226 しぶとさだけなら超一流
改訂版です。
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防御力強化の魔法をカットした。
ボーナスタイムが終わればベアボアよりは上という程度の防御力しかない。
再生する方は残したが、これもダメージを負えば寿命を削って再生することになるだろう。
「負け惜しみと思うんなら試してみるんだな」
「ザレゴドヲッ」
自分が頭脳派だと思い込んでいる勘違いくんはすぐに引っ掛かってくれるので楽だ。
ここで嘲笑するように笑みを浮かべてやるだけで……
「プギッ!」
キメラ豚が怒りをあらわにして胸を叩くドラミングを始めた。
鳴き声が豚で習性はゴリラってのはどうなんだ?
ずっと蹴られているだけだったので今更感も拭えないどころか滑稽ですらある。
「そういうのいいから、さっさと来いよ」
レイナはうんざりだと言わんばかりに挑発した。
「せやせや、弱い奴ほど派手に威嚇するもんやで」
アニスも容赦がない。
キメラ豚がドラミングを中断したかと思うと憎悪の視線を向けてきた。
「大勢殺してるくせに殺気もまともに放てんとかダメ過ぎるやろ」
「ゴロズゴロズゴロズゥ─────!」
「能書きはええ」
言いながらアニスが、とっとと掛かって来いと手でジェスチャーした。
「プギィ───ッ!」
吠えると同時にアニスに向かって跳躍。
空中で何度も前転している動きがゲームっぽい。
アニスの間合いへ入る前に着地し回転の勢いを突進力に変えつつ右の拳を繰り出してきた。
「グラエッ!」
足より腕の方がゴツいから攻撃としての選択は間違いではない。
当たればの話ではあるが。
とはいえ、幻影魔法で見せている留守番組には鋭い攻撃に見えたのだろう。
クリス王女などは思わず危ないと叫んでいたしな。
あれに反応できるなら武術の素養はありそうだ。
で、キメラ豚の攻撃がどうなったかというと奴の右腕とアニスの左脚が交錯する形になっていた。
ゴキンッ!
何かが折れる鈍い音がはっきりと聞こえた。
キメラ豚の拳はアニスの背後にまで伸びアニスの爪先はキメラ豚には届いていなかったが。
「プギャ─────ッ!」
キメラ豚が絶叫しながら飛び退った。
奴の右腕は外側にあり得ない形で折れ曲がっている。
アニスが覆い被せるように蹴って肘をへし折ったのだ。
「プギャー! プギャー!」
醜く絶叫しながらのたうち回っている。
さすがに【痛覚耐性】の上限超えたのか?
いや、防御力強化をカットした反動で一時的にスキルが使えなくなってるみたいだな。
「これでわかっただろ。負け惜しみを言っていたのはどっちだったか」
「ヴルザィヴルザィヴルザ─────ィ!」
涙と鼻水と涎を垂れ流しながらキメラ豚は立ち上がった。
心持ち右腕が治りかけているが代償を支払ったのはひと目で分かった。
奴の頬が痩けていたからな。
「ゴロズゥ……ゴロズゥ……ゴロズゥ─────!」
「さっきもそんなこと言ってたじゃないかよ!」
レイナが呆れたように吐き捨てた。
「できもしないことをできると思い込んでいる奴ほどみっともないもんはないぜ」
そして安い挑発に嘲りの笑みを乗せる。
「プギィッ!」
嘲笑されたキメラ豚が秒で激高し攻撃目標をレイナに変更した。
ただ、攻撃の方法はというと……
「ジネェ─────ッ!」
ワンパターンとしか言いようのない跳躍からの突進&前転である。
自国の将軍を筋肉しか能がないと評していた男の攻撃パターンかと思うと失笑ものだ。
どう考えても、コイツの方が脳筋度が高いんですがね?
