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1721 悪党は自我を失っても往生際が悪い

 赤リッチは衝撃波の魔法に断続的な効果を持たせて発動していた。

 踏み込もうとしても次々に押し寄せる衝撃波に押し戻される。


 そこに簡単には近寄らせないという赤リッチの意思が見て取れた。

 厄介な攻撃をしてくれるね、まったく。


 持続的な状態で発動する衝撃波ならそれだけを打ち破ればいい。

 どんなに強力でも単発なのだから。

 その衝撃波を打破できれば、そこで魔法はキャンセルされる。


 だが、オンオフが波紋のように押し寄せてくる場合は話が別だ。

 衝撃波をひとつ破ったところで次が来る。


 込めた魔力が切れるまで待つしかないだろう。

 少なくとも今の新人3人組ではね。


 発生源をどうにかするという手もないではない。

 それができればね。

 今回の場合は赤リッチの周囲に展開された魔力の塊がそれだ。


 が、それを破壊するためにはいくつも押し寄せる衝撃波をどうにかしなければならない。

 やはり今の新人3人組では即座にどうこうすることはできないだろう。


 どうにか赤リッチに接近するには衝撃波に抗いつつ踏み込んでいくしか方法はあるまい。

 こういうゴリ押し的な手段でも急がば回れと言えるのだろうかね。

 そう思ったが、ジッとしているよりは確実な手ではある。


 ビルやカエデもそう思ったらしい。

 2人ともライトブレードで衝撃波を切り裂くように構えて踏み込んでいく。

 1歩踏み込んでは耐えを繰り返して進んでいく様は新雪の中を進むかのごとくだ。


「姑息な手を使いよるわ」


 シヅカが嘆息を漏らしながら言った。


「あれは、どう見ても時間稼ぎじゃろう」


「そうですね」


「他に理由があるなら聞いてみたいものだな」


 カーラもツバキも同意する。


「問題は、何をするための時間稼ぎなのかじゃ」


「再生ではないのですか?」


 カーラが首をかしげながら問うた。


「普通に考えれば、それ一択だとは思うが……」


 ツバキが何かありそうだと言いたげに語尾を濁した。


「へんしーん」


 拳を突き上げてマリカが言った。

 古参組が一斉にギョッとして視線をマリカに向ける。


「更に変身するというのかえ!?」


 驚きをあらわにしたままマリカに問うシヅカ。


「さすがにそれは……」


 カーラが困惑しながら否定しようとしてしきれずにいる。


「ないと断言はできんだろう」


 諦観を感じさせる嘆息を漏らしながらカーラの言葉を否定するツバキ。

 ツバキもカーラと同じ気持ちのようではあるがね。

 一方で問われたマリカはというと……


「んー」


 コテンと小首をかしげながら考え込んでいた。

 根拠があっての発言ではなかったようだ。


「おやくそく?」


 疑問形でそんなことを言われてもな。


「お約束とは何じゃ?」


 シヅカが苦笑いしながら聞いている。


「動画で何か見たのではないでしょうか」


「だろうな」


 マリカの代わりにカーラが答える格好になっていた。

 ツバキもそれに同意している。


「変身ヒーローものじゃろう」


「なんだ、シヅカは分かっているではないか」


 苦笑しながらツバキが指摘する。


「2段変身というやつですね。

 前にハルト様が見せてくださいましたよ」


 カーラはカーラで古い話を持ち出してきた。

 タコ型のクラーケンを退治する時に仮面ワイザーの2段変身は披露した覚えがある。

 そんなに古いという訳でもないか。


「分かってはおったがのう。

 あまりに典型的すぎて言わずにおれなんだわ」


「「あー……」」


 カーラとツバキがそろって苦笑した。


「まさにお約束じゃからな」


 釣られるようにシヅカも苦笑いしている。

 古参組の間には緩い空気が漂っていた。

 新人3人組が賢明に赤リッチを倒そうと踏ん張っているのとは対照的すぎる。


 まあ、ビルたちが自分たちの力でどうにかすると宣言した訳だしな。

 なるべく邪魔をしないようにしたいところである。

 問題はそのせいで暇を持て余してしまうことなんだが。


「ですが、こんなに暖気なことを言い合っていて良いのでしょうか?」


 真っ先に疑問を呈したのはカーラであった。


「ふむ、そうじゃな」


 顎に手を当ててシヅカが考え込む。


「2段変身すれば、ビルたちでは手に負えなくなるのは目に見えておるのう」


「それは仕方あるまい」


 カーラが小さく頭を振った。


「今でさえ旦那の結界がなければ戦闘行為自体が成り立たぬではないか」


「それは言わぬが花であろう」


 シヅカが喉をクックと鳴らして苦笑いしながら言った。


「答えも出ておるではないか」


「あー、そうですね」


「確かに」


 カーラもツバキも同じように苦笑して同意する。


「彼奴らに任せたままでは決着がつかなくなってしまうじゃろうがな」


「ビルやカエデの攻撃は通じなくなるでしょうからね」


「それは逆も同じだろう。

 あのリッチでは如何に自己を強化しようと旦那の結界を抜けるはずもない」


「これも千日手と言えるのでしょうか?」


「将棋のように指し直しなどにはならんがな」


「そうでもないさ」


「「「っ!?」」」


 話し合っていた3人が一斉に俺の方を向いた。

 そりゃそうだろう。

 今まで口を挟まずにいたのに横槍を入れてきたんだから。


「どういうことじゃな?」


 いぶかしげに眉根を寄せて聞いてくるシヅカ。

 同意するようにうんうんと頷くツバキ。

 カーラも興味深げに視線を向けてきている。


「向こうがパワーアップするなら、新人3人組も対応できるようにしてやらないとな」


「主よ、無茶を言うでないわ」


 困惑の表情でシヅカが諭すように言ってくる。


「さすがに無理でしょう」


 それに同意するカーラも表情を渋くさせているような状態だ。


「パワーレベリングを続けるのすら至難と言わざるを得ないと思うが?」


 そして畳みかけるようにツバキが言ってきた。


「左様じゃ。

 我らの手助けなしにけりを付けるのは、もはや無理であろう。

 延々と決着がつかぬ状況が続くだけになってしまうのが目に見えておるわ」


 しかも俺が答える前にシヅカが結論を出してしまう始末である。

 だが、その意見に異を唱える者がいた。


「そんなことないよー」


 不思議そうにコテンと小首をかしげてマリカが言う。


「なんじゃと!?」


 驚きに目を見張るシヅカ。


「どういうことですか、マリカ?」


 カーラも目を見開ききった状態で聞いている。


「本当にそんな手立てがあるというのかっ?」


 ツバキに至っては問い詰めるように前のめりで迫ってすらいた。

 ヒョイと去なすように脇に避けるマリカ。


「そんなに難しくないよー」


 そして、あっけらかんと返している。


「なんじゃと!?」


 大事なことでもないのにシヅカは同じ台詞を繰り返すことになった。

 いや、当人にしてみれば大事なことか。


読んでくれてありがとう。

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