190 乗り込みますがGではありません
改訂版です。
ブックマークと評価よろしくお願いします。
本物の龍を見たガンフォールからすれば輸送機は心底驚くようなものではないようだ。
ある意味、感覚が麻痺していると言ってもいい。
そんな事情を知らぬハマーからすると、王の器の大きさに感動するらしい。
「わかりました」
これでさして面白くもなかった即席漫才コンビは解散なんだが、これで終わりになったりはしないんだよなぁ。
「賢者様! これは一体なんですの!?」
王女様が大興奮なのである。
ハマーのように怒った様子はないものの相手をするのは疲れそうだ。
「輸送機といって多くの荷物や人を乗せて運ぶ乗り物だけど」
「輸送……機、ですか。最初は浮いていましたよね」
「そりゃまあ飛行機の一種だから」
「飛行機……ですか?」
「そ、飛ぶための機体だから」
「こんな大きなものが……」
王女の呟く声も耳に入らない感じでゲールウェザー組が輸送機を見上げている。
まさに唖然呆然というところか。
「まったく、お主という奴は……」
ガンフォールが呆れた顔をして話し掛けてきた。
「事前に相談くらいしてくれても良かったのではないか」
「スマン、スマン。事後承諾にしないと反対されそうだったからさ」
「計算ずくとは質が悪いわ」
「そんな褒めるなよ」
「褒めとらんわ」
「うん、知ってる」
「まったく……」
これ以上は追求する気になれないようでガンフォールは諦めの溜め息をついた。
「で、これに乗り込むとかどうするのじゃ」
脚は地に着いているが本体は目線より上だし出入り口になりそうな場所も見当たらない。
これでは乗り込めないではないかと暗に言っている。
「こうするんだよ」
パチン!
フィンガースナップを打ち鳴らすと、それを合図に後部ハッチが開いていく。
「おおぅ!」
ハッチが開くとは想定外だったようでガンフォールは素直に感心している。
ハマーやボルトも似たような反応だな。
その他うちの面子以外の面々は大口を開けて顎が外れそうなくらいだ。
エリスとクリスの姉妹という例外はいたけどな。
「フハハ、面白いのう。大口を開けておるようではないか」
シヅカのようにはしゃぐ者もいるけどね。
「言っとくが、今開いたのは後ろだぞ」
「そうなのかえ?」
「進行方向に大口開ける仕様にすると美しくないからな」
不細工なのはノーサンキューなんだぜ。
特にG、名前を出すのもはばかられるアレはダメだ。
奴らは台所に生ゴミとかがあると出るからな。
日本にいる頃はその対策として屋外で生ゴミ処理機を使っていた。
ディスポーザーは下水道条例で禁止されていて戌亥市では使えなかったのでね。
過去に悪質な業者が処理槽を設置せずに販売しまくったせいだ。
いくら下水に流すとはいえ最終的に処理するのは自治体の管理する施設であり、処理費用は税金であるのは言うまでもない。
アホな業者のせいで市民が迷惑することになったが、訴えられ結構な借金を抱えて廃業に追い込まれたさ。
目先の利益に目が眩んで悪いことをすると痛い目を見るという典型例だね。
後に生ゴミを粉砕してすぐに水分と固形物を遠心分離して処理する製品も出たけど、条例は処理槽を必要としない製品を想定していないからアウト。
排水が綺麗になってもダメって理不尽に感じるけど抜け道を作らせないためだからしょうがない。
そもそも生ゴミを屋内から排除して清潔にすればGなんて数年に1回見るかどうかだ。
これホント。
大学時代に同期の女子に教えてもらったことなんだけどね。
アイツら元気かなぁ。
……俺は何の話をしているのだろう。
それもこれもGのせいだ。
絶滅して欲しいところだが地球じゃ恐竜の時代から生き残っているそうだから招き寄せないようにするので精一杯。
輸送機の形状も連想しないように苦労したんだぜ。
だから脚部だけじゃなくて全体の形状でも苦労したさ。
今こうして見ると本体は新幹線を太く大柄にした感じになっているし色もスカイブルーにしてあるから大丈夫、だと思いたい。
「うむ。主がこだわりを持っておるのは、ようわかったのじゃ」
そう言ってもらえると苦労した甲斐があるというものだ。
「ハルト殿、そろそろ行かないか」
