208 テレビショッピングではありません
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「この国の井戸はロープをくくりつけた桶を放り込むしか水をくむ方法がないのか」
深井戸用どころか普通のポンプすら知られていないとはね。
気圧とか考えなくていいから深さに左右されず水をくめるけど比例して重労働になるのは否めない。
「うむ。下手に魔法使いがおると道具に頼ろうとしなくなるんじゃよ」
困ったときの魔法使い頼みか。
「視野が狭くなる訳ね」
人は困っているときほどそれが顕著になるものだ。
逆にドワーフは魔法が得意ではなく手先が器用で細工物やカラクリに精通しているから道具で工夫しようという考えが先に立つ。
「知らんのじゃから無理もあるまいて」
その割に王女やエリスはここまで驚くようなことがなかったと思うのだが。
いや、タイプは違うが両名とも天然の気があったな。
恐るべし、天然姉妹。
「そこから説明しなきゃならんか」
先は長いようだ。
まあ、彼らの理解が早かったので説明にはあまり苦労はしなかったが。
クリス王女が事前に話を通してくれていたのは大きいと思う。
魔道具でもないポンプで簡単に水が汲み上げられるなど、にわかには信じられなかっただろうし。
それに8メートルを超えると深井戸用のポンプが必要になるという話も気圧の説明をせずにすんだ。
逆に信用されすぎじゃなかろうかと不安になったくらいだ。
王女の方を見るとニコリと微笑まれてしまった。
このお嬢さん、天然なんだか計算してるんだか読めないんですがね。
「とにかく実演してみせよう」
言葉を尽くすより見た方が早いのは人生経験を積んだ大人であれば、よくわかっているはずだ。
にもかかわらずクラウド王や宰相の反応が鈍い。
「上の者が見て理解しないと始まらないと思うんだが」
「確かにそう思いますが、ここでならともかく予言のあった地では……」
あー、ゲールウエザー王国中部地域には地下水脈がないと思い込んでいるのか。
水がなければポンプがあっても汲み上げられないからな。
「中部地域にも地下水は流れているぞ」
「なんと!?」
「それは真ですかな!?」
クラウド王は目を見開ききった状態で固まり、宰相は吠えるように聞いてきた。
「嘘ついてどうすんだよ」
「しかし、今までいくら掘っても水は出なかったですからな」
「人が中に入り込んで掘るんじゃ無理だな。もっと深いから」
「それは……」
宰相が唸りながら眉をしかめ、クラウド王も無念という表情になった。
水脈まで掘る手立てがないという思い込みが利用可能な資源を使う手立てがないという結論に結びついたのだろう。
一方でクリス王女はキラキラした瞳で俺の方を見ている。
マリア女史や護衛組も「賢者様なら解決できて当たり前です」と言わんばかりの顔をしていた。
信頼されているようで何よりである。
「地層しだいだが掘る方法はある」
「おおっ」
「真でございますか!?」
クラウド王も宰相も激しく反応した。
マンガだったら「ガバッ!」という書き文字がコマに入ったことだろう。
「さほど堅くない地層なら簡単な道具で掘り進めることができるぞ」
言われてもピンと来ないようで浮かない顔をされてしまった。
信頼関係を築けていないとこんなものなのだろう。
「それから堅い地層でも掘り進める方法はある」
王族2人は問うことも否定することもしてこなかった。
両者ともに目だけは物凄く知りたいと語っていたのだけど。
信じて期待外れだったら落胆も大きいから方法を聞いてから判断しようってことなんだろう。
「そんなに難しい方法じゃない。魔法だよ」
「「えっ?」」
何か凄い方法なのではと思っていたのかクラウド王と宰相は無防備にポカーン顔をさらしている。
大丈夫か、この国の王族?
