203 治して直す?
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
「随分ト綺麗ドコロヲ護衛ニシテイルノダナ」
「そりゃどうも。うちの子たちが喜ぶよ」
現にアニスやレイナは無表情を装いながらも顔がゆるみかけている。
実にチョロい。
「ソシテ訓練ガ行キ届イテイル」
褒める部分を切り替えることでシノビマスターらしからぬ先の台詞を塗りつぶしておく。
「神ガ注目シテオラレルダケノコトハアルカ」
「褒めても何も出ないぞ」
「気ニスル必要ハナイ。我ハスグニ姿ヲ消ス」
その言葉に月影の面々が約1名を残して色めき立つ。
今度は俺が制したから前に出てくることはなかったが警戒心はビリビリ伝わってくるね。
「そうかい、次はうちの子たちを刺激してくれるなよ」
背後からは逃がすな的プレッシャーが放たれている。
ここは本国じゃないんだから場所を弁えろよな。
禿げ脳筋相手に派手にやった後じゃ説得力はないけどさ。
「ソウダナ。気ヲツケヨウ」
「じゃあな」
「サラバダ」
挨拶もそこそこにシノビマスターが瞬時に消えた。
転送魔法を使ったように見せかけて倉庫に格納したので簡単には正体に気付かれることもないだろう。
「ちょっと、酷くない?」
レイナが憤慨している。
「せやな」
アニスも静かに怒っているという感じだ。
「引っかき回すだけで後始末もせずに逃げるとは許せん」
真面目なリーシャは言わずもがなで、シノビマスターの悪評は鰻上り。
「別にいいんじゃないか」
「なに言うてんねん」
我慢していた感じのアニスが俺の一言でキレた。
「完全に馬鹿にしてるやんか」
「そうか? 禿げ脳筋のあしらい方なんか親近感が湧くけどな」
「そうやないっちゅうねん!」
反論など許さんとばかりにガーッと噛みついてくるアニス。
「アイツに喋らせたら、なに言い出すか分かったもんやないわ!」
ああ、情報漏洩を許すわけにはいかないと言いたいのか。
国名までは言わなかったが俺が王であることは暴露されたし。
これは俺の望んだ形だったのだが知らされていない月影の面々からするとアウトだったみたい。
道理でピリピリしていた訳だ。
日頃から俺がうるさく言ってきたことが裏目に出るとは想定外だった。
反面、教えたことが身についていたことが嬉しくもあるのだけど。
「ちょっと、なんでニヤニヤしてんねん?」
ニヤニヤって……
微笑ましく感じてただけなのに酷い。
「情報漏洩に対する認識が根付いているのが嬉しくてなぁ」
「あれだけしつこに言われたら当然やんか」
「いやいや、そう思えるのが成長してる証拠だよ。アニスは偉いなぁ」
「え、その……、いややわぁ。褒めたかて何も出えへんで」
そう言いながらもキレ気味だったトーンは急降下で顔を真っ赤にして照れていますよ?
「それはともかくとして、後始末はしないとな」
言いながら俺は歩を進め禿げ脳筋の前に出る。
「「「「「!?」」」」」
立ち止まると、周囲の空気が一変するのが分かった。
殺気立つことこそないものの王城組がピリピリしている。
これ以上の追い打ちをかける気なら黙ってはいない、というところかな。
禿げ脳筋も一応はゲールウエザー王国の国民だから当然の反応だろう。
「ガンフォール」
振り返りながら呼びかけた。
「なんじゃな」
すぐ後ろから返事が返されると思ったら俺に歩み寄ってきてくれていたんだな。
他の面々も続いている。
王城組が更にピリつくかと思ったけれど、むしろざわつきが静まりつつあった。
ガンフォールがブレーキになると思われているのか?
