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1692 何処にスイッチがあるか分からない

 グールにはスピードがある。

 カエデであっても一撃必殺とはいかないことは充分に考えられた。

 グールが単体で襲ってくるのであればカエデにも問題なく対処できるとは思うがね。


 だが、現状はゾンビがうじゃうじゃいるのだ。

 数で押し寄せてくる中を縫うように迫られると面倒である。

 剣術を主体とした点や線での攻撃はゾンビが盾になってしまう恐れがあるしな。


 だからといって面の攻撃ばかり使うのはよろしくない。

 あまり派手に退魔の能力を使うと魔力の消費量の関係でガス欠を起こすからね。


 まあ、カエデの場合は敵の数が問題ってだけだ。

 オセアンはグールの動きに翻弄されるだけで何もできない恐れがある。

 戦う方は専門じゃないからな。


 浄化しようにも防御に手一杯で何もできないなんてこともあり得る。

 結界があると頭では分かっていても体がどう反応するかは不明だからだ。


 つい守勢にまわってしまうことは充分に考えられる。

 とっさに腕で頭部をかばうような体勢になるのは戦いの経験がない者に多いからな。

 次いで多いのが逃げ回ることだろうか。


 オセアンがいずれかの状態に陥るとは限らない。

 もしかしたら上手く立ち回ることだって考えられる。


 その時になってみないと、こうだと断言はできない。

 オセアンの戦うところを見たことがないのでね。


 マスゴーストと対峙した時は物理的な暴力は考慮しなくて良かったからノーカンだ。

 同じ殺意を抱いた敵でも暴力のあるなしで気の持ちようが大きく変わるからな。


「あー、はいはい」


 ビルもどういう意味かはすぐに察したらしい。

 納得顔になったかと思うとしきりに頷いている。


「俺は動きの速いほうを担当するってことか」


 カエデにも対応はできるだろうが割り当てないのは経験値の配分を考えた結果である。

 パワーレベリングの都合とも言うかな。


「そういうことだ」


 理解が早くて助かるよ。


「護衛半分ってところのようだな」


 そう言ってビルはグッと拳を握って気合いを入れる仕草を見せた。


「おいおい、護衛とは言っても一応はって程度だぞ」


 水を差すようで悪いが、必要なことなのでちゃんと言っておく。

 現場で拍子抜けしてモチベーションを下げられても困るのでね。


「一応なのかよ」


 ガクッと肩を落として文句を言いたげな顔をするビルだ。

 予想通りの反応と言える。


 理由を説明しろと言わんばかりにジト目で見てきた。

 とはいえ、それも予測済みなので慌てることはない。


「敵はアンデッドなんだぞ。

 前に出すからには結界で守るに決まってるだろ」


「あー、なるほど納得だ」


「そういうことだから防御は気にせずにアンデッドの殲滅に集中してくれ」


 俺の話を聞いてビルが毒気を抜かれたような顔になった。


「結界で守られるってのは俺もなのかい?」


 確認するようにビルが聞いてきた。


「ああ、例外はない。

 敵は数が多いし、グールなんて面倒なのもいる。

 ワンミスが命取りなんだから保険をかけるのは当然だ」


「保険をかけてくれるってのはありがたいが……」


 そう言ってビルが嘆息した。

 大事なことを忘れていないかと言いたげな目で見てくる。


「そんな状態で俺たちはどうやって攻撃するんだ?

