251 派手な仕上げで工事現場を思い出す
妙にやる気になっているな、俺。
直にリクエストされたわけでもないのにさ。
魔法で城をぶっ壊すこと自体は鬱憤晴らしとして決めてたことだけど。
派手な魔法に切り替えるのは予定外だもんな。
妙に期待されているとはいえ、相手はクリス姫だ。
本来ならそこまでサービスしたりはしない相手である。
にもかかわらず、その気になっている。
そしてその事実に違和感を感じない。
「……………」
これはもしかして、アレか。
既に国民として受け入れる気になっているとか?
来ること前提で考えてしまっているから違和感を感じないと。
「…………………………」
すんごくマズい気がするんですが。
あの親バカ王たちがどんな反応をするかと想像すると、な。
なのに自然と受け入れる気になっている。
好みのタイプだとか一目惚れしてしまったからというわけではない。
ストライクゾーンから外れているわけではないけどな。
が、それを言ったら俺の周囲にいる身近な女性は全員ストライクになってしまう。
ノエルは年齢制限で自動的に敬遠球になってしまうが、将来的にはど真ん中になりそうだし。
いま現場にいる女性陣でボール判定の相手はいないもんな。
俺のストライクゾーンが広めなのか皆が美人だからなのかは何とも言い難いがね。
少なくともヒューマン至上主義みたいな連中のように狭い了見は持ち合わせていないつもりだ。
バーグラー王国の貴族連中はそういうのばかりだったみたいだぞ。
四つ耳は人ではないとか言って奴隷にしていたみたいだし。
あ、四つ耳ってのはラミーナに対する差別用語だから普通は使われないよ。
差別するのが当然と考えてる連中は別だけど。
そういう奴らにはラミーナはゴブリンやオークと同じに見えるらしい。
魔物と同じって言うなら奴隷にするのもおかしいだろ。
連中の方便なのは明らかなわけだ。
本気ですべてのラミーナが汚いとか醜いと思っているようなので俺とは相容れない。
そもそも月狼の友の皆は普通に可愛いと思うんだが?
ツン成分が濃いめだったりツッコミ体質だったりと個性的な面々ではあるけど、それが嫌ってことはないし。
ツバキやシヅカも美人だよな。
ああ、それは童顔ではなくなってしまったルーリアもか。
童顔の時の可愛い感じも嫌いじゃないけど、今の彼女もいいよね。
マリア女史やエリスもだな。
年上だけど俺は気にしないし。
ブリーズの街の商人ギルド長、シャーリー・ヨハンソンも俺の基準ではストライクだ。
エリスより年上の三十路だけど……って、あんまり女性の年齢をどうこう言うのは良くないな。
あとは身長とかも気にならないな。
いまのところ俺より明らかに背が高い相手はいないけど。
仮に誰か俺より身長が高くなっても判定が覆ることはないだろう。
あと、うちのケットシーなカーラ嬢もボールではない。
俺は別にケモナーではないんだが、あいつは性格もいいし普通に美人だと思う。
ここまでくると完全に節操なしと言われてしまうだろうけどな。
エルダーヒューマンになったことで感覚が日本人の頃とは大きくズレているのかも。
「……………」
脱線しまくってるな。
クラウド王のことを考えると憂鬱になるからだろう。
娘さんを進化させてしまいましたとか言えるわけがないからな。
何とか頑張って隠す方に持って行きたいところだ。
が、なぜか自然と彼女がミズホシティにいるビジョンが頭に浮かんでしまう。
一種の予感みたいなものか?