「このジジイに治癒魔法を使うつもりだが、どうなると思う?」
「どうもならんじゃろ。此奴も再び暴れることはなかろうて」
「えー、そうかぁ?」
こういう口より先に手が出るようなタイプって条件反射で動きそうなんだよなぁ。
「仮に暴れてもハルトなら軽く捻って終わりではないか」
そう言われてしまうと返す言葉も激減してしまうのだが。
「しつこい奴は嫌いでね。プチッとやりたくなるんだよ」
「……そこは自重せんか」
プチッとの意味を理解するのに多少の間はあったものの止められた。
「しょうがないなぁ」
右腕をさっと払う感じで横に突き出し魔法を使うアピールをしてから地面に光の魔方陣を描く。
「「「「「おお─────っ!」」」」」
まだ本番の魔法は使っていないのに王城組がどよめく。
一方でガンフォールがなにやら考え込んでいる風に見えた。
「どうした?」
「おい、魔法の行使中じゃろう」
俺がよそ見しながら話し掛けてくるのをたしなめるガンフォール。
「飯食いながらでもできる魔法だから問題ない」
ガンフォールは何も言い返さなかったが抗議するようなジト目を向けてきた。
「何だ? このジジイが失禁でもしてるのか」
「そんな訳あるか。見れば分かるじゃろう」
「いや、冗談なんだけど」
「ワシの感じたことは、ここで話さねばならんような大事ではないわ」
「そうなのか?」
「些細な違和感を感じただけじゃ」
「はあ、さいで」
今の言葉で、なんとなくだが見当がついた。
魔法の演出なんて適当にやってるから差があることに違和感を感じたとしても不思議ではない。
俺が魔法を使うのを何度も見ているからな。
まあ、ガンフォールなら暴露しても大丈夫か。
「言っただろ。飯食いながらでもできる魔法だって」
「なんじゃとぉ」
どうやら演出だと気付いたみたいだな。
驚きながらも目がマジかと問いかけてきている。
今も時間を掛けているけど手抜き魔法もいいところだと目で返事を試みるが通じはすまい。
ある意味、手抜きを誤魔化すための演出でもあるし。
え? 普通の治癒魔法なのに手抜きってどういうことかって?
ぶっちゃけ対象に対して優しくない雑な魔法なんだよ。
ズタズタになった全身を短時間で治癒すると激痛は免れないからね。
ゆっくりじっくりなら神経を刺激せずに治癒することも可能なんだけど。
それを考慮せずパパッとやろうとすると──
「ぐおおぉぉぉっ!」
こんな具合に気を失っていようと痛みで目を覚ましてしまうのだ。
痛みの伝達を遮断することも可能なんだけど手抜きだから術式から省いているし。
その分、魔力の消費を節約できるからエコなんだぜ。
雀の涙ほどだけだったりするどね。
「んぎゃあぁぁああぁぁぁあ────────っ!」
普通なら意識不明の重体でもおかしくない状態から一気に治癒するとなると、常人には耐えきれないだろう。
ジジイの野太い悲鳴も聞きたくはないので、速攻で終わらせる。
「ぎひっ」
禿げ脳筋は治癒の完了と共に再び失神した。
相手をしなくて済んでラッキーだとか思っていたら周囲が騒がしい。
「マジか」
「嘘だろ」
「夢でも見ているのか」
「いや、現実のはずだ」
兵たちが呆然としつつも口々に言いたいことを言っている。
「グシャグシャの腕が一瞬で……」
「奇跡だ」
「これが神の使徒」
騎士連中も似たようなことを囁き合っているがスルーだ、スルー。
気にするのは後始末を終えてからだ。
続いてはオブジェ化してしまったハルバードを元に戻すとしますかね。
まずは突き刺さっているのを引っこ抜いてみる。
「ひでえもんだな。持ち主よりボロボロじゃないか」
手に取るまでもなく見るからに再使用不能とわかる損傷をしているからね。
「どうするつもりじゃ?」
ガンフォールが聞いてきた。
「直す」
「どうやってじゃ!?」
物作りに長けた種族であるはずのドワーフに目を丸くして驚かれるとはね。
「そもそも、ここまで酷い状態になった魔法の武器を直せるものなのか?」
「できるさ」
できなきゃ、直すとは言わないよ。
読んでくれてありがとう。