 向こうの攻撃が通らないということは、こちらも魔法以外じゃ攻撃できないだろう」


「心配はいらない。

 今回の結界は一方通行だからな」


「一方通行だって?」


 ビルは一体どういうことかと怪訝な表情を浮かべた。


「向こうからは接近も攻撃も遮断する。

 もちろん状態異常を含むあらゆるものをな」


 説明の途中だというのにビルの表情が大いに曇っていた。

 それじゃあ意味ねえだろと言わんばかりである。

 内心では完全にダメ出しをしているのだろう。


 まったく、早とちりもいいところだ。


「結界の内側からは何も阻害しない」


「何も?」


 どういうことだとビルは訝しむ顔を見せた。


「剣で斬るのも拳で殴るのも問題なくできる。

 結界の効果も付けるから直に触れることもない」


「マジかー……」


「魔法も退魔術もこちらからは素通りだ。

 どちらも効果が減衰したりなんてことはないぞ」


「なるほどね。

 一方通行ってのは、そういうことなんだな」


 ビルがヒューと口笛を吹いてニヤリと笑った。


「そりゃあ助かるなんてもんじゃないね。

 賢者様特製の結界って訳だ。

 そんなとんでもない結界があれば楽ができるってもんだぜ」


 以前のパワーレベリングと違ってイージーモードだと思ったようだ。


「あまり調子に乗るなよ。

 経験値の振り分けの都合があるからな。

 ビルの担当はあくまでグールのみだぞ」


「へーい」


「2人も頑張ってレベル上げをしてほしい」


 カエデとオセアンの方を見ながら言った。

 俺としては激励のつもりだったのだが。


「分かりました」


 カエデが了承の返事をした一方で──


「私もなんですよね?」


 オセアンが声を震わせて聞いてきた。

 ビビっているのは言うまでもない。


「大丈夫だって。

 パワーレベリングする各人には個人用の結界を使うから。

 安心してアンデッドどもを浄化してくれればいい」


「……………」


 そうは言ったがオセアンの返事はない。

 結界を使うと聞いても安心はできないようだ。


 それを見たビルが──


「心配するこたぁねえって」


 笑いながらフォローしてくれた。


「賢者様の結界はグールごときじゃビクともしねえよ」


 こういうところは本当に男前だよな。

 その割に女の子にはモテないんだけど。

 オッサン顔ではあるものの不細工って訳でもないのだが。


 まあ、今はそんなことを気にしている場合ではないな。


「ううっ」


 オセアンはビルの話を聞いてもビビったままだ。


 仕方あるまい。

 俺とビルとの話を聞いても信じ切れずにいたからこそ、この状態なんだから。


「ほら、覚悟を決めろよ」


 そう言われてホイホイと覚悟することができるなら苦労はすまい。


 ただ、オセアンにしてもなんとかしなければという思いはあるようだ。

 ビビりっぱなしだった状態から迷いを見せるようになっていた。

 決断しきれないのは、それだけ恐怖心が大きい証拠である。


「それとも賢者様が信じられないか?」


 ビルの言葉にギョッと目を見開いたオセアンが大きくブルブルと頭を振る。

 その慌てぶりは可哀想になるくらい必死なものだった。


「おいおい、あんまり脅迫じみた言い方は感心しないぞ」


 思わずツッコミを入れてしまう。


「悪い、悪い。

 荒療治は必要かと思ったんで、ついな」


 あまり悪びれた様子もなく片手で拝むような仕草で詫びてくる。

 ビルの意図するところは分からなくもないので、あまりキツくも言えない。

 こういうことはネチネチと追求するものでもないだろう。


「まったく……」


 呟くとともに溜め息をついた。

 それで気持ちを切り替える。


 改めてオセアンの方へ視線を向けると……

 いつの間にか思い詰めたように気合いの入った顔になっていた。


「おーい、気負いすぎるなよぉ」


「大丈夫ですっ!」


 やたら鼻息を荒くして返事をするオセアンだ。


 言葉の上では問題ないと口にしたが、とてもそうは見えない。

 肩に力が入っているどころの話ではないからな。

 全身をこわばらせ力みが手に取るように分かるような状態だし。


 それを見たビルが「あちゃあ」と言いたげな顔をした。


「悪い、賢者様。

 やらかしちまったな」


「仕方ないさ」


 付き合いが長い相手なら何が地雷かも分かるだろうがな。

 ちょっと発破をかけるつもりが、こうなるとは誰も思わないだろう。


「けど、マジな話どうする?

 このままじゃ連れて行けないだろう」


「いいや、このまま実戦投入だ」


「おいおいっ、無茶苦茶だろう。

 こんなに入れ込んでたんじゃ絶対にヘマするぜ」


「大丈夫ですっ!」


 オセアンが目を血走らせて興奮気味に主張してきた。

 ビルは処置なしの顔で俺を見てくる。


「結界があるから死にゃしないってことで」


「あー、それがあったっけ」


 ビルも渋面を浮かべながらではあるものの一応は納得したようだ。


読んでくれてありがとう。

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