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240 油断すると予想外の展開になる

 俺が皆を待たせてしまったのは事実。

 身内のフォローもあって皆は退屈しなかったかもしれないが、それは関係ない。


「すまんな、待たせてしまった」


 待っていることを忘れて時間を掛けてしまったことに変わりはないのだから。

 本来なら貰い泣きしている面々が泣き止むのを待って謝るべきなんだが。

 そこは気にしないことにした。

 後で忘れてなければ、もう一度言うさ。


「あれは手短に終わらせた方だと思う」


 ノエルが頭を振りながら言った。


「同感だ」


 とルーリア。


「勉強もさせてもらったし」


 はて、勉強?

 とか思ったが、なんちゃって拳法のことだとすぐに気が付いた。


「私もです」


 エリスもルーリアに同意していた。


「素手であんな戦い方ができるとは思いもしませんでした」


 なんちゃってだから素直に喜べない。

 セールマールの世界の武術家たちに申し訳ない気持ちになってしまう。


「あのような格闘術がいくつもあるとは驚きです」


 そんな風に目を輝かせられると尚のこと微妙な気分になるんだが。

 言うに言えないジレンマがある。

 こっちの世界じゃ俺が基準ということで納得してもらうしかないな。

 いや、向こうの世界の住人がクレームを入れてくるとかは考えられないけどね。

 気分的な問題だ。

 雰囲気的にエリスが覚えたがっているように見えるのがプレッシャーになってるんだと思う。

 ミズホ国に来ると明言しているから、知りたいことは教えるさ。

 しばらくはお預けになるけどな。

 まずはレベルアップが先決だ。

 底上げしてからの方が効率よく覚えられるし。

 まずは魔法の基礎を叩き込んでからってことになる。

 後回しにしても最終的には、いきなり教えるより早く身につくだろう。

 急がば回れって言うだろ。


「それにしても終わらんな」


 本人たちはともかく貰い泣きしている面々は泣き止んでも良くはないか?

 あんまり涙を流してはいなかったダニエラは、もう泣いてはいないんだけど。

 ただ、パーティメンバーのフォローに回っているんだよな。

 そっちに手一杯で俺らの会話に加われそうな気配はない。

 他の面子は、まだまだダメそうだ。

 ガンフォールならすぐに復帰してくるかなと思ったんだけど。

 今夜は一切合切を俺に丸投げするつもりなのかも。

 まあ、ガンフォールは俺に連れて来られただけだからな。

 責任とか立場とか気にしてないのだろう。

 確かにこの件に関しちゃ全責任は俺にある状況だ。

 ちゃっかりしてるぜ。


「待つしかないようですね」


 エリスも苦笑している。


「うちの面子の方が引きずりそう」


 ノエルはサラッと言ったが、あり得そうだな。


「ハルト殿、どうされる?

