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186 時間稼ぎのつもりが

改訂版です。

ブックマークと評価よろしくお願いします。

 元の着物のデザインを意識した感じのパンツルックの服に着替えたシヅカが自転車にまたがった。

 ツバキが自前の倉庫にしまっている着替えをベースにしているようだ。

 一から作るよりアレンジの方が手早く用意できるからだろう。

 種族特性として布地の扱いは得意中の得意だしな。

 裁縫系のスキルをカンストしてる程度じゃ太刀打ちできないと思う。


 なんにせよ、わずかな時間で自転車に乗るのに相応しい格好になった訳だ。


「お主らは本当に常識外れじゃのう」


 ガンフォールがちょっと呆れながらも気にしないことにしたようだ。


「そうか?」


「服の仕立て直しを瞬く間に終えてしまうような者が何処におる」


「ここに」


「お主らは例外じゃ」


 それはさておき、シヅカの自転車初体験である。


 ガンフォールを見て乗り方を覚えたようでスムーズに乗れていた。

 それがなくてもレベル300超えだから、すぐに何とかしただろう。


「これは愉快じゃ。主よ、見てたもれ~」


 お世辞にもお尻に優しくない乗り物なんだけど満面の笑みで同じ所を八の字でグルグルと回っている。

 たったこれだけのことで幸せを感じられるとか純真すぎるだろ。

 気の遠くなる時を閉じ込められてきたからこそ、か。

 いじらしすぎて泣けてくるんですけど?


 シヅカが喜んでいるならそれで良しと言いたいところだが……

 街中ではしゃいでいれば人々の耳目を集めてしまう訳で。

 夜が明けて間もないような時間なのに人だかりができてしまった。

 職人の国の朝は早いんだなぁ。


「おい、ハルトよ」


「なんだよ」


「どうするつもりじゃ」


「どうもしないが?」


「馬鹿者、収拾がつかんじゃろうが」


「乗れば納得するんじゃないか」


 そう言いながら5台ほど複製して追加で用意した。

 ギャラリーから歓声が上がる。

 さっそく先着順で並ぶのかと思ったらジャンケン大会が始まってしまいましたよ?

 まあ、その方が公平か。


「行こうぜ。朝飯にしよう」


 シヅカも声を掛けたら堪能したようで引き揚げてくる。

 ガンフォールは熱を上げているドワーフたちを見て溜め息をついた。


「こうなることを見越しておったとは」


 呆れながらも驚きを隠せない様子のガンフォール。

 複製ができることを知らないんじゃ無理もないんだけど誤解されたままの方がうるさくなさそうだ。


「それ、全部そっちに寄贈するから扱いは任せるわ」


「大盤振る舞いじゃな」


 完全に呆れている。


「面倒くさいだけだ」


「言いおるわ」


 面倒と言った俺の言葉を信じていないのか、ガンフォールはそう言ってフンと不敵に笑った。

 どうやらツンデレのツボにはまったようだ。

 だからジジイのツンデレはいらんのだが?



