219 駐屯部隊、壊滅す
改訂版です。
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「ノエルが不満顔だ」
「なんじゃと、アレでか?」
俺の呟きにガンフォールが驚いたように聞いてくる。
「膨れっ面だろう?」
「何処がじゃっ?」
「まあ、ノエルは表情の変化が乏しい方だからな」
「ワシにはまったくわからんわ」
「ロケットパンチが自分に飛んでこなかったのがご不満らしい」
「向こうの連中には子供にしか見えんじゃろうからな」
「戦闘時にそんなことされたら……」
「どうなるんじゃ?」
「見てりゃわかる」
誰よりも先んじてダッシュ&跳躍し一瞬で巨人兵の腹部あたりに肉薄。
そのまま鬱憤を晴らさんばかりに連打で拳を叩き込めば巨人兵がよろめいた。
「なんだと!?」
「うわっ!」
ハマーとボルトが驚愕し王女とマリア女史は何が起こったのか理解できない感じで呆然としていた。
「ハルトよ、何処まで仕込んだんじゃ」
「陛下、どういうことですか!?」
俺が答えようとしたらエリスに遮られた。
「彼女にはあんな真似はできないはずです」
断言できるほどノエルのこと知らんだろうに。
レベルを低く見積もりすぎだ。
「身体強化の魔法が使えたとしても、あそこまでは……」
そう言いながらノエルの方を見る。
8メートルはあるはずの巨人兵の頭に向けて跳躍し右回し蹴りが入った。
グラリと巨人兵が傾いたかと思うと大きく左脚が浮く。
「「「「「──────────っ!!」」」」」
駐屯部隊の連中が口から魂が抜けかけたような有様で固まっていた。
蹴りを入れただけで巨人兵がバランスを崩したという事実は連中には理解の許容範囲を超えているのだろう。
まだまだ、これからなんだが。
ノエルが振り抜いた蹴り足を戻す格好で踵蹴りを入れると巨人兵の傾きが元に戻っていく。
巨人兵が四股を踏んだような形になったことで大きく地面が揺れた。
遮音結界がなければ派手に地響きの音がしたことだろう。
何故か祖父母に連れられて見に行った大相撲のことを思い出してしまった。
テレビで見るのとは違う生の迫力とダブったのかもしれない。
王女やマリア女史だけでなくエリスも青ざめた顔をしていた。
ノエルは後方の反応など知ったことではないとばかりに宙に浮いたまま拳で再び連打を打ち込み始める。
破壊するより圧倒しているように見せた方が良いパフォーマンスになると考えたのかもな。
現に失神しないまでも腰を抜かしている奴がチラホラ見受けられる。
逃げようとするのもいたけれど月狼の友の他の面々がそれを許すはずもない。
レイナが何か言っているようだが【読唇術】スキルで確認してみよう。
「結構難しいわね。腕が吹っ飛んじゃった」
結果はともかく手加減の練習を意識した発言のようだ。
「あかんわ。うちも首をへし折ってしもた」
アニスが繰り出したフック気味のパンチがもたらした結果である。
「私は顎を粉々に砕いてしまいました~」
膝蹴りなんか入れるからだよ、ダニエラ。
ちなみに、そいつの首も折れてるぞ。
「「これは難しいよぉ」」
「脆弱すぎる」
双子もリーシャも苦戦中である。
戦闘モードになると自分たちが考えていた以上にやり過ぎてしまう。
急激にレベルが上がったし【手加減】スキルがないので、こういう結果になるだろうなと思っていた。
だからこそ練習を言い渡したのだ。
一方でルーリアを参加させなかったのは【手加減】スキルを持っているからだ。
熟練度もそこそこの値だし見学をするだけで感覚は掴めるはず。
そう思っていたのだがレイナたちの苦戦ぶりを見ていると多少は参加させた方が良さそうだ。
一撃必殺にならずに済んでいるのは頑張っている方だとは思うがね。
「ハルトよ、指揮官が動くようじゃ」
ガンフォールの呼びかけにそちらを見ればマイク型の魔道具を手に何か言い始めた。
「ようやく巨人兵を動かすことに頭が回ったか」
「遅すぎじゃな」
