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227 失敗したら……

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「気持ちは分かるが、あんまり虐めてやるな」


 つい止めに入ったのは追撃がありそうな雰囲気だったからだ。


「アニスだって悪気があって言ったんじゃないだろ」


 地獄に仏と言わんばかりに半泣きの目で俺を見てくるアニス。

 ノエルの一言がよほど堪えたと見える。


「だってー、鳥肌の立つようなこと言うのが悪いんじゃない」


 唇を尖らせて抗議してくるレイナ。

 確かに俺も鳥肌は立ったさ。

 あんなのがゾンビ化したらシャレにならん。

 ただでさえ醜さを極めた顔になってるからな。


「まったく……」


 沈静化云々よりも処理方法を考えるべきだということを失念していたせいで思わず溜め息が漏れてしまった。


「アンデッドになる余裕を与えずに始末しようという発想はないのか」


 こういうときこそ魔法で力技だろうに。


「「「「「そんな方法あるの!?」」」」」


 やけに食いつきがいいな。

 縮こまっていたアニスまでもが飛びつかんばかりである。


「下準備は必要だがな」


「どんな、どんな、どんな?」


 レイナが鬼気迫る表情で迫ってくる。


「落ち着けって」


 顔を掴んで押し返す。


「下準備は俺がする。準備できたらお前たちは聖炎を使え」


「それ普通に惨殺になると思うけど」


 レイナが呆れたと言わんばかりに溜め息をついた。

 聖炎は光属性を含むとはいえ普通に炎で燃やす魔法なので、生きたまま燃やすならレイナの言う通りになるだろう。

 逆に死体を燃やすとアンデッド化を防ぐ効果が付随する。

 攻撃魔法として使った場合は通常の炎よりもアンデッドがよく燃えるため聖炎などという名称がつけられているのだ。


「最後まで話は聞こうね」


「えー、何それー」


 不満げなジト目を向けてくるレイナ。


「待て」


 リーシャが文句を続けようとするレイナを止めた。


「準備ができたら、だ。惨殺にはならないんだろう」


 一瞬、レイナの目がパチッと大きく開いたかと思うと肩の力が抜けた。


「準備って何するつもり?」


「闇魔法で魂を引っこ抜くだけだ」


 留守番組がドン引きしてしまった。

 ガンフォールとエリスは割と平然としていたけど闇魔法はマイナーでイメージが悪いからなぁ。


「言っとくけど、ファントムミストだって闇属性を使ってるんだぞ」


 この説明でハマーが呆気にとられた表情になっていたのはファントムミストの魔法を失念していたせいだろう。

 今回も使ったというのに……


 まあ、事細かに説明した訳じゃないけどさ。

 4属性の複合魔法だと言ったら、どんな顔をするのやら。

 アンデッド化を防ぐベリアルでさえ地と光の2属性だし腰を抜かすかもな。


「そんな訳だから体の方はただの肉塊になる」


「トドメは譲ることになるのね」


「魂を抜くのは死んだ後でも構わないが?」


「もう充分よ」


 レイナがそう言うと月影の一同も頷いた。

 全員でボコボコにしたのでスッキリしたってことか。


「で、聖炎を使って抜け殻を燃やせばいいのね」


「灰も残さんようにな」


「つまり、死体を燃やし尽くしてアンデッドになるのを阻止しろってことでしょ」


「そゆこと」


「ならば慎重にやらんとな」


 リーシャがここで会話に入ってくる。


「えー、楽勝じゃん」


「バカを言うな」


 自分の役割が判明したことで楽観的になっているレイナをリーシャが窘めた。


「我々が聖炎を失敗したらどうなるか考えたか」


「ゾンビかスケルトンの出来上がりでしょ? そんなのライトサーキュラーソーで切り刻めば終わりじゃない」


 あくまで楽観視しているレイナをジト目で睨むリーシャ。


「なーによぉ。あくまでも念のためのフォローの話をしただけでしょー」