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 朝食もゲールウエザー王国の面々と一緒である。

 王女から色々と話し掛けられた。

 というより質問攻めにされたという方が正しいか。

 ダンジョンからあぶれる魔物を効率的に減らす方法としてこういうのはどうかとか。

 農作物の収量を増やすためのあれやこれを考えたが実効性があるかどうかとか。

 前者は戦ったことのない人間の発想だったと言っておこう。

 後者は飢饉の話を聞く前から色々と考えていたようだ。


「勉強熱心じゃな」


 ガンフォールが好々爺然とした笑みを浮かべてクリスお嬢さんを褒める。


「いえ、少しでも民が安心して暮らせればと思っただけです」


「動機がしっかりしておれば学びも末永く続けられるというものじゃ」


「そうでしょうか」


 お姫様は自信がなさげである。


「水の確保に魔法を使う案は穴だらけでしたし」


 家庭菜園レベルなら問題なかったんだけどな。

 広大な耕作面積をカバーするなら、いったい何人の魔法使いが必要になることやら。

 西方の魔法ではミズホ国のようにはいかないからなぁ。

 クリスお嬢さんはポーションを使ってフル稼働することを考えていたようだけど全然足りないしコストもバカにならない訳で。

 赤字は確実なのに目標の達成には程遠い結果になると指摘されれば自信を喪失するのも無理はない。


 指摘した時にマリア女史とか護衛組が苦笑していたから、こういうのはいつものことなのだろう。


「諦めてはいかん。学びは失敗の繰り返しじゃよ」


 俺もガンフォールの言う通りだと思う。

 今は発想が拙くとも、いずれ実務的な案を出せるようになるだろう。


「それはさておき、食後に面白いものをお目にかけよう」


「まあ、なんですの?」


「ちょっとした乗り物でね」


 ガンフォールは気付いたようで苦笑している。

 ハマーとボルトは冷や汗をかいているが、これは誤解しているな。

 エリスも珍しく焦ったような視線を向けてくるところを見ると同じように誤解したようだ。

 君たち、王宮へ向かう時の乗り物はもっと凄いのになるんだけど?


「ドレスでは乗れないので着替える必要がある」


 こう言えば、さすがに何か違うと気がつくらしい。

 肝心の乗り物が何であるかまでは推測できないみたいだけど。


「あら、困りました。ドレス以外のお洋服がありません」


「心配無用。このツバキが仕立ててくれる」


「そういうことだ。任せるがよい」


 ツバキの鼻息がフンスフンスとやや荒い。

 布地を扱う仕事となると気合いが入るというか張り切るよなぁ。


「ならば布はワシが用意しようではないか」


 ガンフォールの提案には素直に乗っておく。

 ツバキの用意しようとしていた布だと誰に目をつけられるかわからないし。

 そんなこんなでマリア女史と魔導師組に神官ちゃんも巻き込んで採寸大会となった。

 ノエルたちが戻ってくるまでと思ったんだけど思った以上に時間が稼げそうだ。

 逆に出発が遅れる可能性も出てきただろうか。


 その場合は輸送機に乗ってから取り戻すのみである。

 加速する前に高めの高度を取る予定なので体感速度は速くないはずだ。

 到着時間でドン引きされる恐れはあるが、そこは仕方ない。

 出たとこ勝負で行くしかないな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 俺たちは訓練場に向かった。

 以前、赤髪褐色肌の幼女アネットと決闘した場所だけど今日は戦う訳じゃなくて王女一行が自転車を試乗するためだ。

 チョイスした場所が意外かもしれないが早朝の騒ぎを考えれば街に繰り出せない。

 こっちの世界の住人が娯楽に飢えているということを忘れていたよ。


 街中の様子を【天眼・遠見】スキルで確認してみたが、ちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。

 あの中では堪能する以前に試乗もままならないだろう。

 事故だって起こりかねないから安全第一である。


「お待ちしておりましたわ」


 服の用意があるからと適当に時間を潰したせいか俺たちの方が遅かったようだ。

 見事に全員着替えている。

 乗馬服っぽくするのかと思ったら長袖のサイクルジャージ風の服だった。


 これがまんまサイクルジャージなら王女一行が着たかどうか怪しい。

 あれってピッタリするから体のラインがよく分かるんだよ。

 関節部にプロテクター、他の部分に綿を入れたお陰でシルエットはロボ系だ。

 あと半袖で裾の短いジャケットとミニスカートで色々と隠している。

 保守的な考えの持ち主でなければ騒がないかなぐらいで落ち着いていた。


 それでも攻めていると思うけどね。

 どうやら能力の誤魔化しになるかと足踏みミシンを作ってツバキに渡したのが失敗だったようだ。

 テンションが上がって調子に乗るなんて想定外である。

 まあ、ゲールウエザー組の面々に不満がなさそうなので良しとしよう。


「賢者様、あのミシンという道具は良いですね」


 マリア女史がなにやら感激している。


「魔道具ではなくカラクリというのが、また素晴らしいです」


 メイド長なら繕い物も仕事のうちに入るのか。

 そういうのは仕立屋とかじゃないのかと思ったけど、そうでもないようだ。


「技量次第であんなに早く縫えるとは思いもよりませんでした」


「是非ともお譲りください。もちろん対価は払います」


 意外にも護衛組まで関心を寄せていた。

 訓練とかで服を傷めたりするからだろうか。


「「「わたくしたちも!」」」


 魔導師組に神官ちゃんもかよ。

 そういや魔導師組は大人しくなってからコロッと雰囲気が変わったよな。

 裏表はないというローズのお墨付きまでもらったほどだ。

 どういう心境の変化があったのかは……

 どうでもいいか。


読んでくれてありがとう。

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