228 斬って燃やして、また燃やす
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
ラミーナにとって特製青汁は嫌の最上級に属するものらしい。
初見のはずが臭いだけで絶対的な拒否感を抱いて罰ゲームにしただけで失意にくれる姿を見せていた。
罰ゲームなんだから成功させればいいだけなんだが、それを忘れるくらいショックだったのか。
「絶望している暇があったら仕事しろー」
見ればキメラ豚は息絶えていた。
しぶとく潔さとは正反対な悪党らしさを見せていたのに、ラストはこれかと言いたくなるくらい呆気ない。
が、ホントにしぶといというか執念深いというか、まだ終わりじゃなさそうだ。
【天眼】スキルがあるお陰で、なんかサナギから羽化する蝶みたいに背中から霊体が抜けかかっているのが見えるんだよな。
問題は微かに瘴気を放ち始めていることである。
成仏する気はさらさらないらしい。
それに気付いたルーリアが緊張した面持ちで話し掛けてきた。
「ハルト殿、些か不味い状態だ」
こういうのは専門家がやはり真っ先に気付くもんだな。
目に見える状態じゃないせいか、他はまだ誰も気付いていない。
「ゴーストになろうとしている」
呆れた執念深さだ。
ただの霊体がゴースト化するのは怨念や瘴気を集める必要があるため短くても日にち単位で時間がかかるはずなんだが。
ゾンビやスケルトンよりもレアな存在なのは、それが理由らしい。
【諸法の理】スキルで確認したから間違いない。
「逆恨みの怨念だけで、よくやるよ」
呆れを通り越して感心すらしてしまう執念深さだ。
魂を引っこ抜く手間は省けたけど後始末を考えると手間が増えたかもしれん。
このまま専門家に任せるか。
「何よ、あれ!」
レイナが前方を指差しながら驚きをあらわにする。
禿げ豚の霊体は肉眼でも見えるほど色濃くなっていた。
「ルーリア、シンサー流でよろしく」
「心得た」
大きく頷いたルーリアは自分の倉庫から取り出したミズホ刀を構えた。
両腕を交差させ両脚の開きはやや広めで前屈みになっている。
この辺が古流なんだなと改めて感じている間にルーリアは魔力を練り上げていく。
「?」
いまルーリアが一瞬だけ怪訝な顔をしたな。
異常事態が発生したのとは違うみたいだし後で確認すればいいか。
魔力を練り上げたルーリアだが、まだ動かない。
禿げ豚が完全にゴーストになる瞬間を待っている。
肉体と完全に分離する前だと霊の残滓のようなものが残る恐れがあるからだ。
そこから再びゴースト化しかねないことを懸念し確実に仕留められる瞬間を待っている。
そして禿げ豚は完全にゴーストと化し己の肉体から完全に抜け出した。
その瞬間をルーリアは見逃さない。
「ハアッ!」
裂帛の気合いとともに爆発的な勢いで踏み込んで瞬時にゴーストとの距離を潰す。
「「「っ!!」」」
留守番組のエリス、ハマー、ボルトの3名が驚愕に目を見開いた。
ガンフォールも真剣な表情で見ているな。
だが、次の瞬間には終わる。
王女やマリア女史には何が起こったのかすら分からないだろう。
ゴーストとなった禿げ豚もそうだ。
強力なアンデッドであるが故に通常の物理攻撃は無効だが、ルーリアの剣には退魔の力が込められている。
練り上げられた魔力によって金色に光る刀身が振り下ろされれば終わり。
それは躱すことができない必殺の剣だからな。
踏み込む瞬間の気合いによって魔力の塊をぶつけられたゴーストは身動きが取れない。
斬る前に詰みとは、よく考えられた技である。
わずかな時間の中で考えている間に金色の閃光が音もなくきらめいた。
はた目には灰色の煙に切り掛かっただけに見えたかもしれない。
だが、ゴーストは真っ二つとなり苦悶の表情で何か叫んでいるように見えた。
切断面から金色の炎が吹き出し瞬く間にゴーストの全身を包み込む。
もがくことすら許されずゴーストは燃え尽き、ルボンダ子爵だった男の魂は完全に消滅した。
ルーリアはヒュンと刀を振るって納刀し倉庫へと愛刀を仕舞い込む。
「ご苦労さん」
「いえ、ゴーストにしては弱すぎたので」
当人は本気でそう思っているようだけど、退魔道シンサー流を伝承するルーリアが強いという方が認識としては正しい。
それよりも疑問を解消しておこう。
「途中で何か引っ掛かることがあったんじゃないか?」
ルーリアも思い当たる節があるのか、すぐに何のことか気が付いたようだ。
「今回は気の練り上げが容易かったのが不思議で……」
何が要因なのかわからないと首をかしげている。
「なんだ、そんなことか」
「ハルト殿は原因がわかるのか?」
どうやら何が原因か本当に気付いていないようだな。
「前にシンサー流の技を使ったのはいつだ?」
俺の言葉を受けてルーリアはハッと表情を変えた。
「レベルアップ……」
「そゆこと」
基礎的なステータスが劇的に上がっただけでなく魔法の制御だって以前とは段違いで上手くなっている。
ルーリアの言う気の練り上げは、魔力の練り上げに他ならないからね。
今のルーリアは年を経ることなく何十年も修行して辿り着く境地にいるようなものだ。
とはいえ光魔法を使わずにアンデッドを消滅させるというのはスゴい。
今度、シンサー流を教えてもらおう。
すでに見た技は再現できるけど剣術の基礎的な技とかも覚えたい。
戦場で生き残るための武術はスポーツに分類される剣道とは根本から違う。
剣道は相手を殺さないことが前提だが古流にその縛りはない。
こっちの世界じゃ甘さを見せれば死に直結しかねないし身につけておいて損はないはず。
国の基本武術にできれば、なお良いのではないだろうか。
そういうのはルーリアの許可を得てからになるとは思うけど。
「それで、あの肉塊はどうするのだ?」
ルーリアが斬ったのは霊体だけだから、その器たる肉体が再利用不可の粗大ゴミとして残っている。
「塵ひとつ残さず焼却処分するさ。月狼の友が、ね」
言いながら月狼の友の面々に視線を送るが反応は鈍い。
「残したら青汁一気飲みが待ってるから」
この一言だけでシャキッと身構えたけれど。
「制限時間は3分だからね」
そう声を掛けつつ砂時計を用意した。
「それじゃ、スタートだ」
砂時計を引っ繰り返すと同時にリーシャたちが機敏な動きで肉塊を取り囲んだ。
「おや」
リーシャたちの罰ゲームへの絶望ぶりに同情したのかルーリアも加わっている。
そして一同は肉塊を結界で覆ってから聖炎を使い始めた。
瘴気にまみれた霊体は消滅しているので聖炎を使う理由がよく分からない。
とはいえ魔力制御の練習になるので、しばらくは口は出さず様子見することにした。
「燃えろ、燃えろ。もっと燃えろ!」
状況が違えば物騒の一言で済ませられないようなことをレイナが口走っている。
そんなに青汁は嫌なのか。
「燃え尽きんかいっ!」
アニスも興奮気味である。
リーシャと双子は青い顔して悲壮感を漂わせているし、ダニエラもノホホンとしたいつもの雰囲気がない。
余裕があるのはノエルとルーリアのみだ。
罰ゲームは俺が考えている以上にヤバいらしい。
読んでくれてありがとう。




