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187 スイスイもいればズデッと転ぶのもいる

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 どうしてこうなった。

 自転車の試乗をするはずが足踏み式のミシンに食いつかれた。


「当初の目的を忘れているな。そういう話は後でしよう」


 こう言わなければ、きっと食い下がられただろう。

 どうにか引いてくれたので自転車のお披露目をした。


「これが乗り物なのですか?」


 王女は不思議そうな顔で小首をかしげながら聞いてくる。


「これでは荷物すら満足に載せられないと思うのですが」


 マリアが困惑まじりで言ってくるが初めて自転車を見たのでは無理もないか。

 人が乗ることより荷物のことに言及するのは荷台をつけたからだろうか。

 木製自転車の耐荷重なんて知れたものなんだけど。


「荷を運ぶにしては効率の悪そうな形状ですが」


 首を傾げる護衛隊長のダイアン。


「荷物もあまり載せられそうにないですし」


 同じく副隊長のリンダも気付いたことを指摘している。

 両名とも乗るという意識が希薄だ。

 乗り物だと言ったはずなんだけどなぁ。


 バイクを見たことのあるエリスは見た瞬間にどういう乗り物であるか分かったようだ。

 後ろに下がって静かにしているところを見ると口出しするつもりはないらしい。


 その隣に神官ちゃんがいる。

 興味があるのかないのかサッパリ不明。

 そもそも影が薄すぎて身内であるはずのゲールウエザー組に忘れられていないか。

 どこかのバスケ漫画に出てきそうな人だ。


 ここで魔導師組のAがおずおずと手を上げた。


「あのぅ……」


 最初の自信満々な姿はすっかり鳴りを潜め捨てられた子犬を連想させるほどビクビクしている。


「乗り物だったはずですが」


 魔導師Bも自信なさげだが、うんうんと頷いている。


「どう乗るのでしょう?」


 王女は見当がつかないのか困惑気味である。


「言われてみれば……」


 マリアが自転車の各部を観察しだした。


「乗ることだけに特化しているのか」


「盲点でしたね、隊長」


 護衛組は観察し直すまでもなく、おおよその使い方を理解できたようだ。


「これは自転車という名称で、またがって乗る」


「馬のようにということでしょうか」


 王女が聞いてきた。


「自分で漕がねばならないがね」


「漕ぐ、ですか?」


 あまりピンときていない様子である。


「シヅカ、実演してくれるか」


「心得た」


 ウキウキした様子で返事をしたシヅカが自転車にに跨がった。

 そこにオレ流の解説を加えていく。

 サドルとハンドルの位置の調整。

 廉価版とはいえ汎用型なので工具なしで調整できる。


「あの、踵が浮く状態が良いのですか?」


 お姫様から質問が入った。

 サドルに跨がった状態で爪先立ちになるのはバランスが取りづらく危ないと感じたのだろう。

 やはり勘違いしているな。

 サドルは走行時にまたがるもので停車時に座るものではないのだ。

 調整は停車してないとできないから勘違いされるのも分からないではないんだけどね。


「停車時はサドルの前に降りれば倒れない」


 結果として立つことになるけど、思ったほど疲れないものだ。


「ブレーキには指2本を常にかけておくこと」


 こうすることで余計な力でハンドルを握り込むことがなくなり肩の力が抜けるのだ。

 あと咄嗟の状況でブレーキを握り損なうミスも無くすことができる。

 ブレーキをかけられるかは別問題だ。

 そこは練習で馴染ませるしかない。


 続いて発進前のペダルの位置と足の乗せる場所について説明する。


「まずは右のブレーキを握っておくこと。それからクランクを地面と水平にしてペダルに足を乗せる」


 シヅカが実演してくれるので分かり易い。


「足を乗せる位置は乗馬とほぼ同じ。間違っても土踏まずを乗せないように」


 こう言っておけば母指球の部分で踏んでくれるだろう。

 母指球というのは犬や猫で言えば肉球に相当する親指の付け根から始まる部分だ。


「足に体重を掛けてブレーキを離しつつサドルに座るとスムーズに走り出せる」


 とは言ったが、ここが難所だ。

 ここでフラフラして危なっかしくなる。

 実演してみせるとスムーズに見えるんだろうけど、それでコツをつかめるかというと話は別となるからね。

 見るとやるでは大違い。

 理屈がわかっても体が反応してくれるかは別問題だから体が覚え込むまで反復練習あるのみだ。


 一通り説明が終わると真っ先に王女が乗った。

 転びやすい乗り物であることを理解しながらも躊躇わないとはチャレンジャーだね。


「姫様!」


 マリアの制止など、どこ吹く風である。

 こんな調子で普段から振り回されているのだろうな。

