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1736 呼ばれました

 どうにか新人3人組が復帰してきた。


「まさか俺が3桁レベルになる日が来るとはなぁ」


 しみじみした様子でそう言ってビルが嘆息した。

 感慨深く感じているのか、ぼやいているのかが分かりづらい雰囲気だ。


「不服か?」


 そうは思えないが一応は確認しておかないとな。

 レベルを下げるなんて真似はできないが、今後の参考にはなる。


「とんでもないっ」


 ブルブルと頭を振られてしまった。

 本心でそう言っているように見えるので一安心だ。


「ただ……」


 そこで一旦、言葉を句切ったビルが真顔で嘆息を漏らした。

 気になる反応だな。

 何か問題があっただろうか。


「ただ?」


 俺は急いてしまう気持ちが表面に出てこないよう抑え込みつつ先を促した。


「前に断ったことがあっただろ」


「ああ、スカウトの話か」


「そうそう」


 返事をしながら何故かガックリと肩を落とすビル。

 何かしら後悔しているように見受けられる。


「あの時、断ってなかったらもっと早くにこうなってたのかなって思うとさ」


 嘆息を漏らしながら、そんなことを言った。

 どんだけ後悔してるんだよってツッコミを入れたくなるほどの落ち込みようだ。

 遠回りをした気分になっているんだろうが落ち込みすぎだ。


「無駄足を踏んだ気がする、か?」


 レベルのことだけを考えるなら、そういう気持ちになるのも無理からぬところかもな。


「そう、それだよ」


 トホホという空気を満載にしてビルは答える。

 しかしながら、その考え方はどうかと思うんだよね。

 過去の選択が変わっていたなら未来が同じであるはずもない訳だし。


「だからこそ色んな出会いがあったんだと思うんだがな」


 近道ばかりが正解とは限らない。

 スカウトを断っていなければ今回の一件も違った道をたどっていたはずだ。

 カエデやオセアンとともにパワーレベリングすることはなかっただろうし。


 遡れば武王大祭に出場もしていなかったのではないかと思う。

 仮に出場したとしても覆面することはなかったのではないだろうか。

 あれって仮面の傭兵エクス・キュージョンが元になっている気がするし。


 何がどうなるかIFの話をしても答えは無限にあるってことだ。


「それもそうか」


 カエデとオセアンの方を見てビルが頷いた。


 当面はこの3人でパーティを組むのもありかもしれない。

 今回の一件である程度は連携もした訳だし。

 ある意味、濃密な時間だったから学校よりも効果的な訓練になったかもな。


 それでも学校には通ってもらう必要はあるけど。

 ミズホ国民として学んでもらうことは多いからね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「え?」


 サリュースがその話を持ってきた時、俺は困惑するしかなかった。

 法王エメラ・グリューナスが目を覚ますなり俺に面会を求めてきたと言ったからだ。


 自然と目を覚ますように魔法をかけてはおいたけどさ。

 でないと、俺たちが帰ってからも寝っぱなしになりかねなかったからな。


 衰弱状態からの完全回復にはその方が良いのだけどね。

 その分、長く眠り続けることになったとは思うけど。

 周囲の面々が不安がって余計なことをしかねないので仕方なくそうしたというところだ。


 それでも、こんなにも早く目覚めるとは思っていなかった。

 あまつさえ本人が絶対安静を破ろうとするなど想像の斜め上を行っている。

 そんな体力があるとは思えなかったからだ。


「絶対安静だと言ったんだよな」


 もし目覚めたら本人にそう伝えるように言っておいたのだけど。

 それが守られなかったのだろうか。

 伝達ミスがないとは言い切れない。


「そうともそうとも、私もそこは念押ししたんだけどねえ」


 ガックリと肩を落としてサリュースが力なく笑った。

 少なくとも伝え忘れはなかったようだ。


 その様子だと、あまりの頑固さに撤退するしかなかったようだな。

 法王の体調も考えれば力尽くで寝かせるなんて真似はできるはずもないし。

 病み上がりの人間は駄々っ子並みに厄介だ。


 おまけに体力が低下しているはずなのに意欲が満々。

 気力とか根性でカバーしているのだろう。

 少しは自分がダウンした時の影響などを考慮してもらいたいものである。


「しょうがないなぁ」


 という訳で法王の寝室に向かうことになった。

 道すがら法王の様子を聞いたが、あれこれと報告を要求しているらしい。


「完全に仕事をする気になってるじゃないか」


 衰えた体力を回復させてから徐々にという発想は微塵もないようだ。

 これだから根性タイプは困る。

 脳筋じゃあるまいし勘弁してほしい。


「そうそう、困ったものだよ」


 呆れと疲れが濃く入り交じった苦笑を溜め息とともに漏らすサリュース。


「新たに任命したポーン枢機卿がどうにか止めてくれているがね」


「ほう、凄いな」


 思った以上に仕事のできるオッサンのようだ。

 どうやって止めているのか聞いてみたいものである。


「これ以上の無理をするなら私を殺してからにしてくださいって短剣を手渡して、だね」


「……………」


 根性の人である法王を相手にするには命をかけなきゃならんらしい。


 それは止められるよね。

 芝居でやっているなら通用しないだろうけど。

 オッサンはそういうのを思いつくタイプじゃなさそうだし大丈夫そうだ。


「いやいや、さすがにビックリしたよ」


 ハハハと乾いた笑いを漏らすサリュース。

 それだけ新枢機卿が本気になっていたってことなんだろう。


「あまりの気迫に止められなくってさぁ」


 サリュースが苦笑とともに嘆息を漏らした。

 その反応も頷けるというものだ。


 覚悟を決めた人間のそれは他者を圧倒するというしな。

 その時のサリュースがドン引きしていたのであろうことは想像に難くない。

 俺が今ドン引きしているからな。


「本気で命をかけられちゃ止まるしかないか」


「いやいや、そうでもないんだよね。

 新枢機卿の気合いでも完全には抑えきれなかったのだよ」


 諦観を感じさせる雰囲気を漂わせて頭を振るサリュース。

 気迫と根性の決戦を見せられたんじゃ無理からぬところかもな。


「頑固者同士の激突か……」


 俺も見たいとは思わない。


「どうにかハルト殿を呼ぶことで折り合いがついたんだけどね」


「そいつは御苦労なことだな」


 一国の女王を使いっ走りにするとは呆れたものである。


 まあ、他の者ではどんな指示を出されるか分かったもんじゃないから仕方ないとは思う。

 相手がバイタリティの塊じゃ油断も隙もないだろうし。


 何にせよ、そういう背景事情が分かってしまうと行きたくなくなるんですが?


読んでくれてありがとう。

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