 まだ終わっていないが」


 それなんだよなぁ。

 チラリとツバキたちを見たが、諦めの表情で小さく頭を振っている。

 止める術は思いつかないか。

 ツバキたちも簡単に泣き止むとは思っていないと。

 認識が共通するってことは、より確定的になった訳で。


「しょうがないさ、こればっかりはな」


 元奴隷組はここである程度は気持ちに整理をつけさせておかないとな。

 完全に許されたとは思わんだろうし。

 贖罪の方法をこれから考えるにしても、まずは心の切り替えが必要になる。

 その前に心の負荷を減らしておく必要があるけどな。

 今はそのための時間だと思うしかあるまい。


「ああ、でも俺もやるべきことがあったな」


 泣いていない面々がキョトンとした顔をして俺を見てくる。

 エリスが分からないのは、まあ当然だ。

 シヅカも仕方がない。

 けど、ノエルやルーリアはどうだろう。

 俺の非常識ぶりは分かっているはずなんだが。

 ツバキとハリーは「もしかして」という顔つきになっている。

 俺が何をしようとしているのか、気が付いたようだな。


「まあ、見てな」


 元奴隷組を驚かせる結果になるのは間違いないので迷ったんだけど。

 泣いてるところ悪いんだが付き合ってもらおう。

 何をするかというと魔法である。


「それじゃあ始めるとしよう」


 使う魔力は半端じゃないので少々気合いを入れてみました。

 先程の召喚で使用したよりも遥かに大量の魔力を一気に練り上げる。

 ラミーナの面々が驚いたように反応した。

 さすがに泣いてる場合じゃなさそうだと思ったか。

 慌てた様子で何事かと俺の方を見てくる。

 魔法を使うのは分かっていても何の魔法を使うのかが分かっていない。

 もちろん、その理由も分からんよな。

 必然的に何か異常事態が発生したのかと警戒モードになっていた。

 完全に泣いてるどころじゃなくなったな。

 後で怒られそうだ。

 せっかく感動してたのにって。

 周囲を油断なく観察しているが、何も見つけられずにいる。

 そりゃそうだ。

 異常なんて何もないんだから。


「泣いてるところを悪いんだが邪魔するぜ」


 ひとこと断ってから元奴隷たちを理力魔法でまとめて浮かせる。

 これは準備段階だ。


「な、なんだ!?」「どうなってる!?」「う、浮いてるぞっ!」


 まあ、普通は取り乱すよな。

 君らも泣いてる場合じゃなくなったね。

 本当に申し訳ない。

 苦情は帰ってしまった誰かさんの方へよろしく。

 お陰で色々予定が狂ったから俺も余裕がないのだ。

 魔力じゃなくて時間的な余裕がね。

 まさか君らをゲールウエザー王国へ連れて行くわけにいかんし。

 一時的であれ、ここへ残していくのもしたくないからな。


「俺の魔法だ。

 騒がずにジッとしてろ」


 その一言で静まりかえった。

 ちょっと意外だ。

 文句が噴出するかと思ったんですがね。


『くーくっくーくう』


 信頼されてるねーって、クルクル回って踊りながら言わないでくれ。

 いや、情報提供は助かるんだが。


「それじゃあ一気に行くぞ。

 こいつは俺からのプレゼントだ。

 痛みを感じるかも知れんが、多少は我慢しろ」


 もしかすると多少どころではないかもしれん。

 保険は掛けとくか。


『ローズさんや』


『くー、くくっくうくーくぅくっくぅ』


 了解、誰か痛みを感じたら知らせるってね。

 これぞ阿吽の呼吸って奴だな。

 俺が何を求めてるのか、わかってらっしゃる。

 さすがは我が相棒。

 これで少しは安心できるね。

 ただ、このときの俺はもっと慎重であるべきだった。

 そうであるなら別の結果になっていただろう。

 ぶっちゃけ考える余裕が欠けていた。

 ペースを乱されただけでガタガタになるとかメンタル弱すぎだわ。

 もっと鍛えないと。


「ぬんっ!」


 とか格好つけて右手を突き出してんじゃねえっての。

 まあ、言い訳するならストレスがUターンしてくることも充分あり得たのでね。

 こうやって演出に気を配ったりして発散してたわけだ。

 そんなこんなで、ほとばしる魔力の奔流にさらされる元奴隷たち。


「ぐうぅ─────っ!」


 なんて声が聞こえた時に「ヤバいか!?」と思ったが、ローズは無反応。

 どうやら濃密な魔力を全身で受けた時の気持ち悪さがあるようだ。

 慣れてないと、そう感じるのか。

 なにはともあれ痛みがないようなので一安心。

 魔法を続行させる。

 もしも痛みを感じるとしたらここからだ。


「うぉっ、なんだ!?」


 む、痛みを感じたか?

 チラリとローズを見るが首を振っている。


「う、腕が熱い」


「俺は足だ」


 感じるのは痛みではないらしい。

 ローズはサムズアップしながら余裕の表情だ。

 熱いと言っても耐えきれないレベルじゃないみたいだな。

 にしても、痛みより熱を感じるとは少々予想外だった。

 初めて使う魔法だから、しょうがないか。


「うわぁっ! 手が、手がぁ─────っ!」


 ひとり騒ぎ出したな。

 痛みでどうこうじゃないんだけど。

 見た目がウニョウニョしてて気持ち悪いからなぁ。

 俺もあんまり好きじゃない。


「ちょっ、マジか!?

 俺の足が元に……!」


 義足のオッサンが自分の足首から足が生えてきたことに慌てている。

 え、義足はどうしたかって?

 あんなの必要ないから魔法で分解したさ。

 足は魔法で再生したからな。

 そう、使ったのは光魔法の再生だ。

 こいつは欠損した体の部位を元通りに治してくれる。

 文字通りの意味を持つ魔法。

 これを使える者は西方には数えるほどしかいない。

 制御がかなり難しい部類に入るし時間もかかる魔法だから無理もないんだけど。

 最大のネックは魔力消費が膨大なことかな。

 そのせいで彼等に再生できるのは指の先とか千切れた耳とか、その程度だ。

 ポーションや魔石を駆使しても制御で精神をすり減らすから腕丸々1本とかは無理。

 せいぜいが手首や足首の先をどうにかするくらい。

 あと、傷が塞がって時間が経過してしまうとダメみたいだ。

 数えるほどしかいない再生魔法の使い手たちにはお手上げとなる。

 桁違いに魔力が必要になるからね。

 こっちの魔法は効率悪いっていうのもあるけど。

 どちらも俺には関係ない話だ。

 ガンガン魔力をつぎ込んで全員まとめて治してドン!

 部屋中で騒ぎが起こっているが気にしない気にしない。

 そのくらいで集中が乱されたりはしないのだよ。


「うぉらぁっ!」


 最後にもうひと気合い入れて再生魔法完了。


「……………………」


 些かどころか明らかに調子に乗り過ぎてしまった。

 余剰魔力が部屋中に充満してる。

 空気を振るわせるほど濃密だ。

 魔力感知できるなら何もしていないのにうねっているのが分かるはず。

 それだけ俺もストレスがたまってたという証拠だろう。

 やり過ぎたとは思う。

 反省も後悔もしないがね。

 こんなのは回収すればいいだけだからな。

 俺の魔力は既に回復してるから空の魔石を用意してってことになるけどね。

 倉庫の中にゴロゴロ転がってるから大丈夫だ。

 こういうときのために常日頃から準備は怠っていないのだよ。

 さて、回収して終了とか思ってたら……

 俺が回収する前に余剰魔力がかすめ取られた。

 一瞬でかよ。

 油断していたとはいえ見事な手際に止めることができなかった。

 こんなことができる相手でなおかつやりそうな相手は一人しか心当たりがない。


『いやー、ハルトくん。

 この魔力は僕が再利用させてもらうよー』


 やっぱりラソル様だったか。

 あのおちゃらけ亜神、わざわざ戻ってくるとはな。


『悪いねー』


 ちっとも悪いと思えない口振りで気配が急速に遠のいていった。

 嫌な予感はしたんだがツッコミ入れて余計に混乱することになっても嫌だしな。

 黙って見送るのが最適だろう。

 そう思っていた俺はアホである。


『ハルトよ』


 ルディア様だ。

 脳内スマホじゃなくて念話で直接的に連絡が入った。

 えらく慌てている感じだけど……


『してやられたようだぞ』


『え? どういうことですか』


『兄者が巧妙に仕掛けを残していったのだ』


 果てしなく嫌な予感がした。


読んでくれてありがとう。

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