 その言葉を聞いてリーシャが呆れたように大きく溜め息をついた。

 無理もない。

 闇魔法で引っこ抜いた魂は消える訳じゃないことを失念しているからな。


「奴の魂は引っこ抜くだけだぞ」


 俺がそう言うと、さすがにレイナもハッとした。


「放置したらゴーストに……」


「だから失敗できないんだ」


「ライトサーキュラーソーで始末できないの?」


 恐る恐る確認するように聞いてくる。


「失敗するつもりかよ」


「そんなことないけど」


 だったら聞くなと言いたいが、知っておいても損はないか。


「ゴースト次第だな。煙と似たようなもんだから躱すのが上手い奴もいるだろう」


「うげぇ」


 罰ゲームで青汁を飲まされたような顔をするレイナ。


「だから聖炎で燃やすんだ」


 線の攻撃はかわせても範囲の広い炎はかわしようがない。

 しかも対アンデッド用の魔法だから奴の執念ごと燃やし尽くせば問題なく詰みにできる。


「わかったわよぉ」


 言い方は嫌々っぽいんだが表情は引き締まった。

 初めて挑戦する魔法だが、これなら失敗はないだろ。

 7人がかりで失敗するようなら俺の育て方が間違えていたってことになる。


「いちおう専門家にスタンバイしてもらおうか」


 今まで無言で待機していたルーリアが前に出た。


「いたの!?」


 留守番組の方にいると思っていたのか、レイナが目を丸くしている。


「ルーリアに任せるようなことになったら後で特製青汁の一気飲みな」


 そう言って倉庫から濃緑色のドロッとした液体が注がれた大ジョッキを引っ張り出した。

 もわんとした湯気が出そうな毒々しい色をしている。


「「「「「うっ……!」」」」」


 ラミーナの面々は臭気から味の想像がついたのか顔を引きつらせて鼻を押さえていた。

 いい鼻をしているのも考え物だな。


「心配しなくても毒じゃないぞ。むしろ健康的なドリンクだ」


 疑わしいと言わんばかりの視線が突き刺さる。


「しょうがないな」


 俺は溜め息をついてから青汁を飲み始めた。

 ゴクゴクと飲んでいくが濃縮されているせいで喉越しは良くないしハッキリ言ってしまえば不味い。

 味は全然違うが飲むヨーグルトにインスタントコーヒーを入れたのと同等レベルかな。

 我慢すれば飲めなくはないというところだが、それを表に出すことはない。


「マズい! もう一杯」


 ジョッキを前に突き出して言ってみた。

 言ってみると感慨深いものがある懐かしの台詞だ。



「不味いんやったら、なんで飲むねん!?」


 信じられないものを見たと言いたげな目をしたアニスがツッコミを入れてきた。

 フハハ、様式美というやつだよ。


 元ネタを知らない相手に言っても理解はしてもらえんだろうがな。


「体にいいからに決まっている。不味さは一級だが栄養は特級だ!」


 ドヤ顔で力説してみたが、ラミーナの面々からは嫌な顔をされて終わりだった。

 そんな中で俺の服の裾がクイクイと引っ張られた。


「ハル兄、飲んでみたい」


 ノエルである。

 チャレンジャーだな。


「不味いぞ」


 平然とした顔でコクコクと頷かれた。

 覚悟の上ならということで小さめのコップに半分くらい入れたものを用意した。


「あかんて、やめとき!」


「地獄の味よ、それ」


「人の忠告は聞くものだ」


 アニスだけでなくレイナやリーシャも止めにかかってくる。

 たが、ノエルは気にすることなく俺からコップを受け取るとグイと飲み干した。


「マズい。もう一杯」


 真似するんかい!?

 芸人のノリでツッコミ入れるところだったよ。


「ノエルが飲めるなら罰ゲームにはならんかもな」


 ラミーナの面々が激しくうなずくが逆効果だぞ?


「たまには優しい罰ゲームもありってことで」


 その言葉にリーシャたちはガックリと膝をついた。

 失敗するつもりかよ。


読んでくれてありがとう。

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