嫌な感じはしないんだが当たるという根拠のない自信があるんだよな。
どうやら連れて行くことになりそうだ。
そうなるとマリア女史とセットでということになるな。
場合によっては護衛騎士たちとか他のメイドたちもってことになりかねない。
その上、宮廷魔導師ABも追随しそうな気がする
先のことを考えると憂鬱な気分になるはずなのに、そういう感覚がないのが不思議だ。
クヨクヨ考えてもしょうがないから、思った通りにやるとするか。
まあ、でも他の面々の反応も確認してからだな。
王女が楽しみに待ち望んでいる感を全開にしている一方でマリア女史は困惑中である。
ジェダイト組の反応から何か読み取ったみたい。
けれども王女もいるし自分が口を挟むわけにはいかないというところか。
安全面で問題がありそうだと判断したら、その限りではないとは思うがな。
現状は特に不安を感じてはいないみたいなので反対されることはなさそうだ。
うちの子たちは特に反応を見せていない。
城ひとつ壊すくらいで騒いでいられないというところか。
もしかすると俺が本気で怒っていたら違ったのかもしれないけどね。
でもって元奴隷組だ。
俺が魔法を使うと聞いても大半が「ああ、そうなんだ」的な緩い空気で待機している。
転送魔法とか治癒魔法を既に見せているからな。
無詠唱とかその他諸々で一通り驚いた後は受け入れてたし。
まあ、手足がニョキニョキ生えてくるのはインパクト絶大だったからな。
それに比べれば見せてもいない攻撃魔法は「ふーん」で終わってしまうのだろう。
おそらく想像しているのは攻撃魔法の代名詞とも言える火球あたりだとは思うけど。
いずれにせよ順応性が高くて俺としては助かるがね。
あ、でも倉の中に眠った状態の元奴隷を千人ほど抱え込んでいることは知らんよなぁ。
なんか後でドン引きされそうな気がしてならないんだが……
ちょっと派手目にやって耐性をつけてもらうのはありかもな。
よーし、少し張り切っちゃおうか。
クリス姫の分と合わせて大サービスってことで。
出血はしないけどね。
名目は新国民を歓迎する前祝い、かな?
「さて、それじゃ始めるからな。
魔法で防御壁を構築するから俺より後ろに下がれー」
緩い感じで指示を出したが反応はシャキシャキしていた。
整列とかはしていないんだけど行動が迅速で確実である。
俺が考えているラインから全員が確実に素早く引いていた。
うちの面子やジェダイト組は戦闘訓練を受けているから当然なんだが。
それと元奴隷組もな。
正規の軍隊じゃないから整列とかはしないが、行動自体は的確である。
そんな中で少々意外だったのがクリス姫。
俺が想像していた以上にキビキビ動いていた。
レベルは低いけど、護衛の騎士たちが守りやすいように動く練習とかしてるのかもな。
いざという時に備えているようではある。
まあ、感心して惚けている場合ではない。
気合いを入れて終わらせよう。
まずは理力魔法で見えない壁を作る。
飛んできた破片を通さないよう弾くだけだから薄めにした。
弾くだけなら風魔法の障壁でも良かったんだけどね。
消音効果がついてしまうので却下したのだよ。
音が大幅に絞られたんじゃ迫力不足だろ?
ああ、俺らの外側は風魔法で遮断しておくか。
王都に住む住人が轟音で目を覚まさないようにしないと。
地魔法で振動も防ぐかね。
濃い霧で国中が覆われていても音や振動は王城に近い場所なら伝わるだろうしな。
あ、万が一にも目撃されると面倒だから幻影魔法も使っておこう。
霧が濃いから大丈夫だとは思うんだけどね。
保険は大事です。
「ん?」
俺の背後でどんどん顔色を悪くしている奴がいる。
【天眼】スキルを持っていると後方も見えてしまうんだよな。
文字通り、俺に死角はない訳だ。
そんなことはどうでもいい。
それより具合が悪くなっていく様子を見せているレオーネを気にしないと。
「気分が優れないのか、レオーネ」
振り返らずに聞いてみる。
目を見開いて驚いてるのは見えているが、雰囲気だけでも充分に伝わってくる感じだ。
「あんまりビビらないでくれよ。
俺くらいになると空気の動きだけでもかなりのことが分かるからな」
ウソではない。
意図的に視覚情報を遮断しても、それくらいは把握できるからな。
ただ、それを用いて確認したわけではないことを伏せているだけだ。
「申し訳ありません」
「別に謝ることはないぞ。
具合が悪いなら治癒魔法を使おうと思って聞いてみただけだからな」
「いえ、大丈夫です」
それは感覚的に俺も理解している。
話を繋げるための前置きだ。
「俺が複数の魔法を制御しているのが気になるようだな」
返事はない。
が、さっと緊張した表情に変わったところを見ると、答えは肯定だろう。
さすがは魔法に長けた種族から進化しただけはある。
「気にするな」
そう言われて「はい、そうですか」と返せるほど図太くはないよな。
だったら、ホイホイ魔法を使う俺を見て青い顔をしたりもしないって。
「これくらいは序の口だからな」
「なっ!?」
ここはショック療法で行く。
驚いている間に畳み掛けるまでよ。
さあ、レッツ攻撃魔法!