「地属性の魔法を使えば穴を掘るのもさほど難しくはないだろ」
特殊な重機を使わなくても魔法を使えば固い岩盤でも穴を掘ることができる。
そう考えるとこっちの世界は素晴らしい。
魔法、万歳だ。
「単独だと深さと岩盤の厚みにもよるけどな」
西方の魔法使いの場合はね。
「困難な場合は何人かで儀式魔法に切り替えて実行すればいい」
ん? 王族コンビが固まってしまっているな。
「地属性の魔法は使い道がないと世間では言われていますから想像だにできなかったのでしょう」
エリスが苦笑しながらフォローしてくれた。
土木工事で地魔法を使おうにも魔力量の関係から難しいのだろう。
それならば、せめて井戸掘りに活用しようという発想は今までなかったんだな。
深く掘るとはいえ細い穴だから魔法使いの負担も少ないのに。
そこまで考えが至る人間がいなかったということか。
故事にあるコロンブスの卵のようなものだ。
もっとも、あの話は後世の人間が別の故事を元にアレンジした作り話という説もあるそうだが。
それ故か日本では比較的有名な話も外国では知っている人の方が少ないと聞いたことがある。
嘘か誠か真実は定かではないし元ネタになった作り話まであるそうだ。
なんにせよ本当の価値がわかっていないんじゃエリスが言うような評価を受けても仕方あるまい。
だが、有効活用できる方法を知った今後は違ってくるだろう。
広く普及していくかは人材の面から考えると微妙なところだけど。
今回の場合、井戸掘りは宮廷魔導師たちにやってもらうつもりだ。
魔法使いのエリートとして国のお抱えになっているのだからできないとは言わせない。
魔導師ABのことを知った後だとエリート意識から来るプライドの高さが弊害になりそうな気はするけどね。
「魔法で穴を掘れ? 何故エリートたる我々が人足の真似事をせねばならんのだ」
こんな感じで拒否されることも充分に考えられる。
ただ、国王の命令は無視できないと思うので表面上は取り繕いながらも手抜きをしたりとかね。
そして後でトラブってしまうと。
俺としては、そうならないことを願うばかりである。
アホな奴が出てくるフラグが立ちませんように。
仮にそうなっても尻ぬぐいは自分でどうぞ、だけどな。
「穴掘りはともかく今はポンプの実演だ」
ということで外に出てきましたよ。
すでに日が暮れて数時間。
空には満天の星と幾分欠けた月が自分たちの時間だと主張している。
昼間と違って地上に届けられる光の何と少ないことよ。
おかげで城の敷地内は至る所で魔道具を用いた明かりが灯されている。
魔道具を使っているあたり、さすがは大国の王城だ。
残念なことに光量は強くないけど。
「明かりを用意させましょう」
宰相がそんなことを言い出すくらい薄暗い。
「無用じゃ」
すかさずガンフォールが止めてくれた。
ただし、その後は俺の方を見てくる他力本願ぶりを発揮していたけど。
とにかくマルチライトの魔法を使っておく。
こっちの方が持ち歩かなくても追尾してくるし明るいし熱くない。
おかげで王族コンビに唖然とされてしまったがスルーした。
いや、それだけではない。
昼間のように明るくしたせいか城内が騒がしくなってきた。
「明るくしすぎたか」
「そう思うなら調節するんじゃな」
「いや、実演するのに必要だから変えないよ」
危なくないと分かれば騒ぎも収まるはずだろうしな。
とにかく、まずは既存の井戸の前に集合だ。
城の敷地内でおいそれと穴を掘るわけにもいかんので、これを改造してポンプがいかに便利かを証明しよう。
深さは普通だったので使うのは普通のポンプだ。
「では、これよりこの井戸をポンプ式に改造する」
そう宣告するとパチパチパチとまばらな拍手が聞こえてきた。
王女が真っ先に拍手したところでマリア女史と護衛組が続いたからだ。
王と宰相も「えっ、するの?」という顔をしながら遅れて拍手してたけどな。
読んでくれてありがとう。




