1722 時間切れから始まる悪の2段変身
マリカの言葉にシヅカがどういうことかと見当が付けられず困惑している。
それはカーラやツバキも同様であった。
例外はドルフィンくらいのものである。
何も語らぬドルフィンは古参組の会話には我関せずの状態だ。
新人3人組の方へ注意を向けているからというのもあるだろう。
が、会話内容を把握していないはずがないのだ。
寡黙なドルフィンに扮しているが故に口を挟まないだけである。
当人はその必要がないと思っていそうだけどな。
でなければ念話かスマホのメールなどでローズとして口出ししてきたはずだ。
そうしないのはマリカと同意見だからだと考えられる。
もしくは興味が湧かないから面倒くさいとか思っていそうだ。
マリカが気づいているなら自分に説明する出番は回ってこないからちょうどいいとか。
後者の方がフルシカトをしている現状にぴったりな感じがする。
追求しても答えてくれなさそうではあるな。
現にそういう雰囲気が漂っている。
シヅカたちはそのことにすら気づいていなかったけれど。
千日手にはならないと言うマリカに首をかしげているばかりだからな。
ローズは分かっているであろうマリカが説明すればいいと考えているのだろう。
ただ、マリカに説明する気があるかどうかは別問題である。
当のマリカはシヅカたちに視線を向けられて──
「どうしよーかなぁ」
とか言っているくらいだったし。
結局は何も語らず俺の方を見てきたんだけど。
丸投げする気かと思ったのだが……
「あるじー、くいずにしちゃってもいーい?」
なんてことを聞いてきた。
これは子供組の影響だろう。
今はこの場にいないが、よく一緒に遊んでいるからな。
「好きにすればいいと思うぞ」
丸投げされるんじゃなければ俺も楽ができるというものだ。
「やったー」
万歳の格好で喜ぶマリカ。
それとは反対に困惑するシヅカたち3人。
「クイズと言われてものう」
シヅカが頭を振る。
「ハルト様が何か手を打たれるとしか想像がつきませんが」
頬に手を当てて困り顔で考え込むカーラ。
「それこそがマリカの言うクイズの問題であろう」
ツッコミを入れるツバキ。
「その通りだよー」
マリカがあっさり肯定した。
「制限時間は2段変身が始まるまでね-」
クイズを仕切るために張り切っている。
「締め切りが些か早いのではないか?」
シヅカが疑問形で抗議するが……
「2段変身が終わる前に主が対処しちゃうよぉ?」
不思議そうに疑問形で応じてマリカは切り返す。
答えを見ながら回答したんじゃクイズにならないよな。
「ぬうっ」
ぐうの音も出ないシヅカであった。
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あれからシヅカたちは真面目に考えつつも答えられずにいた。
最初から設定された制限時間が短めであるのも冷静に考えることを妨げていたしな。
そんな訳で……
「時間ぎれー」
マリカが淡々とクイズの終了を宣言した。
「ええい、早すぎるのじゃっ」
忌々しいを絵に描いたような顔で吐き出すシヅカ。
わずか1分ほどで終わったのだから無理もない。
とはいえ、赤リッチも悠長にはしていられないからな。
闇魔法の断続的な衝撃波でビルたちを遠ざけたが、それは時間稼ぎにしか過ぎない。
容易には接近できない状況を作り出しただけなのだ。
ビルもカエデもどうにか前進を続けている。
いずれは間合いに入ることになるだろう。
変身が完了する前に踏み込まれれば赤リッチのピンチだ。
時間稼ぎをするくらいだから無防備であると宣言しているようなものである。
「仕方ありませんよ」
苛立つシヅカの様子を見て苦笑するカーラ。
「結局、見当もつかなかった訳だが」
そう言ってツバキが俺の方を見てきた。
「正解は奴が変身すれば分かる」
俺は口頭では説明しないことにした。
そうしないと赤リッチの変身を見過ごしてしまうことになりそうだし。
そんなことを考えている間に赤リッチに変化が生じていた。
両手両足を地面について腰を浮かせている。
横から見れば変則的なM字に見えるであろう格好だ。
「む、あれはどういうつもりじゃ?」
「奇妙なポーズですね」
シヅカとカーラが首をかしげる。
俺も分からないが、変身が始まっているのだけは間違いない。
赤リッチの体表面がボコボコと波打ち始めているからな。
結構キモい感じになっている。
が、前の変身でスライムもどきを見た後なので耐性はできていたらしく嫌悪感は薄めだ。
とはいえ、表面だけを見ている分にはだけどな。
内部の状態とかを想像してしまうと一気に気持ち悪さゲージが跳ね上がるだろう。
芋虫の変態する状態とか表面はともかく内部がグロいのはお約束だし。
ああ、ダメだダメだ! 考えちゃダメだ!
あれは赤い水にできた波紋なんだ。
波紋だから中身がどうこうってことはない。
無いったら無い、オーケー?
「嫌な予感がするのだが」
ツバキは何か見当がついたみたいだな。
「嫌な予感じゃと?」
怪訝な表情でツバキを見るシヅカ。
「あー、なんとなく分かったような気がします」
カーラは横目でそれを見ながら苦笑した。
シヅカとカーラで反応に差が出る結果になったが、このあたりは付き合いの長さだな。
伊達にずっと一緒だった訳ではない。
「見ていれば分かる。
見ない方が良いとは思うがな」
「どういう意味……」
ツバキに問いかけたシヅカだったが。
「────────っ!!」
次の瞬間、視界の端に映る光景に表情をこわばらせた。
凍り付いたと言ってもいい。
赤リッチの首が背面を向く格好でグリンと回転したのだ。
これが人間だったなら即死である。
いや、普通の魔物でも首ポキものだから死んでしまうのは確定事項だ。
アンデッドならではと言えるんじゃないかな。
普通は自らそうすることなどないけどね。
相手に恐怖心を与えるためだけに、そんなことをするとも思えない。
まあ、知能の低いアンデッドが相手の恐怖心をどうこうなんて考えないだろうし。
リッチクラスの高位アンデッドでも馬鹿馬鹿しく感じて自分では実行しないと思う。
使役しているゾンビとかにはやらせるかもしれないが。
とにかく、赤リッチがやっていることは普通ならば意味はない。
無駄なことですらある。
だが、今は変身中だ。
体の形状を変更させるのは充分に考えられる訳で……
ツバキが嫌な予感がすると言ったのも頷ける結果になりつつあった。
だらんと垂れ下がっていた首がグギギとぎこちなく動き始めたのだ。
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