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236 詐欺師に騙された女

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


新作「切り札は俺にしか見えないっ!」も連載開始しました。

こちらも合わせてよろしくお願いします。


申し訳ありませんが、しばらく新作の方へかかりきりになるかもしれません。


 いかに【多重思考】のスキルで高速思考していたとしても、この部屋にいる奴隷たちの境遇をすっかり失念してレアキャラだ何だと喜んでいた俺はアホである。

 彼等も本来ならクズ共と同じように俺に襲いかかってきていたはずなのに隷属の首輪に抗っていた。


 耐えがたい悪夢のような幻影と戦わねばならないことは承知していたはずだ。

 途中から無視できるように魔法を使ったけど元々反抗的だったために腕や足を喪失している彼等にはかなりの負担だったはずだ。

 それでも耐えていた並々ならぬ精神力は敬服に値する。


 せめてもの詫びとして魔法で欠損した四肢を再生するとしよう。

 その前に首輪からの解放が先か。

 そんなことを考えていたらレオーネが手にしていた槍を投げ渡してきた。

 思わずキャッチしてしまう。



「賢者だったな」


 【偽装】スキルって凄いな。

 声まで偽装して男の声になってるようだ。

 さすがは上級スキルをカンストしているだけはある。

 スキル云々じゃなくて単純にレベル差がありすぎて俺には元の声も聞こえているけどさ。


「ああ」


「勝負しろ」


 向こうは仲間から俺に渡した槍と同じ槍を受け取っていた。


「は?」


 なんでそうなる? 誰か説明プリーズ。

 少なくとも俺はもう戦いたくないんですが?

 王女の婚約問題を解決するために一仕事したら思った以上に面倒でした。

 正直、帰りたいでござるよ。


「槍の勝負で私が勝ったら、ここにいる皆を見逃してくれ」


「意味が分からん」


 見逃すも何も俺はここの奴隷を解放しに来たんだけど?

