225 蹴球にあらず
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
ダニエラにパスカットされた双子たちにフォローが入る。
「ホラ、パスや」
アニスがキメラ豚を双子たちに向かって蹴り出した。
「「オッケー」」
瞬時に立ち位置を変更しパスコースを挟むように半身で待ち構えている。
何か大技を狙っているようだ。
「「ラストパス、上に行くよぉ」」
ノエルに予告した。
他の部屋と違って謁見の間の天井はやたらと高いことから双子たちは空間を立体的に使おうというのだろう。
「ん、わかった」
ここまで来るとアニメの世界のサッカーだが、こっちの世界だとレベル次第でリアルにできてしまうんだよな。
双子たちはキメラ豚を両サイドから交差するようにハイキックを見舞う。
「「ツインズシュートォ!」」
どこが?
ボールを挟み込んで潰すような蹴り方をしてるし、そもそもノエルへのパスだったはず。
そう思っている間に双子は蹴りを振り抜いた。
次の瞬間、キメラ豚は高速でひねり出され激突する勢いでもって天井へと飛ばされる。
ホントにアニメの技みたいになったよ。
くどいようだがシュートじゃなくてパスなんだけど。
まあ、ツインズパスじゃ語感が微妙だから言い換えたんだろう。
一方でノエルはキメラ豚の飛ぶ角度を見極めてから跳躍したかと思うと一瞬で追い抜き天井付近へと至る。
ボールを待ち構えて──
「オーバーヘッドアタック」
ボソッと呟くように言いながらキメラ豚を真下に向けてオーバーヘッドキックで蹴り込んだ。
技名が微妙に違うが、それで思い出した。
セパタクローというカゴみたいなボールを使って足でやるバレーボールみたいな球技があったのを。
ルールとか全然知らんけどね。
動画で見て遊びの要素として取り入れたのかもな。
ハマーがこの場にいれば復讐するつもりがあるのかと言われそうな気もするが、それでキメラ豚が屈辱を味わうならってことだと思う。
当人にそれを感じる余裕があるかどうかは不明だ。
少なくともノエルの決め技に対応できずにに床に叩き付けられていた。
普通なら床に穴を開けボールが破裂してもおかしくない威力だったのだが、そうはなっていない。
謁見の間には結界を展開しているから簡単に破ることはできないし、敵の防御力は事前に上げてあったからな。
「プギャンッ!」
顔面から突っ込んだせいか、まるで豚と犬を混ぜ合わせたような悲鳴だ。
「それにしても耐えるじゃないか」
神経まで強化したつもりはないんですがね?
それで鑑定してみたら、いつの間にか上級スキル【痛覚耐性】を獲得していた。
奴隷で人体実験して己はリスクを回避してきたような奴が持てるようなスキルじゃないんだが……
鑑定結果の詳細を見てみるとスキルは謎ドリンクで変身した際に獲得したみたいだ。
「往生際の悪い奴はしぶといねえ」
それとも悪運が強いと言うべきか。
まあ、そういう感想を抱けるだけの余裕があるからだけど。
力の差は歴然。
防御力に高下駄を履かせても攻撃力はあのサイズの魔物の範疇を出ていないのは明らか。
それ以前に反射神経は元の禿げ豚のままだから結果は推して知るべしだ。
故に幻影魔法を使って待っているガンフォールたちにもノエルたちの戦いぶりを見せている。
最初は何事かと慌てふためいていたが、すぐに俺の仕業だと気付いて落ち着いて映像を見るようになった。
「陛下、聞こえていますか?」
エリスは何か聞きたいことがあるようだ。
「なんじゃらほいほい」
返事の声を風魔法に乗せて送り込む。
テレビ局が遠い場所の中継をしているようなタイムラグができるが仕方あるまい。
転送魔法を使う手もあるが魔力のコストがよろしくないのでパスした。
