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205 面倒事は終わらない?

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


「呼びにきた以外に理由があるのか?」


 怪訝な顔をしていぶかしがるガンフォール。


「タイミングがなぁ」


「話をするのにタイミングなどなかろう」


「王女の報告を受けて話が簡単にまとまると思うか?」


「むう」


「向こうは時間がかかると踏んだから俺たちをこんな場所に押し込めたんだと思うぞ」


 かなり豪華で広い迎賓館ではあるけれど使用人の1人もつけてはいないし。

 下手に情報が拡散しないようガンフォールが断りはしたものの向こうも最初からそのつもりだったのだろう。

 という訳で見張りはいないものの軟禁されたも同然の状態だ。

 そう思わせないだけの広い部屋があてがわれているけどな。


 バスケットボールが2試合同時にできそうなこの部屋には重厚さと上品さを兼ね備えた家具や美術品の数々が置かれている。

 これらは待たされる側に対して国威を見せようという意図が透けて見えた。

 センスは良いが不慣れな者には居心地が悪かろう。

 過剰に豪奢な部屋であれば辟易させられる分だけ心に余裕ができるからな。


 現に月影の面々やボルトが居心地悪そうにしている。

 エリスは元王族だけあって平然としているしハマーも平気そうだ。

 そういや、ガンフォールの親戚だから王族なんだよな。

 忘れてた……


 シヅカは物品の価値とか理解していないからか月影の面々が緊張気味なのを不思議そうに見ている。

 ツバキやハリーはそれすら気にしていないようだ。

 壊しても直せるしな。


「それはそうじゃが」


「それに向こうは魔法使いを使ってここの様子を探ろうとしている」


「なっ」


 大きな声を出しかけたガンフォールだったが、とっさに口をつぐんだ。


「俺がそんな真似をさせると思うか?」


 建物全体に一時的な結界を張り巡らせて外部からの魔法作用を打ち消すようにしている。


「そうじゃったな」


 安堵の溜め息を漏らすガンフォール。


「では来訪者は探りを入れに来た間諜であると?」


「さて、どうだろう」


 この迎賓館には他に客がいないから俺たちに用があるのは間違いあるまい。

 ただ、それがガンフォールの言う通りの連中であるとは断言しきれないんだよな。


「宰相はそういうこせこせした手を使うタイプなのか?」


 俺は逆に問い返す。


「むう、言われてみれば……」


「宮廷魔導師が独断で動いているとも考えられますね」


 それまで口出ししてこなかったエリスが可能性のひとつを提示してくれた。


「ややこしいことにならねば良いのじゃがのう」


 しかめっ面で嘆息するガンフォール。


「晩飯の用意ができたから呼びにきたとか」


 そうであれば面倒がなくてありがたいところだ。

 まあ、晩餐の席は食べることに集中はできないだろうけど。


「やれやれ、お主は本当に食べ物の話が好きじゃな」


 そんな風に言うガンフォールには呆れた感じの目で見られてしまった。


「そうか?」


 どこぞのグルメレポーターみたいに大袈裟な表現で料理を評論したり、グルメ漫画の主人公みたいに知識を垂れ流すように喋ったりもしないのだが。


「そうじゃ」


 ガンフォールの返事に、ほぼ全員が「うんうん」と頷いている。


「ハルトはんは食べ物のことになると目の色ちゃうしな」


「こだわりを感じます~」


「あそこまで行くと執念よね」


「それでこそハル兄」


「「そだねー」」


 コメントしなかったリーシャやルーリアも苦笑していた。


『くー、くぅー』


 よっ、食道楽とかローズには言われるし。


 それがツボったのかツバキも笑いを噛み殺そうとしている始末だ。

 ハリーは着ぐるみだから無表情でいられるけど気配に揺らぎを感じるからツバキと似たような状態なんだろう。

 ミズホ組では新参であるシヅカだけがキョトンとしていた。


 まあ、旨いものを食うために俺が色々と本気を見せ続けた結果だからなぁ。

 特に米は様々な品種改良するほどこだわった。

 餅や赤飯を食べたいし日本酒だって旨いのが飲みたい。


