1710 こういう援護の仕方もある
新人3人組を援護すべく強欲リッチの挑発を続ける。
「これだから僧兵上がりは品がないって言われるんだよ」
「キィ────────────────ッ!!」
強欲リッチが怒り狂ってヒステリックに吠えた。
当てずっぽうで言ったことなんだが、どうやら当たりを引いたらしい。
このキレ具合からすると、耳にたこができるレベルで言われ続けたか。
あるいは腹に据えかねるほどのシチュエーションで言われたか。
いずれにせよ、ダンダンと地団駄を踏んでいるお陰でキレ具合が実に分かりやすい。
外れても次を言えばいいやってノリだったんだけどな。
こうまで思惑通りに踊ってくれるとはチョロいなんてもんじゃないな。
失笑を禁じ得ないんだが。
いずれにせよ、これで奴の攻撃も力押しの単調なものになるだろう。
更には防御や回避がおろそかになるのも、ほぼ確定である。
少しは新人3人組への援護になったのではなかろうか。
それを証明するかのようにヒステリーを起こした強欲リッチが──
「キィエエエエエエエエェェェェェェェェェェェッ!!」
突如として大袈裟な身振り付きで奇声を発した。
次の瞬間、俺に向かって突進してくる。
それを見てなるほどねと感心させられた。
今の奇行には突進のモーションを分かりづらくさせるという意味があったのだ。
奇声を発する時にそれっぽい大きな身振りを交えることでカモフラージュしたって訳だ。
「あっ、待てっ!」
故にビルの反応が遅れたのも仕方のないところだろう。
「速いっ!」
カエデも追おうとしたが強欲リッチの突進に反応しきれていなかった。
性根は腐っちゃいるが、格上であるのは間違いない。
その上、不意を突かれる格好になってしまったからな。
スピード勝負になれば勝ち目はないという訳だ。
奴が俺の目の前まで来た。
ダンと踏み込んで錫杖を大上段へと振り上げる。
ちょっと棒高跳びっぽいなと思った。
それだけ振りかぶるモーションが大きかった訳だ。
強欲リッチが奇声を発したのは、このためだろう。
一撃で仕留めるために俺の反応を少しでも遅らせて必中を狙う。
当人は錫杖で俺の体を真っ二つにするくらいのつもりで振りかぶっていそうだ。
見え見えだってえの。
突進の瞬間も見逃さなかったしな。
古参組も奴に残念なものを見る目を向けている。
ただ、強欲リッチが振り下ろしてきた瞬間でさえビルとカエデは追いつけていなかった。
「くそおっ!」
「間に合えっ!」
ビルが悪態をつき、カエデはもっと速くと己を叱咤する。
が、2人が強欲リッチの間合いに入るのは奴が錫杖を振り下ろしきった瞬間くらいだ。
「シィネエェ─────ィ!!」
強欲リッチが華美な装飾の施された錫杖を振り下ろしてきたが……
「アホか」
スッと横に躱した。
錫杖がかすめるように脇を抜けていく。
「当たる訳ないだろ」
とは言ったが、反撃はしない。
新人3人組が戦うためにお膳立てしたんだからな。
俺の役割は強欲リッチのヘイトを集めて標的になることのみ。
だから奴を小馬鹿にしながら徹底して躱す。
それが俺の仕事だ。
他には何も足すつもりはない。
というより、それをしてしまうのはマズいのだ。
強欲リッチ討伐後に割り振られる経験値が俺にも入ってしまうからな。
回避ボーナスくらいは入ってくるだろう。
だが、それは奴の本体から得られる経験値ではない。
新人3人組には何ら損失にならない訳だ。
これで俺が攻撃に参加してしまうとアウトだけどな。
攻撃を支援する形でも同様に経験値を割り振られてしまいアウトとなる。
回避もしくは防御だけが割り振られない。
故に何も足さない何も引かない。
まるで古いウィスキーのCMのキャッチコピーのようだ。
とにかく余計なことをするのは俺が望まない結果になってしまう。
ならば攻撃を回避するのも余計なことにつながるのではと思うかもしれない。
回避した拍子に触れてしまって攻撃したことにされてしまうとか。
そう考えると、ひたすら攻撃を受け続けても良かったのではとなるかもしれない。
が、そんなのは真っ平ごめんである。
ただでさえ強欲リッチには腹立たしい思いを抱いているのだ。
そんな奴に打擲され続けるなど考えるだけで業腹というものではないか。
断じて許されるものではない。
俺の中でな。
そもそも奴を挑発するという目的に合致しない。
攻撃が当たるというだけで強欲リッチのストレスがわずかでも解消されるだろうからな。
ヘイトを集めて俺を攻撃させ続けるのが目的だ。
え? 防御結界があるんだから不要だって?
