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206 モブキャラに活躍の場はない

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「なあ、エリス」


「はい、陛下」


 正体を暴露してからエリスは俺の呼び方を改めてきた。

 今まで通りを求めても頑なに聞き入れてくれないあたり相当な頑固さんである。

 決して昔のアニメに出てくる主人公の妹の呼び名ではない。


 そういう現実逃避をしている時点で俺の敗北は明白だ。

 陛下と呼ばれる割に他国民だから命令できないせいだが。

 とりあえず諦めて受け入れている。


「この2人、どうしたんだ?」


「幻影魔法は失われた伝説の魔法と言われています」


 確かに制御は単純じゃないけど、そこまで大袈裟なものじゃない。


「ビットリア姉弟は魔法に精通していますので」


「こんな状態になったと」


「はい」


 冗談かと思ったが、そういう空気は一切ない。


「主よ、申し訳ない」


 しゅんとした感じのツバキが謝ってきた。


「気にするな。俺も知らなかったんだから」


 いま【諸法の理】で検索したら、そういう記述を見つけたくらいだし。


「しかし……」


「ツバキ、お前は悪くない」


 そもそも責任者は俺だというのに必要以上に責任を感じすぎだ。


「どのみち大した問題にはならないさ」


 貴族にはそういう手練手管があるのかもしれないが、その場合は俺が黙らせよう。


「それより、この両名も禿げ脳筋の関係者なのか?」


 エリスはさらっとビットリア姉弟と言ったが、それって奴と同じ苗字だろう。

 推定年齢がアラフォーとなると……


「禿げ脳筋の子供とかじゃないだろうな」


 できればそうであって欲しくないと願いつつも聞いてしまう。


「陛下の仰る通りです」


 最悪だ。

 あの野郎は叩きのめした後でも俺に面倒事を押しつけるのか。

 嫌がらせをさせたら天才的な手腕を発揮するかもな。


「なんで関係者を寄越すかね」


 この場にいない宰相に問い詰めたくなった。


「おそらく詫びを入れさせるためでしょう」


 道理でこのアラフォーたちが俺のことをチラ見してくる訳である。


「そういうのは本人がすべきことだろうに」


「アレは絶対に詫びを入れるような人間ではありませんし」


 アレときたか。

 しかも、ことさら冷たく侮蔑のこもった言い様だったからな。

 よほど嫌な思いをさせられてきたのだろう。


「ということは、この2人はまともなのか」


「ええ。どうしてアレが親なのか理解不能なほどに」


 エリスがそう評するのだから間違いあるまい。

 禿げ脳筋に大恥をかかせた俺の方が恨まれる立場であろうはずなのにね。

 面子を大事にするであろう貴族が身内の不始末を詫びに来るとは些か驚きである。

 この姉弟には少し好感が持てた。


「禿げ脳筋の弟はダメっぽいけどな」


「仕方ありません。アレに心酔していると言っても過言ではありませんから」


 弟は兄を尊敬して止まないが故にそっくりの性格になってしまったようだ。

 外見は背の高さと髪型以外は似ても似つかない兄弟だがね。


「だからお礼参りか」


 いくら怪我を回復させたとしても失墜した名誉までは回復できないもんな。

 とはいえ自業自得なんだけどね。


「逆恨みするとかホント救えないな」


 俺の言葉にエリスは苦笑している。


「まあ、ここに来ている姉弟がまともなのはわかった」


 という訳で、この両名には光魔法でほんの少しだがバフをかけた。


「「誠に申し訳ありませんでした」」


 どうにか回復した姉弟は俺に詫びてくる。


「お許しいただけるならビットリア家はいかような罰もお受けします」


 姉弟の弟が言葉を付け加えた。


「必要ない。罰を受けるべきは本人だ」


 俺が禿げ脳筋を許すつもりはないことを悟りながらもホッと息をつく姉弟。


「その様子だと禿げ脳筋は引退させられたか」


