1730 説明しないと始められそうにない
「それはいいとしてよ」
ビルが話を切り替えてくる。
つい先ほどまで蘇生魔法にツッコミを入れていたはずなんだが。
それでいいのかと、いぶかしく思いつつ話の続きを待ってみた。
「本当に蘇生なんてできるのか?」
心配そうな表情でビルが問うてきた。
なるほど、納得の質問だ。
完全に話を切り替えるのではなく本題に戻しただけだもんな。
「何でもかんでも蘇らせることができるわけじゃないぞ」
「えっ、そうなのか?」
意外なことを聞いたとばかりにキョトンとした表情を見せるビル。
「当たり前だろう」
思わず溜め息が出てしまったさ。
「無条件に蘇生が可能なら世の中は臨死体験を語れる奴であふれかえるだろうよ」
「いや、そりゃねえよ」
呆れ顔でビルがツッコミを入れてきた。
「そんなに生き返らせることのできる術者がいませんからね」
追随するカエデ。
「半分は冗談だ」
「冗談かよっ」
打てば響く感じでビルがツッコミを入れてくる。
「蘇生は可能だし、それに条件がつくのはウソでも冗談でもないがな」
「「「……………」」」
俺の言葉に新人3人組が言葉を失っていた。
オセアンは噛みまくってからずっとだけど。
「まず肉体の保存状態だな。
腐乱し始めているような体じゃどうしようもない」
「それは、まあ分からんではないけど」
ビルが戸惑いの表情を見せつつも一応は納得する様子を見せた。
「大怪我を負っていても大丈夫なのですか?」
カエデが疑問を口にした。
「怪我とかなら先に治癒魔法で塞いでおいたりとかも不可能じゃないんだよ」
「なっ!?」
驚きをあらわにするカエデ。
「そんなことが可能だとは……」
オセアンが呻くように言った。
「可能というか、それができなきゃ話にならないぞ。
致命傷を負って死んだ状態のままで蘇生させたとしても、すぐにまた死ぬだけだからな」
ちなみに、そういう場合は傷を塞いだだけではダメなことが多い。
造血しておかないといけないのだ。
血が足りなきゃ生きていけないからな。
そんな訳で通常の治癒魔法じゃどうにもならないことが分かると思う。
そもそも治癒が追いつかないから死んでしまうんだもんな。
それに死んだ状態の者に治癒魔法は効きにくい。
傷を塞ぐだけでも制御の難易度が上がるのだ。
その上、魔力も余分に消費させられる。
しかも割り増しじゃなくて倍以上だ。
無理ゲーどころの話じゃないだろう。
毒殺された場合の方がマシかもしれない。
体内に残った毒物を除去洗浄して毒の影響を受けた臓器の治癒をするだけだからな。
意外に思われてしまうかもしれないが造血の魔法がネックになるのである。
このあたりを説明すると──
「「「……………」」」
3人ともが絶句していた。
「無茶すぎだろう」
ようやく口を開いたビルの一言目がそれである。
「無茶だろうが何だろうが無理ではないな」
「マジか……」
「でなきゃ蘇生させるなんて言わないさ」
「そりゃ、そうなんだけどよ」
同意するようなことを言いながらもビルはもどかしげな顔をしている。
内心では納得していないのだろう。
「条件はそれだけじゃないぞ」
「他にもあるのですね?」
カエデがどこか安堵したような表情で確認するように問うてくる。
「死んだ者が成仏してちゃ蘇生はできない」
蘇生魔法は死んだことに納得できない人の魂を肉体に呼び戻すだけのものだからだ。
現世に未練のない者を相手に蘇生魔法を使うと序盤で拒否されるか無視されるかである。
成仏してこの世に未練がないんだから当然だろう。
逆に今回のケースで成仏することなどないのは疑う余地もない。
蘇生魔法の序盤で蘇りませんかねと呼びかければ応じない者はいないはずだ。
「それは確かに」
カエデは神妙な面持ちで頷いていた。
が、これで皆が納得という訳にはいかないのが面倒なところである。
「だけどよ、アンデッドに殺されたんじゃ色々とマズいんじゃねえか?」
不安そうにビルが聞いてきた。
そういう懸念があるのも頷ける。
「病気を媒介するとかなら心配は無用だぞ。
そんなのは織り込み済みで対処するからな」
そう言ったものの──
「うーん、けどなぁ……」
ビルは納得しそうにない。
病気以外の懸念事項というと呪いだろうか。
アンデッドに殺された訳だから、そこを先に考えるべきだったか。
「浄化をかけながらやっとけば万が一もないだろうよ」
「そういうことじゃなくてだなっ」
この様子だと生き返るということ自体に忌避感を持っているのかもしれない。
人生は一度きりだから尊いという考え方を持っているのかもね。
それが悪いことだとは言わないが、今回のはあまりに救いがないだろう。
条件がそろっているなら蘇生魔法を使ってのリトライはありだと思う。
今のところベリルママたちから待ったもかけられていないし大丈夫なんじゃないかな。
「何を小心者のようなことを言うておるのじゃ、馬鹿者が」
シヅカが俺たちの話しに入ってきた。
「主がその程度のことでヘマをする訳がなかろう」
フンと不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「えーっ」
ビルの方からも不満そうな声が漏れ出てきた。
「成功するのが前提なのかよ」
どうやら哲学的な死生観を持っている訳では無さそうだ。
「当然じゃ」
ドヤ顔を見せるシヅカ。
「言っておくが、蘇生させる人数が少なければ主でなくても蘇生は可能じゃぞ」
「「「なっ!?」」」
新人3人組が一斉に驚愕の表情で固まってしまった。
「そんなに大勢いるのですかっ!?」
愕然の表情で固まったままながらもオセアンが聞いてくる。
「そうだな、むしろ倒してきたアンデッドより多いぞ」
「──────────────────────────────っ!?」
声にならない悲鳴を上げたかと思うとオセアンはパタリと倒れてしまった。
「あ、失神した」
「失神した、じゃねえよっ」
ビルがツッコミを入れてきた。
「そんなこと言われてもなぁ」
これくらいは自力で何とかしてくれとしか言い様がない。
「まあ、都合がいいか」
「何でだよっ!?」
噛みつくようにツッコミを入れてくるビルだ。
「え? 今のうちに蘇生の魔法を使えば何度も失神されなくてすむだろう?」
「何度も失神させるつもりなのかよ」
「俺としては、そういうつもりはないんだけどな。
不慣れなオセアンだと結果的にそうなる恐れがあるからしょうがないんだよ」
「ぐっ」
否定しきれずに言葉に詰まるビル。
それは否定できないと思っているのだろう。
とにかく蘇生させて少しでも人手不足をどうにかしないとな。
でなきゃサリュースたちの負担が増してしまう。
読んでくれてありがとう。