 だが、俺の返事に今度は向こうが怪訝な表情をしている。


 ならば少しデモンストレーションでもやって向こうの反応を見てみるか。

 あわよくば勝負を諦めてくれると有り難いのだけれど。


「俺が素手で戦っていたのは武器を満足に使えないからとか思ってないだろうな」


 演舞と言うほどではないが少しだけ槍さばきを見せるべくヒュンヒュンと槍を振り回し始めた。

 一般スキルだとポイントを使わなくても少し練習するだけで【槍術】スキルはカンストしている。


「己の目で確かめるがいい」


 右手だけで自在に振り回す。

 いつもより多く回っておりますってな。

 別に「おめでとうございまーす」とか言ったりはしないが。


 参考にしたのはカンフー映画。

 お陰でお遊びの要素が色濃くなっている。

 が、トリッキーな扱い方をするから間合いを変幻自在にするので見所は多い。

 肩から脇の下を通す縦回転や胴を一周させる横回転などはヌンチャクさばきに通じるものがある。


「なんだよあれ」


「信じられん槍さばきだ」


「剣の間合いにも対応しているのか」


 いま見せているのはカンフー映画の棍を使うシーンを参考にしているので実用性は低いはずなんだけど、そうは見えないらしい。

 そのあたりは【槍術】スキルの熟練度カンストが影響しているのだろう。


「何者なんだ」


 だから賢者だってば。

 君らの知らないことも知っているから、こういうこともできるのだよ。

 合間に見せる突きも手首や肘の変化で穂先が生きているかのようにしなる。

 見ていて飽きが来ないように工夫してみた。


「あの槍、生きているみたいに見えないか?」


「ああ、まるで蛇だ」


「かわせる気がしない」


 バトントワリングのように回転の軌道を左右交互にさせたりもするぞ。

 握力と手首の強さが要求されるんだよな。


「右手しか使っていないのに……」


「体の軸もぶれていない」


「姐さんより上手いんじゃねえか」


「お、おい」


「っと、いけね」


 む? どうやらレオーネの性別は知られているようだな。

 秘密にはなっているようだけど。

 それだけでも収穫だと言えるだろう。


 振り回していた槍を脇の下に挟む形で斜めに抱え持つ格好でなんちゃって演舞を終わらせた。

 これで戦う意志はないことを強調したつもりなんだが。


「御覧の通りだ。無駄なことはするな」


「そういう訳にはいかない。私の命で皆が助かるなら安いものだ」


 ん? 俺はそんな条件を出した覚えはないんだが……

 ああ、逃げた連中のオーダーか。


「「「「「姐さん!」」」」」


 他の奴隷たちが泡を食ったのを見てレオーネが一瞬だが渋い表情をのぞかせた。

 悪夢に抗い消耗した後とはいえNGワードを口走ってるもんな。


「ああ、悪いけど賢者の俺にはお前さんの【偽装】スキルは通用しない」


「なっ!?」


 レオーネが激しく動揺する。

 スキルを過信しすぎだ。


「命令した奴と賭けでもしたんだろう。侵入者と戦って勝ったら仲間を奴隷から解放するとか」


「くっ!?」


 レオーネは短く呻いて苦々しい顔をする。


「勝てなくても死ぬまで戦うなら同じように解放するなんて条件もつけただろう」


「どうしてそれを知っている!?」


「ただの鎌かけだ」


 一瞬、呆気にとられたレオーネだったが、してやられたとばかりに歯噛みする。


「どういうことっすか!?」


「姐さんを犠牲にして俺たちだけのうのうと生きてられねえ」


「「「「「そうだ、そうだ!」」」」」


 レオーネを取り囲んで他の奴隷たちが騒ぎ出す。

 ずいぶんと慕われているな。

 それはいいんだが彼女が死ぬことを前提に話を進めないでほしいものだ。


「あー、取り込み中のところ悪いんだが」


 呼びかけの声に常人には真似できないほどの魔力を乗せて半ば強制するように全員を振り向かせた。

 これ以上長引かせるのは嫌なのでね。

 自重しなかったお陰で上級スキルの【挑発】を熟練度MAXでゲットだぜ。

 無くても困らないけどな。


「この国の貴族が約束を守るわけないだろ」


「いや、首輪の契約だ。魔道具の力が及ぶから約束は必ず履行される」


 レオーネはそう言うけれど残酷な事実を告げなければならない。


「魔道具の力が及ぶのはお前さんだけだ」


「なにっ!?」


「その首輪は他の首輪に効力を及ぼさない」


「どういうことだっ?」


 嫌な予感がしたのかレオーネが頬を引きつらせている。


「約束通りに動けばお前さんの首輪は解放の指示を出すだろうがそれだけだ」


「なっ!?」


「先に指示を受ける側の首輪を同調させておかないとダメなんだよ」


「くっ!」


 悔しさに顔を歪ませるレオーネ。

 それとは対照的に奴隷仲間たちはポカンとしていた。

 察しがいいのはレオーネだけのようだ。


「つまり、騙されたってことだ」


「「「「「なにぃ─────っ!!」」」」」


 奴隷仲間たちは口々にレオーネを騙した貴族を罵るばかりだ。


「この首輪さえなければっ!!」


 我慢できないとばかりに首輪に手を掛けた奴がいたが周囲に止められていた。


「かくなる上は奴を殺す!」


 禿げ豚の好みそうな手口だが当の詐欺師野郎は地下牢に放り込んだ連中の中にいる。

 気持ちはわからなくもない。


「よせ」


 仲間が止めている。

 首輪の指定する上位者に襲いかかれば死んでもおかしくないほどの激痛に襲われるはずだからな。


「何人の仲間が死んだと思ってるんだ」


「くそったれ!」


 息巻いていた男が吐き捨てると全員が打ちひしがれ重苦しい沈黙が訪れた。


「それがお前たちの望みか」


 俺の問いかけに全員が俺の方を向く。

 今度は声に魔力を乗せたりはしなかったんだがな。

 ただ、誰も返事はしない。


「その望み、俺がかなえてやろう」


 全員にギョッとされた。

 そんなに意外な提案だっただろうか。


「アンタは俺たちを殺しに来たんじゃないのか?」


 なんでそうなる!?


読んでくれてありがとう。

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