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229 後始末が残っています

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「こなくそぉっ!」


 らしくない気合いの入れ方でリーシャの聖炎が威力を増していく。

 我を忘れるくらい熱くなっているようで聖炎が倍の威力になったのは、ちょっとした驚きだ。

 皆で同調しつつ肉塊を覆う結界を維持しながらだから難易度は高いんだけど。

 どうやらリーシャは壁をひとつ乗り越えたな。

 青汁に恐怖してってのが微妙なところではあるが。


「む」


 それを見ていたノエルが対抗意識を燃やしたのか火勢が増した。


「ならば!」


 おや、ルーリアも追随するように威力を上げてきたか。


「ほらほら、早くしないと制限時間が迫ってるぞ」


 制限時間が1分だったらね。

 ちょっと追い込んでみるだけのつもりだったんだが、ラミーナの一同が涙目になって歯を食いしばっている。

 俺が考えていた以上に青汁がダメなんだな。


「燃えろおおぉぉぉぉぉ────────っ!」


 鬼気迫るレイナの形相。

 あれが青汁に対する拒否感かと思うと憐れになってくる。

 必死すぎて全員が限界超えちゃってるよ。

 ノエルとルーリアは青汁恐怖症ではないけど仲間に引っ張られる形で壁を越えたんだろう。


「「燃え尽きて! 銀河の果てまでえぇぇ─────っ!」」


「燃えてくださいぃぃ────────っ!」


「燃えるんや────────っ!」


 とにかくラミーナの全員が必死だった。

 それに負けじと頑張るノエルとルーリア。

 全員の聖炎が最初の3倍の威力になっていた。

 これはレベルが上がるな。


 俺が4桁レベルになった時の状態に似ていると感じたからだ。

 これが事実なら嬉しい誤算というやつだが、素直には喜べない。

 ちょっと追い込みすぎてしまったもんな。

 今後、罰ゲームに青汁を使うのは封印するしかなさそうだ。


 結局、1分足らずで肉塊はひとつまみの灰も残さず燃え尽きた。

 火事場の馬鹿力ってスゴいよな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 グッタリしている月影の面々に魔力回復と疲労回復の固形ポーションを渡す。

 魔力消費が著しかっただけでなく体力も消耗していたからだ。

 HPの減少や命に関わるところまでは行ってないけど皆ヘロヘロだった。

 わずか1分弱で終わったから、この程度で済んだと考えるべきだろう。


 場合によっては俺が魔法で家を作ろうとした時のように制止の言葉が耳に届かない恐れもあった。

 あの時はベリルママが強制的に魔法をキャンセルするのは危険と判断したほどだ。

 程度や規模は違うとしても俺が強制介入できないなら同じこと。

 そう思うとゾッとする。

 限界を超えるなんて軽々しくするもんじゃないな。


 なんにせよポーションの効果はあった。

 拡張現実の表示で[疲労]の状態異常は消えている。


「調子はどうだ?」


「悪くない」


 レイナが即答した。


「右に同じや」


 アニスが手を上げると月影の全員がそれに続いた。


「わかった」


 とりあえず一安心だ。


「すまない。追い込みすぎた」


 俺が深々と頭を下げると月影の面々から動揺する空気が伝わってきた。

 なんか俺が謝るとかあり得ないと思われてないか、これ。


 怖くて聞けないが皆の中で俺って傲岸不遜を極めてるのか?


「ハル兄は悪くない。私たちの責任」


 桃髪天使ノエルさんは優しいねえ。


「せやで。うちらが冷静さを欠いとったんや」


 おや、アニスもか。


「言いたかないけど修行不足よね」


 レイナも反省の弁を述べている。


「同感だ」


 リーシャがレイナに同意すると全員が頷いた。


「たとえそうでも俺はお前たちを守る立場にある」


 いざという時は俺が皆を守らねば胸を張って王だ仲間だと主張することはできまい。

 王として責任が仲間としては情がある。


「責任者の俺がやらせたことで危ない目にあわせたのは事実だ」


 無かったことにできるものではない。


「その責任から逃げているようではお前たちの上に立つ資格がない」


 再び詫びてから深く頭を下げると今度は神妙な面持ちで受け止めてくれた。


「ハル兄、まだ終わりじゃない」


 重く沈んだ空気の中でノエルが声をかけてくる。

 残された時間は短いからな。


「ああ」


「うちらは最大の目的を達したから一仕事終わらせた感あるけどな」


 苦笑するアニス。

 最大の目的とは段ボール野郎への復讐であるのは言うまでもないだろう。


「後始末が残ってるのよねえ」


 故にレイナが面倒くさそうに言うのも、とがめる気にはならない。

 実際、最大の懸案だったクリス王女の婚約話の件は片付いたも同然である。

 この状況で放置して帰っても再び求婚されることだけはなくなったのは間違いないのだし。


 ただ、このまま帰る訳にはいかない。

 この国がどうなろうが知ったことではないけれど確実に後味の悪いことになる。

 ファントムミストもかけっぱだし。

 そのへんもどうにかしないとね。


 ただ、国中の人間に対して就活支援することまではしないけど。

 スカウトのチャンス?

 冗談でしょ。

 全員を面接しなきゃならなくなるし、そうなったら何日かかることやら。

 一部例外はありだとしても基本方針はパスだ。


 さて、まずは城内の奴隷を解放しないとね。

 本物の犯罪者についてはその限りではなく地獄への片道切符を手にしてもらうことになるけれど。

 因果応報ってやつだから同情することもない。


「それじゃあ晩餐会の会場に行くか」


 向こうじゃ戦闘用の奴隷たちが待ち構えているが中の雰囲気は悲壮感漂う感じだ。

 留守番組とは別口で城内各地で行われているミズホ組による蹂躙劇を幻影魔法で見せたからね。

 あの程度のことで何もかもチャラにはできないのだとしても奴隷にされた面々が少しは溜飲を下げてくれるかと思ってのことだ。


 しかし、自分たちも同じ運命かと覚悟を決めているっぽいのが誤算だった。

 故にこれから誤解を解きに行かねばならない。

 同じ場所で頭を抱えているクズ連中については知らん。

 せいぜい怯えておくがいい。


「とりあえず向こうは俺が対処する」


 ノエルたちにしてみれば宿敵たるルボンダ子爵を討ち取ればそれで良かったためか異論は出なかった。

 無理もさせたからなぁ。

 疲労はポーションで回復できても気疲れはバフを掛けないと今すぐどうこうできるものじゃないし。


 とにかく結界を解除して俺たちは謁見の間を出て行く。

 歩いて向かうのは留守番組を驚かせぬようにと配慮してのことだ。

 さほど距離はないし道すがらノエルたちのステータスを確認しようと思ったのもある。


[ノエル・ウィンストン/人間種・ハイエルフ/魔法戦士/女/11才/レベル130]


 おー、ついに子供組に追いついたな。


[ルーリア・シンサー/人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/19才/レベル128]


 これで修行の幅が拡がるんじゃないかね。

 それはいいとして[ヒューマン+]って何よ?

 そう思った次の瞬間、【諸法の理】スキルが表示してくれたんだけど……


[ヒューマン+:ヒューマンを超える存在。エルダーヒューマン未満]


 進化しちゃった。

 容姿に変化がないためにステータスを確認するまで気付かなかったのは不覚だ。

 ノエルが進化しなかったのは元々上位種だったからなんだろうけど。

 この調子だとラミーナの皆も上位種になってるかもしれん。


読んでくれてありがとう。

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