見た目も派手なオープン・ザ・トレジャリーを使いましたよ。
なんか格好つけて「疾く失せるがよい!」とか某金ピカさん風の台詞つきでね。
【魔導の神髄】の熟練度が上がったことで範囲も広くなるんだが、そこは控えておいた。
ここの城ひとつ潰すには過剰な広さをカバーするのでね。
そのかわり倉庫内で死蔵している武器の中から見た目の派手そうなのを選んでみた。
見るものに与える心理的影響まで考慮し……
何処かで聞いたような台詞が頭の中でリフレイン。
なんて暖気なことを考えている間も魔法は止まらない。
見た目の派手な剣や槍や斧なんかが雨あられと降り注ぐ。
皆が耳を塞ぐほどの「ドガガガガガガガガガガ────────ッ!」という轟音。
城壁が城が形を失っていく音だ。
この音を聞くと工事現場の削岩機なんかを思い出す。
あれよりもっと凄い音になってるけどね。
少しくらいは音を遮断しても良かったかも。
今更なので、このままで行くけどさ。
そして伝わってくるのは音だけではない。
明確にそれと分かる振動もそれなりのものだった。
「うーん、もっと威力を上げれば擬似的に地震も起こせそうだ」
もちろん、やるつもりはない。
そこら辺は自粛してますよ。
「バカ言わないでよっ!」
「せやっ、はよ終わらせてんかっ!」
レイナとアニスが側頭部に手を当てたままで怒鳴りながら抗議してくる。
普通なら轟音にかき消されて聞こえないんだけど【聴力補正】がサポートしてくれるからな。
こいつはリアルタイムで音を振り分けてくれる効果を持つ特級スキルだ。
熟練度も高かったんだけど、今回のでカンスト目前になってしまった。
そのくらい酷い騒音なわけだ。
人と獣の二組の耳を持つ彼女らには辛いか。
リーシャたちも声には出さないものの耐えている感じである。
両手で塞げるのは一組までだもんな。
頭頂部にある獣の耳はペタンと伏せてはいるけど、その程度じゃ焼け石に水だよな。
やはり、ある程度は消音しておくべきだったか。
俺はフィンガースナップの合図で魔法を終わらせた。
「いや、すまんかった。
少しムカついていたのでな」
耳にダメージが残っている一同に治癒魔法をかけておく。
それだけでリーシャたちは落ち着いたようだ。
と思ったら──
「あ、あああ……」
ブルースのオッサンがなんか口をパクパクさせてるな。
城を破壊することで舞い上がっていた煙のような砂埃が徐々に晴れていく中でのことだ。
元奴隷組が次々とへたり込んでいく。
「ん? ああ」
単に岩石で組まれた程度の城だからなぁ。
原形など欠片も残しているわけがない。
過剰な攻撃力を持つ魔法の武器を理力魔法でそれなりの速さで撃ち出しゃ、こうなるわ。
しかもループさせて間断なく連射したからね。
残ったのは壊すとマズいかと思って突入時からの結界を残した宝物庫だけである。
それらも瓦礫に埋もれてるから人力で掘り出すのは一苦労だろう。
地下牢まで完全に潰しきったし。
その光景を目の当たりにすれば、腰を抜かすのもしょうがない。
俺のことをよく知らない者たちならね。
「ひとつ伺いたいのですが」
唖然とした様子を見せながらエリスが聞いてきた。
魔法は使い終わったし、俺も顔を見て応対するべく振り返った。
「今の魔法はどのくらい余力がありましたか?」
それを聞くかい、エリスさん。
大胆というか空気を読んでいないというか。
やらかしてる俺が言うなとツッコミ入れられるとは思うけどね。
でも、周囲の様子にはもう少し気を配った方がいいと思うよ。
腰を抜かしているのが何人もいるんだからさ。
頼むよ、ホントに。
読んでくれてありがとう。




