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1704 舐めてないですよ?

 とにかくビルが必要以上にビビっている気がする。

 リッチは確かにビルたち新人3人組には強敵だけどな。


 だが、結界で守られた状態でなら特にビビる必要もない相手だ。

 それを分かっているのかいないのか。


 とにかくゾンビやグールとは格が違うと吠え立てている。

 なんだかなぁ。


 リッチとグールの間に大きな差がない部分もあるのだ。

 身体能力なんかは、むしろグールの方が上だったりすることもある。


 ビルにはグールの相手をさせたけど、苦戦するようなことはなかった。

 個体差があるから絶対ではないもののリッチのスピードはあれよりも遅いことが多い。


 グールは言ってみれば獣性に支配されたようなアンデッドだからな。

 パワーとスピードに特化している訳だ。


 まあ、ベースが人間の死体だから限度はある。

 一応は闇属性の魔法で筋肉や関節が保護されているけどね。


 とにかくリッチよりは高速で動く。

 何の支援もなしだと、そんなに舐めていい相手ではない。


 代わりにリッチは魔法を使ってくるけど防御結界があるから無視して構わないんだし。

 しかも何体もいる訳じゃない。


「何が違うって?」


 思わず聞き返してしまったほどだ。

 言うほど凄い奴とは思えないんだよな。


 だが、意思の疎通というのは難しいものである。

 俺の意図したことは伝わらなかったようだ。

 聞き方が悪かったとすぐに気づけたけど。


「格だよ、カァ・クゥ!」


 必死の形相でマジ回答されましたよ。

 よほど大事なことらしい。


 2回言われましたよ。

 しかも2回目をかなり強調されてね。


 これはクールダウンが必要だよな。

 とは思ったのだけど、何を言ったら良いのやら。

 ここまで必死になられると言葉が見つからない。


 まさか、ここでボケる訳にもいかないだろう。


「角だって?」


 なんて言おうものなら余計にヒートアップしそうだもんな。

 もちろん言わなかったさ。

 火に油を注ぐほどバカじゃないつもりである。


 とはいえ、頭の中は漫才モードになっていた。


『それはカドのある図形だ』


 なんてセルフツッコミを内心で入れている。


『将棋の駒の一種で斜めに動かすやつ』


 なんてのもあるか。

 そんなことを【多重思考】スキルで思考を高速化させてやっていると……


『各だろ?』


 とか呼んでもいないのに、もう1人の俺がボケを入れてきた。


『それは各々とか銘々とかいう方のカク』


 もう1人の俺が増える。


『じゃあ画』


 また増えた。


『漢字を構成する単一部位だな。

 もしくは、それを数える時の単位』


 更に増えてきた。

 際限がなくなりそうなので、そっちは放置する。

 しばらくボケとツッコミをやれば満足して勝手に引っ込むだろう。


 そっちは放っておいてビルとの話の続きだ。


「リッチ風情に俺の防御結界が破れるとでも?」


 思いっきり上から目線だが、これくらいでないとビルも引っ込まないだろう。


「ぐっ、それを言われると……」


 目論見通りにビルはタジタジとなった。

 ちょっとホッとする。

 これで引き下がらなかったら、どうしようと内心じゃ冷や汗ものだったのだ。


「でっ、でもよぉ……」


 どうやら完全には引き下がれないらしい。


「万が一があるかもしれないと?」


「うっ……」


 どうやら図星らしい。

 ハッキリと肯定しないのは、俺の発言が影響しているんだろう。


「別に怒っている訳じゃないさ」


 だから先にそれをハッキリさせておく。


「格がどうこう言うなら俺たちの方が上だから万が一などないんだよ」


 ビルが呆然とした面持ちになった。


「俺たちって……」


 そう呟くのがやっとのようだ。


「俺たちは俺たちだな。

 別に単独で相手をしても厄介とは思わない相手だぞ」


 話をして強欲リッチから情報を得なきゃならんとかでない限りはな。


 そういう意味では強欲リッチは強敵と言えそうな気がする。

 おそらくだが会話が成り立たないんじゃないかと思うのだ。


 人の話を聞かずに勝手に自分のことだけを喋るタイプの奴っているだろう?

