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232 戦う賢者

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


 仲間の死体に視線が釘付けになっているヒャッハー組に言ってやる。


「これが酔えば酔うほど強くなる酔拳だ」


 腕組みしながらドヤ顔で決めてやると連中がたじろぎ動揺を見せた。

 と同時に広いパーティー会場がどよめきに包まれる。

 見ているだけの者たちにも衝撃を与えたか。

 我流の酔拳なのでセールマールの世界なら黒歴史になりそうだが、ルベルスならば知る者はいない。

 堂々と胸を張っていれば、もっともらしく見えるというもの。


「酔拳だと!? 偶然じゃなかったというのかっ?」


 ギリギリでかわし続けたことを言っているのだろうがトリッキーな動きで相手を翻弄するのが酔拳の真骨頂なんだぜ。


「酔っ払いが強いだと!?」


 俺は酔ってないがね。

 いくら飲んでも酔わない体質だし。


「バカな! 信じられん……」


「ハイハイ。ちゃんと現実は受け止めようね」


「よくもっ」


「敵討ちだ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


「おやおや、ずいぶんと仲間思いじゃないか」


 俺としては同情の余地などないから遠慮せずやらせてもらっただけなんだけど?


「他人の命を屁とも思わないクズのくせにな」


「「「「「野郎っ!!」」」」」


 もちろん残ったお前らも同じ運命だ。

 迷わず地獄へ落ちるがいい。

 俺の名前は印籠代わりにゃならんが地獄への片道切符くらいは奢ってやるぜ。


「次は八極拳で行くぞ」


 腕組みを解きながら一瞬で小剣を両手に持った男の懐に入った。

 滑らせるように出した軸足を力強く踏み込む。

 八極拳では震脚と言うんだったか。

 強靱な足腰で踏み込み、相手の防御すら意味をなさなくなるほどの強打を叩き込む。

 超接近戦が八極拳の持ち味にして醍醐味らしいからな。


 俺が踏み込みから繰り出したのは何の変哲もない体当たり。

 だが、距離を一瞬で潰した勢いに踏み込みの力を乗せた質量攻撃は拳などよりも遥かに重い。

 体全体を使った一撃は浸透勁のような攻撃ではないが芯にくる。

 更に男の喉には肩が入っているので……


「───ッ!」


 喉が潰れ悲鳴も出せない、と。

 男の体からガクンと力が抜けたが密着しているので倒れることはできない。

 そのままドンッと踏み込み鳩尾に肘を入れると、あばら骨が派手に砕ける手応えがあった。

 密着してのインファイトで相手の防御を打ち破り内臓破裂。


「ゴブフッ」


 男は口から血の泡を吹いた。


「死出の旅路に出る覚悟はできたか?」


「っ!?」


 戦闘不能となった小剣二刀流のクズが恐怖に顔を歪ませていく。

 声を出そうとして出せず頭を振ろうとするも満足に動くことすらかなわない。


「お前に殺された者たちの恐怖を思い知りながら地獄へ落ちろ」


 反転しながら裏拳ならぬ裏肘を顎に叩き込むと男は回転しながら弾き飛ばされ壁に激突。

 力なくズルリと床面へ崩れ落ちた。


「次は蟷螂拳だ」


 恐らくこれが一番本物とはほど遠いなんちゃってではないだろうか。

 白状すると突き刺す攻撃がしたかっただけだったりする。


 餌食となる相手はすぐ側にいた斧を武器とする男。

 最初に襲いかかってきた奴だ。

 こいつにカマキリの鎌を模した指を突き込んでくれよう。


 まずは斧を持つ手から。

 血がつくと嫌なので理力魔法でカバーした指で斧男の手の甲を叩けば、砕け散る感触の後に指が突き刺さった。


「ギャアッ!」


 斧男の悲鳴。

 お前が泣き喚かせてきた人達からすれば拍手喝采ものだろうよ。

 こんなのじゃ供養にはならんかもしれんがね。


