247 バレてしまった
修正しました。
【天眼・遠視】 → 【天眼・遠見】
行く当てのない連中に同情してしまった。
経歴で見る限りは悪い奴らではなさそうなのも、そちらに傾いてしまった要因だろう。
今の心境は捨て犬や捨て猫を拾ってきた小学生くらいの子供のそれに近い。
ただ、俺の中には冷徹に見ている部分もある。
身内じゃないからね。
うちの子たちに重ね合わせて見てなければ、さっさと終わらせてる。
少し多めにお金を持たせて適当な場所に転送していたことだろう。
苦労はしても奴隷時代よりはマシなはずだし。
人間、どん底を知っていると少々のことではへこたれないものだ。
死なない限りはどうにかするんじゃないかな。
身分証ほしさに冒険者になったけど無茶して死にましたなんてケースも出てくるだろうけどね。
それこそ知ったこっちゃない。
先々のことまで心配する義理は俺にはないからな。
ただ、他の奴隷と比べると受け皿が薄すぎるとも言える。
それなら大金を持たせればという意見もあるだろうが、むしろ良くない結果を招きかねない。
働くことを忘れ、金が尽きたら犯罪者に落ちぶれたなんてこともあるだろう。
あるいは持ち慣れない大金を持っていることで目をつけられて巻き上げられたり殺されたり。
そんなことを心配してたらキリがないけどな。
故にこの手段を選択したとしてもスッキリはしないね。
それでも現状で選ぶ確率は半分くらいか。
残り半分が俺が面倒を見るってことになる。
他に良い案もないのでね。
思いつきに近い形で考えた案ならある。
ゲールウエザー王国に難民として丸投げするのだ。
即座に却下したけど。
これから発生する飢饉に対応しなきゃならんからな。
いくら大国といえど、その状況で千人規模の難民を抱えるのは厳しいだろう。
きっと国民の精神的な余裕が先になくなる。
その結果、矛先が難民に向かうのは言うまでもない。
そうなれば辛い思いをするのは弱い立場の難民の方だ。
追い立てられて居場所を失い流浪することになるだろうな。
いや、追い出されるぐらいはマシな方か。
血の雨が降ってもおかしくはない。
安易に丸投げすると碌な結果にならないのは目に見えているって訳だ。
俺がテコ入れしたからと言っても楽観視できないと思う。
情勢次第で手を引くこともあり得るのだし。
いまの所そんなつもりは毛頭ないのだけれど。
ジェダイト王国へ丸投げするのもダメだな。
状況は似たようなものだ。
国力で言えばもっと余力がない。
周辺国へ分散して振り分けてもダメだろうなぁ。
少人数になれば厄介者の弱者として扱われる恐れがあるし。
そうなったらスラム以外に行く場所がないってことになりかねない。
貧困と犯罪の巣窟で生きていくしかないとなれば、奴隷時代と大差ないかもね。
暴力と悪意にまみれるという意味では、ほぼ同じと言えるだろう。
他の方法も考えてみたけど、考えれば考えるほど詰んでいく。
どこかの亜神様のお膳立てのように思えてならないのは気のせいではないな。
思惑通りに動かされることに苛立ちが募りに募っていく。
お仕置きが百倍になったとしても俺は絶対に同情しないぞ。
「…………………………」
考え抜いた末、俺は溜め息をついた。
俺が面倒見るしかなさそうだ。
とうてい熟慮を重ねたとは言えないが、最初から気持ちで負けている。
出来レースのようなものだ。
とはいえ、同情だけですべてを引き受けるつもりはない。
冷血と言われようが審査に落ちるなら連れては行かないつもりだ。
現状は俺の書類審査が通った状態なので落ちる心配は少ないと思うけどね。
面接は厳正だから不合格が出ないとは言わないよ。
何しろ面接官はうちの相方ローズさんだからな。
夢属性の神霊獣は伊達じゃない。
相手の本質を見抜くから地球だと大企業の人事関係者から引っ張りだこになるだろうね。
このあたりの能力に関しては精霊獣でも充分に見抜いてしまうんだけど。
進化した分だけ時間短縮とかしてもらえると助かるなぁ。
全員を一気にとは言わないが、何人かまとめて見ることができたりとかしないかね。
ちょっと虫が良すぎるか。
なんにせよ自動人形たちに魔法で眠らせるように念話で指示を出す。
そこから俺が自動人形を中継役にして倉に回収していく。
転送魔法でまとめて回収したので一瞬で各地の元奴隷を集めることができた。
後はローズさんに片っ端から見てもらうだけである。
『ローズさんや』
『くうく?』
なあに、と可愛らしく首を傾げている。
あれ? ん? おやぁ?