既に駐屯部隊の半数以上が戦闘不能となった中で巨人兵がゆっくりと動き出す。
ノエルを囲んで攻撃を集中させるようだ。
それだけで勝利を確信したのか指揮官は哄笑し始めた。
あれだけオーバーアクションなら声が聞こえなくてもそれとわかる。
その程度のことで、うちの桃髪ツインテ天使さんは負けるはずないんですがね。
「お飾り指揮官なんだろうよ」
色々と残念な奴だ。
ノエル以外にもロケットパンチを止めた月狼の友の面々がいることを失念しているし。
連打を叩き込まれている巨人兵はすでに全身ヒビだらけなことにも気付いていない。
ノエルが強制的に四股を踏ませたのは見ていなかったのだろうか。
「「ああっ、危ない!」」
ノエルの背後から近づいた巨人兵が機敏な動作で右手を振るったのを見た王女とマリア女史が叫んだ。
腕の動きは自重を支える必要がないためか、それなりに速く動いていた。
が、岩の手は空を切る。
逆にノエルがその手を取って関節を決めつつ腕を捻り上げながら巨人兵を投げ飛ばしていた。
四股を踏んだ時よりも激しい地響きが伝わってくる。
「腕がもげたようじゃな」
「人体を模した構造にするからだ」
そして巨人兵の目から光が失われた。
「完全に停止したようじゃな」
再起動する気配もない。
「粗悪品もいいとこだ」
「どんな魔道具もハルトにかかれば粗悪品にされてしまいそうじゃがな」
「そうか?」
「そうじゃ」
そんなやり取りをしている間に討伐は完了していた。
巨人兵のあまりの弱さに嫌気がさしたようで月狼の友の面々がやっつけ仕事感を満載にしてさっさと終わらせにかかったからだ。
徐々に慣れてきていたので手加減もされているし、指揮官もマイクを奪われて地面に放り出されていた。
駐屯部隊で動ける奴はもういないので使っていた魔法を全部解除した。
「お疲れー」
ねぎらいの言葉をかけたがレイナが不満そうに唇を尖らせている。
「何か不満か」
「やりづらいったら」
手加減のことか。
「練習だって言っただろ」
「ぶー」
ここまで弱いと不満タラタラになるのもしょうがないか。
「しょうがないなぁ。残りの雑魚は俺が終わらせよう」
王城を除外してバーグラー王国全域にファントムミストを使った。
王城にルボンダの野郎がいるのは【天眼・遠見】で先に確認してある。
ちょうど晩餐会が行われており出される食事を飲み食いしまくっていた。
作法を守りながらも手と口が止まらず食って飲んでをひたすら繰り返しているせいか汚らしく見えるあたり、禿げで豚で臭いという三重苦を抱えている奴らしいと言える。
放っておいても成人病まっしぐらで近いうちに死にそうだ。
「へ、陛下……、ファントムミストを使われたのですか!?」
エリスが愕然とした様子で聞いてきた。
「あ、分かる?」
ノーアクションだったんだけどな。
それでも見たことがある3人からわからいでかと言いたげな目で見られた。
まあ、不自然に霧が発生したからな。
「やたらと広範囲で使ったようだな」
ハマーが呆れている。
「まあねー、バーグラー王国全域をカバーしてる」
「「「なっ!?」」」
エリス、ハマー、ボルトの3名が顎の外れそうな顔で固まっていた。
ボルトは魔法の効果をよく分かっていないながらも効果範囲に驚いているようだ。
王女とマリアは困惑している。
「無茶苦茶じゃのう」
ガンフォールは驚いた様子もなく、ただ呆れている。
「消費の少ない魔法だからな」
植生魔法と同じくらいか。
効果範囲を広げても負担が少ないという共通点がある。
いずれにせよ、この規模での発動は常人だと到底不可能なんだけど。
「制御はそれなりに難しいけど」
「これで例の土葬する魔法も使うつもりか」
かろうじて復帰してきたハマーが確認するように聞いてきた。
「ああ。アンデッド化されたら面倒だし後でな」
土の中で分解してくれるから証拠隠滅にはもってこいの魔法だ。
ただ、ベリアルを使えるほど魔力は回復していない。
という訳で回復待ちの間に王城攻略といきますか。
読んでくれてありがとう。




