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239 ハルトのミス

 普段のラソル様を知っているだけに信じがたい光景を目にしている訳なんだが。

 たぶん本人にしてみればギャップを楽しんでるんだと思うよ。

 俺たちに見られているってのが重要なんだよな。

 ルディア様と密かに会話がなされるであろうことまで計算しているはず。

 その状況を楽しむって趣味が悪くないか。

 だから、ついつい言っちゃうんだよな。


『あれは詐欺ですよ』


『まったくだ』


 自分たちだけの会話だから言えることだ。

 元奴隷たちが聞いたら卒倒しかねない。

 相手を限定して念話で密かに話しているから安心できるんだけど。

 気にする相手がいないのは助かるね。

 あ……

 部屋の外で待たせてる皆のこと忘れてた。

 待ちくたびれているよなぁ。

 後で謝るしかないか。

 とりあえず、ラソル様の締めくくりを待ってどうするかだよな。

 合流した方が良さそうか。

 地下牢に放り込んだクズ共の始末も残ってるけど。

 どちらを先にしたものか。

 俺がそんな風に次の予定を考えている最中のことだった。


『汝らの行く先は賢者が示すであろう』


 突然の爆弾発言に頭の中が真っ白になった。


『なにぃ────────っ!?』


 ええい! このおちゃらけ亜神めがっ!!

 そんな言葉で締め括ってんじゃねえぞ!

 危うく声に出すところだったじゃないか。

 アニスだったら、すかさず「なんでやねん!?」とツッコミ入れてるぞ。

 危ない危ない。

 表情の方は【ポーカーフェイス】スキルを全力運転させたのでセーフだったが……

 念話でなんとか元奴隷たちには聞こえないようにするのが精一杯だったっての。


『賢者の照らす道を進むのだ』


 何を言ってくれやがりますか。

 それって俺が面倒を見るってことだろ。


『さすれば悪しき愚者どもの犠牲となった者たちも必ずや救われるであろう』


 くっ、これじゃあ拒否できん。


『我が、かの者たちに癒やしを与えん。

 汝らは賢者と共にありて己が力で未来を切り開くのだ』


 そんなこと言われたら尚更だ。

 ちくしょー、狙ってやがったな。

 妖精組の一件といい、今回といい……

 だが、今回は俺が呼んだからな。

 文句は言いたくても言えたもんじゃない。

 そこまで計算して言ってやがるぞ、絶対に。

 俺がてんやわんやするのを見て楽しもうって腹なんだろう。

 それだけは間違いないという確信がある。

 腹を抱えて転げ回って笑っている姿まで見えるようだよ。

 こっちは腹立つわ。

 まったく、とんでもないことを言い出してくれたものだ。

 この連中とはここでおさらばだと思ってたのに。

 解放したら他人だから気楽にやってた部分があるんだぞ。

 俺に面倒見ろって?

 冗談ナッシングッ!

 だって、なんか面倒くさそうな性格してるもん。

 頑なというか強情だし。

 でなきゃラソル様に仕事を依頼したりなんてしないって。

 ルディア様の監視つきだから大丈夫と高をくくっていた自分をぶん殴りたい。


『してやられたな』


『ぐうの音も出ませんよ』


『嫌な予感はしておったんだがな』


『先に言ってくださいよぉ』


『済まぬ、何をするかまでは読めなかった』


 双子の妹であるルディア様をして何をするかまでは読ませなかったのだ。

 俺に分かる訳がないだろう。

 筆頭亜神は伊達じゃない。

 どう考えたって能力の無駄遣いだけどな。

 イタズラに全力を注ぐってどうなのかと問い詰めたくなるが。


『いえ、謝罪を求めてはいません。

 お気になさらず。

 今回の一件は俺が依頼したことですし』


 だからこそムカつくんだけどね。

 何が腹立つって、自分の間抜けさ加減が一番だ。


『兄者も考えたものよ。

 今回はハルトが依頼したからな。

 大義名分を持たせてしまったのは失策であった』


 返す言葉もない。

 今にして思えば自分で初手から退路を断ったも同然なんだから。

 ルディア様に依頼しておけば良かった。

 それはそれでラソル様が拗ねて妙なことをしでかした可能性があるけど。


『そして私はこの件で折檻する訳にもいかん』


 そうなのだ。

 どう考えても元奴隷たちのことを考えた発言で締め括られているからな。

 温情ある名裁きって感じだ。

 そう考えると「アンタは大岡越前にでもなったつもりか!?」とツッコミを入れたくなる。

 ……知ってそうだな。

 その辺の時代劇とか見てるのは間違いないんじゃないか。

 妖精組に忍者関連の動画を編集して見せていたくらいだし。

 多分これも罠だ。

 俺がツッコミ入れたら素晴らしい笑顔で「わかるぅ?」とか聞いてきそうだし。

 あー、ムカつく!

 怒るに怒れない状況を作り出して、ほくそ笑むとか趣味悪過ぎだ。

 ボコりたいけどボコれない。

 俺が怒ると悪者にされてしまう状況だからな。


『自分も諦めるしかないですね』


 心の中で溜め息をついた。

 しょうがないから切り替えるさ。

 元奴隷たちは面倒くさい性格してそうだけど根っこは信用できそうな連中ばっかりだし。

 問題のあるような輩だったら遠慮なくラソル様をボコるさ。

 直接は無理だからルディア様に依頼して折檻フルコースだな。

 まあ、そういうことには絶対ならないだろうけど。

 妖精組の時もそうだったからな。

 後々のことまで考えてあるから地味に腹立つ。

 いやいや、切り替えるって決めたんだ。

 この件で苛つくのもなし!


