233 翻弄される愚者たち
改訂版です。
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「テメエみたいな化け物が人間な訳あるか!」
「性根の腐った連中に言われたくないね」
人間の皮を被っているだけに過ぎない貴様らの方が人でなしの化け物だろうに。
だったら化け物に相応しい最後を見せてやろう。
「奴に先手を取られるな! 旋風で切り刻むんだ!」
「「「「おうっ」」」」
出っ歯ネズミの指示から4人が俺を取り囲んできた。
戦闘専門で奴隷にされているだけのことはある機敏な反応だ。
訓練が行き届いている動きをしているが、この国が奴隷にそんな予算はかけないだろう。
鑑定してみると近隣諸国で頻繁に暴れさせ略奪と殺戮を繰り返している。
この国の王侯貴族は予算をかけずに実戦訓練ができて得だとでも思っているのかね。
まさに盗賊国家だな。
「へっ、これでお前はおしまいだぜ」
すでにコイツらの仲間が3人も死んでいるというのに、えらく自信満々だな。
何を根拠にしているのか謎である。
「ふーん。とてもそうは思えないが?」
しかも俺が殺気を封印していることに気付けていないあたり弱者だけを踏みにじってきたツケが回ってきた証拠だ。
「ずいぶんと余裕だが、いかに化け物でも旋風の陣からは逃れられないぜ」
コイツらこそ余裕ぶっていると言わざるを得ないんだが?
幻影魔法で見せた現実というものを、すでに失念しているらしいな。
あと、人のことを化け物化け物と言い過ぎだ。
「そっちこそ俺のことを化け物呼ばわりするだけの覚悟はあるんだろうな?」
まずは旋風の陣とやらを潰してやろう。
コイツらの配置を見るに素早い動きの連携から繰り出される戦法だろうと想像がつく。
出っ歯ネズミが下がっているのは、こいつだけ武器がが短剣だからか。
他は片手剣でリーチが違う。
正対しないよう斜め位置で均等に分散しているのは簡単に死角に入れるからだな。
ただ、大きく踏み込んでも切っ先が届く程度と間合いが広い。
大層なネーミングからすると素早くグルグル回りながらジワジワと切り刻みながら体力を奪っていく腹だな。
弱者をいたぶるコイツらが好みそうな戦法である。
「へっ、大口を叩いていられるのも今のうちだぜ」
自分たちは安全圏から時間を掛けて攻撃するから俺が先にバテてしまうはずとか考えているんだろうな。
「それは俺の台詞だ」
「うるせえっ! 血祭りに上げてやるぜ」
出っ歯ネズミは威勢だけはいいな。
「血祭りとは大きく出たもんだ」
よかろう。動画で研究した八卦掌で相手をしてやる。
柔と剛を合わせ持つ八卦掌は、掌を開いた状態で相手の攻撃を受け流し円を描く独特の歩法で戦う。
攻防一体にして見た目の流麗さとは裏腹にかなり凶悪な武術だ。
投げひとつとっても関節技や打撃の流れの中にあるため、絡め取られれば逃れることは困難であり決まれば無事では済まない。
そのぶん、より高度な技術を要求されるのだけれど。
「へっ、言ってろ」
粘つくような嫌みったらしい言い方で出っ歯ネズミが言い返してきた。
「やれっ!」
しかも命令するだけで援護するような素振りも見せない。
俺を囲む4人が不満をのぞかせないのは不思議なくらいだ。
クズどもは時計回りで俺の周りを回るように滑るようなステップを刻み始めた。
立ち位置を常に変えることで相手に的を絞らせず翻弄しながらリズム感を持って攻撃と回避をするつもりか。
時計回りなのは右手に剣を持った相手に対応する回り方だと思われる。
袈裟切りだと回避しやすいからな。
他のパターンで攻撃された場合は狙われていない奴からの攻撃や牽制で対応するのだろう。
「しっ!」
斜め後ろから突きが来た。
切り掛かってこないのは隙を少なくするためか。
このフォーメーションでの戦い方を習熟しているのは間違いなさそうだな。
俺は軸足を滑らせながら円運動で回避する。
右肩に入りかけていた突きは泳ぐようにフラフラと空を切った。
この攻撃をしてきた奴には俺の肩と剣の間に見えない板でもあるかのように見えたことだろう。
最初は押し出すように。
途中からは流し逸らすかのように。
だが、そこには何もない。
クルリと回って制止する。
ピタリと止まった一瞬、突いてきた男と視線が交錯した。
「なにっ!?」
そこにあるのは、まさか回避されるとはという驚愕の色。
それでも足を止めなかったのは何度も繰り返して体に染みついた動きだからか。
「こいつ後ろに目があるのか!?」
「慌てるな」
他のクズ剣士が声を掛けている。
「まぐれがそう何度も続くものか」
「お、おう」
ほほう、今のがまぐれだと?
いつまでそんなことを言っていられるかな。
「次、ダブルで行くぞ」
「「せっ!」」
今度は対角線上にいる奴らが、ほぼ同時に突いてきた。
これもクルリと回りながらズレる歩法で切っ先をかわす。
どちらも心臓を狙っているので回避しやすいったら。
「くそっ」
「これもか……」
「どうなってやがる」
戸惑いの声を漏らすクズども。
だが、動き自体は止めていない。
すぐに次の攻撃が来るだろう。
「いきなり心臓狙いとか、あからさますぎて舐めているとしか思えないんだが?」
「「「「野郎っ」」」」
種明かししたつもりが挑発と受け取られたらしく殺気が膨れ上がった。
これじゃあ攻撃のタイミングが丸分かりだ。
来るっ!
「「はっ!」」
今度は上下に狙いを分けて上は右目に下は左膝に突きが繰り出された。
人の忠告を聞き入れたのかどうかは別にして心臓狙いから方針転換したらしい。
が、来ることがわかっているので回避難度はむしろ下がったくらいだ。
余裕を持って揺れるように体を回す。
上下の剣の軌道から羽毛のように体がふわりと離れていく。
「「しっ!」」
今度は間髪入れずに次の攻撃が来た。
後ろからは肩を前は眉間と狙いもずらしてきている。
前に出ながら軸足を変えて反転すると肩の方は完全に軸線がずれ眉間狙いの突きは目の前を通り過ぎていく。
敵の攻撃は止まらない。
更にクルリと回って次の攻撃をしてくるであろう1人と正対し次に備える。
どんなにステップを刻もうと動きが単調で読みやすいんだよ。
おまけに目でフェイントを入れることすらしないため狙いがバレバレだ。
次は左右の太もも狙いなんだろう?
「「ふっ!」」
読み通りの攻撃が来た。
半身になるだけで楽々回避したが、次がすぐに来た。
「「はぁっ!」」
徐々に気合いが乗ってきて波状攻撃の間隔も狭まってきているものの空回りするばかりである。
そのうち外野の呟きが聞こえるようになってきた。
「奴らのあれを易々と……」
「目だけで追えるものではないはずだ」
「勘か?」
「そういうピリピリした感じじゃないぞ」
「ああ、優雅に舞っているようにすら見える」
頭に血が上って向きになっている4人と違い外野の方が良く見えている。
現実味は感じられないようだが。
「「せぁっ!」」
攻撃は止まらないが向こうの方が疲労を見せ始めている。
奴らの限界は近そうだ。
読んでくれてありがとう。




