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1727 格上狩りとはこうする

 ズシュッ!


 ライトブレードが赤リッチの胴体に深々と突き刺さった。


「ギィエエエエエェェェェェェェェェェェ───────────────ッ!」


 赤リッチの絶叫が周囲にこだまする。

 自らの存在を削り落とされることを実感したが故だろうか。


 それを証明するかのようにHPのゲージは大幅に減じていた。

 互いに突進していたからな。

 倍返しどころの話ではないダメージになったようだ。


 赤リッチも突きを入れてはいたが、そちらはほぼ空振りである。

 防御結界を叩くことすらできていなかった。


 動揺した影響はやはり大きかったみたいだな。

 如何に不死王の錫杖が赤リッチを支配しようとも、それだけは制御しきれなかった訳だ。


 むしろ感情を利用しようとして残している時点で制御が緩くなったと言わざるを得ない。

 操られる側の胆力が問われる結果になったのは皮肉である。


 中身の大本は強欲で野心的なオッサンだったようだが意外に小心者だったか。

 不死王の錫杖が器として選んだにしてはショボい。

 王たる資格は元から持ち合わせちゃいなかったことが証明されてしまったからな。


 真っ当な王になれずに邪な野心と手段で王になろうとしてなりきれなかった。

 これを惨めと言わずしてなんと言おうか。


 だからといって同情する気は微塵もないけどさ。

 奴のしてきたことを考えれば誰も同情はしないだろう。

 このまま消滅すれば悪党にふさわしい末路を飾ることになりそうである。

 ますます惨めだと言えるな。


 しかしながら、まだ戦闘が終わった訳ではない。

 赤リッチのHP残量は確かに大きく減じていたが未だ半分を切ってさえいないからだ。


 その程度で倒せるならビルもカエデも苦戦はしていないだろう。

 赤リッチはまだまだ健在である。


 それでも一撃でHPゲージが目に見えて減るのは大したものだ。

 俺は別に攻撃力が上がるような支援魔法は使っていないんだからな。

 今のビルが渾身の力で攻撃した結果がこれである。


 およそ1割程度か。

 まあ、赤リッチが無防備だった上に奴の力も利用したからこそではある。

 それと偶然ではあるがクリティカルヒットしたみたいだし。


 だからこそ格上が相手でもこれだけ削れたって訳だ。

 逆を言えば、これしか削れない相手だということでもある。


 この一撃だけで赤リッチが沈むことなどはあり得ない。

 そのあたりはビルもよく分かっているはずだ。

 俺のようにHPゲージが見えている訳ではないがね。

 ベテラン冒険者としての経験から赤リッチの反応や手応えで感じ取っているのだ。


 でなきゃ──


「やったか!?」


 なんて負けパターンへ突入する特大フラグを盛り込んだ台詞が聞けたことだろう。

 それは回避できたようで何よりだ。

 ちょっと見てみたい気もしたけどね。


 ただ、それをやってしまうとパワーレベリングが失敗しそうな気がする。

 やはりフラグ立ては無しが正解だろう。


 ともあれ戦闘は続行だ。

 ビルはライトブレードを捻り込んでから横に引き流すように振り抜いた。


 赤リッチの胴体から引き抜かれるライトブレード。

 奴がアンデッドでなかったらビルは派手に返り血を浴びていたことだろう。


「ギィ──────────ッ!」


 赤リッチが吠える。

 今度はダメージを受けた時のような痛々しさを感じる悲鳴ではなかった。

 明確な怒りと濃厚な憎悪を感じる咆哮だ。


 それは攻撃の意思表明でもあった。

 赤リッチがビルに躱された手刀を振り上げて袈裟切りのように振り下ろす。


 ビュオッ!


 空を切る音が俺たちのいるところまでハッキリと聞こえてきた。

 それだけ鋭い振りだったのだろう。


 だが、来ると分かっていれば今のビルでも対処できない速さではなかった。

 可変結界はちゃんと仕事をしている。


「おおっとぉ」


 無理をせず大きく後ろへ下がって間合いを外すビル。

 さすがに紙一重で見切ることまではできないはずだ。


「ギィッ!」


 苛立たしげに赤リッチが呻くような声を発した。

 奴がビルに対して追撃の構えを見せたところで──


 ザザシュッ!


 その背後から斬撃の音がした。

 ほぼ同時に繰り出された連撃だ。


「ギシャ────────────────────ッ!!」


 今度こそ赤リッチが悲鳴を上げている。

 攻撃の構えを見せて無防備になっていたところにカエデの攻撃が綺麗に決まっていた。

 ビルの時と同様に完全な不意打ちだ。


 突き出された楕円形の下腹部が十文字を斜めに傾けたような格好で切り裂かれている。

 血の通う魔物であれば血飛沫が舞っていただろう。

 言うまでもなくカエデの攻撃によるものだ。


 無防備な背後を突いたことで相打ち狙いの攻撃を当てた時以上のダメージを与えている。

 それがどういう結果をもたらすかは想像に難くない。


 グリンと赤リッチの首が真後ろを向いた。

 怒りの矛先がカエデに変わった瞬間だ。


「ギィ──────────ッ!」


 赤リッチが振り返りつつ腕を振り払うような斬撃を繰り出す。


 ビュバッ!


 再び空を切り裂く音がしたが、それだけだ。

 カエデは余計な追撃はせずに飛び退っていた。

 その表情には笑みこそないものの余裕がうかがえる。


 それはそうだろう。

 思惑通りに赤リッチを自分の方へ引きつけることができたのだから。


「ギッ、ギッ、ギィ──────────ッ!」


 赤リッチはブンブンと腕を振り回すが技術も何もあったものではない。

 中身の経歴が僧兵だったことなど完全に喪失してしまっているかのようだ。

 どう見ても苛立ち紛れに振り回しているだけにしか見えなかった。


 まるで駄々をこねている子供である。

 振り回される手刀の威力を考えれば、これほど凶悪な駄々っ子もいないがな。


 ズバッ!


 カエデに振り下ろされた手刀に重なる格好で斬撃の音がした。


 が、それは赤リッチの胴体の方からである。

 もちろんビルによる攻撃が行われた結果だ。


「ギシャ────────────────────ッ!!」


 カエデにやられた時と同じ悲鳴を上げる赤リッチ。

 つくづく学習をしない奴だと思った。


 背後を気にすることなく怒りのままにタゲを絞り込んだ攻撃をするからこうなる。

 不死王の錫杖が赤リッチを支配下に置いて操っているはずなんだがな。


 どうやら奴の感情が高ぶりすぎると御しきれないと見た。

 危なっかしくてしょうがない。


 操り人形というイメージは奴にはそぐわないようだ。

 リモコン操作しているAIロボットとして考えた方がしっくりきそうである。

 しかもロボットはプログラムに大きな欠陥を抱えている感じで。


 やはり粗大ゴミである。


読んでくれてありがとう。

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