『うむ、済まぬが後を頼む』


『わかりました』


 こうしてルディア様との内緒話を終わらせた直後、光る球体は消えた。

 魔方陣も後を追うかのように消えていく。

 俺の演出にまで手を加えてくれてありがとう。

 いかんいかん。

 嫌みで毒を吐き出すのは、まだムカついている証拠だ。

 こんなことじゃ態度に出かねない。

 元奴隷の皆は不安定な精神状態だろうしな。

 俺が更に不安にさせたりしてはいけない。


「さて、どうだったかな」


 努めて冷静に聞いてみたつもりだった。


「……………」


 だが、返事がない。

 動揺したまま悶々としているのかと思ったが、少し異なるようだ。

 そこかしこからすすり泣く声が聞こえてくる。

 彼等の罪悪感はそう簡単にぬぐい去れたりはしないだろうからな。

 レオーネも泣いていた。

 声もなく溢れる涙を拭こうともせずに泣いていた。

 顔をくしゃくしゃにして、ただひたすらに涙を流して。

 反則だろ。

 俺まで涙腺が弛んでくるじゃないか。

 収拾がつかなくなるから泣く訳にはいかんけど。


『ローズさんや』


『くくぅ?』


 なーに? ときたもんだ。

 退屈してるかと思ったけど、そうでもなさそう。


『こいつら大丈夫だよな』


『くっくくぅ』


 合格だよーか。

 この様子だと先に全員を見ていたようだ。

 うちの相棒はこういうときの仕事が早いよな。

 それにしても……


『泣き止まない』


『くーくぅくくっくう』


 しばらく無理だよんって……

 夢属性の精霊獣であるローズにお墨付きを出されちゃな。

 仕方ない、ならば先に皆と合流するか。

 この部屋にかけていた結界を解除してドアを理力魔法で開けた。

 それで連れてきた面々が晩餐会場だった大広間に入ってきたのはいいんだけど。

 どうしてこうなった的な状況が続くんですが、もしもし?。

 泣いてるよ。全員じゃないけど泣いてるよ。

 こういう境遇には共感できる部分があるのかレイナとアニスがむせび泣いている。

 リーシャと双子は必死で耐えてる感じだけど、涙が止まらない様子だ。

 ダニエラは涙ぐむ感じで笑っている。

 こういう姿を見ると一件落着って感じがするな。

 まだ終わってないんだけどさ。

 ジェダイト組はそろって嗚咽している。

 滝のように涙を流しているけど拭いもせずに男泣き。

 それなら慟哭するのかと思いきや、そこはグッと我慢しているらしい。

 本人たちより派手に泣く訳にはいかんとか思ってそうだ。

 王女とマリアは抱き合って泣いている。

 いい笑顔だ。

 みんな感動しているんだろうなぁ。

 君ら、ラソル様にまんまと騙されてるんだよ。

 現実を知った時のショックが計り知れない。

 同情を禁じ得ないね。

 一方で泣いていないのは残りのうちの国民とエリスだけ。

 シヅカは泣くかと思ったんだけど。

 視線が合うと念話で話し掛けられた。


『主も色々と苦労しておるな。

 話はローズから聞いた』


 それなら納得だ。

 ルディア様との内緒話もローズには筒抜けだったし。

 退屈しなかったのはシヅカと世間話でもしていたからか。


『危うく騙されるところであったわ』


『怒ると向こうの思う壺だ。

 それすらも楽しむはずだから』


『質の悪い御仁じゃの』


 やっぱり、そう思うよな。


『いま泣いておる者たちには妾も同情する』


 同感だ。

 ツバキとハリーは平常運転な感じ。

 彼等もローズと念話で話していたかな。

 だったらラミーナの面々が泣いてるのはなんでだ?

 おそらく国民組全体でグループ通話状態だったろうに。


『くーくーくくぅくうくくっくぅくくっくーくう』


 それはレオーネたちの境遇に同情しているから、か。

 なるほどね。

 確かにラソル様の大岡裁き的なイタズラを抜きにしても同情する気持ちは分かる。

 特に理不尽な理由で故郷を捨てざるを得なかった彼女らのことだ。

 どこか共感してしまう部分もあったのかもな。

 ノエルとルーリアは同情はできるんだけど泣くほどでもないといった心境かね。

 このあたりは孤独に耐えて生きてきた経験がそうさせているのかもな。

 そういう意味ではエリスもか。

 やや居心地が悪そうにはしているけど。

 泣けない自分に自己嫌悪しているのかもな。

 まあ、後で事実を知ったらその気持ちに対してダメージを受けることになるんだけど。

 まともに泣いている面々より傷は浅いかもな。

 それにしても他の面子が泣いているってことは見てたわけだよな。


「幻影魔法で見てたのか?」


「ツバキ殿がな」


 俺の問いにルーリアが答えた。

 ツバキが無言で頷く。


『ローズのサポートがあったのでな。

 魔力の消費も少なく済ませられた』


 念話で話し掛けてくるのはローズのことを伏せている相手がこの場にいるからか。

 にしても、考えたものだ。

 ガチガチな結界じゃなかったとはいえ、普通に幻影魔法で覗き見ようとしたなら魔力消費が負担になったはず。

 そこをローズのサポートで通常の魔力消費になるようにしたと。

 念話で内部と繋がった状態なら結界も関係なくなるもんな。

 上手い手を考えたものだ。

 念話と幻影魔法の同時使用という別の負担が出てくるが、その程度はツバキなら楽勝だ。

 魔力消費の面でも制御の面でも。

 そうして中の様子を確認できたのであれば、さほど退屈もしなかったか。

 いや、待たせたことに変わりはないな。


読んでくれてありがとう。

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