 護衛組はというと苦笑しつつも落ち着いた様子で見守っていた。

 王女がスムーズに乗れると踏んでいるみたいだな。


 実際、クリスお嬢さんはスムーズにこぎ出していた。

 何度かふらついてはいたけれど転ぶことだけは決してなかった。

 実に楽しそうにゆるゆると走っている。


「これは面白いですわね」


 王女は俺が思っていた以上に運動神経がいいようだ。

 ふらつくたびにマリアや魔導師ABがハラハラしていたけどな。

 そのうちスピードを出した方が安定することに王女も気付いたようで一気に加速していった。


「姫様、速すぎです!」


 見ていられないとばかりにマリアも自転車に乗り込んでクリスお嬢さんを追いかけ始めた。

 必死なせいだろうか発進からスマートだ。

 もっとも、廉価版は限界が低く設定されているので大したスピードにはならないんだが。


 仮に転倒してもツバキによって仕立てられた服が守ってくれる。

 頭でも打たない限りは怪我もしないだろう。

 ……ヘルメットも用意すべきだったか。

 低速で走っている自転車でも転倒の仕方によっては死亡することだってあるからな。

 一応、作っておくとしよう。


 そして護衛組が動き出した。

 互いに顔を見合わせて頷き合うと、自転車に跨がり走り始める。

 この両名はマリア女史ほど慌ててはいない。

 状況を観察して大きな危険はないと判断したのだろう。

 それでも王女の後を追うのは護衛だからか。


「お待ちください、姫様っ」


「あら、マリア。こちらですわよー」


 目一杯という感じではないが割と必死なマリア女史。

 対する王女は先程から笑みが絶えない。

 喜んでもらえるなら何よりだけど体力を使いきらんようにね。


 そんな王女たちを見て我慢できなくなったのか魔導師組もようやく自転車にまたがる。

 AとBともにこういうのは苦手なようで王女の方を見たり自転車を見たりと落ち着きがない。


 スムーズに自転車を走らせている神官ちゃんを見ろよ、と言っても無理かな。

 相変わらず影が薄い上に隅っこで我関せずとばかりに誰とも連んでないからさ。


「い、行きますわよ」


「ええっ」


 AもBも必死な表情でガチガチなせいか両肩に力が入りすぎだ。

 前輪が右に左にと首を振っているのでよくわかる。

 進みはするが遅いので転けるなと思ったら案の定だった。

 フラフラと進みかけて示し合わせたかのようにABが同時にズデッと転ぶ。


「おいおい……」


 普通なら足をついてなんとか転倒を防ぐところなんだけどビンディングペダルでも使ってるのかってくらいペダルと足が離れなかったぞ。

 あれは専用シューズと一体化させるから使い始めだと慣れなくて転けたりするのだ。

 あるいは慣れ始めた頃に使ってるの忘れて転倒というケースもあるな。

 いずれにせよ脚の力を無駄なくペダルに伝えきるための道具だから廉価版自転車につく訳がない。

 どうやら魔導師組は肩だけじゃなくて全身までガチガチだったようだ。


 神官ちゃん以外が背を向けているタイミングだったのはタイミングが良いのか悪いのか。

 しかも神官ちゃんは怪我をしていないことをチラ見で確認したら後は知らんぷり。


「これは……」


「痛くないですよ?」


 打ち付けた部分を触ったりしてABの両名が顔を見合わせて驚いていた。


 不格好な服にも意味があると気付いたらしくツバキの方を見て頭を下げていた。

 頷きで返したのを確認すると魔導師組は再び自転車に挑戦し始めた。

 ふむ、根性はあると。


「凄いですね」


 今まで無言を通していたエリスがツバキに声を掛けていた。


「あれなら安心です」


「そうでもない」


「そうなのですか?」


「頭が無防備だからな」


「服でどうにかするのは限界がある訳ですね」


「だから、こういう物を用意してみた」


 自転車用のヘルメットを取り出しエリスに渡す。


「これを被るのですか?」


 聞きながら被ってるじゃないかよ。


「頭部を守るためのものなのに軽いですね」


「あくまで転倒事故対策だからな。剣で切り付けられたらアウトだ」


「穴が空いてるのはどうしてですか?」


「蒸れ防止だよ」


 走行中は風が当たってベンチレーションが効率的になる効果もある。


「ああ、なるほど」


 ポンと手を打って納得している。


「そんな訳で自転車に乗ってヘルメットの着用を促してきてくれると助かる」


 まあ、そんなのは口実だ。

 そうでも言わんと皆を見守る側に徹しただろうからな。


「了解しました」


 紐を結んで装着を確実なものにしてからエリスは自転車に跨がり皆を追いかけ始めた。

 真っ先に向かったのは魔導師組たちの方だ。

 危なっかしさナンバー1だからな。


読んでくれてありがとう。

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