それはそうと何故か向こうの面子が驚いている。
俺がすぐに返事をするとは思っていなかったようだ。
驚いていないのは護衛のつもりで残しているローズとルーリア、それにガンフォールだけだ。
「彼女たちはいつの間にあそこまで……」
質問が尻すぼみになっていくのは中継映像のインパクトのせいだろう。
まあ、最後まで聞かなくても強くなったのは何故かだということはわかる。
「俺が直々に鍛えたからな」
エリスにしては珍しく呆然とした面持ちでゆっくりと頭を振っていた。
巨人兵を倒してきたことも含めて信じ難いというところか。
そういやノエルたちの本当のレベルは知らないんだっけ。
「あー、ギルドカードに表示されるレベルは控えめになるようにしてるから」
「は!?」
エリスが素っ頓狂な声を出して驚くだけあってハマーや王女たちも驚いている。
「単純な仕組みの魔道具だから誤魔化すのは難しくないぞ」
そう言うと驚いていた面々は絶句していた。
「俺たちは全員レベル100超えだからさ。騒がれちゃ面倒だし、しょうがないだろ?」
「「「「「なっ!?」」」」」
「だから言ったんじゃ。ハルトなら大丈夫だとな」
ガンフォールはさすがの落ち着きようだ。
「そんなレベルの人が実在するなんて……」
ようやく復帰してきたエリスがどうにか声を絞り出すように呟いた。
「あー、この話は内緒でな」
こんなやり取りをしている間もノエルたちはアタッカーを変更してパス回しを続行している。
「彼女らで100を超えておるというなら、ハルトは一体……」
ふと、ハマーがそんな疑問を口にした。
「まさかの200超えか!?」
それには答えない。
桁が違うなんて知ったら、どんなことになるやらだもんな。
「そろそろアタック役が一回りするか」
これは単なる独り言なので留守番組には送らない。
とにかく、アタックを決めるとスッキリさんに変貌する様子を見せるのみだ。
それにしてもこの程度で溜飲が下がるなんて皆はサッパリしてるよな。
俺なんて大学時代の元カノ事件とか卒業後の遺産がらみの時なんかは徹底して相手を潰したっていうのに。
とはいえ、スッキリしたから許しますとはならない。
段ボール野郎に殺された大勢の人たちが納得しないだろう。
そうこうしている間にアタッカーは最後に残ったレイナの番になっていた。
「うらぁっ!」
パスが飛んできて胴回し蹴りを入れるとキメラ豚の体がくの字に折れ曲がり止まった。
「ギロチンヒールクラッシュ!」
なんか厨二病な技名を叫んでますよ。
キメラ豚の喉に踵を引っ掛けてそのまま床へ叩き落とした。
ギロチンとは言ったが首は千切れない。
「プギェッ!!」
短い悲鳴を発した後、全身を痙攣させて脱力した。
失神しただけで死んではいない。
魔法で水をぶっかけると、すぐに目を覚ます。
「ゲッ、プギッ、ゲッゲッ」
咳き込んで咽せているところを見ると潰れた喉は再生し始めている。
そうなるように魔法を掛けているから当然なんだが。
でなきゃとっくに死んでるよ。
「ギザマラッ、ィイギニナルナ!」
再生に回す生命力が限界に近いらしく、まともに喋れなくなっていたがね。
「ワジガ、ボンギヲダゼバ、ォマェラナドッ!」
ノエルたちの攻撃に耐えられたのが自分の力だと思い込んでいるとか、おめでたすぎる。
「やれやれ、遊ばれていることに気付かないとかバカなのか?」
「ゴノッ、ワジニムガッデ、バガダドッ」
一丁前に憤慨してるね。
「ああ、バカだな。早々に決着がつくと困るから貴様を魔法で守っていたことにも気付いていないだろうが」
「マゲォジミヲォッ!」
口から血を流しながら言う台詞じゃないよな。
読んでくれてありがとう。




