1735 当人でなければ分からないことがある
新人3人組はレベルアップしたのが信じられないらしい。
ビルなんかは慣れているはずなんだけど、反応はカエデやオセアンと変わらないし。
やはりレベルアップしないと思い込んでいた反動が大きいようだ。
もしかすると3桁の大台に乗ったことも影響しているのかもしれない。
3人にしてみれば上がり幅の大きさもショックな要因になっている?
数レベル程度のアップであれば驚きつつも受け入れられたとか?
とにかく真っ白な感じでフリーズしているのは間違いない。
ショックの大きさは並大抵のものではないだろう。
「おーい」
「「「……………」」」
呼びかけてみるも無反応。
「これが見えるかー?」
各々の前で手をかざして横に振ってみるも──
「「「……………」」」
結果は変わらず何の反応もなかった。
「ダメだ、こりゃ」
声をかけたくらいじゃ頭の中の真っ白な世界から帰ってきそうにない。
何か刺激があれば戻ってくるとは思うが、そこまでするような緊急性もないしな。
しばらく様子を見るしかないだろう。
「皆はどう思う?」
そんな訳で古参組に向けて聞いてみた。
「俺としてはこの3人のリアクションが些か大袈裟に感じるんだが……」
そのせいで新人3人組の反応には困惑するしかないような状態だ。
刺激が強かったかもしれないとは思うものの、いくら何でもと思うのも事実である。
「どうじゃろうな」
シヅカが頭を振った。
どうやら俺とは考えが異なるらしい。
と思ったら……
「妾は主の受けた印象が妥当だと思うのじゃがのう」
こちら寄りの意見だった。
ただし自信を持って言えるほどでもないらしく言葉尻は弱々しいものだ。
言った直後にツバキの方を見ていたくらいだしな。
それ故か同意を求める空気はほとんど感じられない。
断言できるほどではないので、どう思うか意見を求めている感じだろうか。
視線を向けられたツバキは肩をすくめた。
とはいえ否定的な雰囲気が色濃い訳でもない。
部分的な肯定や否定というのはあり得るだろうか。
ちょっと考えにくい気がするのだが。
「妥当かどうかは立場によって変わると思うのだが」
その意見は説得力があった。
考え方やものの見方は人それぞれ。
新人3人組は実際に戦った立場。
俺はそれを見守る立場。
受ける印象が変わるのも無理からぬところであるのは理解できる。
相手の立場に立って考えるのも限度があるだろうしな。
現に俺は3人の反応を大袈裟だと感じてしまっている訳だし。
「どういうことじゃな?」
「我々は周囲で見守るだけだっただろう」
「それしかできなかったではないか」
やや呆れた感じで返事をするシヅカ。
ツバキは意に介さずに話を続ける。
「そう、旦那の結界があったからな」
「うむ」
これにはシヅカも同意して頷いた。
「もしも結界がなければ幾度となく介入していたはず」
「そうじゃな」
シヅカは赤リッチとの戦いを思い返したらしく苦笑いした。
「とてもではないが安心して見てはいられなかったじゃろうて」
それはあるだろうな。
おそらくは防戦一方になっていただろうし。
それでも完全に赤リッチの攻撃を防ぎ切れたとは思えない。
あの3人がどれだけ上手く連携していたとしてもだ。
間違っても相打ち狙いの戦い方はしていなかっただろう。
自殺行為もいいところだ。
ただし、そんな戦い方は絶対に認められないのでさせる訳がないんだけどな。
要するにこの話はあり得ないIFということになる。
とはいえ、ここで頭ごなしに否定すると話が進まなくなってしまう。
黙って話の行く先を見届けるに限るというものである。
「それなのだ」
「うん? どういうことじゃ」
ツバキの言葉が何を指しているのか分からなかったのだろう。
怪訝な表情を見せてシヅカが首をかしげている。
「結界があるが故にどこかノホホンとした雰囲気で見ていたとは思わないか?」
ノホホンは言い過ぎじゃなかろうか。
喉まで出かかったツッコミはグッと堪えた。
まだツバキのターンだ。
「おお、それはあったのう」
パッとシヅカの表情が明るいものに変わる。
「では、あの3人はどうだったと思う?」
それはシヅカにとっては思いもかけない質問だったようだ。
「む?」
今度は即答できずに眉根を寄せる。
「ううむ」
唸りながら考えることしばし……
「相当な緊張感があったやもしれぬのう。
主の結界がなければ数えきれぬほど致命傷を負ったであろうし」
そんな風に結論を出していた。
これもまたツッコミどころだ。
致命傷なんて受ければ次でジエンドだろうに。
数えきれぬ程なんてのはあり得ない。
それとも致命傷を受けるたびに回復させる?
そんなのは俺が我慢できないって。
致命傷を受けると認識した瞬間に介入していた自信があるしな。
「あのリッチがどんなに変身を重ねようと、ひとつも攻撃を通さなかったのは大きい」
「そうじゃな」
「旦那の結界が彼らの心理状態にまで大きく影響しているのは間違いあるまい」
「なるほどのう」
ツバキの言葉に納得の表情を見せてうんうんと頷くシヅカ。
「確かに立場の違いで妥当かどうかは変わってきそうじゃな」
ついにはハッハッハと笑い出していた。
「死ぬような思いをするはずが主の結界ですべて無かったことになるんじゃからのう」
そうだろうか?
絶対に守ると念を入れて構築した結界だったのだ。
死ぬような思いにまで結びつくようではダメージなしでも本当に守れたとは言い難い。
その点については正直なところ分からないんだけどな。
トラウマを残していないことを切に願うばかりだ。
「我々では、あの3人の気持ちは本当の意味では理解できんじゃろうて」
かもしれないな。
死を意識させたのであれば俺の配慮不足である。
そこは反省しなければならないだろう。
ただ、だからこそ今ひとつ納得しづらい部分があるのだ。
「そんなに怖い思いをしたなら、尚のことレベルアップしたと考えそうなものだが」
「逆だよ、ハルくん」
それまで黙って話を聞いていたミズキに即否定されてしまった。
「恐怖心があったからこそ何ともなかったことで強く守られていたと実感したんじゃない」
「そうそう、効果を実感したからこそレベルアップの幅がショックなんでしょ」
マイカにまで追撃を受ける始末である。
「いつもの過保護モードが招いた結果じゃない」
「うぐっ」
それを言われると急に自信が無くなってくる。
皆もそう思っているからか一斉に頷いているし。
反論の余地は微塵もなさそうだ。
読んでくれてありがとう。