 そういうタイプに思えてしょうがないのでね。


 話が脱線するだけならまだしも、独演会を始めそうなんだよな。

 人の話を聞かずにベラベラと喋り続ける姿を幻視してしまうんじゃないかと思えてくる。

 考えるのも鬱陶しいくらいだ。


「いくら何でも舐めすぎだろう」


 ビルが険しい表情になっていた。

 それはリッチ全般を買いかぶりすぎだと思うがね。


 故に俺は古参組に振り返って──


「どう思う? 舐めすぎてると思うか?」


 そう問うた。


「いいや、雑魚じゃな」


 まずシヅカが返事をした。


「右に同じく」


 続いてツバキ。


「亜竜以上かとは思いますが下級竜には及ばない程度でしかないですね」


 カーラも淡々と答える。

 その言葉にビルだけでなくカエデまでもがギョッとした顔になった。


「下級竜って、おい……」


 唖然としたまま声を絞り出すのがやっとといった様子を見せるビル。

 カエデも似たようなものだ。


「しかも程度でしかないと聞こえたような……」


 などと己の耳を疑うような発言をしている。

 あくまで及ばない程度という話なんだが。

 それでも亜竜以上というのが響いているようだ。


 オセアンは眠っている上に意識も奥深くへ飛ばしたままなので何の反応も見せない。

 ただ、ビルやカエデの反応からすると起きた時の反応が些か怖くはあるな。


 トラウマにならないまでも、強欲リッチとの戦闘に支障を来さないか心配ではある。

 目覚めた直後に確認もせずに謁見の間に放り込むような真似はしないけどさ。


 新人たちには思った以上にビビられてしまったことだけは間違いなさそうだ。

 想定外と言わざるを得ない。


「ビビるような相手じゃないよー?」


 不思議そうな顔で小首をかしげるマリカ。

 俺たちはね。


 新人組はそうはいかないの。

 今のレベルじゃ亜竜とタイマン勝負するのさえ厳しいからな。


 そういう思い込みが無意識に働いているのだろう。

 そのせいで防御結界による援護があることを失念してしまっているようだ。

 ビビる訳である。


「ゾンビのほーがビチャッとしててバッチイと思う-」


 マリカ的には強さよりも汚物感のあるゾンビの方が嫌な相手のようだ。


 まあ、相手によっては鼻が曲がるほど臭い個体もいるからな。

 鼻が良いマリカには拷問になり得るか。


「……………」


 そして今まで存在感を消していたドルフィンが一度だけ大きく頭を振った。


『くっ、くー、くぅくっくー!』


 ノー、ノー、あり得なぁい! なんて節を付けて歌うように念話を送ってきたけど。


 その声は古参組にだけ届くものだ。

 今ここでドルフィンの首をスポーンと引き抜いてローズが顔を出す訳にはいかんからな。


 中身が精霊獣だと言ってもピンとこない気はするんだけど。

 一方で首が抜けるのはショッキング極まりないと思うのだ。


 首なし騎士のように魔物であるというならいざ知らず。

 戦士ドルフィンは見た目が厳ついオッサンとはいえ人間という触れ込みだからな。

 着ぐるみだなんてビルもカエデも思っちゃいないだろう。


 そんな状態で首の引っこ抜きなんかを実行されたらビビること間違いなしだ。

 ギャグアニメじゃないんだから。

 往年の某アニメに出てくるような人型ロボットのごとく笑いのネタにはできないだろう。


 今やると、ミズホ国民以外に見られる心配がないってだけで結果は想像したくない。

 新人組がパニックを起こさないという保証がないからな。

 ローズの紹介はミズホシティに連れ帰ってからでも遅くはないと思う。


 そういやシヅカが聖天龍であることも教えてなかった。

 これも今のタイミングで教えるのは、どうなるかが読めない。

 ドルフィンの首がすっぽ抜けるよりは刺激が少ないとは思うけど。


 それでも考えなしにシヅカの正体が龍だと言うのは危険だろう。

 こちらは、せめて強欲リッチを倒してからだな。


 できればローズと一緒に紹介したいところではある。

 その方が驚く回数も減らせるだろうし。


「とまあ、こういう具合なんだよ」


読んでくれてありがとう。

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