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1745 褒め殺す女

「まあ、そういうことだよ」


 グリューナス法王が理解したというのであれば早々に締めくくるに限るだろう。

 あんまり長引かせると更に法王を興奮させかねないからな。


 魔法で持続的に回復させているとはいえバレないように抑え気味にしているし。

 法王の反応しだいでは体調を悪化させかねない。


 そう思ったのだが……


「素晴らしいですわねっ」


 法王は身を乗り出さんばかりにして言ってくる。

 瞳はキラキラと輝き、アラフォーという年齢には不相応なはしゃぎようを見せていた。

 誰の目にも明らかなほどテンションを急上昇させたのが分かる有様だ。


 失敗した。

 ここまでの反応を見せるとは想定外もいいところである。


 法王は俺が考えていた以上に感受性が強いのだろう。

 人一倍どころではないと思われる。


 気合いと根性の人だから体育会系だと思っていたんだがな。

 どうやら、それだけの人ではなかったようだ。


「……………」


 無言でサリュースの方をチラ見した。


「……………」


 同じく無言で見返されてしまいましたよ。

 しかも諦観のこもった目で法王にバレないようエア溜め息までしてくる始末だ。


 やっちゃったねと言われているような気にさせられたさ。

 やってしまったものは仕方ないとも言っているように見えたが何の気休めにもならない。

 そんなオマケはいらないのですよ?


 一方で、法王は子供のように無邪気な笑顔を見せてはしゃいでいる。


「さすがは賢者様ですっ」


 己のテンションの高さを気にした風もなくテンションを上げたままだ。

 それがどういう結果になるのか少しは考えてほしいのだが。


 まるで遊園地に遊びに来た子供である。

 興奮が持続している間は疲労を感じにくくなっているはずなので厄介極まりない。


 ある意味、無意識で自分にバフをかけているようなものだからな。

 維持できなくなった時に反動が来るのが目に見えている。


 それでも俺のかけた弱い回復魔法が法王の興奮状態を上回っているなら問題ないのだが。

 あのテンションからくる消耗を抑え込めるほどの強さにはしていない。

 良くて差し引きゼロってところだ。


 ならば回復の効果をより強くすればいいという話になるかもしれない。


 生憎とそう単純な話ではないのだ。

 回復魔法をかけている本人に気付かれる訳にはいかない。


 今の法王に魔法だと気付かれでもして完全な回復を要求されたらシャレにもならん。

 マジでバリバリの仕事モードに入りかねないからな。


 仕事は山積み。

 これを独り占めするかのように処理していけば、どうなることやら。


 完全に回復したとしても、疲労困憊するほど働けば意味がない。

 その頃には俺も帰っているだろうし。

 誰も回復させる手段を持たない状況で寝込まれたんじゃ今より質が悪い。


 そんな訳で、どうにか落ち着かせないといけない訳だ。

 そう簡単にクールダウンしてくれるとも思えないんだけど。


「そんなこと言われてもなぁ」


 だが、やらなければならない。

 このまま法王の寝室から退出してしまうのも悪手だからだ。

 体調の悪いまま興奮状態を維持させてしまうのが明白だからね。


「大したことを言った訳じゃないだろう」


 今の話なんて自分で考えたものじゃないんだし。


「何を仰いますかっ」


 法王がテンションを維持したまま否定してくる。

 やはり一言くらいではクールダウンどころか暴走を止めることすらままならない。


「私は今の賢者様の御言葉に感銘を受けました」


「いや、俺の言葉じゃないから。

 あれは昔の人の受け売りだぞ」


 ただし、ルベルスの世界じゃなくて日本のだけどな。


「そうなのですか?」


 一瞬、キョトンとした表情をのぞかせた法王であったが。


「だとしても、それをご存じの賢者様はやっぱり凄いです」


「えー……」


 どうしてそうなる。


「私は寡聞にして、その言葉を存じ上げませんでした」


 そりゃそうだ。

 異世界の言葉を知っている西方人なんていないだろうし。

 ミズホ国民は学校で習うから知ってるんだけどね。


 何にせよ、いるとするなら転生者か転移者だけだと思う。

 そんなのは滅多にいないし、今ので法王が違うことは証明されたようなものだ。


 だからこそミスったとも言える。

 出典を求められると誤魔化すしかないからな。

 当然のことながらレアな情報という認識をされるだろう。


 というか、既にそう言われてしまっている。

 ますます俺が凄いと思われてしまいかねない。

 喋るたびに墓穴を掘っているような気がしてきた。


「皆さんの中で存じていた方はいますか?」


 法王は追撃してくるし。

 それも周りを巻き込んでしまうやり口でだ。


 外堀を埋めにかかっているのは明らかである。

 真っ向勝負されるより嫌なものだ。

 プレッシャーのかけ方というものを分かっているよな。


 当然のことながら誰も知っている訳がないので頭を振る者ばかりである。


 サリュースもだ。

 俺の方を見て後ろめたそうにしながらも小さく頭を振っている。


 援護がしたくてもできるような状況じゃないからな。

 知ったかぶりをしても自爆するだけだし。


 とにかく、させてみての話を知る者が誰もいないのは当然だろう。

 ここにはミズホ組もいないしな。


 仮に知っている者がいたとしても俺が教えたと思われるのがオチである。

 転生者や転移者がいない限りは間違った見方ではないのだけど。


 いたとしても西方人にはそっちの方が理解不能だ。

 異世界という概念そのものがないんだから。


 つまり、己の常識の範疇で考えてしまう訳で。

 どう転んでも俺には否定しようがないってことになる。


 それがどうにも悩ましい。

 打開策がなぁーんにも思い浮かばないんだもんな。


 墓穴に泥を流し込まれているかのような気分ですよ。

 底なし沼と化して抜け出せなくなるイメージである。


 エメラ・グリューナス法王、恐ろしい子っ!


 いや、俺のリアル年齢よりずっと年上のアラフォー相手に子呼ばわりはないと思うけど。

 日本人だった頃の俺よりも年上だし。


 まあ、法王の感性が実年齢よりずっと若いのは間違いない。

 お陰で俺は振り回されているんだけど。


 赤リッチの相手を新人3人組にさせていた時の方がよほど楽だったさ。

 あれは片手間みたいなものだったから比較すること自体が間違ってる気はするが。


「さすが賢者様と呼ばれるだけはありますね」


 やぁーめぇーてぇーくぅーれぇ───────────────っ。

 褒め殺されて俺のライフはもうマイナスよ。


読んでくれてありがとう。

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