220 本気で殴るために
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「それじゃあ本番といこうか」
「いよいよバーグラーの城で決戦ね!」
真っ先に気合いを入れ直すレイナ。
「うちはやるで、うちはやるで」
某獣医漫画のハスキー犬みたいなことを言っているアニス。
メリーとリリーは拳を打ち付け合って気合いを入れ、リーシャは拳を掌に押しつけるようにして闘志を燃やしている
笑顔なんだけど滲み出す殺気が誰にも負けていないダニエラ。
そんな中でノエルだけが嵐の前の静けさのように落ち着いていた。
だが、逆にそれが怖い。
「話の腰を折るようで悪いが、行けるのか?」
ハマーが聞いてきた。
転送魔法を使う際の魔力のことを心配しているのだろう。
まあ、国全域にファントムミストの魔法を使った直後だからな。
「問題ない。ファントムミストはかけっぱにしておけるからな」
維持コストはかからない魔法である。
「それよりも、お嬢ちゃんたちを明日の起床時間までに帰らせないといけない」
連れ出したことがバレたら俺が誘拐したことにされかねない。
間違いなく面倒な事態になることを考慮すれば何を優先すべきかは明白だ。
それに良い手がある。
ベリアルくらいの魔法なら斥候型自動人形を仲介させて発動すればいい。
消費する魔力は自動人形に肩代わりさせれば俺の消耗は必要最小限ですむ。
死体の数が多い場所では魔力を多く消費するが、それは自動人形にバッテリー代わりの魔石を持たせておけば魔力切れも起こさないだろう。
しかも、ファントムミストのお陰で目撃される恐れもない。
「そうだったな」
「それで王城の何処に向かうつもりじゃ」
ハマーが納得したと思ったら今度はガンフォールが細かな行き先を聞いてきた。
「待て待て、今それを調べてるから」
【天眼・遠見】スキルでバーグラー王国の王城を見る。
アラビアンな雰囲気が感じられる城だ。
内情がまともじゃないので観光気分に浸ることもないけどな。
それよりも突入場所だ。
月狼の友の面々の気合いの入りようを思えば正門を堂々と突破するのが良さそうか。
そう思って城門を探していたのだが……
「おいおい」
「なんじゃ、どうした?」
「門番がいない」
そう言うとガンフォールは呆気にとられた顔を見せて嘆息し頭を振った。
「さっさと転送するか」
次の瞬間には到着だ。
先程の転送時に驚いていた面々は再び驚きをあらわにしていたが、大声で騒ぐほどではなかった。
「おまっ、急にっ」
ハマーは文句を言ってきたけどね。
「騒がない、騒がない」
「どうせ声が聞かれんようにしておるのだろう」
「まあねー」
「まったく……」
ハマーの方はそれで引っ込んだ。
が、それとは別に様子のおかしい人物が約1名。
マリアなんだけど、なにやらブツブツ呟いている。
目の前で手を振ってみても無反応。
「あれ、大丈夫か?」
仕方ないのでクリス王女に聞いてみた。
「ちょっと壊れちゃったみたいですね」
ニコニコしながら答えましたよ。
「そのうち勝手に治りますので大丈夫です」
「そういうことなら任せる」
俺がフォローするより、よく知った王女の方が適任だろう。
時間が惜しいしな。
「乗り込むぞ」
「それはええんやけど、ここがホンマに王城なん?」
城門からは少し距離を取って転送したので城壁の向こうの建造物も見ることができるせいかアニスが首をかしげながら聞いてきた。
「どういうことだ?」
「タマネギみたいな屋根してるやん、ここの建物」
「別にタマネギを模してるわけじゃないぞ。こういう建築様式なんだよ」
「せやけど門番がおらんやん」
「転送前に言ったろ。門番がいないって」
「聞いたけど、そない不用心な王城が何処にあるねん」
「ここに」
「なんで、そないな真似するねん」
「許可のない者が勝手に入った場合は無事には帰さないということなんだろうよ」
「うっわ、悪趣味すぎひん?」
「なに言ってんのよ。禿げ豚ならやりそうなことじゃない」
ドン引きするアニスに対してレイナは冷めた目をしてツッコミを入れた。
「せやな。アイツはますます殴り倒さな気がすまへんわ」
「ちょっとぉ、タコ殴りにするつもりじゃないでしょうね」
「当ったり前やんか。八つ裂きにしても足りんちゅうねん」
「あのねえ」
呆れのジト目を向けながら嘆息するレイナ。
「何やねん」
「アンタが怒りにまかせてタコ殴りにしたら禿げ豚はどうなるんでしょうね?」
「あ……」
そんな真似をすれば禿げ豚など一発でスプラッタな状態になるであろうことにアニスも気付いたようだ。
恨み骨髄に徹す状態だもんな。
「アンタだけの獲物じゃないのよ」
「他の人が殴れませんよねー」
レイナの指摘にダニエラが賛同の意見を上乗せする。
「ぐぬぬ」
「誰が殴るかはクジで決めるか」
リーシャが微妙に論点のズレたことを言う。
「全員で殴りゃいいんだよ、本気でな」
そんなことを言ったら一斉に可哀相な人を見る目が向けられた。
話は最後まで聞こうぜ。
「無理に決まってんだろぉ」
真っ先に否定してくるレイナ。
「ハル兄は無理なことを出来ると言ったりしない」
ボソリとノエルが言った。
「うっ」
レイナもノエルには弱いから強気な態度から一転して萎んでいった。
「それでどうやれば全員で殴れる?」
リーシャが聞いてきた。
「俺がこの城の連中に防御力強化の魔法を掛けた」
少なくとも一撃でグチャッとはならないだろう。
「処理済みかいな!?」
反射的にアニスのツッコミが入った。
「城の方も壊れにくくしてある」
「出鱈目にも程があるぞ」
よくわからないがハマーが怒り始めた。
「なんだよ」
「強化なんて範囲魔法じゃないだろう」
魔力に任せて効果範囲を広げる範囲魔法と違って単体を対象にした魔法はリーチが影響する状況だからだろうな。
そのあたりはメタルワイヤーの魔法で極細のワイヤーを城内に張り巡らせて解決した。 城の奥でも目の前と同じような状態で魔法が使えるので魔力の消費は必要最低限に抑えられる。
「裏技があるんだよ」
「な、なに!?」
俺の説明にハマーが目を白黒させているが後は放置する。
「という訳で、諸君は気兼ねなく本気を出せるのだ」
月狼の友の一同に向かって力説した。
「「だけど向こうが打たれ強くなったら今夜中に終わるかなぁ」」
双子ちゃんたちにクレームをつけられてしまいましたよ?
「本気で殴ろうが蹴ろうが一撃で肉片が飛び散るようなことはない」
連続で叩き込めば、その限りではないが。
「ただ、打撃の入れ方によっては骨折くらいはするし、いいのが入れば内臓もただでは済まんな」
「「そうだったんだー」」
「あとな、神経は強化していない」
不敵にニヤリと笑う。
「どういうことよ」
不機嫌そうにレイナが聞いてきた。
「本気で一撃入れたら神経はズタズタになるぞ」
発狂ものの痛みを味わうことになるだろうな。
読んでくれてありがとう。