 ちなみにドワーフたちにまで俺の食に対するこだわりが知られているのは様々な料理を披露したからだろう。

 特にカレーライスはスパイスのコクと香りが飯より酒という酒豪たちをも唸らせた。

 同じような反応はオムライスでも見られたな。

 ケチャップの酸味と甘みが織りなす深い味わいが衝撃的だったようで、いまや何人ものドワーフたちが虜になっている。


「ほらほら、バカなこと言ってると向こうサイドに報告されてしまうぞ」


 程なくして来訪者がドアの前に立ちノックをしてきた。

 ガンフォールが俺の方を見るが、対応は任せると視線を返して離れた場所に移動した。


「入れ」


「失礼します」


 ガンフォールが許可を出すと身形の良いオッサンとおばさんのペアが入室してきた。

 どちらもアラフォーぐらいに見える。

 比較的シンプルなデザインだが仕立ての良い服を着ているので貴族の夫婦といったところか。


 オッサンが挨拶してなにやら話し始めたが、俺はガン無視で名前も聞いてはいない。

 エリスの様子からすると特に問題になるような感じでもなかったしな。


「ハルト殿、良いのか」


「何が?」


 ルーリアから声を掛けられたが、すっとぼけた。

 何が言いたいのかは分かっている。

 オッサンがさっきから俺の方をチラ見してるんだよな。


「余計な面倒事は全部パス」


 まだまだ大仕事が控えているというのに禿げ脳筋の一件で気疲れしたからね。

 ここで更に気疲れして本命でも気疲れさせられるなんて勘弁願いたい。

 ガンフォールには上手く立ち回ってもらうことを期待している。

 交渉ごとなら任せて安心、一国の国王ってね。


 いや、俺も国王だけど国家間の交渉とかしたことのない名ばかり国王だからな。

 そういうのは有能な人にお任せである。


「そうでなくても本命の大きな面倒事が待っているんだし」


 それを聞いてルーリアだけでなく俺の周りにいる面々にまで苦笑されてしまう。

 が、そういう空気を許してくれない状況が待っていた。


「ハルトよ」


 不意にガンフォールから声をかけられた。


「どうした?」


「お前の嫌いな面倒事になっている」


 これほど無慈悲な宣告もないだろう。

 勘弁してくれよという表情でそちらを見た。


「ワシにそういう顔をされてもな」


 憮然とした表情で返される。


「で、何事だよ」


「お主が言うところの禿げ脳筋がらみだ」


「嘘だろー?」


 魔法で10年ほど眠らせておけば良かったな。


「本人ではない。奴の弟がごねておる」


 アイツ、弟いたのか。


「一部の兵士を動かして、ここを取り囲んでおるそうじゃ」


 誰かが入ってきたら感知するようにしていたせいで外のことには頓着していなかった。


「あー、いるね」


 外の様子を確認してみると御用提灯が十重二十重……

 などということはないが、それに近い雰囲気で建物を取り囲んでいる。


「兵士だけで数十名ってところか」


 貴族っぽい身形をした神経質そうなジジイがいる。


「ヒョロッとした感じの背の高い禿げジジイが指揮を執っているな」


 コイツが禿げ脳筋の弟だろう。

 動員できなかったのか騎士は見当たらない。


「ん?」


 何故か貴族風のアラフォー男女が目を見開いて固まっていた。


「ガンフォール、その2人どうしたんだ」


「お主が外の様子を言い当てたからに決まっとる」


「意味がわからん」


「気配だけで探り当てたならともかく、弟まで見てきたように話したではないか」


「別にこれくらいの近距離なら俺でなくても──」


「妾にもできるぞ」


「右に同じ」


 シヅカとツバキなら可能なんだよな。

 ツバキはつい最近【遠見】スキルが使えるようになったのだ。

 熟練度が低いので本当の意味での【遠見】はまだ無理だけどな。

 それでも透視に匹敵する以上の使い方ができるから便利だと言っていた。


「この人物でよろしいか」


 ツバキが幻影魔法を使ってキーキー喚いているように見えるジジイを映し出した。

 ジジイのヒステリーを聞きたいとは思わないので音声がないのは幸いだ。


「「うひー」」


「お?」


 アラフォー貴族コンビが腰を抜かしちゃいましたよ?


読んでくれてありがとう。

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