ミズホ組は待ちきれなくなってきたらしく、ルーリアがさり気なく伝えてきた。
誰かさんに『まだ? 退屈』とかアクビしながら言われないだけマシである。
「いや、すまん。待たせたな」
そう言って頷きで合図を送ると月影の一同が先に乗り込んでいく。
「ガンフォール」
呼びかけるとようやく我に返った様子を見せた。
「おお、わかった」
ハマーとボルトを従えてハッチ兼用スロープ型のタラップを上っていく。
その様子を見てゲールウエザー組も動き始めた。
「賢者様、馬車や馬で乗り込んでも大丈夫なのですか」
マリア女史が確認するように聞いてきた。
サイズ面では余裕があるのは誰の目にも明らかなんだが重量とかが気になるようだ。
「余裕だ。何の問題もない」
「わかりました」
返事を受けてゲールウエザー組も動き出す。
まずは馬を乗り込ませるようだ。
見慣れない巨大な物体にビビり気味の馬たちを少しでも早く慣れさせたいのだろう。
『ローズさんや、よろしく頼むよ』
『くうくくー』
お任せあれ、とは頼もしいね。
夢属性の精霊獣にとっては霊体化していても馬たちを落ち着かせるくらいは朝飯前みたいだ。
馬たちが大人しく乗り込んでいく様子を見てマリアは釈然としないものを感じているっぽいけど。
「先生、何かしましたか」
その様子を見ていたエリスがこっそり俺に囁きかけてきた。
「ん? さあね」
言質を取られないように誤魔化したが、ほぼ確信している様子。
国民になるなら明かすのだけどスカウトのスの字すら話してないから当面は無理だ。
そうこうするうちに馬も馬車も乗り込み、残るは王女とマリア女史そしてエリスと俺だけとなった。
「では、こちらへ」
促しながら先導して乗り込んでいく。
タラップを上りきると馬車は向きを変えて固定されていた。
馬もつながれている。
さすがうちの子たちは仕事が早い。
「じゃあ閉めるよ」
予告してからハッチを閉じるが完全に閉じきっても暗くなるということがない。
「見たところ窓もないのに明るいですわね」
王女が驚きながらグルリと周囲を見渡している。
壁や天井はもちろん床にも窓は存在しておらず何処もノッペリとした状態だ。
「そういう風にしている」
詳しい説明は略だ。
外部の光を取り入れ増幅させているとか言われてもチンプンカンプンだろうし。
夜は光魔法を使うようにしているから話がややこしくなりかねないんだよな。
「さて、では客室に行こうか」
周囲の視線が一瞬で集まった。
「なにかな」
変なことを言った覚えはないんだが。
「これだけの空間を確保してなお余剰スペースがあるのですか?」
輸送機の外観から内部の広さを推し量れなかったのか呆れた様子で護衛隊長のダイアンが聞いてきた。
彼女らの常識では大量輸送は馬車での分乗分割が基本だから目測が追いつかなかったのだろう。
ところが俺の輸送機は中規模の隊商を格納してしまえる余裕がある。
現状は人が一番多くて馬車1台と馬が何頭かという程度。
ハッキリ言ってしまうとスカスカだ。
中に入るまでこの状態を想像できなくても無理はないか。
「ここは荷物専用だからな。人間の専用スペースは別にある」
「倉庫ごと移動させる発想かと思ったんじゃがな」
ガンフォールのように柔軟な考えの人間もいるけど少数派だろう。
そのガンフォールにしても客室があるとは想像できなかったようだし。
「倉庫と家の融合とでも思っておけばいいさ」
王城住まいの人間には狭苦しく感じる家だと思うが、そこは仕方あるまい。
「こっちだ」
奥にあるスライドドアの前まで皆を誘導する。
「この奥がそうですか?」
マリア女史が尋ねてくるが生憎とハズレだ。
「ここから客室に行くんだ」
壁面のボタンを押すとスライドドアが開き箱形の空間が現れた。
何人かは息をのむような感じで驚いていたものの今更なのでそのまま中に入る。
「まずはノエルとガンフォール」
ノエルは特に惑うことなく中に入ってくる。
ガンフォールもキョロキョロと中を見回しながらではあるが素直に続いた。
王女とほか何人かを促して中に入らせると俺は△ボタンを押した。
さて、どんな反応をしてくれるかな。
読んでくれてありがとう。