そんなことはないぞ。
俺が標的になることで色々とメリットがあるからな。
まず、強欲リッチが回避や防御をしなくなる。
攻撃一辺倒になるからなのは言うまでもあるまい。
そうすることでビルやカエデの攻撃が必中になるのは大きいだろう。
強欲リッチが簡単に仕留められるなら経験を積む意味でもこんな真似はしなかったさ。
あ、ここで言う経験は経験値のことではないぞ。
格上と戦うことで得られる実戦経験のことだ。
別の言い方をするなら修羅場をくぐるってところか。
防御結界があるから修羅場にはならないんだけど。
それでも得られるものがあるとは思う。
ただ、今回は最初からそれだと厳しいものがあるんだよね。
新人3人組のスタミナ的にな。
腐っても格上な存在だ。
生半可な攻撃ではダメージが与えられない。
3人だけで戦うならば、前衛のいずれかが引きつけられないと厳しい戦いになるだろう。
オセアンの浄化は継続ダメージを入れられるとはいえ大ダメージにはならないからな。
強欲リッチは人間性は腐っちゃいるが戦闘技術は確かだ。
最初の構えを見た時に僧兵から叩き上げてきただけはあると思ったもんな。
しかもダメージに強い体を手に入れたことで回避や防御もある程度は無視できる。
それを上手く活用されると、前衛2人をあしらうことも難しい話ではない。
オセアンの継続ダメージだけで倒しきるのは、どれほど時間がかかることやら。
故に前衛がフリーで動ける状態を作る必要があるのだ。
それが俺の仕事って訳だな。
「この野郎ぉっ!」
「せいっ!」
ビルとカエデが俺の狙い通りに気合いを入れて攻撃してくれる。
それぞれが最初に攻撃した箇所を狙っていた。
ビルは腰を。
カエデは左の太ももの部分を。
錫杖を振り下ろした直後の背後からの攻撃ということもあって、まともに当たっている。
が、当たっているというのに切断には至らない。
亜竜より強いというのは伊達ではないのだ。
今の2人の攻撃能力では何度となく斬りつけても切断には至らないだろう。
ダメージはどうにか与えてはいるんだけどな。
オセアンも既に浄化の詠唱を初めていた。
これも前衛の2人ほどではないもののダメージを与えている。
ただ、継続ダメージになるので最終的にはトントンくらいになるだろう。
いずれの攻撃も強欲リッチからすれば鬱陶しいに違いない。
大きくないとはいえ確実にダメージが入ってくる訳だからな。
それでも散々挑発しただけあって強欲リッチの標的は俺にロックオンされたままだ。
とはいえ連続して攻撃が命中すれば、いずれロックは外れるだろう。
「ほらほら、どうしたんだ?」
だから挑発を続ける。
ヘイトがたまれば、そう簡単にロックも外れまい。
「当たらなかったのがショックだったか、ん?」
嫌みったらしく聞こえるように身振りも交えて言ってやる。
「そんな腰の入ってない攻撃が当たると思う方がどうかしているよなぁ」
「キイィ────────────────ッ!!」
またしても強欲リッチがキレた。
簡単すぎてアクビが出そうな仕事である。
読んでくれてありがとう。