 握っていられなくなった手から斧は滑り落ちていく。

 俺の我流蟷螂拳の見せ場はここからだ。

 斧が床に落ちるまでの間に駆け上るように指を突き刺していった。


「ギッ! グッ! ガッ! ゲッ!」


 前腕、肘、上腕、肩。

 そして首の付け根。


「ゴフッ……」


 コイツも血を吐き出した。

 肉の多い部分からは血が流れ出し関節や骨の部分は粉砕している。

 蟷螂の斧と言えば弱者が強者に挑む無意味な抵抗の例えに用いられる諺だが、俺の指は死に神の鎌だった訳だ。

 まだ命は刈り取ってはいないがね。


 力量の差は身に染みてわかっただろう。

 今の連撃でトドメを刺さなかったのは一瞬で死んだら恐怖を感じる余裕もないからだ。

 楽に死なれちゃ納得がいかないって者達は大勢いるだろうしな。

 故に急所は外しておいた。

 それでも痛みがない訳ではないから恐怖を呼び起こすには充分なはず。


 更に喉を潰したから叫びたくても叫べない。

 そのストレスが更に恐怖を増幅させることになる。

 斧男の声を奪ってみたのは試しの意味合いも濃かったが思いのほか効果があったらしくダラダラと涙を流しながら何か言いたげにしていた。


 十中八九、命乞いだろう。

 恐怖で引きつった顔を涙でグシャグシャにしているからな。

 声を出せないからこそ必死さが伝わってくるが聞き入れるつもりは毛頭ない。


「お前は何人の命乞いを無視してきたんだ?」


 そう告げて冷たい視線を返せば斧男が逃げようとしたが無駄だった。

 直前に受けたダメージは生易しくはないし、動けたとしても機敏な動作は望めるものではない。

 そして何より俺が斧男の足を踏みつけているからな。


「ハイハイハイハイハイッ! ハイヤァッ!!」


 頸椎から腰部に至るまでの背骨に6連撃で突き刺していく。

 脊髄や椎間板も道連れで粉砕骨折させると斧男の上半身がグニャリと折れ曲がった。


「3人目、終了」


 斧男のズボンを掴んでゴミでも捨てるように放り投げると放物線を描いて先客2人の上に落下。

 特に狙った訳ではないが上手い具合に積み上がった。


「ウソだろ?」


「なんだよ、あれ」


「どうなってんだよ」


 動揺がクズ共の間で更に深まっていく。

 最初の連撃を入れた時に襲いかかってこなかったことからも、それは疑いようがない。


「人間じゃねえ」


 それはお前らだろ。

 人間業とは言えないのかね。


「ば、化け物……」


 今度は人外扱いか。

 俺に対する畏怖の念が浸透した証しだね。


「正真正銘の化け物だ!」


 大事なことでもないのに2回も不愉快な物言いをしてくれるとは……


「失礼な奴だな」


 断固として抗議する。

 化け物ってのは謎ドリンクを飲んで魔物になった禿げ豚のような奴のことを言うもんだ。


「俺は歴とした人間だぞ」


 残されたヒャッハー組の奴らは目だけで断じて違うと反論していたがな。

 本当に失礼な連中である。

 否定を言葉にしなかったのは本能的に標的にされることを恐れたからなんだろう。

 この後に及んで助かる道を探しているとは往生際の悪いことだ。


「俺は通りすがりの賢者だ。魔物と同じ扱いをされる覚えはない」


「賢者だと!?」


「誰が信じるか!」


「魔物の方がまだ可愛げがあるぜ」


 よほど信じられなかったのか拒絶的な反応をされてしまった。


「言ってくれるじゃないか」


 まだまだ戦意喪失していないようで何よりだ。


「知らないのか? 最近の賢者は戦うのが常識なんだぞ」


「ウソつけ!」


 すかさずツッコミが入った。

 これじゃあ俺がボケたみたいじゃないか。

 こんな胸糞の悪くなる場所で漫才をするつもりはないぞ。

 そもそもコイツらと組むとかあり得ないっての。


読んでくれてありがとう。

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