223 そして禿げ豚だけが残った
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
逃げ出した連中はもっとも大きな扉に殺到するが……
「なっ、何故だ!? 扉に近づけない!」
謁見の間は結界で封鎖したからな。
誰一人として外へ逃げ出すことができずにいる。
「そんなバカな!?」
「ここから出せー!」
体当たりで突っ込んだバカは思いっ切り弾かれて後ろの何人かを巻き添えにしていた。
「近衛部隊は何をしている!?」
今度は他力本願か?
「早く助けに来い!」
シヅカ、ツバキ、ハリーの3人が手分けして城内を回っている中を抜けてこられる訳ないだろ。
メタルワイヤーで張り巡らせた監視網のお陰で城内の様子は手に取るように分かる。
奴隷は逃げられないから動きがないが、他の連中は城内を駆け回っていた。
もちろんこの場にいる王族や貴族連中を助けるためなどではない。
もともと忠誠心とは縁遠い連中だ。
城内の奥まった場所にある謁見の間に来ようという奴は誰もいない。
とにかく逃げることしか頭にないようで大混乱に陥っていた。
中には財宝をくすねてずらかろうと考える輩もいるようだが、そこにはシヅカが待ち構えている。
末路がどうなるかまで考えるまでもない。
「ん?」
謁見の間で逃げ惑う貴族どもの一部が奥の通路へ逃げ込もうとしている。
奥は王族のプライベートスペースなんだがお構いなしだな。
脱出できても後で処断されるという頭は働かないようだ。
「どうして通れないんだ!?」
結界で塞いでいるからだよ。
それ以前にここは地上3階だぞ?
窓から飛び降りることのできる身軽さなどない連中には行き止まりも同然なんだが。
まあ、バラバラになると面倒なのでここから逃がすつもりはないけどね。
「それじゃあゴミ掃除を始めようか」
「あ、ハルトはん」
俺の呼びかけにアニスが待ったをかけた。
「ん? どうした」
「雑魚はもうお腹いっぱいや」
逃げ惑う連中を見てウンザリしたか。
他の面々も同意見のようだ。
「わかった。それじゃあ本命以外は俺が先に始末しようか」
風属性の魔法を使って外へ逃げようとしていた貴族連中の耳元に俺の言葉を届ける。
全員がギョッとした顔で一斉に振り返った。
一瞬にして謁見の間が静まりかえりしばしの静寂が続いた。
言葉は発することができないようだが表情は雄弁だ。
ダラダラと汗を流し始めたかと思うと徐々に絶望感丸出しの状態に仕上がっていく。
有名絵画の叫びのような姿が見られるとは思ってもみなかったさ。
「誰から消えてもらおうか」
そう言った瞬間に連中の時間が再び動き出した。
大半はスライディング土下座で俺の前に飛び込んでくる。
残りは懐に入れた短剣を手にノエルたちの方へと向かっているな。
命乞いにしろ破れかぶれの特攻にしろ結末は同じだが。
「問答無用」
フィンガースナップを一発。
パチン!
まずは真っ先に飛び込んできて見えない壁にぶち当たり悶絶している奴らをこの場から消し去った。
分解の魔法だ。
「「「「「ひいいいぃぃいぃぃぃぃぃぃ──────────っ!!」」」」」
一瞬で消え去った奴らを目の当たりにして残りのナイフ組が悲鳴を上げた。
だるまさんが転んだをしているのかと思うくらい微妙なポーズで固まったまま。
恐怖に凍り付いた表情をしているが、その瞬間を見逃した土下座組には何のことやらわかるまい。
だから土下座組が顔を上げたところで再びフィンガースナップで指を弾いた。
パチン!