「は、はい。家督は私が継ぎました」


 弟が答える。


「あー、それが不服で禿げ弟はごねているのか」


 国側に抗議すると国家反逆罪で処分されそうというのは理解しているみたいだけど、俺に責任転嫁しようとしている時点で終わっている。


「「申し訳ございません」」


「君らが謝る必要はない」


「父は修道院送りが決定しています。叔父もそうなるでしょう」


 修道院送りとは日本人の感覚で言うところの島流しのようだ。

 事実上の終身刑宣告なのだろう。


 それにしてもゲールウエザー側がここを取り囲むまでは何もしていなかった禿げ弟までも処分しようとしているとはね。

 禿げ脳筋を慕っているだけに後々の火種になると考えたか。

 だから禿げ弟が暴走すると踏んで待っていたと。


「それは正直どうでもいい。問題は駆り出された兵士たちだ」


「彼らは運がありませんでした」


 要するに少なからず処分を受ける訳か。

 外から感じる気配から察するに士気など無いに等しいのだが。


「どう考えても禿げ弟が強引に従わせている連中だろうに」


 巻き添えでとばっちりを受けるなど実に腹立たしい。


「賓客に対して刃を向けた事実が残りますので……」


 まだ抜剣の指示は出ていないので今のところは大丈夫だとは思う。

 が、そんなことになったら俺の罪悪感ゲージが振り切れてしまいそうだ。


「ハルトよ、この両名には刺激が強すぎるぞ」


 不意にガンフォールの注意を受けた。


「刺激だって?」


「殺気が漏れ出しておるわ」


 そのせいでビットリア姉弟が腰を抜かしボルトやハマーも青い顔をしていた。

 ガンフォールは平気なようなので、そこまで酷いものではないと思いたい。


「おお、スマンスマン」


 この状態のままなのは好ましくないので再び光属性魔法で軽くバフっておく。


「ムカつくので禿げ弟だけ潰してこようと思うんだが」


「好きにしろ。どうせ止めてもお主はやめんじゃろうが」


 ガンフォールに溜め息をつかれてしまった。


「あ、わかる?」


「わからんのは部外者だけじゃ」


 姉弟以外の全員に、うんうんと頷かれてしまった。


「ですが、兵士たちのことを考えた上で慎重な行動をお願いしたいです」


 エリスの言うことはもっともだ。

 とばっちりで重い刑に処されるとかシャレにならん。


「要は禿げ弟に指示を出させなければいいんだろ」


「そんなことができるのですか!?」


「俺の魔法を見たことあるのに驚くか?」


「まさか、ファントムミストを!?」


「盗賊相手じゃないんだし殺す気はないよ」


「ですよね」


 ホッと息を吐き出すエリス。


「復讐だとかは考える余裕をなくさせるけど」


 そう言うと苦笑されてしまった。


「まずは喋れなくなってもらおうか」


 フィンガースナップひとつで禿げ弟の頭部を対象にして遮音結界を発動。

 ツバキの展開した幻影魔法で様子は確認できるけど見ただけじゃ何が起きたかはわからないのは仕方あるまい。

 何にせよ喋ることも聞くことも不能となった禿げ弟は兵士たちに命令できなくなった訳だ。


「続いて3日間ほど眠ってもらおうか」


 再び指をパチンと鳴らせば禿げ弟が倒れ込む。

 向こうには予告なしだから兵士たちは泡を食ったように右往左往し始めた。


「えらい騒ぎになってるみたいやけど、ええの?」


 アニスが呆れた目をして聞いてきた。


「向こうへの当てつけも半分あるからな」


 ほぼ全員から、うわぁって顔をされた。


「誰も死なないようにしただろう」


「そうじゃないわよ」


 呆れたと言わんばかりの口調でレイナにツッコミを入れられた。


「こっちの2人が泡吹いてるじゃないの」


 2人というのは姉弟のことだよな。


「ウソだろ?」


 ウソじゃありませんでした。

 穏便に済ませようとしたのに、このザマとはね。


読んでくれてありがとう。

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