「お、今度は懐に飛び込むのか」
まるっきり同じという訳ではなかったようだ。
キメラ豚は回転の勢いをそのままにレイナに向かって左手を振り下ろす。
「脳筋な上にバカなんだな」
ついさっきアニスに伸ばしきった腕をへし折られたばかりだというのに大技を繰り出すなど狙ってくれと言っているようなものだ。
せめて手刀は瞬間的に出すとか工夫しろよと言いたい。
いずれにせよレイナは軽く見切るだろうけど。
実際、回転する手刀をレイナは面倒くさそうに半身になって躱した。
直後に軽くジャンプしながら膝を振り上げる。
蹴りと言うよりは当てにいった感じだ。
ボギッ!
レイナの膝はキメラ豚の左上腕を直撃し、あらぬ方向へと腕を曲げる結果となった。
「お、ちょっと勢いがつきすぎたか」
キメラ豚の左肩関節も外れている。
「プギャンッ!」
豚なのか犬なのかと言いたくなるような悲鳴を上げたせいでツボに入りそうなんですが?
こんな場所で笑い出したら変人として認定されかねないというのに。
「プギッ! プギッ! プギィッ!!」
あ、いかん。タイミング良すぎて吹き出してしまいそうだ。
『くー』
ヤバいと思った瞬間に霊体化しているローズが現れた。
城内のお掃除タイムが終わったので護衛をシヅカ、ツバキ、ハリーの3名と交代して様子を見に来たらしい。
『くっくー』
どうどうって俺は馬か。
まあ、夢属性の精霊獣にかかれば落ち着かせるのはお手の物ってことで吹き出し笑いはせずにすんだ。
『サンキュー、ローズ。皆にドン引きされずに済んだ』
『くーくぅくっくー』
どういたしまして、か。
あれ? 今日はやけに大人しくないか?
いつもはバイオレンスな状況になったら真っ先に鉤爪シャキーンで暴れたがるのに。
『もしかして調子悪いのか?』
そんなことはないと思いつつも聞いてしまう。
『くうっくーくーくっくくぅー』
今宵は復讐者のための宴なり、ですか。
えらく状況に酔ってらっしゃいませんかね。
なんにせよ、空気を読んで観戦するだけって言うのなら俺が口を挟む余地も必要もない。
さっさとキメラ豚を始末して次に行こう。
「ねー、ハルトォ」
レイナが怠そうに呼びかけてくる。
「どうした?」
「これ以上は惨殺になっちゃうけど続けていいのぉ?」
俺がローズと念話で話している間にキメラ豚は立つのがやっとの状態になっていた。
股関節も膝関節も壊れているからな。
腕は両方ともジグザグに折れ曲がり醜いオーク面はさらに醜く腫れ上がっている。
交代しながら一発ずつ入れた結果がこれだ。
「雑魚のくせにしぶといなんてもんじゃないだろ」
強欲さが諦めの悪さとなって意地で立っているだけなんだろうけど。
「そんなこと言われても知らないわよ」
「往生際の悪さだけは超一流だな」
月狼の友の面々がウンザリしたように頷いている。
「「蹴っても殴っても立ってくるんだよ」」
双子が辟易した感じで訴えてくるが、それは全員が一発入れるまでは死なれちゃ困るってことでトドメを刺さないようにした結果だからな。
「こういう奴は単に殺してもアンデッド化するんだよなぁ」
出来たてほやほやのゾンビとか嫌すぎる。
分解魔法で体を消滅させてもゴーストになるし。
「嫌やわぁ」
寒気がしたのかアニスがブルッと身震いした。
「今でさえ醜い肉塊でキモいのにグチャグチャなアンデッドになったらキモすぎて夢に見そうやんか」
リアルに想像しすぎだろう。
「ちょっと、そういうデリカシーのないこと言わないでよ!」
レイナが嫌そうに顔をしかめて文句を言えば残りの面々もしきりに頷いて同意する。
「そうですー」
「「非常識だよ」」
「同感だ」
ダニエラも双子もリーシャも口々に抗議した。
「アニス、ダメ過ぎ」
「ノエルまでかいな!?」
全員の糾弾にアニスはガックリポーズで撃沈した。
読んでくれてありがとう。




