217 あれはウソだ
改訂版です。
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「なっ、なんですか!? 一体なにがどうなって!?」
「凄いですねえ。宙に浮いてますよ、私たち」
混乱するマリア女史に対し王女はマイペースに感想を述べる天然ぶりを見せている。
「おまっ、またこんなっ」
ハマーは文句を言おうとして口が回っていない。
ボルトは青ざめた表情を見せながらも深く溜め息をついていた。
まな板の鯉の心境だろうか。
「得意技じゃな」
淡々と語るガンフォールはうちの国民になると言っただけはある落ち着きぶりだ。
一見すると無表情に見えたエリスも似たようなものかと思ったが頬が引きつっている。
転送魔法で瞬間移動した先が見渡す限りの荒野で地上数十メートルの場所だったからだろうな。
初めての経験なら焦りもするだろう。
「静かにせい。騒げば、あそこの連中に気付かれる」
ガンフォールの指差す先には軍隊とおぼしき連中が野営していた。
「っ!?」
慌てて両手で口を塞ぐハマー。
「あれは……」
エリスがそう呟くも表情から察するに何処の軍かは見当がつかないようだ。
装備は統一されているが国旗などは見当たらないからな。
「結界で囲ったから、ここで騒いでも発見されることはないぞ」
使った魔法は光学迷彩と遮音結界。
「でなきゃ非戦闘員を連れて来るわけないだろ」
「ここは何処なんだ? 奴らは?」
矢継ぎ早に質問を重ねてくるハマー。
「まずは降りようぜ。とりあえず敵は確認できたんだからさ」
そう言いながら降下する。
地に足がつくとハマーはヤンキーのような座り方をして大きく息を吐き出した。
「あれ、高所恐怖症だっけ?」
「誰のせいだと思っておるかっ!」
「悪い悪い、そこまでトラウマになるとは思わなかったんだよ」
「お前、本気で悪いと思ってないだろ」
「失敬な。反省はしたぞ、5秒くらいは」
「5秒かよっ!」
「冗談だ。怒れば恐怖も薄らいだだろう」
「くっ」
どうやら事実のようで悔しそうにギリギリと歯ぎしりするハマー。
「そんなことより、どうするつもりじゃ」
ガンフォールが先を促すが……
「あ、あのっ」
俺がとりあえずの方針を話そうとするとマリアの横槍が入った。
「ここは一体どこですか? 急に周囲の様子が変わったと思ったら宙に浮いていましたし」
困惑の色を隠せずにいる。
方針よりも先にその話をしないといけないな。
「国境付近じゃろう。あれはバーグラーの奴らじゃな」
答えたのはガンフォールだった。
転送魔法での移動経験があるガンフォールは端から見当がついていたみたいだ。
「街道も見当たらないような場所に駐屯しているのですか?」
マリアが疑問を呈してくる。
「だからじゃよ。こういう場所の方が国境侵犯を繰り返して挑発するのに向いておる」
「正解だ。転送魔法を使って瞬間移動してきた」
ちなみにゲールウエザー王国側はこの連中を刺激しないよう距離を開けて監視していた。
普通の視力では昼間でも見つけられないぐらい下がっているがね。
バーグラー王国の駐屯部隊からすれば楽なものだ。
休みながら挑発をして頃合いを見て引けば損害を出さずにすむんだから。
守る側は24時間体制で見張らなきゃならないから消耗具合が違う。
ゲールウエザー王国側が攻め込んでこないことを理解しているからこそのやり口だ。
もし万が一にも攻めてきたなら迎撃すればいい。
そのための手札がここにはあるのだ。
「どうするかって話だが、まずはウォーミングアップをしよう」
「なんだよ、それ。間怠っこしい」
レイナが不服そうだ。
「失敗しても問題ない相手で練習できるチャンスだぞ」
「練習て、うちらに何させるつもりなん?」
怪訝そうにアニスが聞いてくる。
「手加減だよ。やり過ぎても誰の心も痛まない相手だろ」
「そんなことでモタモタしていたら敵が巨人兵を使ってくるだろうがっ」
