224 禿げ豚が変身した
改訂版です。
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小瓶の中身をあおった禿げ豚が膝をついた。
「うぅっ……ぐっ、がっ!」
喉を胸を掻きむしり両目は血走って今にも飛び出しそうなくらい見開かれていた。
「ぐおぅ、おっ……ごっ、ぐはっ!」
涎を垂らすに任せていた口からは血が流れ始める。
「なあ、これ死んでしまうんとちゃう?」
アニスが「アカンやつや、これ」と言いたげな目で俺に聞いてきた。
「死んでしもたら意趣返しできへんやん」
懸念したくなるのもわかる状況だが、こういうタイプは自ら死を選んだりはしない。
普通は痛いのや苦しいことさえ回避するんだろうけど、あの謎ドリンクは保険で持っていた未完製品というところか。
「無敵とか言ってただろ」
そのために奴隷を使って人体実験してきたんだろうしな。
「そないなこと言われてもアレ見たら……なぁ」
顔をしかめて気持ち悪そうに奴を見た。
服毒自殺を図ったのかと思うくらい顔色をドス黒くさせて表情を醜く歪ませていく。
「マジで大丈夫?」
レイナも気持ち悪そうにしているな。
「よく平気で見ていられるわね」
グロ成分が薄いからね。
それと昔馴染みから色々と教わった身からすると、こういう変身の仕方もあるよなという心境でいられるのも大きいとは思う。
変身するのに苦痛を伴うヒーローのアニメとか真の姿へ変身するのに時間がかかる昔の特撮とかね。
コイツはヒーローじゃなくてヒールなんだけど。
「死にはしないさ。変態中なんだとよ」
鑑定しても[変態中・25%]って表示されるくらいだ。
「なんや、それ。サナギかいな」
「変化はもっと高速だけどな」
「せいぜいパワーアップしてくれることを期待して待つとしよう」
あれだけ自信満々だったんだから巨漢の将軍よりは強いだろう。
「本当に強くなるんでしょうね」
レイナは疑り深いな。
「どれだけ強化されるかは変身後のお楽しみってことにしておけ」
「期待外れの時はタコ殴りにして終わらせればいいさ」
「当然よ」
お仕置きだと意気込んだところでお預けになったせいか相当に気が立っている。
もうちょっと我慢してくれよと思っているところにリーシャがスッと寄ってきた。
「大丈夫なの?」
「何がだ?」
「魔物の力を手に入れたとか言ってたでしょ」
謎ドリンクの効能が気になるのか。
「だから変態しているんだよ」
「体が魔物化しているってことよね」
確認するように聞いてくる。
「見ろよ、アレ」
アゴで段ボール野郎を指し示す。
「え? うわぁ……」
ちょうど禿げ豚の面が本当の豚のように変形していくのを目の当たりにしてしまったリーシャが顔をしかめる。
「色々ミックスしているようだけど、頭はオークで間違いないな」
「体はオークっぽい感じはせえへんけど膨張してるで」
アニスの言う通り奴の体は服を引き裂いて大きくなっていく。
ただ肥満体をそのまま膨らませた感じではなく筋肉を隆起させた姿はゴリラを想起させた。
こちらの体色は茶褐色で毛もないけどな。
「ちょっとはマシな感じになってきたじゃない」
禿げ豚の変わりようにレイナのイライラも少しは収まったようだ。
「ぞの……よ、余裕ぐわ……死を、招く……」
完全にオークの顔になった禿げ豚が赤一色に染まった目を向けてきながら呟き──
「プギー、プギー、プギー」
と血反吐まじりに鳴いた。
どうやら本人は笑っているつもりのようだが、そんなに可笑しいのかね。
変態はまだ終わってないから痛みもあるはずなんだが。
ひっきりなしにグシャグジュと気持ち悪い音がして肉が裂けるだけでなく明らかに骨が折れ砕ける音もしている。
狂気にとらわれつつあるのかもしれないな。
それはともかく……
「どっちが余裕なんだか」
変身中を狙われるとか考えなかったのだろうか。
特撮番組ならとっくの昔に正義のヒーローたちと戦ってるっての。
こちらとしては少しでも強くなってくれるなら好都合なので待ってるだけだ。
「プギイイィィィ────────!」
人間とは思えない絶叫。
次の瞬間、禿げ豚だったそれは急激に大きくなり最終的にベアボアより一回りデカくなった。
「「ふわー、巨大化だー」」
双子たちがちょっと驚いた感じで目を丸くしている。
オークにしてはデカすぎなのは間違いないが特撮番組の諸々が馴染み深い身からすると微妙なところではある。
「さて、人間をやめて何になったんだ?」
鑑定してみると……
[人工キメラ・オークコング]
と出た。
オークの頭にゴリラ系の魔物の体型だからか。
体毛はないけど、上半身の大きさに対して下半身は短めのシルエットだけ見たら誰もが連想するくらいゴリラだ。
ただ、何処の国の言葉かまでは覚えてないけどコングは大型の類人猿を指す名称ではなく王様って意味だったはず。
オークキングのダジャレか?