霊体モードで俺の目の前にスルスルと泳ぐような感じで流れてきたローズさん。
それはいいんだが、なんか変だ。
著しく違和感を感じるんですけど?
顔の形が変わったとか体の色が濃くなったとかはない。
ないけど……
『デッカくなってるぞ!?』
ウサギっぽい耳の上まで入れれば、俺の肩ぐらいまでの上背がある。
今は寝そべるような格好だけど間違いない。
さっきまで子供サイズだったのにな。
単に背丈が伸びたという感じではない。
中くらいの大きさだった縫いぐるみが大サイズになったとでも言えば良いだろうか。
全体的に拡大した感じなのでこの例え方が正しい認識だ。
これも神霊獣に進化した影響か。
『くっくくー!?』
ホントだー!? って、いま気付いたのかよ。
俺も人のこと言えないけどさ。
進化した直後に気付かないというのも間抜けな話だ。
が、そこで変だと思った。
進化した時は誰一人として変化がなかった。
だからこそ気付かなかったのだ。
それは霊体化していたローズも同様である。
つい先程までは前のサイズだった気がするんだが。
はて、どういうことだろうな?
もしかして進化直後だと姿なんかは変化しないのか?
それが事実だとすると、とてつもなく嫌な予感がするんですが。
晩餐会の会場で待たせている他の皆も体格とか容姿とか変わるかもしれないってことだからな。
悠長なことしてないで先に説明しておけば良かったか。
進化した直後は容姿が変わらんことに違和感を感じなくはなかったんだが。
俺の時も背は伸びたし容姿も変わったし。
直後に変化したかどうかまでは覚えていないが……
ログを掘り起こせば分かると思うけど、そこまですることでもないだろ。
そもそも俺の場合は半分を補ってもらう形だったからなぁ。
皆とは色々違う部分があるはずだ。
元奴隷組にしても欠損部位を魔法で再生したけど魂は元のままだし。
仮に欠損していたとして、魂まで再生なんてのはベリルママでないとな。
少なくとも俺には魂の再生なんて無理だ。
あと、俺が連れて来た面々はベリルママと俺の魔力を混ぜ合わせた空間に居ただけだし。
代わりにラソル様の手が加わってるみたいだけどね。
なんにせよ俺が進化した時とは色々と条件が異なるのだけは確かだ。
だったら外見の変化はほとんどないことだってないだろうか。
……わかってるさ。
希望的観測が過ぎるってことくらい。
ローズという実例があるんだし。
このサイズアップを見る分には皆にも何かしらの変化があるのは間違いなさそうだ。
ローズみたいな極端な変化ではないと思いたい。
どうすんだよ、これ。
途方に暮れるとはまさにこのことだ。
どうしようもないからな。
知り合いを誤魔化すのが一仕事である。
その辺の魔道具用意しなきゃならんだろうし。
徐々に変えていく仕様にして最終的に変化後の姿で認識させられるようにしておこう。
いずれにせよ待たせている皆に変化があるか確認してからだな。
と、その前に相棒には仕事をしてもらわなきゃな。
『いつまでも驚いてないで、お仕事だよ』
『くっくーくくぅくっ』
倉の中の全員合格ぅ、か。
ハラハラさせられたがホッと一安心だな。
脱落者がいないのは何よりだ。
『って、ちょっと待て』
『くう?』
なに? って可愛らしく首を傾げてる場合かよ。
『やけに早いじゃないか』
ローズもコクコクと頷いている。
『くーくうくぅくっくーくっくっくくぅーくうくっくぅ』
倉の中に入った瞬間からずっと見てたから大丈夫だよーんって、アンタ。
いや、俺と繋がってるからローズなら倉の中を確認するくらいはできるさ。
さすがに出し入れは無理だけど。
そうじゃなくて俺はてっきり仕事を依頼した瞬間に千人を見たのかと思ったんだが。