残りのナイフ組が謁見の間から綺麗に消え去った。
「うっ、うわっ、うわぁ────────っ!!」
「ななな何だよ! どうなってるんだよ!」
「たっ、助けてくれ─────っ!!」
口々に悲鳴や混乱や命乞いの声が発せられる。
まさにパニック状態なんだが、これを見て被害者たちは果たして溜飲を下げるだろうか。
とてもそうは思えない。
初めて必死になっている連中と違って被害者たちは何度も追い込まれたはずだ。
生存している者で一番の犠牲者と言えば、ここで奴隷にされた人達だろう。
だから彼等が少しでも納得できる形にしようと思っている。
残った連中はとりあえず殺さない。
が、それを教えてなどやらん。
少しでも死の恐怖を長く味わうがいい。
クズどもを冷めた目で見下ろしていると、膝をついたままにじり寄って来る奴がいた。
げっ、よりによってキモ王子かよ。
コイツ、上から見下ろすと頭頂部が寂しいな。
いっそのこと剃ってしまえば歴史の教科書とかの挿絵で見かける宣教師っぽく見えるんだが。
両手を組んで祈りでも捧げるようなポーズで懇願してくる。
「頼む、殺さないでくれっ!」
「お前を八つ裂きにしたいと思っている人間は数え切れないほどいるぞ」
「金なら幾らでも出す!」
定番すぎて鼻で笑ってしまう。
その金の出所は何処だよ、ああ?
「金だけではダメか!?」
奴隷化した国民から絞りに搾り取った税金だろ。
「ならば宝石も用意しよう!」
覆面で盗賊行為をして得た金品もあったな。
「珍しい魔道具もあるぞ」
宝石も魔道具も盗んできたもんだろうが。
「とにかく何でもくれてやる!」
命乞いしてるのに上から目線とは己が置かれた状況をまるで理解できていないな。
斜め上過ぎて目玉ドコーだ。
「奴隷もいるぞ。言いなりになる人形が選り取り見取りだ」
魔道具の首輪で罪なき人を強制的に服従させておいて自慢げに語るとか本当にクズだな。
組織的に誘拐とか詐欺行為で人を集めているからシャレにならない数の人が奴隷にされていた。
コイツの罪状をちょっと鑑定しただけで雪崩のようにこういった情報が出てくる。
「人形だと?」
「そうだ、人形だ。これだけ女を侍らせているんだ。わかるだろう」
俺が内心で怒りを爆発させているとも知らず、キモ王子は喋り続ける。
「いいぞー、奴隷には俺が仕込んだ極上の女たちもいるからな!」
反吐が出そうになる。
これ以上は聞くに堪えない。
「黙れよ、クズ野郎が」
パチンと指を弾いて他の連中もろとも地下牢に転送させた。
こいつらの処理は後で一括して行う。
ノエルたちが待ちかねているので禿げ豚を片付けるのが先だ。
「さて、残るは貴様だけだ」
ルボンダの野郎を見た。
肥え太った体を震わせているが、恐怖を感じている風ではない。
「くっくっく、ぶわーはっはっは!」
突然腹を抱えて笑い始めたが気でも触れたか?
「まさか邪魔者の始末をこうも簡単にしてくれるとはな」
やけに余裕かましてるぞ。
別に特殊な装備に身を包んでいる訳でもないのにな。
どう見たって将軍と呼ばれていた男より強いとは思えない。
「バカ王子に取り入って将来的に宰相になるという計画は大幅に変更だ」
そんなこと考えてたのか。
しかも自分の国の王子をバカ呼ばわりしてるし。
まあ、類は友を呼ぶと言うし間違ってはいない。
「今日いまこの瞬間からワシが王だ!」
勘違い男ここに爆誕。
「戯れ言もそこまでだ、禿げ豚」
「黙れっ、愚物が!」
禿げ豚という単語を耳にして上機嫌だった段ボール野郎が瞬時に激怒した。
「ワシを愚弄するなど万死に値する」
「この状況を見ても、まだそんなことが言えるのか?」
「筋肉しか能のない将軍を殺していい気になっておるようだな」
奴なりに策を立てていたことに気付いてないとはおめでたい。
「ワシが手に入れた究極の力は人の領域など軽く凌駕しておる」
「あっ、そう」
「数多の奴隷を用いて実験してきた成果をいまこそ見せてくれるっ!」
そう言った禿げ豚は懐から小瓶を取り出した。
コルクの蓋を開けぐいっと中身を飲み干す。
「ブフフフフ、魔物の力を手に入れたワシは無敵だ!」
読んでくれてありがとう。