魔物のネーミングって例の世界を管理する神様たちのシステムがやってるんだろうけどセンスが微妙だ。
まあ、それよりも今は目の前のキメラ豚の相手をしないとな。
「ブヒヒヒヒ、待たせたな」
おや、豚のように鳴くことしかできなくなったのかと思ったんだが喋ることができるようだ。
自我を失ったのでは復讐の意義も大きく損なわれてしまうからな。
「ふわぁ、ようやくか」
とりあえずアクビをしてから応対してやる。
「待ちくたびれたぞ」
「ブッ、減らず口を! ブヒィ」
「お前が待たせたって言ったんじゃないか」
「おのれ! ブヒィ」
「ところで王になるとか言ってたが、その姿じゃ無理じゃね?」
「なんだと!? ブヒィ」
「どう見たって人間じゃねえだろ、その醜い姿は」
「貴様っ! ブヒィ」
魔物化の弊害かブヒブヒとうるさい。
「冒険者ギルドから討伐対象にされるか他国から戦争を仕掛けられるか、どっちだろうな」
それ以前に今宵で消えてもらうがね。
「ブヒヒッ、冒険者など無敵のワシの敵ではないわ」
そういうことは亜竜に勝ってから言えよ。
「戦争も同じこと、ブヒッ。巨人兵ですべて返り討ちにして滅ぼしてくれる! ブヒィ」
「あー、巨人兵ね。これのことか?」
残骸の一部を放り出してやる。
「プギィ─────ッ!」
ただでさえ醜い面を憎しみに歪めて更に醜くなったキメラ豚が吠えた。
「楽に死ねると思うなよ! ブヒィ」
「おっと、貴様の相手は俺じゃない」
俺と入れ替わりでノエルたちがキメラ豚を包囲した。
「怖じ気づいたか、ブヒヒヒヒィ─────!」
いちいち癪に障る奴だ。
「女子供に無敵化したワシが倒せるものか! ブヒィ」
「無敵無敵って言うけどさ、どう見ても雑魚なんだよね」
レイナが嘆息する。
「同感や、せめて亜竜クラスの強さは発揮してや」
アニスが便乗して挑発した。
「プギップギイィィ─────ッ!」
それしか知らんのかと思っていると……
「吠えてる暇があったら、かかって来い」
キメラ豚の背後に回っていたリーシャが挑発した。
奴は振り返り様にショルダータックルの構えで突進する。
大方、リーシャの背後にある壁へと叩き付ける算段なのだろう。
「甘い」
リーシャがタックルなどものともせずにキメラ豚を蹴り飛ばした。
「プギッ!」
防御力を強化してあるおかげで破裂することなく勢いよく蹴り飛ばされるキメラ豚。
大きさはまるで違うがサッカーボールのようだ。
「ナイスパス」
レイナがダイレクトでボレーキックを決める。
「パスコース変更ですー」
膝蹴りを入れるダニエラ。
「「あー、待ってたのにー」」
頬を膨らませる双子たち。
もはやゲーム感覚なのは一撃で終わらせるなど勿体ないと考えているからだろうか。
本気だが全力ではない蹴りでパス回しが続く。
蹴られるたびに鳴き声がするだけで反撃しようとする動きは見られない。
キメラ豚の体が壊れるか心が折れるか、果たしてどちらが先かな。
読んでくれてありがとう。