ハマーが吠えるように抗議してきた。
夜陰に紛れて配備されているのが見えていないかと思ったが、ちゃんと見えてたんだな。
まあ、3体もあれば嫌でも目立つか。
「使うだろうな」
「巨人兵は敵に使わせないんじゃなかったのかっ!?」
「ああ、あれね」
確かにそんなことを言った覚えがある。
「あれはウソだ」
「おいぃ─────っ!」
間髪入れずにツッコミとはね。
日本で漫才師をやらないかと勧誘したくなったじゃないか。
まあ、エリーゼ様に聞かれていたら面白がって本当に実行されかねないので我慢した。
「心配無用。雑魚にもならん相手だと言っただろう?」
言いながら月狼の友の面々にハンドサインで準備させる。
「じゃがのう」
ガンフォールが渋い表情で割って入ってきた。
「巨人兵が出てくるような事態になればゲールウエザー王国の国境警備兵も黙ってはおらんじゃろう」
「それも大丈夫」
まずは駐屯部隊を逃がさないように大きめの結界で覆い内部を明るくした。
駐屯部隊の連中が騒ぎ始める。
「なるほどのう。結界で遮断して逃さず介入させず、か」
「ですが、ここまで明るいと警備部隊に気付かれます」
エリスが警告するように言ってきた。
「外からは何が起きているかわからないようにしてあるから大丈夫だ」
俺がそう説明すると苦笑が返された。
「もう一丁」
魔法を使うと駐屯部隊の見張りが腰を抜かした。
慌てて報告に走って、その後は大混乱。
「ハルトよ、何をしたんじゃ。ワシらにかけられた結界のせいで音が伝わってこぬ」
発見されないよう遮音したのが裏目に出ているな。
「連中にだけ見えるよう幻影魔法を使っただけだよ」
「何を見せたんじゃ?」
「数千規模の騎兵が突撃してくるってのは小規模の駐屯部隊には恐怖だろ」
「後ろに大軍勢が控えておると思うじゃろうな」
「盗賊あがりの連中にそこまで考える余裕があるとは思えないが?」
「ふむ、それもそうか。だとしても士気は最低じゃし結果は似たようなものじゃな」
襲われないと高をくくっていたであろう連中だからね。
「それなら逃げ出すのではないのか?」
なんてことを聞いてきたのはハマーだ。
「それはない」
「どうしてそんなことが言える」
俺が断言するもハマーは食い下がってきた。
たかだか百にも満たない部隊が何十倍もの強者に迫られようとしているのだから、そう思うのも仕方ないのかもしれないが。
「巨人兵のことを忘れてるぞ」
巨人兵のお陰で周辺国は攻めてこない。
運用のしづらさから攻めるのは難しいが守りは完璧だと奴らは思っているはずだ。
使わず逃走する訳がない。
少なくとも指揮官はね。
「読みが甘いわ。バカ者め」
ガンフォールに追い打ちをかけられ、ハマーはぐうの音も出せずに撃沈した。
俺はそれを尻目に月狼の友のメンバーに指示を出す。
「ロックカノン用意。まずは威嚇だ」
ロックカノンは大きさと射出速度で威力が変わる岩石を撃ち出す魔法である。
俺の指示を受けてノエルたちはバスケットボール大の岩を次々と作り出していく。
「撃て」
一斉に射出された岩の砲弾に駐屯部隊は完全な恐慌状態に陥った。
相変わらず遮音結界で音は遮断しているので現実味は薄いけど。
散り散りに逃走を図る連中の退路を塞ぐようにロックカノンが撃ち込まれていく。
威嚇なので直撃はしていないが中にはかすっているのもいて吹っ飛ばされ酷い状態になっていた。
同情する余地のない相手なので誰も頓着していない。
「完全にパニックを起こしておるな」
ガンフォールの言う通り連中は右往左往するばかりだ。
指揮官らしい奴がなにか喚く感じで指示しているように見えたが、誰一人として従うような様子は見せていない。
「指揮官が何かするようです」
エリスが報告してきた。
「巨人兵を操る魔道具を出したな」
マイクのように見えるそれに怒鳴るような仕草を見せると、巨人兵の目が光った。
読んでくれてありがとう。