『進化してパワーアップしたんじゃないのかよ』
さすが神霊獣は半端ないなって感動は無意味だったってことかい。
『くっくぅー?』
なんですと? だってさ。
「あ」
しまった、痛恨のミスだ。
思わず言ってしまうとは間抜けにも程がある。
あー、まとめて説明した方が楽でいいかなと思ってたのに。
目論見がパーだ。
『くぅ? くくーくぅくうくっ? くぅくくっ!』
進化? 変身じゃなくて進化? かっくいー! ですか。
興奮して実体モードになちゃってます。
いいけどね。
今は城内の厨房だから目撃される相手もいないし。
ローズさんが興奮している間に皆の方も【天眼・遠見】と【遠聴】で確認してみよう。
「…………………………」
ダメだ、向こうも騒ぎになってる。
元奴隷組は背が伸びて容姿がやや美形よりになってるのが大半だ。
レオーネやブルースも例外ではないな。
元々美人顔のレオーネが、それまでなかった艶というか色気が出てきている。
背丈だけじゃなくてボディサイズも変わってるっぽい。
ブルースも短足気味だったけど脚が伸びてるしな。
中には髪の色が変わったりしてるのもいる。
ここまでなら俺の魔法の影響ってことで誤魔化せそうなんだけど。
かなり強引に話を持って行く必要があるとは思うがね。
ただ、世の中そう都合良くいくはずもない。
俺が連れて来た面々も色々と変わってるからな。
ジェダイト組なんて確実に1サイズ以上大柄になってるし。
うちの子たちは大人っぽい感じになって美人度が増してたよ。
童顔だったルーリアもそういう部分が薄れてた。
最上位種族で進化しようがなかったノエルまで大人っぽく成長してたし。
まあ、年齢の割にはという条件はつくけどね。
それにしたって進化しなくても外見が変わるとか反則もいいとこだろ。
なってしまったものは仕方がないけど。
人化してるシヅカはさすがに背丈とかそのままである。
それでも色気が増してたから影響はあるようだ。
ツバキも背丈は伸びなかったが、前よりプロポーションが良くなったな。
こちらも艶のある大人の女って感じがハッキリ分かるようになってるし。
誰が見ても変化がないなどとは思わないだろう。
ハリーも変化が大きい口だな。
もちろん着ぐるみの中身の方がね。
あの様子だと背丈はローズと同じくらいになっているな。
着ぐるみの中は空間魔法で拡張しているから外見上は変化がないように見えるけど。
さて、問題は王女とマリア女史だよな。
エリスもいるけど、こちらはうちの国民になると言ってるから問題は少ない。
先の2人はデリケートな問題に繋がりかねないからなぁ。
ルディア様がどうにか解決してくれることを期待している。
結論から言えば、この3名も明らかに色々と成長していた。
例外なんて誰一人としていない。
だからこそ騒ぎになってるんだけど。
俺が帰ってきたら話を聞こうという方針が決まったようで、落ち着きつつはある。
その分、逆にこっちが落ち着かねえわ。
まだ地下牢の連中の始末が残ってるってのに。
せめて片付いてからにしてくれと言いたい。
まあ、タイミングの点においては俺がうだうだと悩んでいたからなんだが。
「ローズさんや、踊ってないで皆の所に戻るよ」
いつの間にかブレイクダンスで喜びというか興奮の度合いを表現していたローズに呼びかける。
また妙な動画を仕入れてきたな。
色々とツッコミ入れたいところだが我慢した。
「くう」
了解だとさ。
俺の呼びかけで即座にブレイクダンスは終了。
ばっちり敬礼を決めてくる。
気楽でいいなぁ。
まあ、戻った先で説明を求められるのは俺だけだから当然か。
実に気が重いんですが。
読んでくれてありがとう。




