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1729 まずはコレからと思ったんだけど

 炭化するように装飾の色を失いボロボロと崩れ去っていく不死王の錫杖。

 崩れた部分も塵芥とは化さずに消滅していくのみ。

 瘴気があれの中から失われていっている証拠だ。


 一気に処理はしない。

 面倒くさがるとミスにつながりかねないからな。

 そこから変な事態に発展などされちゃたまらん。


 が、丁寧な仕事というのは外から見ると焦れったく見える時がある。

 それを知ってか知らずか……


「意外にしぶといなぁ」


 ビルがそんなことを言った。


「いや、そうではない」


 カエデが即座に否定する。


「どういうことだよ?」


「オセアンが言っていただろう」


「ん? 何をだ?」


「なんという禍々しさかと」


「ああ、今さっきの」


 それがどうかしたのかと言いたげにビルがカエデを見た。


「あの錫杖が内包している瘴気を浄化するなど私では無理だ」


「無理ってことはないだろう」


 ビルが苦笑する。

 どうやら本気にしていないようだ。

 このあたりに本職とそうでない者の差が出てしまうな。


「いや、あれほど莫大な量の瘴気だとは思っていなかった」


 それを聞いてビルはギョッとした顔をする。


「そこまでか?」


「ああ、間違いなくそこまでの代物だ」


「なんてこったい」


 思わず天を仰ぎ見るビルである。


「それじゃあ賢者様でなきゃ処分できねえじゃねえかよ」


「何を言ってるんだ、ビル」


 俺が横槍を入れると──


「え?」


 ビルはキョトンとした顔でこちらを見てきた。


「これくらいは古参のミズホ国民なら普通にできるぞ」


「「「なっ!?」」」


 驚愕の表情で固まってしまう新人3人組であった。

 そんな中でも魔法での粗大ゴミの処理は滞りなく進む訳で……


 程なくして不死王の錫杖は完全に消滅した。

 瘴気だって残してはいない。

 はた迷惑な粗大ゴミはお残し厳禁である。


「こんな短時間で……」


 呆気にとられた様子でカエデが棒立ちになっていた。

 カエデを知る者が状況を把握せずこの場面だけを見れば驚かされたかもな。

 なんと珍しいことかと思っただろうから。


 だが、カエデが驚いているのにもちゃんと理由がある。

 不死王の錫杖が内包していた瘴気の総量を感知していたからこその反応なのだ。

 それが分かっていれば、しょうがないと思える。


 現に古参組はそんなカエデを見て苦笑するばかりであった。


「まったくです」


 同じく唖然とした表情を見せているオセアンが同意する。


「あそこまでの瘴気を内包していたとは……」


 元神殿所属の神官であるオセアンにしてもレアケースなんだろう。


「私は今までに見たことがありませんでしたよ」


 震えながら頭を振るオセアン。


「それを……」


 またしてもオセアンは頭を振った。


「儀式魔法を使うことなく、こんなにあっさりと……」


 よほど信じられない出来事だったらしいな。

 何か喋るたびに頭を振っている。

 この様子だと驚きの度合いはカエデよりも上かもしれない。


「まあ、賢者様だからな」


 新人の中で苦笑するのはビルだけか。

 まあ、新人はこの3人だけだから当然なんだけど。


「これくらいで驚いていたら、あと何回目を回すことになるか分からんぞ」


 とにかく色々と見てきているだけあって2人に声をかける余裕がある。

 やはり慣れとは偉大なものだ。


 それでもベリルママたちの前に出たら……

 うん、考えるのはよそう。

 おおよその予想はついてしまうが、それ故に問題は先送りしたい。


 今から罪悪感じみたものを感じると持たないしな。

 俺が土下座される訳ではないんだけどね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



「それで、賢者様」


 カエデやオセアンがどうにか落ち着いたところで、おもむろにビルが声をかけてきた。


「何かな?」


「この後はどうするんだよ?」


「後始末に決まっているだろう。

 このまま放置して「はい、さようなら」なんて言えやしないからな」


「いや、それは分かってるんだけどさ」


 ビルはそうじゃないだろと言いたげだ。

 もどかしげに俺の方を見てくる。


「具体的にって言うなら、まずは魔法を使うぞ」


「なんだよ、城全体に浄化でもかけるつもりか?」


 そう問うてくるビルの言葉にオセアンがギョッとした顔をする。


「それならもう終わっているぞ」


「いぃっ!?」


 ビルが反応する前にオセアンが驚いていた。


「相変わらず仕事が早いな、賢者様は」


 ビルの方はというと苦み成分薄めで苦笑している。

 もう慣れたと、その顔には書いてあるかのようだった。


「やったのは俺じゃなくてシヅカだけどな」


「あ、そうなんだ」


 ビルは特に驚くようなそぶりを見せることもなく返事をしたのだが。


「─────っ!?」


 ほぼ同時に反応したオセアンは更に驚いていた。

 古参組の実力の程をようやく認識したみたいだな。

 カエデは薄々は感づいていたらしく、わずかに驚く程度で済んだようだ。


「で、どんな魔法を使うんだい?」


「蘇生だな」


「「「ふぁっ!?」」」


 これにはオセアン以外の新人たちも驚かされたようだ。


「そそそそ蘇生っちぇ神の奇跡でゃないですくわっ!」


 噛みまくってるじゃないか、オセアン。

 まくし立てるように早口で言おうとして舌がもつれてしまったらしい。


 俺も含めて古参組は苦笑するしかなかった。

 ビルやカエデにはそんな余裕がなかったけどな。

 ただただ信じられないものを見る目で俺の方を見てくるばかりだ。


「そんな目で見られてもなぁ」


 苦笑するしかできない。


「赤リッチは制御しきれない死者を闇魔法でストックしていたから条件は悪くないぞ」


「それはどうなんでしょう?」


 疑問を呈してきたのはカエデである。


「瘴気まみれで、まともに蘇生できないのではありませんか?」


「いや、その前に死者が生き返る可能性がある方があり得ねえと思うんだが」


 ビルがツッコミを入れている。


「そこは大丈夫だ。

 敵がわざわざ魔法で保存状態を良くしてくれていたからな」


「良くはないんじゃないでしょうか」


 カエデが反論してくる。

 瘴気まみれだと思い込んでいるらしい。


「闇属性の魔法だからって瘴気まみれになる訳じゃないぞ。

 保存する上で瘴気まみれにしたら余計に状態が悪くなるしな」


 アンデッド化させない状態でそんな真似をしたら骨まで朽ちてしまう。

 枢機卿がアンデッドとして操りきれない人々を保存処理したのには理由がある。


 手駒のアンデッドが何らかの理由で数を減らした場合に補充する意図があったからだ。

 骨までボロボロになった死体ではスケルトンにだってできやしない。


「あ……」


 カエデもそのことに気づいたようだ。


読んでくれてありがとう。

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