ワシは先王と呼ばれることも許されぬことを、しかと理解せよ」
呆れた様子で溜め息交じりにハマーを叱っている。
「申し訳ありません」
ふらつきながらも、何とか立ち上がるハマー。
「それでも自分は行きますぞ」
このオッサン……
本当に忠節を尽くす覚悟を持っているんだな。
話に聞いた何処かの戦国武将みたいだ。
「親父殿は自分の目標ですからな」
ああ、そういうことね。
目標っていうのは初耳だけど、思わず納得させられる理由ではある。
それにしても親父殿か……
王になる前のガンフォールはそう呼ばれていたのだろう。
兄貴って感じじゃないのは分かるがな。
親っさんとか呼ぶ奴もいたんじゃないか?
なんかブリーズの冒険者ギルド長と衛兵隊長を思い出すな。
アイツらとはしばらく会ってないし、今度顔を見せるか。
……指名依頼とか出されて面倒なことになる気もするけど。
時間ができたらでいいだろう。
飢饉の対策で当面は無理なんだし。
「いいんじゃないか。
じゃあハマーはうちに来るということで」
即決に近いハマーはともかくボルトには考える時間をと思っていたら──
「自分も行きます」
──である。
こやつも宣言調で力強く言ってきた。
状況は理解しているから大きな声ではないが、有り余る熱意を感じる。
余りすぎて暑苦しいほどだ。
どいつもこいつも脳筋の猪突野郎だぜ。
「分かったから目を血走らせて鼻息を荒げるのはよせ」
状況を知らずに今のお前を見たら、大半の者が変質者だと思うぞ。
幼児が相手なら目一杯泣かれるという確信がある。
夜中にうろついていたら「お巡りさん、こっちです」と言われかねん。
俺の言葉に周囲を確認するボルト。
どんどんお約束のように顔色を悪くしていくね。
かと思ったら、一気に顔を赤らめ俯いてしまった。
生暖かい目と曖昧な苦笑のコンボは羞恥心という名の槍となって心の奥底をえぐってくるよな。
黒歴史級かその一歩手前かもしれんね。
いと憐れなり。
それでも恥ずかしさに負けない情熱があるようで。
顔を上げると真面目な顔で語り出した。
「自分も王のような男になりたいのです」
ボルトの言う王のような男というのは、男の中の男ってことなんだろうね。
いや、漢と言うべきか。
いずれにせよ、少年の憧れって感じがして好感が持てる。
ボルトはとっくに成人しているから青年ではあるんだが。
青年の主張って感じか?
昔、そんなテレビ番組があったような気がしないでもない。
なんにせよ言いたいことは実によく分かる。
ただ、俺としては漢という字を見たり思い出したりすると反応しちゃうんだよ。
分かっていても脱線してしまうというか……
たぶんバイク乗りなら理解してもらえると思うんだけど。
何だそれって思った人には逆に理解不能な話だ。
漢と書いて「おとこ」と読む。
この字を見たバイク乗りは、とある国産メーカーをこよなく愛する人達を思い出すんだ。
技術の某社や芸術の某社などには見向きもしない彼らのことを漢と呼ぶが故に。
何故そう呼ぶのか。
そのメーカーが漢のバイクを作り続けることで名を馳せているからだろうな。
独特の乗り味に加えマイナートラブルが出やすいバイクを世に送り出し続けるメーカーだ。
最近は昔と違ってトラブルが減ってきたみたいだけど。
それでも細かいことを気にするようでは乗り続けられないクセが多々あるのだよ。
押しがけが必要になった時には体力と技術の両方を要求されるし。
他所のメーカーのバイク乗りには変なエンジン音がするとまで言われるし。
でも、格好いいのだ。
乗りにくい? 乗りこなせば最高だろ。
変な音がする? この音がいいんじゃないか。
マイナートラブル? こまめにメンテしてやれば長持ちするぜ。
そう、細かいことは気にしない。
漢だから気にしない。
彼らは男ではなく漢なのである。
……やっぱり脱線してしまったな。
これ以上、語るのは危険領域に突入してしまう。
とにかくボルトの主張は理解した。
それ程の熱意があるなら、うちに来てもやっていけるだろう。
「尊敬されてるな、ガンフォール」
「ふ、ふんっ、ワシは王ではなくなるのだ。
自分のことで手一杯で面倒見切れんわ」
うわー、むさ苦しい髭ダルマのツンデレを見てしまった。
珍しいね。そして面白い。
皆の視線も生暖かいのは気のせいじゃないな。
ガンフォールの沸点に到達する前に話題を変えた方が良さそうだ。
「じゃあボルトも来るってことで」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくな」
これでジェダイト組は決まった。
元戦闘奴隷組の方は、話が始まったばかりって感じだから次の話をしても大丈夫だろう。
千人組の方もまだまだ興奮冷めやらぬ感じだし。
「ではクリス姫とマリア」
「「はい」」
返事はハモったが反応は異なっていた。
小首を傾げるクリス姫は興味深そうな目を向けてくる。
対してマリア女史は不安そうだ。
まあ、俺が出かける前にさんざん脅したからな。
王女と一緒にいたいなら云々と。
「すまない」
言葉だけではなく頭も下げて謝罪する。
「えっと、事情がよく分からないのですが?」
困惑しつつも笑顔を残すって器用なことするな、王女は。
マリア女史なんて「訳が分かりません」と顔に書いたまま固まってるっていうのに。
俺は顔を上げて説明を始めた。
「君らをそのまま国に帰すには色々とマズい状況にしてしまったからな」
「そう……ですか?」
考える仕草をしながら返事をしたクリス王女だが、思い当たる節がないようだ。
ウソだろ!? もう進化した姿に馴染んでるとか言わないよな。
「私どもの姿のことですね」
マリア女史は忘れていなかったようだ。
ていうか、忘れる方が凄いわ。
いいように言えば適応能力が高いってことなんだろうけど。
なんにせよ大物だよな、このお姫さん。
「そうだ、皆も聞いて欲しい」
ジェダイト組、エリス、うちの子たち、そしてもちろん王女とマリアを順に見ていく。
誰もが頷いていた。
話を聞く準備はできているようだ。
読んでくれてありがとう。




